うちの事務所では、スタッフの誕生日には、ケーキを買ってきてささやかなお祝いをするのが恒例です。アルバイトさんを含めると13人ほどいるので、わりと頻繁にやっているという感覚です。
3カ月空くこともあれば1カ月に複数回重なることもあるのですが、これまで、同じ誕生日の人がいっときに在籍していたことはありません。先日の誕生会でそんな話をしていたら、誰かが「そりゃあそうでしょう、1年は365日もあるんだから、これぐらいの人数で誕生日がカブるなんてかなりレアよね」と。さて、ほんとにそうでしょうか、検証してみることにしました。
まず、13人の誕生日がバラバラである確率を計算しましょう。計算の方法は(A)のようになります。
つまり、13人の事務所で全員の誕生日がバラバラである確率は約80%ということです。これは、約20%の確率で「同じ誕生日の組み合わせが少なくとも1組存在する」と言い換えることができます。すなわち、13人の事務所が五つほどあれば、その中の一つには同じ誕生日のペアがあるのが普通、ということです。
この結果をみると、意外に「バラバラ率」が低い気がしてきませんか?
次に気になるのは「何人の事務所なら50%ぐらいの確率で同じ誕生日のペアが存在するか」ですね。
これは、先の計算の結果を「0・5」として、分子をいくつまで掛ければ0・5になるか、という問題になります((B))。
やってみると、23人目、つまり分子が343までいったときに、0・5を切り、0・4927……という数になりました。
23人といえば、学校の1クラスの人数よりはるかに少なく、大学のちょっと大きなゼミなどはこのぐらいの人数かもしれません。この程度の集団になると、その中に少なくとも1組、同じ誕生日のペアが存在する確率が50%になるわけです。
では、40人の集団(学校の1クラスぐらい)ではどうなるでしょうか? 計算の方法はもちろん同じで、分子が326までを計算することになります。答えは、なんと0・11。つまり、89%の確率で同じ誕生日のペアがいることになるのです。たかだか40人程度で……と思われるかもしれませんが、これは事実なんです。みなさんのこれまでのご経験に照らすといかがですか?
さて、直感と現実のギャップについてもう一例。
なにかの勝負に勝ち残るために、あなたは次のいずれかを選択しなければならないとします。
(1)1個のサイコロを4回投げて少なくとも1回1の目が出る
(2)2個のサイコロを同時に24回投げて少なくとも1回1のゾロ目が出る
さあ、どちらの方が確率が高そうでしょうか?
あるいは、確率うんぬんはともかく、あなたはどちらを選びますか?
私の周りでは、確率はともかく(2)を選ぶ、という人が多かったです。理由は一様で、「たったの4回というのが怖い。24回もやらせてもらえるなら1回ぐらいは1のゾロが出そう」というものでした。
計算方法は(C)のようになり、結果をご紹介しますと、(1)は52%、(2)は49%。若干(1)のほうが高いのですが、ほぼ変わらないということがわかります。ほぼ変わらないのであれば、4回で終わってしまう怖さを避けたい、という心理はよく理解できますね。
もし確率論が存在しなければ、人間の感覚の正確さや不正確さを立証することができないことがおわかりいただけたと思います。そんな確率論が世に登場したのは、17世紀のフランスで、きっかけはギャンブルだったのです。<文・日沖桜皮(サイエンスライター)、イラスト・柴田英司>=隔週掲載
毎日新聞 2010年9月2日 地方版