Part 2

2010年08月30日 19:13
経済

財政政策の効果とリスク

日銀が追加緩和を決めたが、市場はほとんど反応しなかった。当たり前だ。デフレ脱却国民会議(笑)が主張するのとは逆に、資金はジャブジャブで銀行の日銀口座に「ブタ積み」になっており、余っている資金をこれ以上、供給しても何も起こるはずがない。しかし副作用を考えなければ、インフレにするのは簡単だ。岩本康志氏のいうように、
現在,東証上場企業の時価総額は約300兆円である。150兆円あれば,この全企業の半数の株式を取得できる。[・・・]日銀が東証上場全企業の支配株主となったとする。支配株主として全社に商品を毎年1%ずつ値上げしろと命令すれば,1%のインフレが起こる。
これは植田和男氏の議論を拡張したものだ。もっと簡単な方法としては、私が提案したように、日銀が1000兆円であらゆる有価証券や不動産などを買いまくれば、確実に大インフレが起こる。「バーナンキの背理法」なんて下らない話は必要ない。

注意が必要なのは、これは金融政策ではなく財政政策だということである。日銀の買った資産が暴落して損失が出た場合、日銀は独立採算なので倒産する可能性がある。中央銀行が倒産すると通貨の信用が失われて経済は壊滅するので、政府が救済しなければならない。つまり実質的には、こうした非伝統的金融政策のコストを負担するのは納税者なのである。

これは理論的にも当然だ。通常の金融政策は金利を操作するものなので、ゼロ金利になると役に立たないが、ケインズもいったように財政政策は使える。小野理論や三橋某などの想定するように政府が全知全能なら、日本経済はたちどころに回復するだろう。こういう議論は、一昔前の社会主義と同じだ。計画当局が理想的な計画を立てて実行できるなら、定義によって社会主義は理想社会を実現する。これはトートロジーである。

クルーグマンも指摘するように、「デフレの罠」で有効な政策はすべて財政政策である。私は財政政策を全面否定する気はないし、富山和彦氏の提案する政府系ファンドも、ガバナンスの設計を適切に行なえば機能するかもしれない。しかし歴史的に大部分の財政政策が失敗してきたことを考えると、細心の注意が必要である。

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コメント一覧

  1. 1.

    「ブタ積み」の原義も、『マクロ経済学』(斉藤他)に記述があり、初学者の私にはなるほどと思わせるものがあります。

    学術書の中のコラムは、ブログを読んでいるより生産的です。非常に中身の濃い議論がなされていると思いました。

    良書を読むに如くは無し、ですか。

    全然勉強が足りてないと思います。

  2. 2.
    • jestemneko
    • 2010年08月31日 00:04

    三橋さんのことは、スカウトした谷垣さんと大島さんに言ってください。三橋さんを公認したせいで自民党がバカだと言われるのは辛いですw

    それに、問題なのは今の菅内閣でしょう。威張ってばかりいるだけの無能内閣ですよ。友人に言われて知ったのですが、このアンケート結果は何だ思いました。他党のことなので、高見の見物をしてますが、テレビや新聞の世論調査のいい加減さがよく分かります。自民党も、マスゴミに騙されないようにしないといけない。

    http://opinion.infoseek.co.jp/article/989

  3. 3.
    • disequilibrium
    • 2010年08月31日 00:14

    岩本康志氏は、「これはもはや金融政策でも財政政策でもない」と書かれていますよ。

  4. 4.
    • myzwhiro
    • 2010年08月31日 11:48

    日銀関係者も今回の追加緩和政策では市場に見透かされることを知りつつ、おバカな政府からの圧力に効しきれなかったのではないでしょうか?。

    円高の進行を悪とし、日銀が無策であるとの批判に終止する大手メディアの姿勢にも呆れますが、そのメディアに煽られた大衆に迎合するだけの現政権の蒙昧さにも辟易します。財界もメディアも為替介入を求めるのであれば、(日銀ではなく)それを決断すべき政府/財務省こそが糾弾の対象となるべきだろうと思います。もっとも、実効性を期待できない為替介入については、財務省としてもおバカなメディアの論調に従うとは考えられませんが。

    逆説的ではありますが、政府が保有する米国債を市場で売却すれば、短期的(瞬間的)には米国債利回りと連動する円の対ドルレートを下げることができるのではないでしょうか?。その後には未曾有の混乱が生じるかもしれませんが、20世紀型資本主義経済が行き詰まった現在の閉塞状況を変えられるようにも思います。戦後一貫して米国政府の顔色を伺ってきた政府/世論では、そのような挙に出ることも困難でしょうが、中国政府は日本に先んじるかもしれません。

  5. 5.
    • test2436
    • 2010年08月31日 13:55

    民間需要がない時は政府が関与してもいいと主張する人たちの言説も魅力的です。たとえば榊原英資氏はもっと政府の経済力をつけて外交力をもとに鉱山購入や大型プロジェクトの受注をせよと書いています。国対国のような競争もあるのだから、また先進国は単なる価格競争では勝てないのだから金と知恵を生かして戦略的に投資するのであればプレイヤーを民間に限定する必要はないのではないでしょうか。もちろん、原則は民間であり、それは誰も否定はしていません。

    政府が必ず失敗するとは限りません。また、起業と同じで必ず成功するとも限りません。リスクテイカーがいない現状では余分の資金を利用して政府が、または、その余地がない場合でも一定割合ぐらいは政府がやってもいいと思います。韓国は原発やリチウム、ロシアもアメリカもフランスも国策はあります。

    ちょっとでもやったら、ちょっとでもブレたら○○だ!!という極論や原理主義的な対立ばかりですが、世の中、完全なイデオロギーが機能することはありません。完全なリバタリアニズムもリベラリズムもコミュニタリアニズムも機能しません。必ず矛盾は生じてしまいます。そこは例外部分として許容すべきです。重要なのは原則であり、例外も認めるべきです。社会主義的な仕組みが嫌いの人が多いですが、原則が民間主導ならば修正資本主義の範疇として認めたほうがいいのではないでしょうか。

  6. 6.
    • test2436
    • 2010年08月31日 14:09

    では、どの程度が認められるか?バランスの問題です。民間が弱ければ政府が関与を強め、強ければ弱め、人々が生活に苦しみ国として豊かなら福祉を強め、貧乏に苦しむなら福祉を弱めればいいと思います。

    今は昔と比べてリスクを取る人がいません。何が当たるかは実際の所わかりません。
    リチウムやレアアースなどの鉱山を政府の力で取得させて成功するかわかりませんがリスクを取る必要はあると言われます。ハイリスクハイリターン。これを今民間はできていません。失敗を恐れているのか、資金がでかすぎて選択と集中がしきれていない日本企業はメジャーな外国と比べて不利なのか、政府の協力が弱いのか。ハイリスクハイリターンの原則に従い大プロジェクトをやるためにも現状から見て政府の関与も必要です。

    重要なのは官か民かではなく、リスクを取ることでしょう。日本人はリスクを取らなくなったから停滞しているのでは?戦略的でない官主導のバラマキ投資はリスクを取ったことにはならず投資ですらない福祉だとは思います(または利益供与)。福祉に数百兆投じるのもやはりダメなのでしょう。小野理論と古い自民党、国民新党の弱点は利益が見込めない福祉的な事業であること。サービス業はまあいいとして、無駄な投資ではやはり経済成長しないと思います。古いタイプの公共事業は目的がでたらめでダメです。選挙で勝つため、どうでもいい杜撰な計画であり、むしろ儲からない土地に巨費を投じてきたからダメなのでしょう。これからは福祉政策なのか経済政策なのかを見極め、その上でコストが見合っているかを考える必要があります。その計画が民間を圧迫せず、リターンが期待できると思うなら積極的に公共投資しても現在の状況ではいいのではないでしょうか。

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