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【赤木智弘の眼光紙背】自転車を公共利用することの意味

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赤木智弘の眼光紙背:第147回

 神戸市が、観光客や市民に対して、電動アシスト自転車などを貸し出して、CO2の削減や観光活性化に繋げるための社会実験を行うようだ。(*1)
 気になる利用料金は、最初の1時間は無料で、1時間を超えたら1000円。2時間を超えたら5000円を支払う必要があるという。

 「2時間を超えたら5000円」という数字は間違いではない。
 俺も最初にこのニュースを見たときに「100円と500円の間違いじゃないの? Webのニュースだからって、最低限のチェックはしないと」などと思ったものだが、神戸市のサイトや市長の会見などを見ても、「2時間を超えたら5000円」と明言しており、ニュースは何も間違えていなかった。

 神戸市のサイト(*2)によると、このシステムはパリで運用されている「ヴェリブ」を参考にしているという。
 ヴェリブは2007年に開始されたレンタサイクルシステムである。日本でイメージされる、駅前で自転車を借り、1日利用して同じ店に返すというレンタサイクルとは異なり、利用者は最寄りのステーションで自転車を借りた自転車を、移動先のステーションで返すことができる。
 利用者は自転車を移動のためだけに使い、施設利用中は自転車をステーションに返却、施設利用が終わったら、また自転車を借りるという考え方のため、自転車を1日占有する必要はない。逆に占有されてしまうと、自転車のシェアがうまくいかなくなるために、短時間の利用は安いが、数時間利用すると通常のレンタサイクルよりも高くなる料金設定になっている。
 これらの特徴は、パリのヴェリブも、神戸の実験も同じではあるが、問題は規模が圧倒的に違うことにある。
 ヴェリブは運用開始時から750のステーションと1万台以上の自転車を用意したのに対し、神戸の実験は6ヶ所のステーションと50台の自転車で行われる。
 そのため、パリの約300メートルずつに設置されるステーションは、「移動先に必ずステーションがある」という利便性を実現する一方で、神戸の6ヶ所しかないステーションでは「ステーションが移動先」である場合にしか使いようがない。

 自転車は決して、安価で移動力が劣るだけの、電車やバスの安易な代替物ではない。
 自転車を公共利用するときに考えられる利便性は、電車やバスなどの公共交通が街のスポット、すなわち点同士を繋ぐ「線」としての役割を持つのに対し、自転車は決められた路線を走るものではないことから、街を「面」として利用できることにある。それにより、観光客がスポットの間にある商業施設などを利用し、また、観光視点では思いも寄らない、新たなスポットが発掘されることが期待できる。
 また、それは生活においても同じである。電車移動では駅前しか利用できない生活圏が、自転車を利用することによって大きく広がり、それが地元の新たな魅力を発見することに繋がる。
 しかし、ステーションが6ヶ所では、結局、ステーションという点を目指す移動しかできない。また、仮に途中で興味のあるスポットを発見し、そこでゆっくりしたいと思っても、「2時間を超えたら5000円」という恐怖のペナルティーが、そこにとどまる意欲を削いでしまう。というか、地図上で見る限り、想定されるステーションの場所は、電車とほぼ平行していることから、多くの人達は5000円を払わなければならないリスクを抱えてまで、自転車を利用しようとは思わないだろう。
 確かに、今回は社会実験なので、小規模にとどまるのは仕方がないといえる。しかし、それでも5000円というペナルティーはあまりに高価である。盗難リスクなども踏まえての値段なのだろうが、リスクを気にするあまり、そもそもの社会実験すら成り立たないのであれば、意味がない。ちゃんと利用してもらって、始めて実験になるのだから。
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眼光紙背[がんこうしはい]とは:「眼光紙背に徹する」で、行間にひそむ深い意味までよく理解すること。
本コラムは、livedoor ニュースが選んだ気鋭の寄稿者が、ユーザが生活や仕事の中で直面する様々な課題に対し、「気付き」となるような情報を提供し、世の中に溢れるニュースの行間を読んで行くシリーズ。Readerに追加RSS

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