2010年9月2日0時6分
関東大地震によって壊滅的な被害を受けた東京だったが、当時としては破格の予算をかけて復興事業が進められた。震災から7年後の1930年、生まれ変わった東京を市民と祝おうと帝都復興祭が開催され、それに合わせて「広告祭」という広告イベントが開かれた。
東京の町並みはよみがえったが、被災した大衆の心の傷が癒えたわけではなかった。そのなかで、広告の世界を再現した奇抜な仮装行列が沿道に集まった数十万人の笑いを誘ったと当時の新聞が伝えている。広告祭は広告の効果や価値を当時の市民や企業に印象づけることに大きな役割を果たした。
近年、広告が効かなくなったという話をよく聞く。インターネットの発達によって、生活者が従来のマスメディアと接触する機会が減ったこと。一方通行で、企業に都合のいい情報を伝えている広告よりも、専門サイトやブログなどの生活者同士のクチコミ情報の方が信頼できると参考にする人が増えていること、などが影響していると考えられる。
しかし、今「広告祭」が開催され、ソフトバンクのCMの家族などによる仮装行列が行われたらどうだろう。恐らく、80年前をしのぐ人が集まるのではないだろうか。それは、メディアやタレントの力もあるが、当時とは比較にならない広告の力によるものでもあろう。そう考えると、あながち広告が効かなくなったとも言えまい。今でも、広告がヒット商品を生むことも多い。
だが、広告が有効な手段としてあり続けるためには、都合の悪い情報でも生活者と共有するなど企業が生活者の立場を自分ごととしてとらえ、生活者とともに活動する姿勢が必要となる。(深呼吸)
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「経済気象台」は、第一線で活躍している経済人、学者など社外筆者の執筆によるものです。