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[21501] けいおん! 変装!平沢唯の華麗なる一日と平沢憂の憂鬱なる一日
Name: アルファルファ◆6c55af9b ID:2de55f33
Date: 2010/08/27 23:22

「ねえ、お姉ちゃん。髪が伸びてきてるから、そろそろ切りに行ったら?邪魔になっちゃうでしょ?」

「そうだね~。ちょっと前髪とか目のあたりにかかって気になるし、日曜にでも美容室に行こうかな。」

今日は金曜日の夜。私とお姉ちゃんは夕食を囲んでそんな他愛もない会話をしていた。今日も一日、平和でいいなあ。

「ねえ。私、もう今年で18になるし、大人っぽい髪型に変えてみようかと思うんだけど。」

「今のままでいいんじゃない?お姉ちゃん、今の髪型が一番似合ってると思うんだけど。」

お姉ちゃん、中学くらいからこの髪型だけど、すごくよく似合ってると思う。それにしても、お姉ちゃんも今年で18か。18って自動車の運転免許取れる年齢だよね。早いなあ。

「あ、そうだ、憂。ちょっとそのリボン貸して。」

お姉ちゃんが私のリボンを指差して貸してくれと言ってる。私は後ろに手をやってリボンを外し、お姉ちゃんに手渡した。

「えっと、こんな感じかな。あっ、もっとこっち?」

お姉ちゃんは試行錯誤して髪をまとめて後ろで結く。何回か鏡を見て自分でしっくり来る位置を選んでいるみたい。

「見て見て。今髪が多いから、やっぱり憂の髪型にできた。」

ああ、そっか。お姉ちゃんは私より髪の長さを少し短くしてるから普段ならできないけど、今なら私の髪型にできるんだ。

「お姉ちゃん、もうすぐご飯出来るよ~。」

「あ、似てる似てる。」

お姉ちゃんと私は背格好も顔も似てるから、他人だとよく見ないと区別できないレベルになってる。あ、今お姉ちゃんが何か思いついた。良くないこと考えついた顔だ。

「憂~、お願いがあるんだけど。」

「私に出来ることなら言ってみて。」

「明日の土曜日、二年生の教室で授業受けてみたい。あずにゃんや純ちゃんと同じ教室で勉強してみたい。」

「私はどうなるの?」

「三年生の教室で勉強!憂なら大丈夫だよ。」

「もしバレたら大変なことになるよ?それに、さわ子先生は胸の大きさで私たちを見分けることができるから。」

「憂ならなんとかできるよ!」

あきらめてくれない。どうしよう。先生をごまかすなら方法はあるにはある。明日は土曜で授業は午前だけだし、小テストとかないからお姉ちゃんでも大丈夫だと思うけど。

「一生のお願い!一度だけでいいから!」

「一生のお願いって言われても。」

一度だけでも駄目だと思うんだけどなあ。じゃあ、次はこういうはずだ。

「そうだ!もし駄目って言うなら、留年して憂たちと同じクラスになればいいんだ!私って天才!」

やっぱり言った。しょうがないなあ、お姉ちゃんは。

「あんまりわがまま言っちゃだめだよ。授業は自分で受けないと意味ないし、お姉ちゃん、受験生なんだからなおさらだよ。」

「憂は私のこと嫌いなの?」

「ううん、大好きだよ。」

「じゃあ、一生のお願い。なんとかして!」

「駄目。」

「憂は私のこと嫌いなの?」

以下エンドレスループ。とうとう根負けしてOKしてしまった。お姉ちゃんの頼みだと、どんなに無茶でも断わりきれないよ。悲しい宿命。

「わ~い!憂大好き~!」

「ただし、私と入れ替わってるってばれないように平沢憂らしく振舞うんだよ。もし発覚したら、停学とかになって大変だからね。」

「任せなさい。平沢憂らしく、完璧超人になりきりますから。大丈夫だよ!」

大丈夫って言ったばかりだけど、やっぱり心配になってきた。未来の私はこの選択をどう思うのかな?それは後にならないと分からないけど。

「よし、なら作戦会議!明日の日程について検討を開始する!よろしいか、憂軍曹!」

お姉ちゃんは軍隊みたいに敬礼して階段を上っていった。しょうがない、裁縫道具を出しておかないと。その夜、私は遅くまでかけて対さわ子先生用秘密兵器を作った。



続く



[21501] 登校!
Name: アルファルファ◆6c55af9b ID:2de55f33
Date: 2010/08/29 05:15

次の日の朝。私とお姉ちゃんは仲良く並んで登校。私は唯の格好、お姉ちゃんは憂の格好。髪型も制服も完璧に入れ替わっているはず。

「ねえ、憂。なんか落ち着かないんだけど。」

「我慢して。それが一番最善の策だから。」

「う~ん、でも胸のあたりが苦しいよ。」

お姉ちゃんのブラには対さわ子先生用に私の胸のサイズに合わせて詰め物をしている。逆に私はブラをきつめにして外見はお姉ちゃんと同じにしている。

「簡単に外れたりしないようになってるけど、音楽の時間にはできるだけさわ子先生に近づかないようにしてね。あと、暑いからって夏セーターぬがないように。」

「憂ったらこんなに重たいもの前につけて毎日暮らしてるなんて。私だったら肩がこっちゃうよ。」

褒められているのか微妙だし、私の体が勝手にそうなっちゃったものだからそんなこと言われても困るよ、お姉ちゃん。

「あ、そうそう。来週の土曜日に澪ちゃんファンクラブのお茶会があって、その準備があるんだ。」

「分かってるって。紬さんが新曲持ってきてくれるんでしょ?」

「憂にはちゃんと分からないかもしれないけど、あんまり気にしなくていいからね。」

言えない。本当は楽譜読めるし、練習なしだったらお姉ちゃんよりうまく弾けるなんて。話をそらさないと。

「もうそろそろ憂になろっか、お姉ちゃん。近くに知っている人がいたらまずいし。」

「うん、分かったよ、お姉ちゃん。」

「その意気だよ、憂。」

自分で自分のこと(お姉ちゃんの変装)を憂って呼ぶなんて変な感じ。私はお姉ちゃんって呼ばれてるし、本当は私は憂だからややこしいな。



「あら、おはよう、二人とも。」

「「おはようございます、先生。」」

登校して上履きを履いたところで、さわ子先生が通りすがった。ここが勝負の分かれ目。さて、吉と出るか凶と出るか。

「あら、どうしたの?私の顔に何か付いてる?」

「さ・・・先生、何か私たちを見て気づくことありませんか?」

私に変装したお姉ちゃんがさわちゃんって言いかけた後に先生って言い直して尋ねた。

「気づくこと?何かしら。いつもと同じだと思うけど。あ、ごめんなさい。もうすぐ職員の朝の朝礼があるから。後で教室で会いましょう。」

さわ子先生は腕時計の時間を見て、2Fの職員室に上がっていった。

「さわちゃん、気づかなかったね。」

「うん。なんとかいけそうだね。」

私とお姉ちゃんはお互いの上履きを履いて教室に向かう。良かった。靴のサイズも同じだからなんにも違和感がない。

「あっ、しまった。」

私はつい二年生用の上の階に行く階段を上ろうとしてしまったけど、引き返して3-2教室へ。お姉ちゃんと別れた。





「コホン。おはよう、和ちゃん。」

「おはよう、唯。今日は早いわね。」

「和ちゃんだっていつも早いじゃない。」

和ちゃんは自分の机に置いてある紙に何か書いていた。特別教室使用届け。来週のお茶会用かな。

「ねえ、和ちゃん。」

「何?」

「今日の私、なんか違うと思わない?」

「そう?いつもと同じに見えるけど。」

幼なじみの和ちゃんをごまかせれば、他の軽音部の先輩方は言うに及ばずごまかせるはず。ほっと胸をなでおろした。

「でも、今日の唯は普段よりなんか大人っぽいわね。なんとなくだけど。」

それって普段のお姉ちゃんは子どもっぽいってこと?でも、お姉ちゃんはそういうところがかわいいのに。

「じーーーーっ。」

紬さんがジト目で私を見ている。な、なんだろう?

「どうしたの、ムギちゃん?」

「今日の唯ちゃん、いつもと違うわね。口の周りにパンくずがついてないわ。」

し、しまった。そこまで気が回らなかった。ってことは、私に変装しているお姉ちゃんも逆のところでつっこまれてるかも。

「は~い。みんな席について~。ホームルームを始めるわよ。」

先生が入ってきたので、紬さんの追及はお流れになった。ふう、危なかった。






~唯side~

「おはよう、憂。」

「おはよう、あ~ず~さちゃん。」

危ない危ない。教室に入ってすぐ、あずにゃんを見て抱きつきたかったけど、今はできないんだ。ごめんね、あずにゃん。

「ここ、パンくずがついてるよ?」

あずにゃんにほっぺを指差された。

「えっ?本当?全然気づかなかった。」

私はティッシュで口を拭った。いつもの調子で朝ごはん食べてきたから、ついちゃったみたい。

「どうしたの?今日は朝から唯先輩みたいだね。」

それはあれですか。子どもっぽいってことですかい、あずにゃん。

「憂~、梓~、おはよう。」

「「おはよう。」」

純ちゃんが教室に入ってきて挨拶。あずにゃんも純ちゃんも全然私の正体に気づいてない。私と憂の変装は完璧だね。

「一時間目の古文なんだけどさ、私当てられてるるんだけど、ちょっと訳し方が分からない部分があって。憂、ちょっとノート見せて。」

「別にいいよ。」

私はカバンから憂の古文のノートを取り出した。憂が、今日は私は宿題当てられていないけど、純ちゃんに聞かれたらこのページを見せてあげて、って言ってた。

「さすがは私の友。頼りがいがありますなあ。」

「ほんと、純は相変わらずだね。」

そんなこんなのうちに担任の先生がやってきたので席についた。さあ、今日の私は平沢憂。今日も一日がんばるぞ!



続く



[21501] 一時間目!
Name: アルファルファ◆6c55af9b ID:2de55f33
Date: 2010/08/29 14:58

一時間目は政治経済。今日は国会の機能についての講義。空欄のあるプリントを渡され、先生の話を聞きながらキーワードを埋めていく。

「(三年生ってこういう事を勉強してるんだ。すごいな。)」

教科書の他のページを見てみると、各国の政治制度や経済用語がたくさん乗っている。そういえば、お姉ちゃんって志望校決まってないけど、受験する時に政経は取るのかな?

「では、説明はここまでにして、プリントの4ページに載せている演習問題を解いてみましょう。3問ありますが、5分くらいあればいいでしょう。でははじめ!」

この先生の演習問題は基礎的な用語確認のレベル・参考書の一般的な問題レベル・授業を聞いただけでは分からない難問レベルを混ぜる傾向にある。

「(私もやったことない問題だけど、お姉ちゃんのために頑張って解かなくちゃ!)」



第一問・国会の常会は何回まで延長できるか述べなさい。

第二問・憲法上衆議院が参議院に優越する事項について三つあげなさい。

第三問・国会中心立法の原則の例外について述べなさい。



一問目と二問目については先生の話を聞いていたし、簡単に分かる。三問目は・・・なんだったかな?

「はい、ではそろそろ答え合わせしてみましょう。いつものように当てられた人は答えてください。」

この先生はランダムで生徒に答えさせる。正解するか不正解するかは成績に関係ないけど、でもやっぱり間違えるとかっこ悪い。

「では一問目。近田さん、答えてください。」

律さんの隣の席の人が当てられた。ちなみに、クラスの人達の顔と名前は事前にお姉ちゃんに聞いてるので、すぐに分かる。

「常会の延長は一回のみです。」

「はい、正解です。説明はいいですね。では、二問目。佐々木さん、答えてください。」

佐々木さんは廊下側の列の一番後ろの人。自分のプリントの答えを読み上げた。

「法律案の議決、予算の議決、内閣総理大臣の指名です。」

「はい、そのとおりです。他には条約案についての可否についても衆議院に優越権がありますね。では、三問目。」

先生は誰を当てようか少し考えている。ちらりと私たちを見て、最初に目が合った人に当てた。

「それでは島さん、分かりますか?」

「すみません、分かりません。」

その後も何人か当ててみたが、誰も答えられない。この先生、性格は温厚だけど、こうやって生徒を試すところがあるのが恐ろしい。

「じゃあ、秋山さん、どうですか?」

クラスで一番成績がいい澪さんに白羽の矢が。でも、澪さんも浮かない顔をしている。

「間違えていたらすみません。地方特別法だと思います。」

「おや、それは国会単独立法の例外ですね。それを知っているのは勉強しているんでしょうが、この問題では不正解です。」

周りから秋山さんが間違えるなんて、という声が聞こえてくる。

「では、他に分かる人は?いなければ、難関大学レベルの問題ですから私が解説を・・・。」

「はい!」

私は無意識のうちに手を上げていた。答えには自信がある。

「えっ!?ひ、平沢さん!?で、では、どうぞ。」

先生が驚いているけど、私に発言の機会が与えられた。私は立ち上がって自分の答えを読み上げた。

「国会の議決を必要とせずに法として扱われるものです。両院の規則制定権、最高裁の規則制定権、内閣の政令制定権や地方公共団体の条例制定権があります。」

「せ、正解です。よくできましたね。座っていいですよ。」

平沢さんすごい、という賛辞が漏れ聞こえてくる。まずかったかな、こんなに目立っちゃうのは。その後も先生の説明は続いていき、終了のチャイムが鳴った。

「はい、では今日はここまでにします。次回は次の単元に入りますので、教科書をよく読んできてください。」



「唯、よく分かったな。私も全然分からなかったのに。」

「私も全然分からなかったから、驚いちゃった。唯ちゃんもよく勉強してるのね。」

「あたしなんて、一問目と二問目だけ解いてあとはぼけっとしてたけどな。」

澪さんと紬さんと律さんが私の机にやってきて褒めてくれる。手放しで喜びたいけど、その褒め言葉が今日はなんだか心苦しい。

「いや~、たまたまだよ~。」

「たまたま解けるレベルの問題じゃないわよ、唯。」

ごまかそうとする私だったけど、和ちゃんのツッコミが入った。

「あ、分かった。憂ちゃんに教えてもらってたんだろ?」

「えっ?あ、う、うん。そのとおりだよ、りっちゃん。」

律さんの答えがドンピシャで当たっていることに私は戦慄を覚えた。そうだ、お姉ちゃん、ちゃんとやってるかなあ。





~唯Side~

一時間目は古文。担当はさわちゃんが学生時代の頃からここで教師をしている堀込先生。結構ハイペースで授業を進めていって、本当に迷惑な先生。私のことよく怒るし。

「今日は伊勢物語の前回からの続きだ。最初に音読をしておくか。」

先生はすごいな。こんな分かりにくい文章をスラスラ読んでいく。私なんて三行読んだら眠れる自信がある。

「では、前回に出題をしておいた箇所の答え合わせをしよう。鈴木と関本に当てておいたな。黒板に答えを書きなさい。」

純ちゃんは先生に気付かれないように私にウインク。頑張って、純ちゃん!

「この在原業平の句には序詞と折句が技法として使われているが~」

答え合わせをしたあと、授業が続いていく。廊下側の席のあずにゃんは先生が板書する内容をノートに写している。偉いなあ、あずにゃん。真面目に授業を受けてて。

「(あれ、瞼が重くなってきた。)」

先生の話が催眠魔法のように私の脳に響いてくる。起きなくちゃ、起きなくちゃ、起きなく、ちゃ。ぐぅ・・・・。

「(パコン)」

先生に教科書で叩かれた。いつもの事だけど、結構痛い。

「どうした、平沢。寝不足か?」

「ペンギンさん!?」

夢のなかで出ていたペンギンさんの名前をつい口にしちゃった。

「誰がペンギンさんだ。南極にいく夢でも見てたのか?」

先生、鋭い。クラス一同が笑いに包まれた。ごめんよ、憂。お姉ちゃん、憂に恥をかかせちゃった。

「全く。姉みたいなボケはいらんから、授業に集中しろ。」

先生、ひどい。私ってそういう風に先生から見られていたんだ。



「どうしたの、憂?授業中に居眠りなんて憂らしくないね。」

「いや~、昨日はちょっと寝不足で。」

憂が寝不足なのは事実なんだけど。私のせいで。

「また唯先輩のせい?今度は何?」

「そんなたいしたことじゃないよ、梓ちゃん。」

これ以上話したら、私と憂の秘密がばれちゃう。私が本当は唯ってばれたらあずにゃんや純ちゃんにも迷惑がかかるし。

「次の時間音楽だよ。早く音楽室に行かなくちゃ。」

私はあずにゃんを連れて音楽室へ歩いていった。



続く



[21501] 二時間目!
Name: アルファルファ◆6c55af9b ID:2de55f33
Date: 2010/08/30 17:29

二時間目はリーディング。うわっ、あの女の先生か。嫌味な性格で少しでも訳が間違ってるとネチネチ言ってくる正直あまり好きじゃない人。お姉ちゃん、苦労してるんだな。

「(お姉ちゃん、ちゃんとノートくらい書かないと。なんて書いてあるのか分かんないよ。)」

とりあえず先生が音読している間にお姉ちゃんがノートに書いている内容を解読して、一読で訳文を作らなくちゃ。

「はい、ここまで。どこまで当てていたかしら?ああ、そうそう、今日は瀧さんからだったわね。じゃあ、一段落ずつ訳していって。」

最初の一文を訳したところでそこの解釈は違う、とか、用法の使い方が間違っている、とか言われている。自分の考える訳と違うとこれなんだよね。一年生の時、私もよく怒られたなあ。

「はい、次は佐藤さん。」

佐藤さん、立花さんと順番が回ってくる。あれ、ってことは次って私!?ど、どうしよう。

「はい、次は平沢さん。」

もうこうなったら破れかぶれ!当たって砕けろの精神!

「コホン・・・これは勢い、同じ生活圏にあるものの間には、大体に共通の考えが成立する所以でもあろう・・・・。」

先生も他のクラスメイトも私の方を見てじっと聞き入っている。あれ?どこか大きなミスしちゃったかのかな。最後まで読み終えると、先生がツカツカと歩み寄ってくる。

「平沢さん、熱はないわね。いえ、ごめんなさい。続けていきましょう。」

先生は私のおでこに手を当てて、訝しみながらも、私の訳を訂正しながら授業を続けていく。お姉ちゃん、信用ないんだ。悲しいよ。



「唯、今日はどうしたの?なんか、唯らしくないっていうか、珍しくちゃんと予習してるのね。」

「そんなことないよ、和ちゃん。私だってちゃんと勉強するよ。」

「いつもそうしてくれるとありがたいんだけど。」

リーディングの次の授業は体育のため、私たちは更衣室で体育着に着替えていた。

「ねえ、唯。こんなことを聞くとあれだけど、随分胸が成長してるのね。」

和ちゃん、鋭い。体育の間はブラをきついままにしてたらまともに動けないからゆるめている。なんとかごまかさないと。

「えへへ、そうかな。そのうち、和ちゃんを抜かしちゃうかもしれないよ。」

「別に私は競争してるわけじゃないからいいけど。」

「なんだ、つまんないの。せっかく大きくなって自慢しようと思ってたのに。」

よし、お姉ちゃんが普段言いそうな感じでまとめられたかも。早くこの話から離れて体育館に無事に向かわないと。でも、その前に障害が。

「おい、唯。お前だけ大きくなってずるいぞ。あたしを置いてけぼりにするな!」

律さんが来た。これ以上この話が発展するとまずい。私は素早く体育着の上を着てから律さんに言った。

「りっちゃんも牛乳いっぱい飲んで胸を大きくすればいいんだよ。私みたいに。」

「うおおおっ!!ちょっと自分のほうが大きくなったからってなんだその上から目線は!!余裕かましてんじゃねえ!!」

ごめんなさい、律さん。本当にごめんなさい。私だってこんなこと言いたくはないんです。私はそそくさと更衣室を出て体育館に向かった。





~唯Side~

「はい、今日は課題曲の『翼をください』を歌詞の抑揚に注意しながらやっていきたいと思います。」

音楽室でさわちゃんの話を聞くのはなんか懐かしい。三年生には芸術選択の授業がないから、こうして音楽の授業を受けるのも久しぶりだな。

「では、説明はこれくらいにして、ソプラノとアルトに分けて練習開始。」

憂はどっちパートなんだろ?聞くの忘れた。

「ほら、何してるの、憂。行くよ。」

「えっ?う、うん。」

憂はあずにゃんと同じでソプラノらしい。純ちゃんはアルトで別のグループ。

「さわ子先生って歌上手いよね~。」

「美人だしお淑やかで優しいし、すごいよね~。」

他の子達がもしさわちゃんの過去を知ってしまったらどう思うんだろう?やっぱり幻滅するのかな?

「ソプラノはこの大空にのサビの部分で最初に息を吸いすぎて音程がブレないように注意してね。」

軽音部で練習してるからそれくらい余裕余裕。歌だけだったら憂よりうまいもんね。

「今~私の~。」

歌って楽しいな。軽音だと楽器をやってるけど、歌うのだって楽しい。憂は後一年こうやって音楽の時間に精一杯歌えるんだから羨ましいな。私はもう三年生だから授業で歌えないし。

「(あの発声の仕方、唯ちゃんに似てるわね。でも、私のおっぱいセンサーに狂いはないはずだし、気のせいかしら?)」

「どうしたんですか、先生?」

「い、いえ。『悲しみのない』の部分は、もっとちゃんと『か』の音を出してね。」

「はい!」

卒業する前に音楽の授業をもう一度受けられただけでも満足だよ。もう思い残すことはありません。って、あと二時間授業が残ってるけど。



「今日の憂はいつもより上手に歌えてたよね。唯先輩みたいに綺麗だったよ。」

あずにゃんが私のことを褒めてくれてる!いやー、照れるな~。

「コホン、梓ちゃんはうちのお姉ちゃんの音楽の才能ってどう思ってる?」

「そうだね~。素質だったら私なんかよりずっとすごいものがあると思うよ。」

「そ、そう?」

「ただ、ちゃんと練習しないからあんまり上達しないけどね。」

これからはちょっと真面目に練習しようかな?



続く



[21501] 三時間目!
Name: アルファルファ◆6c55af9b ID:2de55f33
Date: 2010/09/01 17:12
三時間目の体育はバレーボール。ネット設営、ボール出しなどをみんなで行う。

「はい、それでは今日は第一試合はAチームとCチーム、BチームとDチーム、審判はEチームとFチームで行います。」

準備運動後の説明で、そのように言われた。第二試合はBとE、DとF、審判はAとC。私はCチームらしい。

「今日も頑張ろう!」

えっと、お姉ちゃんのいるCチームで一緒のメンバーは、木下さん、佐伯さん、高橋さん、立花さん、中島さん。

「おおっ!!」

お姉ちゃんってバレーの成績ってどうなんだろう?などと考えていると中島さんにポンと肩を叩かれた。

「唯の今日の目標はサービスをひとつ決めること。いいね?」

お姉ちゃん、サービスくらいちゃんと決めようよ。今日帰ったら教えてあげなくちゃ。



他のメンバーが私をお姉ちゃんだと思ってかばってくれるので、結構楽。Aチーム11対Cチーム9のビハインドの状況で私にローテーションが回ってきた。

「(ジャンプサーブをしたら不自然だし、ここはアンダーハンドで行こう。)」

右手でタイミングを合わせて・・・・打つ!

「ピッ!Cチーム!」

審判のホイッスルが鳴った。アンダーハンドで放ったボールは相手チームのコートの一番後ろのラインギリギリに決まった。

「唯、やればできるじゃん!」

「もう一発お願い!」

もう一発くらい成功させても大丈夫かな?なら、今度は前へ打とう。狙いは・・・左前方の紬さん。よ~く狙って打つ!

「こっち来た!」

紬さんがネットギリギリに飛ぶボールを打ち返したがネットに当たって落下。

「ピッ!Cチーム!」

「唯ちゃん、恐ろしい子。私が力負けするなんて・・・。」

その後はわざとふらふらとするサーブを打ってごまかした。で、そんなこんなで試合はもつれ・・・。

「ピッ!Cチーム!」

Cチームは28点目。Aチーム27点だからここで追加点を取れば勝利だけど、点を取り返されたら試合続行。なんとしても勝利点を・・・。

「うわっ!」

高橋さんがレシーブしたボールを木下さんがトスミス。私の方にボールが・・・。私は勝手に体が動いて・・・。

「行っけえええっ!!」

私は思いっきりジャンプして背中をそらしてその勢いでアタック。うん、うまくいった。ボールに力が加わって、私から見て左後方へ飛んだ。

「任せて!」

すぐに相手チームの選手が回りこんだ。えっと、バレー部の佐藤さんだっけ?その人の目の前でボールが変化してストンと落ちた。

「なっ!?変化球!?」

佐藤さんは驚いた表情。し、しまった。つい本気を出しちゃった。お姉ちゃんは運動が苦手だから、こんなことしたら怪しまれる。

「こ、木の葉落とし!?」

「平沢さん、あんなすごい球を!」

私たちの試合を観戦している休憩中の先輩たちも驚いている。ど、どうしよう。こういう時お姉ちゃんならどうするんだろう。

「唯、すごいじゃない。あんなすごいサーブ、どうやって打ったの?」

他のチームメイトの手荒い祝福を受ける中、立花さんに聞かれた。

「この前漫画で読んで一回やってみたかったんだよ。」

「あはは、唯らしいわね。そんなことだろうと思ったわ。」

とりあえず今日の試合はこれでお終い。次の試合は私たちは審判役なので、もうコートの中に入らなくていい。あとは無難にこなし、体育の授業を終えた。





~唯Side~

今日は生物の実験。理科で憂と同じ選択をしている純ちゃんと特別教室に移動した。

「今日はタマネギの体細胞分裂の過程の観察実験を行ないます。机の上に各自必要な機材を既に用意していますので、黒板に書いた要領で行ってください。」

そして、分からない人は手を上げるように言ってから、先生は教室の中を見てまわる。

「(さて、と。まずはスライドグラスに玉ねぎを乗せて、染色体を1滴垂らして5分待つ、と。)」

「何やってるの、憂?」

「えっ?」

「それ、スライドグラスじゃなくてカバーグラスだよ?」

「あ、ああ、そうだよね、私も今そう思ってたとこ。」

いけないいけない。大きさが違うだけだから間違えちゃったよ。

「なんか、今日の憂って変だよね。お姉ちゃんみたい。」

「ひどいよ、純ちゃん!」

あずにゃんと同じ反応。とにかく、最初からやり直してそれを顕微鏡で観察。

「えっと、これが第一期で・・・・。」

教科書と照らし合わせて分裂段階ごとにスケッチしていく。へえ、生物の時間っておもしろいなあ。私は選択してなかったから、こういう立派な実験も初めて。

「はい、みなさん終わったようですね。では、下の欄に今日の感想を書いて提出した後に片付けをしてください。」

ふう、なんとか終わった。感想も憂が書きそうな真面目な内容にして提出。私だってやればできるんだから。

「イタッ!」

片付けをしていると、隣に座っている純ちゃんが悲鳴を上げた。

「どうしたの?」

「プレパラートのガラスの部分で指切っちゃった。油断してたよ。」

「大変!ちょっと待って!」

私は純ちゃんの右手の人差し指を手に取り、自分の口の中に含んだ。

「ちょっ、何やってるの!?」

「こうすると止まるって、隣のおばあちゃんが言ってた。」

「絆創膏!絆創膏!舐めてくれなくていいから!」

「もう、恥ずかしがり屋さんだね。はい、絆創膏。」

「最初からそうしてくれればいいのに。」

あれっ?他の女の子たちが私と純ちゃんを見てニヤニヤしてる?何かやってしまったのでしょうか、私?



続く


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