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熱海で仮想恋人とデート─日本のオタク現象

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 【熱海】かつて新婚旅行客で賑わっていた保養地の熱海が、新しいタイプの恋愛――仮想恋人との恋愛――を求める人々に熱い視線を送っている。

 日本では人口減少を背景に婚姻率が低下をたどる一方、成立したカップルも多くがハワイやオーストラリアのゴールドコーストを旅行先に選ぶ。このような状況の下、熱海は何らかの手を打たねばならなかった。この街は今、ゲーム機の端末を持った独身男性を引きつけようとしている。

Konami

コナミのゲームソフト、「ラブプラス+」

 7月10日に熱海市が擬似恋愛ゲーム「ラブプラス+」のイベントを開催して以来、1カ月間で1500人を超える男性ファンが仮想の恋人とのロマンチックなデートを楽しむために同市に集まった。

 男性は現実の人間で、恋人の女性はスクリーン上のアニメのキャラクターだ。旅行は実際に行われ、費用がかなりかかる場合もある。ゲーム会社コナミが携帯型ゲーム機「ニンテンドーDS」向けに発売したゲームソフトで展開される週末小旅行を実際に楽しむことが目的だ。

 熱海は常にロマンチックな場所だ。しかし、今では若者のためのロマンチックな場所となった、と齊藤栄・熱海市長は述べた。

Konami

「ラブプラス+」のキャラクター、凛子

 「ラブプラス+」は、思春期の恋愛体験を再現した。ゲームの目的は、単に恋人を作ることではなく、関係を維持することだ。

 ゲームに登場する3人の女性キャラクター――優等生の愛花(まなか)、生意気な凛子(りんこ)、お姉さんタイプの寧々(ねね)のうち、1人を選び、ステディな関係になる。その後、プレーヤーは、手をつないで登校したり、メールを交換したり、午後の学校の中庭で軽いキスを交わすために、タッチペンをDSのタッチスクリーン上に走らせる。端末の内臓マイクを使うことで、日常のささいな話題ではあるが、甘い会話を交わすこともできる。

 ゲームをする現実のロミオ(つまり男性)が、宿題や筋力エクササイズなどをこなすことで「彼氏力」のポイントを十分に稼ぐと、仮想の熱海旅行がご褒美としてもらえる。

 ゲームの中で、カップルは地元の名所を廻る。花火を見に行く時、恋人は浴衣に着替え、二人はホテル大野屋に一泊する。大野屋は、白い柱の洞窟風のローマ風呂で有名だ。

イメージ Konami

「ラブプラス+」のキャラクター、愛花

 「ラブプラス+」を楽しむある男性は、熱海を訪れるのは初めてだったが、市内を散策し、ゲームで見慣れた場所を訪れる計画だった。しかし、ひとつ小さな問題があった。恋人の愛花がずっと黙っているのだ。

 男性は仕事が忙しく、1日に10分しかゲームができなかったため、愛花は腹を立てていたのだ。男性は、「休みの日には、彼女と1~2時間過ごしている。ここ(熱海)に来ている人と比べれば、僕達の関係はちょっと冷めているかな」と言う。

 東京から電車で1時間ほどの熱海は、輝かしい時期があった。宿泊客の数は1960年代後半のピークから半減。商店街には板が打ち付けてある店舗が目立つ。その多くは、閉店したバーやクラブなど、一大歓楽街として栄えた時代のなごりだ。

寧々 Konami

「ラブプラス+」のキャラクター、寧々

 そして熱海は今、「ラブプラス+」の熱烈なファンを全力でもてなしている。

 1937年創業の(本物の)大野屋では、従業員が「ラブプラス+」の顧客のチェックイン時に、1人で来た顧客をカップルとして扱う練習をしていた。専務の大野篤郎氏は、顧客がゲームの世界に浸れるよう、あまり質問をしないようにしている、と語る。

 日本の大半のホテルでは、部屋単位ではなく、顧客に料金がかかるしくみだが、一部の熱心なファンは、1人ではないという気分に浸るため、2人分の料金を払うという。料金は最高で1泊500ドル(約4万2000円)ほどだが、多くの場合はこれを下回る。

 熱海では、「ラブプラス+」のファン――大半が20~30代の男性――は目立つ。水着姿で日焼けしたリゾート客とは異なり、彼らは、青白く、暑い最中にジーンズにボタンダウンのシャツで厚着をしている。

 最近、週末に初めて熱海を訪れた19歳の男子大学生は、小さなウエストポーチにDSを入れていた。彼が端末を起動させると、仮想恋人の愛花――お菓子作りが好きなてんびん座――が甘い声で彼にあいさつする。

 この大学生は、「実際の生活では恋愛があまりないので、このゲームのおかげで寂しさがまぎれる」と述べ、クスッと笑った。

 仮想関係に現実の要素を加えることが「ラブプラス+」の重要な部分だ。ゲームは、現実のカレンダー・時計と同時並行で進む。つまり、夜遅くゲームをすると、仮想恋人は眠っている可能性がある。誕生日や休暇など、重要な日は覚えておかねばならない。

 地元熱海の商店街は、男性たちの登場人物に対する「愛」を実感している。

 熱海の商店街でかまぼこを販売している「山田屋水産」は、7月末から「ラブプラス+」特製かまぼこの販売を始めた。トーストほどの大きさの白い四角形のゴムのようなかまぼこの上に、黒いイカスミで登場人物の顔が描かれている。値段は1個450円。3人の登場人物1人につき50個ずつ、計150個の限定販売だが、毎日売り切れが続いている。

Akiko Fujita

レストランのオーナー、長沢氏

 韓国焼肉レストラン「秘苑」は、現在、顧客の4分の1が「ラブプラス+」関連だ。彼らは、国産牛と副菜の付いた「ラブプラス+」特製メニュー(5000円)を注文するという。

 レストランのオーナー、長沢寛治氏は、顧客との雑談には慣れているが、「ラブプラス+」の顧客は静かに座って、食事中もゲームをすることが多い、と述べた。長沢氏は、こんなに喜んでくれて驚いている、と語る。

 残念なことに、この熱海ブームは8月末で終了する。キャラクターは学校に戻らねばならない。

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