- 今日の読売新聞の記事を読んで、思わず怒りが込み上げてきた。
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- 最新の医療ルネサンス・医療企画とは
- シリーズ がん検診(4) 悪性度低ければ経過見て
- 48歳男性の前立腺癌。前立腺癌の患者さんとしてはかなり若い。平均寿命に達するまでに30年もある。しかも、悪性度はあまり高くない癌で、PSAは7,6。これって、十分高い値じゃないの?
- 待機療法なんて、冗談じゃない。どう考えたって、積極的治療以外ありません。常識的に考えたら外科的治療が適応です。
- 厚生省の研究班のPSAに関する指針が出たときも、怒りが込み上げた。おっしゃるとおり、治療しなくても良い前立腺癌もあります。しかし、現状で、治療しなくても良い癌と、治療しなければならない癌を区別する方法はありません。では、指針を出した厚生省の役人が前立腺癌になったら、経過観察を望むのでしょうか?お尻に火がついたように、治療へ走るに違いありません。私もスウェーデンでは、たまに経過観察する患者さんもいます。しかし、48歳なんて、絶対にありえません。慈恵の頴川先生は前立腺癌に詳しいはずだから、これは何かの間違いか。
- マスコミの影響は巨大です。こんなとんでもない記事を信じた人達が、間違った選択をしないことを祈るばかりです。
- 世の中に出回っている医療情報には、間違っているものが実に多い。
- 「良い病院や医師」のリストなどもあるけれど、これも真っ向から信じたらいけない。そもそも、ベストの病院選びというのは、「この疾患で、この手術ならこの先生」というものであって、「○○大学病院」なら安心、なんてことはありえません。名医がいたとしても、受診日が一日ずれただけで、他の医師にあたる可能性もあるし、実力のない医師に当たった時点ではずれです。また、「教授」に診てもらったから喜ぶのも浅はか。もともと、日本の教授の中には、論文の数だけで教授になった人も数多くいて、同時に臨床で名医であるとは限りません。少し前に、以前私が働いたことのある大学のうちの一つであった話。ある有名人が癌で入院。その癌の専門科の教授は、外遊中。スポーツ新聞に、「○○癌の名医、海外から緊急帰国」なんて一面に大きな記事がでました。そして、その患者さんには適応がないと思われる最新技術を使った手術が行われました。勿論、教授はその手術は出来ません。こっそり外から名医を呼んできて、休日に人払いの上手術を決行。噂によると、患者さんは8桁の謝礼をしたとか。因みに、その教授は、「白い巨頭」の権化みたいな人で、人格者とは程遠い。
- 名医選びというのは本当に難しい。今の病院だって、一緒に働いて、自分も熟知している手術を一緒にして初めて、その先生が出来るかどうかがわかるのです。気持ちのある先生かどうかも。ですから、自分の専門領域についても、名医を複数あげるのは、結構難しいことなのです。
- ある程度の情報を得たら、その先生に会ってみて、「この先生なら命を預けても良いかな」と思えるかどうかで決めるしかないのでしょうね。
- とにかく、マスコミを安易に信ずるべからずです。
- こんな記事を掲載するなんて、腹が立って仕方がありません。
同大病院で前立腺に針を刺して組織を調べる検査を行ったところ、8本中1本から、がんが見つかった。ただ、染谷さんは現在、手術や放射線などの治療は受けていない。
PSA値は基準を超えたとは言え、やや高い程度で、組織検査でもがんの悪性度は低かったことから、急に悪化する心配は少ないためだ。3か月ごとに PSA値を測り、経過を見る。染谷さんは「検査に時間が取られるが、がんが見つかり、よかった。医師の丁寧な説明で不安もない」と話す。
PSA検診は、数多くの早期がんを拾い上げる。ただ、前立腺がんには進行が遅いがんもあり、がんが進まないうちに、天寿を全うできる場合も多い。
結果的に死に直結しないがんと、治療すべきがんを見分けるにはどうすればいいか。その答えの一つとして期待されているのが、染谷さんが受けている 「PSA監視療法」だ。定期的にPSA検査を続けながら悪化の兆しが見られた時に手術をしても、病理検査の結果には差がなく、経過を見て手術をしても問題 のない可能性があることが、最近の研究でわかった。
今年からは、長期的な死亡率に差が出るかどうかを調べる国際的な大規模比較試験も始まった。同大泌尿器科教授の頴川晋さんは「監視療法の研究が進めば、不要な治療を減らすことができ、患者の負担も軽くてすむ」と話す。
PSA検診をめぐっては、死亡率を下げる証拠が不十分だとして「(住民検診は)勧められない」とする厚生労働省研究班と、進行がんを減らすために「検診を推奨する」という日本泌尿器科学会の意見対立がある。
ただ、医学的な論争をよそに、PSA検診は国内で広がりつつある。09年時点では、全国の市区町村の64%にあたる1163団体で住民検診に前立腺がん検診(PSA検査)を組み込んでいる。
PSA検診で「異常」が分かっても、いたずらに不安を抱くことなく、過剰診断・過剰治療があることを頭に入れて、主治医とよく話し合うことが必要だ。
(2010年8月31日 読売新聞)
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こんにちは。
> とにかく、マスコミを安易に信ずるべからずです。
おっしゃるとおりだと思います。でも、一般人は悲しいかな医学的な知識が乏しいため、記事の内容を判断することはできません。学術論文の世界でもデータがねつ造されたりする世の中ですから、何を信じたらよいのやら・・・。
もしもの時には、「命を預けても良い」先生にあたることを祈るしかないですね。
PS. 余計なことですが「白い巨頭」→「白い巨塔」でしょうか。
さくらりぼんさん。医療は日進月歩、情報は過剰に流れ、また、医療における問いに対する答えは一つではないことが、医者であっても、専門外のことはわからない状態です。知り合いが専門外の病気になったら、その分野の専門の友人や、外科医の腕に関しては麻酔科の先生に情報を求めたりします。
個人的には、「命を預けても良い」と思える先生に会うことは、非常に大事だと思っています。
PS. 誤字のご指摘、有難うございます。訂正させていただきます!
こんにちは。
このような記事が毎日新聞に有ったとは知りませんでした。
10年前、兄が癌を患い本人が放置していたこともあって発見した翌日に緊急手術となりました。
その時、手術前に行った治療の説明の中で納得出来ない事があり、素人ながら質問したところ外科医から「これは東大方式ですよ」と切り捨てられました。
余命半年と聞かされた時点で心神喪失状態の私達に「東大式」と言われても意味がわからず外科医の横にいた泌尿器科の先生の顔を見たら目をそらされてしまいました。
一般人はマスコミや出版物からしか知識を得るしかないのです、信じる信じないは別として。説明を求めたところで上記のような回答をする先生がいるわけですから。
もちろん全ての先生とはいいません。すばらしい先生の記事も何度も読んだ事があります。でもやはり一般人にとって先生に質問したり、先生を選んだりする事はおこがましいように感じてしまう場合もあるのです。
しかし、この新聞記事の締めくくりの文には納得できませんね。
>「異常」が分かっても、いたずらに不安を抱くことなく、過剰診断・過剰治療が〜
と有りますが、新聞が書いていい表現とは思えません。どういった事が「過剰診断、治療」にあたるのは説明もしてないくせに!!と思ってしまいました。
りえさん。心が怒りで震えるようなお話です。鉄鉢袋さんのコメントにもあるとおり、試験勉強ができて東大に入っても、良い医者かどうかは全く別の次元の話です。良い医者となるのに、スーパーIQは必要ないのです。こんな笑い話があります。「東大病院前で東大の医者が交通事故に遭った。救急車が到着したら救急隊に、「KO病院に運んでください」と言った。」昔は、東大といえば、研究ばかりで、臨床はできないというイメージだったようです。今はどうか知りませんが。いずれにしても、そんなことを言う外科医は医者失格です。マスコミも、報道の重みをもっと噛み締めてほしいものです。
「東大式」で説明がつくと思っている医者はレベルの低さが伺われます。入試という”点”で最高点を取ってもその後いかに真摯な態度を学んだかは大いに疑問ですね。プライドは高いが志は低いの典型です。drpionさんの怒りが伝わってきますが、完ぺきに賛成です。若くして前立腺がんが発見された人がこの記事を見て間違った解釈をしたら命を短くしてしまう可能性さえある。書いた記者もどうかと思いますが監修した医師は無責任だと感じます。日本を担うはずの政治家から隅々まで、地位が偉くなればなるほど、無責任な発言を簡単にしてしまう。なぜでしょう。
鉄鉢袋さん。偉大な先生にサポートしていただけて、嬉しいです。先生のおかぶを奪うほど、私は怒っています。
「実るほど頭を垂れる稲穂かな」というのは、日本の過去の美徳なのでしょうか、、、。