2010年9月3日0時17分
最近の円高のきっかけは、米国経済の見通しの悪化だった。米国では今年前半、政府のテコ入れ策もあって景気指標が改善し、楽観が広がった。しかし、政策効果が薄れて成長が鈍化すると逆に悲観が蔓延(まんえん)し、長期金利が低下している。市場が注目する2年国債の利回りは0.4%台にまで低下し、日本の0.1%に近づいている。日本国債の相対的な魅力が増し、円が買われている。
きっかけは米国経済についての楽観から悲観へのスイングだったが、円高の根底には欧州経済の悪化に伴うユーロ安もある。日本や米国の方がマシだというわけでユーロが売られ、ドルと円が買われている。ユーロ売り・円買いは、「ユーロ売り・ドル買い」と「ドル売り・円買い」に分解して行われるので、後者が円高・ドル安に作用する。
こうしてみると、足元の円高傾向を終息させるには、欧米経済が安定すること、米国の過度な悲観が修正されることが不可欠だ。そうした円高の根本要因を無視して、日本が為替介入や金融緩和を行っても効果は期待できない。介入には欧米の協力は得られないだろうし、金融緩和といっても、金利はすでに限界まで下がっている。
ここで日本のリーダーが取り組むべきは、為替レートなどという「部分」ではない。政治家はこれからの日本経済のデザインを早期に示して、企業や家計の前向きな活動を促すことが必要だ。法人税・消費税や年金制度から、技術革新を実現する人材の育成方法まで、問題は山積している。それらの問題に答えを出しつつ、今後の日本経済のビジョンを描くことが政治家の仕事だ。円ドル相場に一喜一憂している余裕はないはずだ。(柴犬)
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「経済気象台」は、第一線で活躍している経済人、学者など社外筆者の執筆によるものです。