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きょうの社説 2010年9月2日
◎民主党代表戦火ぶた 現状維持か、「豪腕」期待か
このまま菅政権が続いていくのが良いのか、それとも、「剛腕」に期待して変化を求め
るのか。民主党代表選で、立候補を届け出た菅直人首相と小沢一郎前幹事長の共同会見は、慎重に徹した首相の守りの姿勢と、小沢氏の意外なほどの「雄弁」が印象的だった。共同会見の注目点は、三つあったように思う。首相が消費税論議の必要性に言及したの に対し、小沢氏はその前に、徹底して行政と予算の無駄を省く必要があると主張した。さらに菅政権が唱える予算の一律1割カットについて、「政治主導で決断し、実行するのが理想であったはずだ」と厳しく批判した。普天間問題では、首相が「苦渋の選択だった日米合意からスタートしなければならない」と述べたのに対し、小沢氏は「沖縄も米国も納得できる案は、知恵を出せば必ずできる」と強調した。この両者の認識の違いは、極めて大きな差と言えよう。 菅首相は就任後3カ月間の政権運営で、トップとしての力量がほぼ明らかになった。こ の間、不用意な消費税増税発言で参院選大敗の原因をつくり、円高・株安への対処も後手を踏んだ。自身もそれらの批判を意識してか、「いよいよこれから本格的に政権が稼働するときだ」と強調し、小沢氏の「政治とカネ」の問題を念頭に「クリーンでオープンな民主党を作っていきたい」と訴えた。 これに対し、小沢氏は「政治家自らの責任で政策、予算を決定できる体制をつくらない といけない」と、官僚にすり寄る首相の姿勢を批判し、昨年の衆院選マニフェストの着実な実現を訴えた。財源については「地方への補助金を一括交付金に改めれば、総額を大幅にカットしても地方は助かる」とたたみかけた。 現職と挑戦者という立場以上に、首相の石橋をたたく慎重さと小沢氏の攻めの姿勢が目 立った。「政治とカネ」をめぐる質問に対しても小沢氏は「すべてオープンにしてきたし、検察の捜査で不正はなかったという結果が出ている」と、強気で押し通した。「剛腕神話」はダーティーなイメージを超えられるのか。評価は真っ二つに分かれそうである。
◎画像別人で無罪 再発防止へ検証欠かせず
防犯カメラの画像が別人とされた窃盗事件の無罪判決で、金沢地裁が「事件の捜査と起
訴がずさんだった」と断じた厳しい指摘を、県警、金沢地検は深刻に受け止める必要がある。判決で無罪の立証はなされたが、捜査の過程で、なぜカメラ画像に頼ったのか、途中で 引き返す判断はできなかったのかという疑問は残ったままである。裁判員裁判で刑事司法に対する関心が高まるなか、捜査への不信は裁判員の意識にも影響を及ぼしかねない。 防犯カメラ画像が証拠の1つになる事件は少なくない。単純な窃盗事件とはいえ、そこ には特定の証拠への過信と「思い込み捜査」という、過去の冤罪にも通じる重大な落とし穴が見え隠れする。再発防止へ厳密な検証は欠かせず、それを包み隠さず公表することで信頼回復の一歩にしてほしい。 この事件は、男性が他人のキャッシュカードで現金自動預払機(ATM)から100万 円を引き出したとして窃盗罪で起訴後、公判中に防犯カメラ画像で別人と鑑定され、検察が無罪論告していた。 金沢地裁は判決で、防犯カメラ画像の鑑定について「捜査段階で実施し、適正かつ慎重 な捜査を尽くすべきだった」と指摘した。この点について、金沢地検は「拘置期限までに鑑定が間に合わなかった」と釈明したが、処分保留にしてでも証拠の吟味を尽くす慎重さがあれば、起訴は回避できたのではないか。 男性は捜査段階で「(画像は)自分だ」と供述し、この自白が防犯カメラの画像と結び ついて起訴された。男性がなぜ、そんな自白に至ったのか、取り調べ方法への疑問もぬぐえない。自白が得られても過大視せず、内容が真実か否か、他の客観証拠にも照らして徹底的に吟味する。それが富山県の氷見冤罪事件などの教訓だったはずである。 防犯カメラはATMに限らず、街角や店頭にも増えており、犯罪抑止効果にとどまらず 、事件の証拠収集にも幅広く活用されている。検証から導き出される反省点は、警察、検察すべてが共有できる貴重な教訓になろう。
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