「ねえ、お姉ちゃん。髪が伸びてきてるから、そろそろ切りに行ったら?邪魔になっちゃうでしょ?」
「そうだね~。ちょっと前髪とか目のあたりにかかって気になるし、日曜にでも美容室に行こうかな。」
今日は金曜日の夜。私とお姉ちゃんは夕食を囲んでそんな他愛もない会話をしていた。今日も一日、平和でいいなあ。
「ねえ。私、もう今年で18になるし、大人っぽい髪型に変えてみようかと思うんだけど。」
「今のままでいいんじゃない?お姉ちゃん、今の髪型が一番似合ってると思うんだけど。」
お姉ちゃん、中学くらいからこの髪型だけど、すごくよく似合ってると思う。それにしても、お姉ちゃんも今年で18か。18って自動車の運転免許取れる年齢だよね。早いなあ。
「あ、そうだ、憂。ちょっとそのリボン貸して。」
お姉ちゃんが私のリボンを指差して貸してくれと言ってる。私は後ろに手をやってリボンを外し、お姉ちゃんに手渡した。
「えっと、こんな感じかな。あっ、もっとこっち?」
お姉ちゃんは試行錯誤して髪をまとめて後ろで結く。何回か鏡を見て自分でしっくり来る位置を選んでいるみたい。
「見て見て。今髪が多いから、やっぱり憂の髪型にできた。」
ああ、そっか。お姉ちゃんは私より髪の長さを少し短くしてるから普段ならできないけど、今なら私の髪型にできるんだ。
「お姉ちゃん、もうすぐご飯出来るよ~。」
「あ、似てる似てる。」
お姉ちゃんと私は背格好も顔も似てるから、他人だとよく見ないと区別できないレベルになってる。あ、今お姉ちゃんが何か思いついた。良くないこと考えついた顔だ。
「憂~、お願いがあるんだけど。」
「私に出来ることなら言ってみて。」
「明日の土曜日、二年生の教室で授業受けてみたい。あずにゃんや純ちゃんと同じ教室で勉強してみたい。」
「私はどうなるの?」
「三年生の教室で勉強!憂なら大丈夫だよ。」
「もしバレたら大変なことになるよ?それに、さわ子先生は胸の大きさで私たちを見分けることができるから。」
「憂ならなんとかできるよ!」
あきらめてくれない。どうしよう。先生をごまかすなら方法はあるにはある。明日は土曜で授業は午前だけだし、小テストとかないからお姉ちゃんでも大丈夫だと思うけど。
「一生のお願い!一度だけでいいから!」
「一生のお願いって言われても。」
一度だけでも駄目だと思うんだけどなあ。じゃあ、次はこういうはずだ。
「そうだ!もし駄目って言うなら、留年して憂たちと同じクラスになればいいんだ!私って天才!」
やっぱり言った。しょうがないなあ、お姉ちゃんは。
「あんまりわがまま言っちゃだめだよ。授業は自分で受けないと意味ないし、お姉ちゃん、受験生なんだからなおさらだよ。」
「憂は私のこと嫌いなの?」
「ううん、大好きだよ。」
「じゃあ、一生のお願い。なんとかして!」
「駄目。」
「憂は私のこと嫌いなの?」
以下エンドレスループ。とうとう根負けしてOKしてしまった。お姉ちゃんの頼みだと、どんなに無茶でも断わりきれないよ。悲しい宿命。
「わ~い!憂大好き~!」
「ただし、私と入れ替わってるってばれないように平沢憂らしく振舞うんだよ。もし発覚したら、停学とかになって大変だからね。」
「任せなさい。平沢憂らしく、完璧超人になりきりますから。大丈夫だよ!」
大丈夫って言ったばかりだけど、やっぱり心配になってきた。未来の私はこの選択をどう思うのかな?それは後にならないと分からないけど。
「よし、なら作戦会議!明日の日程について検討を開始する!よろしいか、憂軍曹!」
お姉ちゃんは軍隊みたいに敬礼して階段を上っていった。しょうがない、裁縫道具を出しておかないと。その夜、私は遅くまでかけて対さわ子先生用秘密兵器を作った。
続く