きょうのコラム「時鐘」 2010年9月3日

 好き嫌いは別にして力を認め合うのがライバルである。好敵手への競争心が実力以上の力を生む

初代若乃花の訃報と民主党代表選の共同会見が同じ日の紙面を飾った。若乃花を語るには栃錦という好敵手の存在が欠かせなかったが、笑って握手する菅首相と小沢前幹事長は好敵手と呼ぶにはほど遠い雰囲気だった

顔は笑っていても腹の中で相手を小バカにしたり、存在を認めようとしないのは好敵手とはいわない。昨日の討論会でも菅、小沢両者の主張は同じ政党とは思えないほど差が感じられ、好敵手でもライバルでもない、政敵に対する憎悪がにじんだ

若乃花が得意とした大技「呼び戻し」は、相手を土俵に裏返しにたたきつけるので「仏壇返し」ともいった。力に差がある相手にしか通用しない。力量が同じ好敵手には効かないし、敬意を払ってそんな荒技は使わない

菅首相の「小沢さんは静かにしていた方がいい」の一言は、考えてみれば乱暴な技だった。同じ土俵で戦う相手に掛ける「技」でなかったのかもしれない。両者が胸を合わそうとしない取組は、寒々と興ざめの思いがする。