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なぜ菅官邸の国家機密は3分で漏れるのか

9月2日(木)10時30分配信 プレジデント

すでに崩壊寸前の菅内閣の危機管理
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すでに崩壊寸前の菅内閣の危機管理
■山崎拓のウソ、中川昭一と酒

 国家にとって最高の機密性を保持しなければならない内閣総理大臣官邸の情報管理が疎かになっている。
 菅直人総理は、自身の矛盾をつかれるのを恐れたのか、1日2回だったぶら下がりでの記者会見を1日一度に減らしてしまった。官邸の情報管理体制を立て直そうとしているのだろうが、このままでは厳しい。端的な例が秘書官から党職員の分まで、自民党時代の3倍、4倍の数のセキュリティカードを発行したことだ。官邸は人であふれ、現実に小泉内閣時代では信じられないような情報漏洩が起きている。

 6月8日、菅内閣の組閣が行われた際、菅総理はこれまで官僚叩きで注目されてきた再任の某大臣に対して
「官僚とうまく付き合え」
 と、指示したという。これまで「官僚は敵」という見方しかできず、官僚を細かいところまで縛りつけるため1500回もの大臣指示を出してきたこの大臣にとっては、総理の指示が相当ショックだったらしい。あれだけ拒絶していた官僚との面会をはじめたと聞く。しかし、今回はその話よりも重大な問題がある。

 その場にいるのは、限られた関係者だけ。通常であれば、この話が漏れることはないはずだ。
 この大臣も、総理から指示を受け、3階のエントランスホールで待ち構えていた報道陣から「総理から何の指示が出ましたか」と質問を投げつけられても何も答えず、不機嫌そうに車に乗り込み、そのまま霞が関に向かった。このときはまだ情報漏洩はなかった。しかし、霞が関の主務官庁に着いた瞬間、その官庁の記者クラブの記者から、
「総理から、官僚とうまく付き合えと言われたそうですが、どのように付き合いますか?」
 と、質問を受けた。官邸から霞が関の役所まで、車でほんの数分。その間に、限られた人しか聞いていないはずの総理の指示が、外部に、マスコミに、漏れてしまっている。全く信じられない大失態だ。

 民主党政権では、情報公開を進めて、ガラス張りの政権運営を目指すといっていたが、これだけ瞬時に機密事項が外部に漏れるということは、国益を損なう。関係者のちょっとした発言が外交にも大きな支障をきたすのは、普天間問題における鳩山内閣の不手際でも明らかだ。また、財政問題に関する情報が漏れれば、その日の為替や、株価にも大きな影響が出ることになる。
 情報管理を徹底し、官邸主導を進めるためには、少数精鋭でチームワークを密にするのが有効だが、菅内閣は官邸に出入りする人数を鳩山内閣の倍以上にしてしまった。官僚も政党職員も何の仕事をするのかわからないような人が集まっていて、官邸ではなくて、どこかの公民館のようだ。官房長官室など、あまりに人が増えすぎて人数分のデスクを置くスペースもなく、一つのテーブルに4人が向かい合って座っているらしい。こんな状況で仕事ができるのか。それだけ人数が増えると、もう誰が情報を漏らしているかさえわからないから、皆気軽にペラペラしゃべってしまう。

 たしかに総理と大臣の話は、隣の秘書官室で傍受することは可能だ。しかし、小泉内閣では、こうした情報は一切外部に漏れなかった。私のときは、組閣の際の総理から大臣への指示も、口頭ではなく、内容に食い違いが出ないようにペーパーを用意していた。
 例えば、小泉内閣時代、山崎拓副総裁(当時)が総理に会った後、3階のエントランスホールで、ぶらさがり取材を受けた。総理の名前を使ってアピールしたかったようで、本来の会談に、自分に都合のよい内容を二つ、三つ付け加えて話してしまったことがわかった。それを知った私は、総理本人が
「そんなことはいっていない」
 と表明する機会をもうけた。不正確な情報による危険はほんの1~2時間で回避できるが、放っておくと手がつけられないぐらいに広がっていく。誰もが総理の威光を利用したい。しかし、それを許せば総理の威光が地に落ちてしまう。

 官邸を守るためには、相手が与党の副総裁だろうが、幹事長だろうが、大臣だろうが、遠慮することはできなかった。後に麻生内閣で酒が原因で辞任に追い込まれた故・中川昭一氏も、小泉内閣時代は経済産業大臣でも農水大臣でもまったく問題は起きなかった。私が「一滴でも飲むことはお控えください」と厳しくお願いを繰り返した。ちょっとでも酒の噂が入ったら、すぐ大臣に連絡した。
「少しでも酒が残っていると感じたら牛乳を飲んでください」「閣議の前ではシャワーを浴びてきてください」など、何回もお願いした。農水相としてテキーラで有名なメキシコに行かなければならないときには、同行の官僚に「くれぐれもお酒を飲まないよう」言付けを頼んだ。現地から「中川大臣は、アルコールを飲んでません」と連絡がきても、私が「テキーラを飲んでるとか、そんなことありませんよね」と念を押した。あのころの中川大臣は私のことを鬱陶しいと感じていただろう。

 小泉内閣が5年5カ月続いたのは、総理のリーダーシップに加え、政務秘書官である私と4人の事務秘書官、その下の5人の特命チームが中心となって、情報の流れを機能的に管理できたことが大きいと考えている。私が、官邸内の組織を整える際に参考にしたのが財務省主計局の「方式」だ。
 主計局長の下に主計局次長が3人。その一人ひとりの主計局次長には、3人の主計官が配置されている。さらに主計官には最低3人ずつの主査がつき、その下に職員がつく。3人で1人を支えるから「騎馬戦方式」である。
 上司の側から見ると、すぐ下の3人の役割分担を把握し、そこから上がってくる情報を管理すればいい。個々の関係はシンプルなので、職員→主査→主計官→次長→局長と情報伝達がスムーズになり、結果的に局長は、リアルタイムで主計局全体の情報を把握することができるようになる。重要なのは情報伝達のスピードと、管理を徹底しやすい組織づくりだ。


■少数精鋭こそが長期政権の秘訣

 私の場合は、4人の事務秘書官の下で5人の特命チームを共有財産として運用した。たった10人で官邸内および13府省の情報を全部とりまとめていた。この10人は毎日、情報を共有するため、小泉総理と昼食をともにすることにしていた。海外出張の際には、秘書官1人と特命チーム3人の留守番を置いた。留守番メンバーは、出張中の国内の情報は全部、現地の私に報告することになっていた。もちろん、現地で起きることも、特命チームが管理して私に報告することになっており、総理が首脳会談に集中していても、国内国外問わず、何が起きても説明ができる体制ができていた。軍隊ではないが、組織は、明確で機能的な指揮系統があることが、危機管理上最も重要だ。一般企業でも、役員室にあまりに多くの秘書がいたら、収拾がつかないだろう。

 同じように官邸でも頭数を増やしたら混乱するだけだ。秘書官5人に事務方も2人くらいで十分。菅総理は、官邸に30~40人も入れて、一体何をやらせるつもりなのか。スタッフを多くして政権運営が機能することは100%ない。やはり、機密漏洩の危険に対処するためにも、限りなく人数を少なくしたほうがいい。官邸に出入りしたいという個人の私欲と国益は切り離さなくてはならない。

 私が菅総理の秘書官だったら、まず、現在のスタッフのほぼ全員からセキュリティカードを没収して官邸から追い出すことからはじめる。秘書官室の人数を絞って少数精鋭とし、秘密保持をしながら、危機管理、情報管理、政策遂行をスムーズにできる体制をつくる。霞が関と、与党の押さえは官房副長官に任せる。事務副長官が、霞が関。衆議院の副長官が、衆議院。参議院の副長官は参議院。こちらも、3人で、霞が関と国会を押さえることが可能だ。
 少数精鋭。それが政権を長続きさせる秘訣なのだ。


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飯島 勲
●いいじま・いさお 長野県辰野町生まれ。小泉純一郎元総理主席秘書官。現在、松本歯科大学特任教授・駒沢女子大学客員教授。

最終更新:9月2日(木)10時30分

プレジデント

 

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