2001年11月25日、アフガニスタンのマザリシャリフ近郊にある捕虜収容所で、タリバン投降兵士の暴動が起こった。米軍は、この捕虜収容所を管理していた北部同盟側のドスタム将軍では鎮圧不可能と判断して、捕虜収容所に激しい空爆を加えた。この空爆により、収容されていた捕虜800人のほとんどと北部同盟の兵士約40名が死亡した。
 
Dostum didn't search his prisoners ― a little mistake but one he would
bitterly regret. ゛If we had searched them, there would have been a fight,"
he said Wednesday, surveying hundreds of dismembered, blackened and crushed
bodies. ゛But perhaps it wouldn't have been as bad as this."
 
Dostum didn't search his prisoners
【解説】 この文を「ドスタムは捕虜を探さなかった」と訳して、「ドスタムは脱走した捕虜を放置したのだ」と考える人がいます。これはとんでもない間違いです。searchという動詞は「search 場所 for 物(物を求めて場所を探す)」という形で使います。したがって、「ドスタムは捕虜を探さなかった」ならDostum didn't search for his prisonersでなければなりません。本文は、searchする対象になる「場所」にprisonersが入っているのですから、「(武器を求めて)捕虜の身体を探さなかった」という意味です。つまり、捕虜の所持品検査をしなかったということです。
【和訳】 ドスタムは捕虜の所持品検査をしなかった。
― a little mistake but one he would bitterly regret.
【解説】 but oneのところが読めない人がいます。このoneは代名詞で、中身はa mistakeです。butはmistakeとoneをつないでいます。he would bitterly regretは「関係代名詞が省略された形容詞節」で、oneを修飾しています。one he would bitterly regretは「彼が後でひどく悔やむことになる誤り」という意味です。
ところで、a mistakeとone(=a mistake)は同じものを表わしています。これを何故、逆接の接続詞butでつなぐのでしょうか?むしろ、andでつないだ方がいいのではないでしょうか?実は、このbutは構造上はたしかにmistakeとoneをつないでいるのですが、意味上はlittleとhe would bitterly regretをつないでいるのです。誤りがlittle(=ささいな)であれば、後でそれほど悔やむことにはならないはずです。後でひどく悔やむことになるのであれば、その誤りはa big mistakeのはずです。このように、littleとhe would bitterly regretは意味的に逆接関係にあるのです。そこで、逆接の接続詞butでつないだのです。このbut oneの表現はStage-3で詳しく解説しています。
それから、mistakeとoneの構造上の働きは何でしょうか?これは前の文(=Dostum didn't search his prisoners)を一語で総括したもので、文法的には「Dostum didn't search his prisonersと同格である」と説明されます。
【和訳】 これは、ささいな、しかし、彼が後でひどく悔やむことになる誤りだった。
"If we had searched them, there would have been a fight,"
【解説】 この文は仮定法過去完了の動詞を使っています。if節の中がhad+p.p.で、主節が助動詞の過去形+have p.p.です。ところで、この文を「もし我々が彼らの所持品検査をしていたら、戦闘が起こったことだったろうに」と読む人がいます。しかし、所持品検査をしなかったので、武器を捕虜収容所の中に持ち込まれて、暴動を起こされたのですから、これでは全く意味が通りません。では、どう読んだら意味が通るのでしょうか?
このヒントは表現内容と事実の関係にあります。条件節のwe had searched themは確かに事実(=所持品検査をしなかった)の反対です。しかし、主節のthere would have been a fightは事実の反対ではありません。実際に戦闘は起こったのですから、表現内容と事実が一致しています。一般に「仮定法過去完了」は「過去の事実の反対を表わす」といわれていますが、必ずそうなるのは条件節の方で、主節は必ずしも「過去の事実の反対の帰結」を表わすわけではないのです。条件節に「譲歩」が含まれているときは、主節の「助動詞の過去形+have p.p.」は事実と同じ内容を表現するのです。たとえば次の文を見てください。Even if he had not studied hard, he would have passed examinaition.「彼は、たとえ一生懸命に勉強しなかったとしても、試験に受かったことだったろう」この文の背後にある事実は「彼は一生懸命勉強して、試験に受かった」です。したがって、主節のwould have passed examinaitionは表現内容と事実が一致しています。
この分析に基づいて本文を考えると、本文も主節の表現内容と事実が一致しているので、条件節に「譲歩」が含まれていると考えられます。つまり、If we had searched themはEven if we had searched them.と同じ意味を表わしているのです。これで意味を取ってみると「たとえ我々が彼らの所持品検査をしていたとしても、やはり戦闘は起こったことだったろう」となり、完全に意味が通ります。
【和訳】 「たとえ我々が彼らの所持品検査をしていたとしても、やはり戦闘は起こったことだったろう」。
he said Wednesday, surveying hundreds of dismembered, blackened and crushed bodies. "But perhaps it wouldn't have been as bad as this."
【和訳】 将軍は、水曜日に、何百ものバラバラになったり、黒焦げになったり、押しつぶされたりした死体を眺めながら言った。「しかし、おそらく、これほどひどいことにはならなかったであろう」。
【全訳】 ドスタムは捕虜の所持品検査をしなかった。これは、ささいな、しかし彼が後でひどく悔やむことになる誤りだった。「たとえ我々が彼らの所持品検査をしていたとしても、やはり戦闘は起こったことだったろう」。将軍は、水曜日に、何百ものバラバラになったり、黒焦げになったり、押しつぶされたりした死体を眺めながら言った。「しかし、おそらく、これほどひどいことにはならなかったであろう」。

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