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乙女小説にエロ表現を用いたタブー破りのレーベル「ティアラ文庫」が売れる理由

サイゾー 9月2日(木)14時59分配信

──少女マンガコーナーの一角に並べられる“少女小説”。これまで“少女が憧れる”さわやかなストーリーを描くことが常だったが、昨年誕生した「ティアラ文庫」には、これまでタブーとされていた“性描写”が積極的に取り入れられ、多くの女性に支持されているという。その理由とは一体?

 未成年の女性を読者に想定した、文芸の一分野「少女小説」。80年代後半に「集英社文庫コバルトシリーズ(現コバルト文庫)」や「講談社X文庫ティーンズハート(06年に刊行終了)」などのレーベルが巻き起こした“少女小説ブーム”の中、男女のプラトニックな恋物語が楽しめるライトノベルとして、人気を博していた分野だ。ところが、90年代初頭になると、女性向けに男性同士の恋愛を描く「ボーイズラブ(以下、BL)小説」が普及し、ブームはあえなく終焉。近年では“純粋系”少女小説は鳴りを潜めてしまった感が否めない。

 しかし、そんな少女小説業界に新風を吹かせたのが、フランス書院発売、プランタン出版発行により、昨年6月に創刊されたレーベル「ティアラ文庫」だ。「キスだけじゃ終わらない。新・乙女系ノベル」をコンセプトに、性描写のある少女小説を月に2〜3冊のペースで刊行。出版物の取次販売会社・大阪屋発表の文庫本週間売り上げランキングにおいて、「少女小説は2週続けてランクインすれば及第点」といわれる中、ほぼすべての作品が2〜3週にわたるランクインを果たす人気ぶりだ。

 これまで少女小説界では「キスより先は描かない」という暗黙の了解があった。その“タブー”を破り、ティアラ文庫を立ち上げた経緯を、副編集長のM氏は次のように語る。

「『少女小説』『BL小説』『ロマンス小説』という3つの“女性向けの恋愛小説”の特性をそれぞれ生かしつつ、以前から私が『こうすれば、もっとおもしろくなるのに』と感じていた部分を反映した小説がつくりたいと思ったんです。まず『少女小説』では、キスより先の展開があまり描かれない状況の中、それを望んでいる女性読者もたくさんいるだろうと。次に『BL小説』では、あえて男性同士にすることで、主にセックスの時に受動的な役割を担う“受け”と能動的な役割を担う“攻め”の両方に共感できるという特性を、男女でも生かせるのではないかと思いました。そして、最も意識したのがハーレクインに代表される『ロマンス小説』。ハーレクインは書き手が西洋人であるため、登場人物の思考やセリフが日本人の感性に合わないと感じることが多かったのですが、それなら日本人の作家が書けば、たとえ登場人物は西洋人のままでも、日本人が受け入れやすいロマンス小説になるのではないかと考えました」

 確かにティアラ文庫には、フランス宮廷を舞台に国王の忠臣と公爵夫人による禁断の恋が描かれる『薔薇と狼姫 ヴェルサイユ・ロマンス』などをはじめ、王道のロマンス小説を彷彿とさせる作品が目立つ。しかし、本来ロマンス小説の読者層は、少女小説の読者層よりも世代が上になるのではないのだろうか?

「読者の年齢層は、特に想定していません。ただ、創刊のきっかけになった『少女小説』『BL小説』『ロマンス小説』の読者の方々が、より楽しんでいただける作品にすることは念頭に置いています。そのため、作家さんの傾向も大体その3タイプに分けられるんですよ。例を挙げると、『華の皇宮物語』の剛しいら先生は、『少女小説』の特性を考えてお書きになるタイプ。『ヴァンパイア・プリンセス』の水戸泉先生は、『BL小説』の特性を考えてお書きになるタイプです。お2人共、もともとBLの分野でもご活躍されていらっしゃる先生方なんですよ」(同)

 厳密に解釈すると、ティアラ文庫は従来の少女小説の枠にとらわれない、まさに“新・乙女系ノベル”のレーベルということになる。とはいえ、書店では「コバルト文庫」などの少女小説レーベルと共に陳列されており、また、装丁に少女マンガ風のイラストを使用していることもあって、やはり読者層で最も多いのは10代の女子なのだという。


■“フェラチオよりもクンニ” 女性が感じるエロさを表現


 そうした現状を踏まえた上で、聞かずにはいられないのが、特色のひとつである「性描写」について。作品によって差はあるものの、中にはレイプや痴漢のシーンが登場したり、官能小説並みに性描写が頻出したりしている作品もある。10代の女子が読む出版物にしては、いささか刺激が強すぎるのではないだろうか?

「確かに性描写が過激な作品もありますが、かといって、ただ過激なだけの官能小説を出版しているわけではありません。むしろ、“恋愛の過程”や“心の葛藤”を描くことを大切にしていて、それをおろそかにしたら、キスより先を楽しませることはできないと考えています」(M氏)

 単に性描写といっても、版元のフランス書院が得意としている中高年男性向けの官能小説とは異なり、作家の個性や物語の雰囲気に合わせて使い分けながら、生々しい表現は避けるようにしているという。

 また、「ハザスは犬のように舌を出して、シアンの秘部をなめあげた。ハザスが懸命になめつづけると、花びらがほぐれ、蜜口があらわれた」(『光の王女と炎の王子』より) というように、フェラチオよりもクンニリングスのほうが多く描かれている点などは、女性向けならではだろう。これでは、自然と性的興奮がかき立てられる女性も多い気が……俗に言う“オナニーのオカズ”に使用されているケースもあるのでは?

「それについては、正直私も知りたいところです(笑)。少なくとも作品の総合的なクオリティを管理している中で、そういった用途で使われることは意識していません。ただ、読者の方々が求めるさまざまなタイプの男性キャラや、多様な“キスより先の展開”には、できるだけおこたえしたいと思っています」(同)

 現在は、恋愛に積極的で強引さのある“肉食系男子タイプ”と紳士的で優しい“王子様タイプ”の男性キャラが求められる傾向にあるため、男性優位もしくは対等な立場での性描写になりがちだが、女性優位のエッチシーンが楽しめる『たった二人で世界を裏切る。〜犬のような彼〜』のような作品も用意されている。さらにこれまで、女性同士の恋愛を描いた“百合もの”も2冊出版しており、人気恋愛コミュニケーションゲーム『ラブプラス』(コナミ)のシナリオにもかかわったという向坂氷緒氏が執筆した『384,403km あなたを月にさらったら』には、女性だけでなく男性読者からも大きな反響が寄せられたという。

 編集部としては「ライトノベルのレーベルである以上、作品のアニメ化を目標としている」とのこと。“性描写ありの女性向けライトノベルブーム”が到来する可能性も、なきにしもあらずかもしれない。
(文/アボンヌ安田)

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最終更新:9月2日(木)14時59分

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