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第三十一話 曖昧チョコレート
<第二東京市立北高校 正門前>

2月14日、この日の北高は興奮と緊張に包まれていた。
チョコレートを持って来た生徒達はウキウキと舞い上がり、受け取る側の生徒も期待に胸を膨らませている。
告白チョコ、義理チョコが廃れる一方、友達同士で交換する友チョコと言うものが流行りはじめ、生徒達の持ってくるチョコレートの数は減らない。
そして学校の正門では、早朝から生徒達の騒ぎを取り締まるために生徒会長が先頭に立って生徒会役員が厳重体制を敷いていた。

「現れたな、涼宮ハルヒとその一味!」

生徒会長は、登校して来たハルヒとキョン、イツキとミクルの4人に向かってそう言った。
先頭をゆうぜんと歩くハルヒの後ろで、キョンが汗水たらしながらリアカーを引き、イツキとミクルが段ボールが満載された重そうなリアカーを後ろから支えて押している。

「そこを退きなさいよ!」

ハルヒがそう言うと、生徒会長は首を横に振る。

「その荷物を学校内に持ち込ませるわけにはいかないな」
「何でよ?」

ハルヒが生徒会長の言葉に対して聞き返すと、生徒会長はのどを鳴らしながら笑う。

「そのダンボールの中には大量のチョコレートが入っているのだろう、今日は2月14日だ、キミ達が何かしようとしているのはお見通しだ」
「そうとは限らないんじゃない?」

とぼけるようにハルヒがそう言うと、生徒会長は不敵に笑って役員達に号令を下す。

「中身を改めろ!」
「ちょっと、何するのよ!」

ハルヒの抵抗むなしく、ダンボール箱は開けられてしまった。
しかし、ダンボール箱の中身を見ると、生徒会長と生徒会役員の勝ち誇ったような顔は途端に失望の浮かんだ顔に変わる。

「会長、中身は楽器類です」
「どういうことだ?」

生徒会長の驚いた声に、ハルヒが堂々と答える。

「卒業式に備えてね、ブラスバンド部や吹奏楽部が楽器を増やしたいって言うから、あたし達がいろいろなところから集めて来たのよ。それを生徒会が邪魔する気?」
「くっ……」

生徒会長は悔しそうにハルヒをにらみつけた。

「楽器の中にチョコレートを仕込んでいたり、別の箱に隠して居たりするのではないだろうな」
「なんなら、もっと調べてみる?」
「……いや、もういい」

諦めたように生徒会長はそう言うと、素直にハルヒ達に道を開いた。

「そうそう、分かってくれればいいのよ」

目の前を通り抜けて、部活棟の方へ姿を消して行ったハルヒ達を見送った生徒会長はポツリと呟く。

「……まだ勝ったと思うなよ」



<第二東京市立北高校 裏門前>

裏門の近くに居た生徒会の役員や生徒達が騒ぎながら正門の方へ姿を消して行く。
その様子を少し離れた場所から、アスカ、シンジ、レイ、カヲルの4人は眺めていた。

「ハルヒ達が上手く生徒会の目を引きつけてくれたようね……」

様子をうかがっていたアスカはそう呟いた。
裏門は登校時には鍵が掛けられて閉まっているはずなのだが、よじ登って中に入る生徒もいるので、生徒会が目を光らせて見張っていた。

「誰も居なくなった今が絶好のチャンスだね」
「そうね」
「行こうか」

シンジに続いて、レイ、カヲルもそれぞれ台車を押しながら姿を現す。
台車の上にはダンボール箱が載せられている。

「ハルヒが昨日、拝借してきた鍵を使って……っと」

アスカが裏門の鍵を開けて、シンジ達を導き入れようとした。
しかし、その時生徒会の役員達が物陰から姿を現し、アスカ達は取り囲まれてしまった!

「陽動作戦とは、なかなか考えましたね、でもこれまでです」

生徒会の書記である喜緑エミリが穏やかに微笑んでそうアスカ達に敗北を告げた。
アスカ達は観念したように3台の台車を生徒会に引き渡す。
そこにはチョコレートの材料となる製菓用チョコレートやココアパウダー等が入っていた。

「部室で作るつもりだったのでしょうか、残念ながらこれは没収して生徒会で預かります」
「お願い、アタシ達を見逃してよ」

優しそうな物腰のエミリにアスカはお願いするが、エミリは軽く首を横に振る。

「ごめんなさい、決まりですから」

エミリはそうしっかりとした声で言った後、アスカにだけ聞こえるようにそっとささやく。

「あなたが好きな人にチョコレートを作ってあげられるだけの材料は、後でこっそり返してあげますから」

そのエミリの言葉を聞いたアスカはほんの少しの間だけ、顔を赤くしたが、大げさにがっかりしたようなリアクションを取る。

「あーあ残念、作戦は失敗だったか」
「本当にすいませんでした、裏門の鍵をお返しします」
「ごめんなさい」
「失礼するよ」

やけに簡単に引き下がって去って行ったアスカとシンジとレイとカヲルの4人にエミリや生徒会の役員達は違和感を覚えたが、チョコレートの材料は没収したので、それ以上は何も言えなかった。
その頃、教職員用の通用門から、ミサトが車に乗っていつものように出勤していた。
ミサトがフェラーリでは無く、ワンボックスカーに乗って来ているのを見て、不思議に思ったのか他の教員が声を掛ける。

「葛城先生、いつもの車じゃないんですね」
「ちょっち、修理に出して居てね」
「そうですか」

教員が立ち去って行くのを、ミサトはため息をついて見送った。
そして、助手席にユキと後部座席にびっしりと置かれているチョコレートの入ったダンボール箱が姿を現す。

「本当に見えなくなっちゃうなんて、凄いわね」
「色素情報を修正する事はそんなに難しい事では無い」

感心した様子のミサトの言葉に、ユキはそう答えた。

「でも、ユキちゃんなら特殊な能力を使ってチョコレートの入ったダンボールをワープさせるとか出来ちゃうんじゃないの?」
「今の私には時空を超えてデータを転送する能力は無い」
「そっか、ユキちゃんが捨てちゃった能力だったっけ」
「放課後までチョコレートの保存のため車内の室温を低温に保ち、ダンボールは可視できないように再び色素情報修正の措置を取る」

多才なユキの能力にミサトは改めて感心した。

「そういえばさ、ユキちゃんって料理の味も変える事が出来るの?」
「出来ない事は無い」
「じゃあ私さ、加持に毎年チョコレートを渡そうとするんだけど、断られるのよね、どうしても食べさせたいから美味しく変えてくれない?」

ミサトがそう頼むと、ユキは首を横に振る。

「そのような事をすれば、調理という概念の意味が失われる」
「そっか、それもそうよね」
「葛城二佐の料理には修正の必要は無い」
「どうして?」

ミサトがそう尋ねると、ユキは短く答える。

「……ユニーク」

ミサトは疲れた足取りで職員室に向かい、ユキはほんの少し疑問を抱いた様子で教室に向かった。

「称賛の言葉であるはず……葛城二佐が落胆する意味が不明」



<第二東京市立北高校 1年5組>

休み時間、シンジ達が教室に居ると、他のクラスからトウジ達が遊びに来た。
トウジは最近は堂々とヒカリと一緒に居るようになった。
ケンスケも相変わらずトウジとは一緒に居るが、ちょっと寂しそうだった。
シンジ達とクラスが別れた今はこの3人で行動している。

「シンジ、惣流にはチョコレートをもらったのか?」

ニヤニヤと笑いを浮かべながらトウジはシンジに話しかけた。

「ううん、まだだけど」

アスカの視線を感じながら、シンジはトウジにそう答えた。

「ワイはヒカリからチョコをもらえたで~」
「アンタ達って、しばらく会わないうちにずいぶんとお互い素直になったじゃない」

鼻の下を伸ばしてチョコを自慢げに見せるトウジと、その後ろで少し顔を赤くして下を向いているヒカリを見て、アスカはニヤつきながらも嬉しそうに微笑んだ。

「せやな、入院中はずっとヒカリと一緒やったし、3年で復学してからもそうやったからな」
「俺以外にも、谷口が仲の良い2人をからかっていたんだぜ」
「へえ、そうだったんだ」

今まで特に聞くことの無かったトウジとケンスケとヒカリの東中の1年間の生活に、シンジは感心したようにうなずいた。

「谷口は涼宮に告白して5分で振られた時はさ、ブツブツとトウジと委員長に愚痴ってたな」
「アハハっ、前に話していたのって、アイツの事だったの」

ケンスケの話を聞いて、アスカはお腹をかかえて笑いだした。

「ケンスケは涼宮さんに告白した事は無いの?」

教室にハルヒが居ない事を確認して、シンジはケンスケに尋ねた。

「ああ、俺も涼宮のウワサを聞いて告白してみたんだけど……涼宮は俺を見ている時も別の誰かの事を考えている気がしたんだよな」
「それで、どうしたの?」

さらにシンジに尋ねられると、ケンスケは遠くを見つめるような顔になって答える。

「すぐに俺の方から断ったよ。涼宮は意外な俺の行動に驚いているみたいだったよ」
「ま、ハルヒの方から振るっているのがほとんどだって言うんじゃない?」

アスカはケンスケの言葉にそんな感想を述べた。

「涼宮の憂いを秘めたような表情は綺麗だと思ったんだけどな」
「やっぱりハルヒってモテるのね」

ケンスケがさらに呟いた事に、アスカはしんみりとため息をついた。
それっきり沈黙が流れてしまったシンジ達の周りに漂う雰囲気を破ろうと、冗談を言う。

「シンジも、惣流以外の女子からチョコを受け取ったらあかんで、ワイも他の女子からチョコを受け取ろうとすると、ヒカリがごっつい怖い顔をしてにらむんや」
「それはトウジが鼻の下を伸ばして調子に乗るからじゃない」

ヒカリが腕を組んで少し怒った顔でそう言った。

「僕にチョコをくれる女の子なんて、アスカしか居ないよ!」

アスカの視線に慌ててしまったシンジは、上ずった声でそう叫んでしまった。
教室内が一瞬静まり返り、クラスの生徒達はシンジの方を指差してヒソヒソと話し出した。

「シ、シンジ~!」
「お前、なんて大胆な発言を!」

トウジとケンスケの2人はそう叫んで久しぶりに懐かしい”イヤーンな感じ”のポーズを取った。

「あ、それは僕に同情してチョコをくれるのは、アスカだけかなって意味で……」

シンジは赤い顔をしてゴニョゴニョとそう話すが、クラスの生徒達は話に花を咲かせていてぜんぜん聞いていない。
アスカは怒るとは違った意味で顔を赤くして固まっていた。

「せっかく、碇君にもチョコレートを作ってきたのに渡せそうにない感じなのよね」

そう言ってシンジ達に近づいてきたのは、少し前に犬の件でSSS団と関わりを持った阪中さんだった。

「ど、どうして僕に?」
「ううん、碇君だけにってわけじゃないけど、この前ルークに優しくしてくれたから。それに、碇君は犬っぽくてかわいいと思ったのよね」
「ぼ、僕が犬?」
「そう、その落ち込んだ表情とか。守ってあげたくなるって碇君は女子生徒に人気があるのよね」

阪中さんの話を聞いて、シンジは落ち込んで、アスカは不機嫌そうな顔になる。

「別にアタシは、シンジが阪中さんからチョコをもらったからって、ぜんぜん気にならないわよ」
「惣流さん、私は碇君を困らせることをしたくないし、チョコレートはSSS団のみんなにあげるために持ってきたのよね」

阪中さんはアスカをなだめるようにそう話しかけた。

「アタシはシンジがどの子からチョコを受け取っても、チョコを渡すつもりでいるから」

アスカが照れくさそうにそういうと、シンジや周りに居るトウジ達からもホッとした空気が流れた。

「涼宮さんとキョン君、休み時間にずっと教室に居ないけど、どうしてなの?」
「日直の仕事があるって言っていたけど」
「今日の日直の仕事って、そんなに忙しいものなのかな」

質問に対するシンジの答えに、阪中さんは不思議そうに首をかしげた。



<第二東京市立北高校 中庭>

放課後、中庭でチョコレートを配っているSSS団の姿を見て、生徒会長は驚く。

「涼宮の裏をかいて、チョコレートは没収したはずだ……一体どうなっている?」
「どうやら涼宮さんには第3の策があったようですね」

側に居たエミリはおっとりとした口調でそう生徒会長の呟きに答える。

「裏の裏をかかれたって事か……!」
「ここは素直に私達の敗北を認めましょう」

エミリはそう言って紙製の両手にちょうど収まるぐらいの箱を取り出す。

「はい、どのチョコレートがお好きですか?」

エミリが差し出した箱には小さなチョコレートが4種類入っていた。

「俺は甘いものは嫌いだぜ」
「甘さが押さえ目のチョコレートもありますよ」

エミリはそう言って、チョコレートのうちの一つを取り出して、生徒会長に差し出した。
そのエミリの穏やかな笑顔にほだされて、生徒会長はチョコレートを受け取ってしまった。

「これは涼宮達が?」

箱に刻まれたSSS団のロゴマークを見て生徒会長が呟いた。
ハルヒのデザインを箱にプリントしたのはコンピ研の部員達だった。
コンピ研の部室は、キョンの祖母などの協力でサーバーやプリンター、業務用コピー機まで設備が充実している。

「はい」
「賄賂で俺達を懐柔しても教師共が黙っちゃいねえだろ、特にあの生活指導の数学教師とか」

笑顔で短くそう答えたエミリに、生徒会長はそうぼやいた。

「どうやら涼宮さん達は、休み時間に根回しをしていたようですよ」
「生徒会の中にも造反者がたくさん居そうだな」
「遺憾ながら、私もその1人です」

そう言って笑顔で微笑むエミリを見て、生徒会長は観念したようにため息を吐きだした。

「まったく、いつからこの学校は涼宮を中心に回るようになったんだ?」
「コンピュータ研究会以外の部活動も、SSS団に協力するようになってしまいましたね」
「……生徒会は、涼宮に屈したりはしねえぞ」
「それで良いではありませんか、涼宮さんが暴走しすぎないためにも抑止力は必要です」
「今回の件は教師共ににらまれる事もないし、見逃してやるさ」

生徒会長とエミリが立ち去った後ろでは、ハルヒの元気な声が響き渡っている。

「みなさーん! 今日はバレンタインデーです! この機会にチョコと一緒に気持ちを大好きな相手に伝えましょう! SSS団もよろしくお願いします!」

○コちゃんの着ぐるみ姿のハルヒはそう言って、キョン達と一緒にチョコレートを配って行った。

「ごめんなさいー、チョコはお1人様1箱だけなんですー、数はたくさんありますから、みなさん押さないでー!」

そう言ってチョコを配るミクル達も、ハルヒと同様に着ぐるみを着ていた。
しかし、カエルの着ぐるみを着せられたキョンだけは不満だったらしい。

「何で俺がこんなダサい着ぐるみを着せられるんだ」
「夏だったらきっともっと大変だったんじゃないかな」
「碇君が使徒のビームを受けた時ぐらい苦しいんじゃないかしら」
「嫌な事を思い出させないでよ、綾波」

珍しく冗談を言ったレイにシンジはそうツッコミを入れた。
へーゼルナッツを細かく砕いて練り込んだチョコ、カラメルを混ぜ込んだプラリネ、生クリームを含んだガナッシュ、アーモンドが丸ごと使われたロシェと言う4種類のチョコレートの詰め合わせは生徒達にとても好評だった。

「あたし、ガナッシュがもっと食べたいから、あんたのガナッシュとあたしのロシェと交換しない?」

と言った感じの友チョコ感覚のやり取りも受け取った生徒達の間で行われていた。
そして、これを機会に片思いの相手に勇気を出してチョコレートを渡す生徒や、ハルヒやアスカから手渡された事を喜ぶ生徒など、バレンタインデーのイベントの楽しみ方は人それぞれだった。
さらに『当たりが出たらもう一箱』と言うワクワクした気持ちを盛り上げる仕掛けがあるのはなんともハルヒらしかった。



<第二東京市 葛城家>

無事にバレンタインデーのイベントを終えたハルヒ達は、打ち上げパーティと言う事で葛城家に集まっていた。
軽い夕食を取った後、ハルヒ達によるチョコレート菓子の調理が始まった。
チョコレートの材料となる製菓用チョコレートやココアパウダー等は、朝に生徒会によって没収されていたが、イベント終了後にハルヒ達は生徒会長と交渉して返してもらっていた。

「食べ物を粗末にしてはいけないと言う意見については賛成だ」

生徒会長はそう吐き捨てる様に言ってハルヒ達から没収した材料を返した。

「ミサトは隅っこの方で1人で作ってね」
「はい」

ミサトはアスカに言われておとなしく、キッチンの片隅で1人でチョコレートを溶かして調理を始めた。
ハルヒとアスカとミクル、レイは協力して、ザッハ・トルテ、エクレア、チョコレートマカロンなど珍しい外国のお菓子を作り上げて行く。

「もうちょっと、バターを加えた方がいいかしら」
「ビターチョコレート140gに対しては無塩バター14gが最適。それは間違っている」
「レシピ本の通りじゃつまらないじゃない!」

最初はユキも調理チームに加わっていたが、アスカやハルヒの味覚に対して、ユキはデータで反論をするので、外されてしまった。

「美味そうじゃないか」

キョンは出来たてのチョコレート菓子がテーブルに運ばれるのを見て、感心したように呟いた。

「団員のみんなには作りたてをプレゼントしてあげようと思ってね、ありがたく頂きなさい!」
「いただきます」

ハルヒの言葉にシンジ達はそう答えて、チョコレート菓子を口に運んで行った。

「どう、学校で阪中さんがくれた高級チョコレートとは違った美味しさでしょう」
「こっちの方が僕は好きだよ」
「そ、そう?」

シンジに誉められて、アスカはまんざらでもない様子だった。

「このちょっと焦げた感じのエクレアは?」
「ご、ごめんなさい、それは私が作ったエクレアです」

イツキがミクルの失敗してしまったエクレアを指差すと、ミクルはかしこまった様に謝った。

「私が責任を取って自分で食べますね」

そう言ってミクルがエクレアに手を伸ばそうとすると、イツキが素早くそのエクレアをつかんで口に運ぶ。

「おいしいですよ」
「古泉君……」

ハルヒ達がこうして夕食後のデザートを楽しんでいると、キッチンの片隅で料理をしていたミサトが怪しい物体を運んで来た。
何とかチョコレートケーキのように見えるのだが、ところどころに血痕のように赤い染みが浮かんでいた。

「ミサト、何そのケーキ」
「私の熱いハートを赤で表現した『ケチャップ・チョコレートケーキ』よん♪」
「ふざけているでしょう!? 食べ物を粗末にしちゃいけないのよ!」
「冷蔵庫にケチャップしか調味料が無かったから、試してみたのよ」

アスカとハルヒの抗議に対して、ミサトはニンマリとした笑顔で答えた。

「見た目はちょっちアレだけど、意外といけるかもしれないじゃない」

ミサトは笑顔でそうハルヒ達に勧めるが、誰も手をつけようとしない。
ハルヒやアスカの美味しいチョコレート菓子を食べた後だ、そんな満足感を壊したくは無かった。

「……ユニーク」

ミサトの赤いチョコレートケーキを一口食べたユキはそんな感想を残した。
チョコレートパーティも終わり、ハルヒ達は自分達の家へと帰って行った。



<第二東京市立北高校 1年5組>

翌日、学校に登校したシンジとキョンは、トウジや谷口達から昨日どんなチョコレートをもらったのかと質問攻めに合っていた。
シンジがハルヒ達にチョコレート菓子を夕食後のデザートして出されたと言う事を話すと、トウジ達は同情の声をシンジとキョンに掛けた。

「なんて曖昧な事をするんや、涼宮と惣流のやつは!」
「その渡し方は友チョコ感覚何だろうな」
「やっぱりそうなのかな」

トウジとケンスケの言葉を聞いて、シンジはため息をついた。

「鈴原はいいよな、洞木さんから愛がこもっていると分かるチョコレートをもらえてさ」
「俺は義理でも友でも、チョコレートがもらえる事自体がうらやましいぜ」

キョンのぼやきに、さらに谷口がそう続いた。

「シンジ、惣流にお礼をする時の態度が、今後の2人の関係を決めるんだぜ、しっかりしろよ」

ケンスケが真剣な顔になってシンジを見つめてそう言った。

「どういう事?」
「惣流の曖昧な好意の示し方に、曖昧なお礼で答えたら、曖昧な関係が続くって事さ。惣流の事が本気で好きならさ、今度のホワイトデーではっきりと伝えてみろよ」

聞き返したシンジに、ケンスケは強い口調でそう答えた。

「俺もハルヒに対して真剣に告白する時期が来たのかもしれないな」

キョンもケンスケの言葉を聞いて、真剣な顔でそう呟いた。

「じゃあ、俺の研究した口説き文句をお前達に教えてやろうか?」
「ごめん、いらないよ」
「俺もいらん」
「即答かよ」

この日からシンジとキョンは、アスカとハルヒにどのように告白したら良いのか真剣に考え始めた。
2人とも電話やメールなどでの告白は受け入れるとは考えにくいので、直接会って伝えるしか無い。
友達以上恋人未満の関係に終止符を打つ時が、迫っていた……。
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