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[21582]  ようかんと黒髪少女 (※旧題「デスようかん」など ※ちょいエロ) 
Name: 猫田犬次郎◆d6c5414a HOME ID:235038a9
Date: 2010/09/01 14:50
   ほぼ即興小説(ベタ打ち。誤字は直します)

 タイトルを適当に「デスようかん」と決めて何も考えず書き出してみたらこんなんが出てきた。



   「ようかんと美少女」


    第一話 新世界の何か

 俺の名前は矢上右(やがみレフト)。ああそうだ、いろいろと間違っている。

 野球ファンである親父の野郎は「右」という漢字に「レフト」という読みを当てやがった。
 そりゃ正面スタンドでホームランボールをキャッチすることを夢見るあんたにはレフトは右側だろう。そこは否定しない。だがいくら教養がないとは言え、レフトの意味が「左」だと知っていて欲しかった。

 そもそも字面も悪い。「矢上」の「上」と「右」が並んでいるのだ。そのおかげで名前に意味を求めると「右上を差す矢印」みたくなって訳がわからん。おまけに読みの「レフト」がそこにカオスを与えるサタンの如き役割を果たす。

 だがそんな憎い親父はもういない。
 この矢上右(レフト)が消したのだ。あるモノを使って……



 それは大学からの帰り道でのことだった。駅から自宅までの道を歩いていると、電柱の影に贈答品らしき物が落ちていた。のし紙には高島屋と書いてあった。

 ――しめた!

 俺は迷わず飛びついた。大学では学食で飯を食う友人がいないため、昼食は取っていなかったのだ。図書館マイラブ。しかもその日は一限から夕方までずっと連続で授業だった。大学生であるが俺は授業が終われば当然のように誰とも話さず帰る。つまり、大学から家に帰るまでの時間がもっとも空腹の時間帯なのだ。家に帰ればすぐ何か食えるが、俺は我慢できなかった。

 贈答品は小ぶりの箱だったが重く、期待させた。ジュース系ならそこそこカロリーがあり、当分のエネルギー源とすることが出来る。そう言った飲み物であることが今までの経験では最も多かった。しかし、ビールジョッキである可能性もある。可能性は高くないが、ガッカリ度は凄まじい。


 俺は恐る恐る開けてみた。ようかんだった。
 可もなく不可もなくといったところだ。俺は悩んだ。

 ――食うべきか、食わざるべきか。それが問題だ。

 しかし拾い物を食うことへの抵抗だってほんの少しはある。ようかん程度を拾い食いしているところを数少ない知り合いに見られたら少しプライドに傷が付く。
 やはりやめとこう。俺はそう思い、一人暮らしの自宅に帰った。


 ところが自宅には食い物がなかった。そうだった昨日は最後の稗(ひえ)を食って、残っていた粟(あわ)も朝に食べてしまったのだ。
 そういった生かさず殺さずの食料は全て親から送られてくるが、これでは餓死してしまう!
 今晩にでも電話して仕送りは稗と粟でなく現金にしてくれるように頼もう。俺は決めた。


 そうなってくると俄然記憶の中のようかんが輝きだした。
 一切れ二切れならともかく、かぶりつけばようかんはかなり高カロリー食品なのだ。
 ひもじい貧民状態の俺に迷いはなかった。
 プライド? そんなもの最初からないさ!

 ――食わねば!

 俺は家を飛び出して走った。来た道を戻り、必死に探した。
 向かいのホーム。路地裏の窓。こんなことにあるはずもないのに!
 そりゃそうである。さっきと同じ電柱の影にあったのだ。
 俺は箱を抱えると、すぐには開けなかった。
 その手に伝わる重みが、さっきとは違って感じられた。

「俺、気付いたよ……ようかんのことが大好きなんだ」

 俺は無意識のうちにご都合主義の恋愛小説の台詞みたいな言い訳をようかんにしていた。拾わなかったのに罪悪感を感じてしまっていたのだ。

「ぎゅっとして……」

 ようかんがそう言った気がした。いや、それはさすがに大袈裟だ。俺の人格が疑われてしまうと困るので、そんな妄想をした、程度の表現にしておこう。
 だが俺は間違いなくぎゅっとしてやったさ。それにより、箱と手とのグリップ感が高まり、更なる高速走行を可能にした。かもしれない。

 家に着くと、無駄に全力で走ったせいでやたらと疲れていた。水分補給が必要だ。
 そこで冷蔵庫の「お~いお茶」あたりを飲むのは初心者の貧民だ。
 水道水? それは中級だ。
 上級者の俺に迷いはない。すぐさまサンダルを突っかけ外に出て、アパートの大家がたまに掃除する時くらいしか使わない外にある蛇口で水をがぶ飲みした。

「ありがてぇ! ありがてぇ!」

 おっと口癖が出てしまった。
 室内に戻り気を取り直して俺はようかんの箱と向き合った。
 鼓動の高鳴りを感じた。

 ――ティッシュ、用意しなきゃ。

 得体の知れない周到さが働き始める。

 ――窓、閉めなきゃな。

 今日の俺は気が聞くな。

 ――さて、電気を……

 おかしいぞ! ようかんってなんだっけ!
 俺はてっきり冷静が故の気配りだと思ったが、完全に錯乱しているではないか。
 一体俺は何をしようとしていたのか……
 落ち着け、落ち着け俺!

 もう一度気を取り直してようかんの箱を開けた。
 中には立派な包み紙にくるまれた四角い物体。
 尋常じゃないオーラを放っている。っていうかさっき見たのと何か違う。さっきは透明なビニールに包まれたようかんだったが、今は包み紙の中が見えない。
 つまり、中にあるのは謎の直方体である。
 その包み紙にはこう書いてあった。

 ――「デスようかん」

「結局ようかんかよ!」

 つい突っ込んでしまったが、ようかんとは限らない。
 警戒しながら包み紙を開いてみると、やっぱりようかんだった。
 黒々としたその姿は密度が高そうで、何とも旨そうだった。
 だが包みをよく見ると裏側に何か書いてあった。

 ――このようかんに名前を書かれると死ぬ。
 ――ようかんにコマンドを入力するといろいろ出来る。
 ――説明はその都度コマンドで聞けよクズ!

 怪しげなアイテムである。だが私は中学生ではないので「そうか、ならばこれを使って嫌いな奴を殺してやる!」などと素直な反応をすることはない。そんな厨二病はとっくに卒業している。
 私は大学生だ。もう大人だ。物語的には冷めた反応だろうが、思うのはこうだ。

「そうか、ならばこれを使ってなんとかして『美少女だけど男性経験がなくてなぜか俺とだけ仲良くなる子』を見つけてイチャイチャ出来ないものか!」

 この一択である。
 説明文を信じるか信じないかは問題ではない。俺は何にでもすがりつきたいのだ! こんなアホアイテムにも期待しちゃうのだ!

 という訳で、本当かどうかを確かめるためにも、真っ先に一番嫌いな奴の名前を書いてみた。

 ――俺の親父である。

 書く、といってもボールペンでかける材質ではなかった。
 付属の楊枝で書くしかなかろう。

 とりあえず楊枝をようかんに軽く刺してみた。すると、ぶうんといういかにも起動音っぽい音がしてようかんが一瞬光った。

「何なのこれ!」

 しかもその後メッセージが浮かび上がった。黒字で。

「見にくっ!」

 わざわざ電気の光を反射させながら読むとこう書いてあった。

 ――ようこそ。ログインしてください。

 何だかこのようかんはXPっぽいインターフェースらしい。
 よく見るとその下には「指紋」と書いてある正方形の欄があった。恐らくそこに親指を当てると入力できるのだろう。
 もうここまで来ると指紋認証では驚かない自分がいた。むしろようかんなら番号入力より指紋認証のほうが合理的だしここに突っ込みどころはないな、と思いかけていた。
 指紋を入力するとまたメッセージが現れた。

 ――こんにちはマスター! 初期設定をしてください。

 面倒なのでその下に表示された「スキップ」をタップした。ついiPhoneみたいな使い方をしたが普通にそれで動いた。
 感圧式か静電式か気になるところだが、俺にはそれよりもやるべきことがあった。

 そう文字色を変えるのだ。

 たぶん超高性能なコマンド式だろうから、「もじ」とようかんの表面をなぞった。
 するとすぐに文字関連のメニューが出てきたので、白に設定した。これで大部使い勝手のいい、本来のようかんに近づいたはずだ。

 そこで俺はようやくこのようかんの力を試すことにした。もはやこのようかんなら人一人殺すくらい出来そうな気もするが、人の命より美少女のほうが大事なので、美少女出現の試みはあらかたチェックしてからである。
 俺はコマンドを入力した。たぶんカタカナで「デス」だろうと思ったが、案の定、それでよかった。
 「名前」と出てきたので今度はこの俺に矢上右(レフト)という名を付けた親父の名前を入力した。

 ――「矢上三死朗」

 「やがみさんしろう」ではない。「やがみアウトロー」である。祖父も野球が好きでイカレたネーミングセンスなのだ。
 「三死」じゃチェンジだとか「アウトロー」が微妙にピッチングコースの意味合いを持ってしまっていることなど突っ込みどころが満載である。
 ここまで来ると俺もさらに上を行くシュールな名前を子供に付けなければならないような気もするが、俺とまだ見ぬ美少女との大切な子供にそんな残酷な真似は出来ない。ああ、あと当分は子供作らずにイチャイチャしたい。

 親父の名前を入力すると、次に「死因」と表示された。
 面倒なので「なんとなく」と入力した。文豪でもないしそんな曖昧な理由で死ぬことはないだろうが、どうなるか試してみたかった。

 するとすぐに携帯に電話がかかってきた。母親だった。
 話によると親父は昼ごろに自殺していたのを発見されたらしい。遺書には「孫の名前が思いつかないのでなんとなく死ぬ」と書いてあったらしい。
 俺はそれを聞いて戦慄した。親父の死は問題じゃない。アル中で先は長くないだろうし、実家暮らしの妹をたまに殴るので常々殺したいと思っていた。最初から躊躇もなかった。
 問題はすぐに電話がかかってきたことだ。

 ――このようかんは近い過去なら変えられる!

 この出来事はそんな事実を示しているのだ。

 ――このようかんなら……

 俺は期待せざるを得ない。美少女を……
 そうだこの話はコメディーなのだ。しかもラブコメになったらいいなと思う話なのだ。
 だが、書き直しはせず、即興的に書くのを目的としているので、親父の死はなかったことにも出来ない。ここまで書き進んでしまったらどうしようもない。
 だから読者は忘れて欲しい。親父のことを。
 そう、この話は美少女の話になるはずなんだ! ……続く。

 読み返してみたら最初に親父を殺すことを俺は言っていたではないか。忘れていた。そうかこれは既定のシナリオだったのか。しかし即興作品なので「忘れて欲しい」などと口走ったことも取り消しは出来ない。なんということだ、ここに来て作品が破綻し始めた!
 くそ、眠くて錯乱しているぞ俺は!
 次こそは、次こそは美少女との話を紡いで見せるぞ! ……続く!



[21582] 第二話 死神でない何か
Name: 猫田犬次郎◆d6c5414a ID:235038a9
Date: 2010/08/31 18:09
   ほぼ即興小説「デスようかん」


    前回までのあらすじ

 俺の名前は矢上右(レフト)。ああそうだ、名前の時点でカオスを宿命付けられている。
 そんな名前を付けた親父を俺は憎んでいた。しかし、もう憎しみは消えた。なぜなら親父ごと消してしまったのだからな! へっ!

 そのために用いたのがこれ、「デスようかん」。
 なにやら恐ろしい力を秘めているのだ。
 もしかしたらガンツの黒い球よりも高性能であるかもしれない。
 だからこのようかんを使い、俺は美少女との物語を紡ぐことにしたのだった……






   第二話 死神でない何か


 あんなに美少女美少女と言っていたが、まぁ、親父の葬式が先だ。
 そのまま何日が実家に滞在したのち、俺は一人暮らしの自宅へ帰ることにした。
 帰り道、ちょっとして有名人を見かけた。名前は「鏑木潤(かぶらきじゅん)」。何回かテレビに出たことのある弁護士だ。
 なぜ数回のテレビ出演で、しかも弁護士なんかを知っているのかと言うと、彼はネットで有名だからだ。
 彼はとある番組で、訳があって盗みを働いた小さな女の子が有罪か無罪か、それを弁護士としての立場から判定する場面でこう言った。

「吸い付きたいほどに無罪!」

 大した台詞ではない。しかし、「吸い付きたいほどに」というフレーズが「無罪」の響きとともに少女の無垢な感じを最大限に引き立て、「かわいいは正義」にも近い正当性を持ったような印象を視聴者に与えたのだ。
 テレビでそれが話題になることがなかったが、ネットでは流行った。いわゆる「ネットミーム」として伝播し、初音ミクも「吸い付きたいほどに無罪」という歌を歌っている。

 そんなタイムリーな男が目の前にいた。女性の服らしき物を持っている。
 第一印象は「オーラがすごい」であった。
 まるで俳優を目にしたような印象だが、実際にそう思った。

 しかし、その次に感じたのは――恐怖。
 オーラは俳優のそれと違ったのだ。
 例えるなら何であろうか。野生動物に遭遇した感じだろうか。それとも幽霊に遭遇した感じだろうか。
 だが人間こういうときは卑近な例を思いつくもので、「ああガンツで敵と遭遇したシーンを読んだ時の感じだ」と俺は思った。

「君、見たのかい?」

 何をだ。そう思ってから俺は気が付いた。

 ――奴の口に血のようなものが付いている!

 ――そして手に持っていたのは女性の服を纏った人間の皮のようなものだ!

 この異様な緊張感により、それが最悪のパターンであることがすぐにわかった。

 ――この男は女性を吸った!

 これしかない。

「い、いえ、見てません」

 俺は気付いていない振りをして否定するが、言い方が悪かったのかもしれない。

「ちょっと、こっちは来てくれるかな?」

 そう言って鏑木は路地裏を指した。
 俺も殺される!
 そう思った俺は即座に身を翻して走り出した。
 だが、その先に鏑木が着地した。恐ろしい跳躍力だった。

 ――これが弁護士というものかッ!

「きみ、やっぱり見たよね?」

 どうやら逃げられそうもない。
 だから俺は他の打開策を考えた。

 ……こいつは弁護士だ。話せばわかるかもしれないッ!

 半ばパニックに陥っていた俺は大胆すぎる作戦に出た。

「お前……その人吸ったんだろ?」

 血迷って攻めに転じたのだ。

「何を言ってるんだ君は……」

「隠したって無駄だぜ?」

 二人の間に緊張が走る。鏑木が今のところ攻撃をしてこないので、俺の作戦は悪くなかったのかもしれない。

「きみは何者なんだ」

 俺の態度から只者ではないと思われたらしい。今はその誤解を最大限に活かそうと考えた。

「当ててごらんよ」

 余裕そうに笑ってみた。膝も笑っているが、バレてはいない。

「最近話題のラッコ11号か?」

 ラッコ11号……最近話題になっている異形のラッコ人間だ。
 その名前を出すということはこいつも異形の化け物かもしれない。

「違うね」

 唇の端をくいっと上げてみる。不気味な笑みに見えたかもしれないが、うまく笑えないだけだ。

「……奈良の3怪人のうちの一人か?」

 何だか知らない単語が出てきた。ここははぐらかそう。

「違うが……惜しいところまではきているね」

 そう言って鼻で笑った。豪快に笑って強さをアピールしようとしたのに、アウトプットしてみるとその程度だった自分が情けない。
 しかし、鏑木には効果があったみたいだ。

「まさか、鳥人(とりじん)がバックについているのか!」

 奴は明らかにびびっていた。行けるかもしれない、と思った俺は勝負に出た。

「ふん。だったら何だって言うんだ」

 自信満々に言ってやった。

「今すぐに殺す!」

 えええええ!? やばい、逆効果だった。
 奴がすぐ突っ込んでくると思ったので、俺は奴の動きも確認せず横に大きく飛んだ。すると思った通りで、奴の突進をかわせた。
 奴は俺を尋常じゃない反射神経を持つ者だと思ったらしく、警戒をして距離をとっていた。
 俺は考えた。打開策を考えた。

 ――そうだ! ようかんがある!

 そう思って胸元を探った。

 ――ようかんなんか持ち歩いてない!

 そうだった。家に置きっぱなしだった。
 気付いたときには奴は再びの突進を始めていた。
 咄嗟に避けるが、体に衝撃が走った。
 くるくると回転しながら宙を舞う自分の左腕を見てから、何をされたのかを知った。
 肩のすぐ先からがごっそりなくなり、そこから大量の血が流れ出して意識が遠くなる。
 しかし足にぐっと力を込めて踏ん張った。
 その時俺を支配したのは恐怖ではない。
 憎しみでもない。
 「生きたい」という意志だ。
 なぜなら、

 ――まだ美少女とイチャイチャしてない!

 これほど力が漲る理由もない。

「なんだ、人間じゃないか」

 奴はほっとして肩の力を抜いた。
 その隙を俺は逃さなかった。

「うおおおおおお!」

 気合とともに俺は全力で突進した。驚いてあとずさる奴の首を俺は右ひじで突き、その勢いで建物の壁に押し付けた。
 感触から首の骨が折れる音がした。奴は全身の力が抜けたように、どさりと倒れた。

「はぁ……はぁ……」

 俺は安堵したが、出血が多すぎる。助かりそうな気がしなかった。

 ――バリッ!

 何かが避ける音がした。足元を見ると、奴の背中が服ごと裂けていた。
 中からは一回り小さい何かが出てきた。

「きみのせいで乗り物が動かなくなっちゃったじゃないか……」

 さっきとは違う甲高い声でそう言って中から出てきた何かは俺の前に立った。
 それは人間より一回り小さく、青に灰色が混ざったようなくすんだ肌の色。背中からは背骨に沿って無数の棘が飛び出ている。
 そして黒目しかない釣りあがった目が俺を捉えた。
 見たことがある……チュパカブラだ!

「お前……チュパカブラだったのか……」

 意識は既に遠のき始め、全身の感覚もほとんどなかった。

「きみ、知ってたんじゃないのか。なんだ、吸い付きたいほどに無罪じゃないか。はっはっは!」

 チュパカブラが気持ち悪い声で笑う。

「よくよく見ればきみ、旨そうだなぁ」

 恐るべき素早さで飛び跳ね、チュパカブラは俺の肩口に飛びついた。どうやら俺はそこから吸われているようだった。

「うん、旨い旨い!」

 急速に薄れ行く意識の中で、俺は、最後の攻めに出ることにした。

「なまえ……おしえてくれ……
 ……おれは……やがみ……れふと……」

「名前? 決まった名前はないし、名乗っているのは『鏑木潤』だが……強いて言えば『チュパカブラ潤』だな」

「……じ……じを……」

「字か? カタカナで『チュパカブラ』に、『名倉潤』の『潤』だ。いい名前だろ?」

「ああ……ありがと……」

 何とか名前を聞けた。もし命が助かったのなら、デスようかんで絶対に殺す。
 そう思った直後、自分が絶命するの感じた。体は少しも動かない。
 だが不思議と意識は鮮明になった。

「うまうま」

 自分を吸い続けるチュパカブラ潤もはっきりと見えた。
 すると驚いたことに足元から自分の足が消え始めた。

「うおっ何だこれ!? きみ、やっぱり異形の者か!」

 チュパカブラ潤も驚いたようで即座に飛びのいた。

「に、逃げるのか! 絶対に探し出してやるからな!」

 恐ろしい形相で睨んでくる。
 その間にも俺の体は消え続ける。
 ついには胴体まで消え始めたが、下半身の感覚がないという訳ではない。どこかに立っている感覚があった。なぜかなくなったはずの左手の感覚もあった。
 不覚にもまた「ガンツみたいだな」と思ってしまった。
 ついに目まで達したところで、俺が見たのは自分の部屋だった。そして目の前にあるのは机に置きっ放しのデスようかん。
 ここで「マジでガンツじゃねぇか!」と突っ込むべきだろうが、俺は生き延びたことと部屋に帰れたことの感慨で胸がいっぱいだった。
 左手を触ってみて元通りになっているのを確認し、自分の手をじっと見つめたら涙が滲み始めた。
 俺は膝をつくと、情けなく泣いた。

 ――生きてて良かった!

 すると横から声がした。

「きみ、1機死んだんだよー?」

 振り向くとそこには、小柄で長い黒髪の――美少女。



[21582] 第三話 ようかんでない何か
Name: 猫田犬次郎◆d6c5414a ID:235038a9
Date: 2010/08/31 01:37
  <前回までのあらすじ>


 よくわからないまま異星人と戦うことになった矢上レフト。
 死んだはずなのに何故か黒いアレの前に転送されてびっくり。
 そして次第に頭角を現し始めるクロノ。
 襲撃してくる文明の進んだ巨大な異星人。
 異星人の残した宇宙船を利用して戦う人類。
 戦場で歌いだすリン・ミンメイ。

 ――超時空要塞マクロス!




   第三話 ようかんでない何か


「きみ、1機死んだんだよー?」

 振り向くとそこに一人の少女がいた。黒いシャツに黒いスカート、そして黒いニーソックスで全身黒。おまけにつやのある長い髪も黒だ。
 その髪には癖など全くなく、前髪以外は腰の辺りまでまっすぐに伸びている。かといってコシが強そうな感じではなく、柔らかそうな質感は見ているだけで胸の奥をくすぐるいい匂いを感じさせる。
 彼女の背は低く、その小柄な体型はタイトなシャツのおかげでよくわかった。
 下着などで整えたのではない、自然な形をした小ぶりな胸は丸みがあって色っぽく、くびれた腰の曲線がお尻のところでくいっと跳ね上がる様は完璧としか言えない。
 スカートの下に伸びる白い足は細いが、ニーソックスの上端部分が僅かに肌を沈ませ、十分な肉感を見せる。ちらりと覗く内腿は見る者にさらなる肉感を期待させつつ、その奥が見えないことでかえって無限の広がりを内包している。
 長い肢体の割に足は小さく、ソックスの上からでもわかる細やかな指が可愛らしい。ちょこんと出っ張ったくるぶしもそこにアクセントを加える。
 細い足首は一見弱さを表しているが、しっかりとしたアキレス腱を見ればガゼルの如きバネを予見せざるを得ない。
 腕も華奢な体に合ったもので、腰に当てた手の繊細な造形はそれだけでも一種の美術品的な美しさがある。
 顔の作りも当然一級品で、眉はきりっとしているがきつい印象はない。鼻もすっとして整っているがあまり高くはなく、それが整った顔を冷たい美ではなく少女然とした美に導く。
 唇はぷりっとしていて官能的弾力の片鱗が垣間見え、艶かしいつやが強く視線を誘う。しかしそれでいて唇に厚ぼったさはまったくない。
 頬にはうっすらと朱が差し、そこを中心に暖かい空気が広がっていくようだ。顎のラインはすっきりとしているが優しいカーブを描き、つい手を添えてみたいと思ってしまう。
 そして大きな目は長いまつげによって猫目にも見え、潤いのある黒い瞳で蠱惑的な視線を向ける。
 彼女は俺を試すような顔で、微笑んだ。

 ――あっ。射抜かれた。

 そこでようやく我に返った。
 思わず無心で観察してしまったが、間違いなく断言できる。

 ――美少女。

 いやむしろそうとしか言えない。いくら急に本気描写で書いてみても言葉は足りないのだ。
 しかし、言葉はこの一つで足りる。

 ――美少女。

 もし仮に古代ギリシャの哲学者たちが「イデア」というものの図鑑を作ったのなら、彼女はそこに載っていることだろう。
 見出しは当然、

 ――美少女。

 なぜだ。なぜか俺の思考は加速する。
 そのクロックアップの現象の中心は間違いなく目の前の、

 ――美少女。

 彼女の唇がゆっくりと動き始めた。それは何か別の生き物であるようにも見え、もしくはそれ自体が彼女の全てであるかのように感じ、俺は魅入られた。

「ねえ聞いてる? きみ、1機死んだんだからね」

「1機とはまた懐かしい表現を……」

 ゲームなんか久しくやっていないな……

「そんな暢気なこと言える状況じゃなかったんだから!」

 彼女は俺を責める目つきをしていた。彼女は睨んでいるつもりだろうし、俺も確かに睨まれている。
 だが、今思うのはこれだけ。

 ――かわいい。

 声にも出てしまう。

「かわいい……」

「な、何言ってんのよ、こんなときに!」

 何だか照れてるみたいだ。照れながら睨んでいる。本人は意識していないだろうが、これはかなりの攻撃力である。あーこれだけでも死ななくて良かったと思う。

「まったく、マスターのあなたが死んだら困るのよ!」

「マスター?」

 何だそれ。

「そうよ、契約したじゃない」

 そんな契約覚えがない。

「まさか……新手の詐欺師かッ!」

「違うわよ! ようかんにログインする時にも捺印したでしょ?」

「あー、指紋は入力したけどそんなこと――」

「書いてあったわよ? ちゃんと」

 どうせ黒字だろうな。やはり詐欺まがいだ。

「う~ん。で、それが何なの」

「あなたはデスようかん、通称〈ヨークX〉のマスターになったのよ」

 〈ヨークX〉? 「デスようかん」よりだいぶかっこよくなったな。

「ふむふむ。つまり、そのようかん、いやヨークXが俺を生き返らせたってこと?」

「だいたい正解ね。ちょうど1機獲得した後だったから良かったけど」

「獲得?」

「そうよ。ヨークXは奪った命を残機にできるの」

「親父の命か……それがマスターの特権ってことか」

「違うわ。それは私の特権」

「じゃあなんで俺が……」

 そう言うと彼女は少し頬を染めて俯いた。それもまた、かわいい。

「マ、マスターをモニターしてたら死にそうだったから……か、勝手に魂の契約をしたのよ……」

 魂の契約だと? そんな重そうな契約を勝手に……

「そのおかげであなたもヨークXが持つ残機を使えたの……」

「ん? きみと契約すると急にそんなことになるんだ?」

「私はそのときあなたの魂を買ったの。だからその対価として一生、し、しもべに……」

 しもべだと!? この美少女が! 良くわかんないけど売って良かった!

「へぇ、そんな能力を持っているのか」

 俺は主人らしく、余裕の態度を取ってみた。

「ええ。そういう機能もあるみたい」

「なるほどなるほど。要するに、俺の死にかけの魂を買ってくれて我がしもべとなったきみが、ヨークXを使って俺を生き返らせた。そういうことか」

「違うわ」

「えっ、違うの?」

 何だよ。ちょっとかっこわるいじゃないか。

「私がヨークXを使ったんじゃない……私がヨークXなの」

「なんだって!?」

 そんなことがあっていいのだろうか。これほどの美少女がようかんだとは。

「私もはっきりしたことは何もわからないの。気付いたら私は存在していた……過去の記憶もないし、自分が誰かもわからない。ただ、ヨークXと同一の存在であることだけがわかる。でも何が出来るかもその時になってからじゃないとわからなくて……」

 彼女は悲しそうに語る。彼女だって俺と同じように不条理に巻き込まれた一人だと思うと、守ってあげたいと思った。

「そうか……」

 名前を呼ぼうとしたが、ヨークXと呼んではいけない気がした。

「あのさ……何て呼んだらいい?」

「ばかっ。きみが初期設定で入力するはずだったんだからね!」

「そっか……ごめんごめん。じゃあ『テスト』。きみはテストだ」

 テスト。それは全ての始まり。

「テスト……私はテスト。あなたは?」

「そう言えば入力してなかたっな。俺は矢上レフト」

「レフト……」

「そうレフトだ。漢字は口で言うとややこしいからヨークXに入力するね」

 そう言って俺はデスようかんに自分の名前を書き始めた。

「だ、だめぇぇぇぇ!」 〈完〉



[21582] 第四話 忘れていた何か
Name: 猫田犬次郎◆d6c5414a ID:235038a9
Date: 2010/09/01 14:58
 もう全然即興じゃなくなってきた小説「ようかんと美少女」

 「デスようかん」のほうがインパクトあるかもしれないが、作品的には「ようかんと美少女」のほうがしっくりくる。


   <前回までのあらすじ>

 前回の第三話で完結してしまった。
 あれは即興がゆえの事故のようなものである。
 俺は「先も見えないしこれオチでいんじゃね?」という誘惑に負けてしまったのだ。

 ではなぜそんな気持ちになってしまったのかというと、書くのがつらくなってしまったからだ。俺は最初の美少女の描写で力を使い果たし、しかもその部分の文章のせいで作品の文体を見失っていた。
 俺は本来三人称で書くことが多いが、もっと軽薄な、一人称饒舌体を用いて冗長な語りをしたかった。そのほうが流行りだし食いつきもいい。三人称で真面目に書いた『ドラゴスクエスト』のほうはアルカディアにしては堅いのだ。
 しかしそれを忘れていた。美少女の美にとらわれ、それを描写しようとして語りの視点が客観的になってしまったのだ。そして軽薄なストーリーから軽薄で冗長な語りを取ったら軽薄な会話と軽薄なオチが残ったという訳だ。

 だがこのままでいいのか。
 曲がりなりにもオチがついたんだし、グダグダと続けるよりは潔く身を引いたほうがいいのではないか。
 そんな考えもアリだ。
 しかし、しかしだ! 一番重要なことを忘れていないか。

 ――まだ美少女とイチャイチャしていないのだ!

 終われない。ここで終われない。
 不純な動機というのは得てして強い動機となる。
 「不純」と言うのはつまりは欲望むき出しということであり、動機としてはそのほうが純粋でもある。
 そう、だから書くのだ。紡ぐのだ! 美少女との物語を!



   第四話 忘れていた何か


「だ、だめぇぇぇぇ!」

 美少女〈テスト〉が俺の手を押さえて止めた時にはもう遅かった。
 俺はしっかりと「矢上右」と書き終えていた。
 なぜテストがこんなに慌てているのかなかなか理解できず、俺はそんなことより手を握られていることにドキドキしていた。我がしもべに次はどこを握ってもらおうかなどと考えていたら益々胸が高鳴った。

「何してるの!? もう残機ないのに!」

 テストは俺の体をべたべたとさわり、手首で脈を確認し、首でも脈を確認し、ついには胸に耳を当て直接心臓の音を聞いた。
 俺はなんだかよくわからないうちに抱きつかれる格好になり、もうドッキドキであった。

 が、しかし、俺はそこで気付いた。

 ――デスようかんに名前を書いたら死ぬって書いてあったぞ!

 余計な機能が多すぎて基本の機能を忘れていた。

「きゃー!」

 俺は「逆つり橋効果」とでも言おうか、ときめきによって発生したドキドキが一気に恐怖へと変換されたため、凄まじいレベルの絶望を味わって「きゃー」などと壮絶に情けない悲鳴を上げてしまった。

「え? 痛いの? どうかしたの? 大丈夫?」

 しかしその情けない悲鳴によって母性を引き出されたのだろうか、テストが急に優しくなったので俺は恐怖を再びときめきに変換することに成功し、むしろ死んでもいいとすら思った。

「まだ……生きてるみたいね」

 テストは気丈な態度を取り戻したようだった。
 おやおやサービスタイムは終わりかよ、と思ったら、テストはツンツンしながら少し泣いていた。

「ばか! 死なれたら困るんだから! ……レ、レフト」

 第二サービスタイムの始まりである。
 だが「レフト」と下の名前で呼ばれることには感動はない。そんな名前の俺は昔から下の名前で呼ばれることが多かったからだ。
 と、頭では考えているのに、心ではとろけるほど嬉しかった。殺しといて今更だが名前を付けてくれた親父に感謝の念すら抱いてしまう。

「テスト……俺はあとどれくらいで死ぬんだ?」

 サービスタイムの残り時間を計算し、その上で存分に楽しもうと思った。この美少女を前にしては死の恐怖なんか屁である。
 イチャイチャとは程遠いがこの程度でも幸せであった。

「そんなの知らないわよ! でも……なんだか大丈夫そうね」

 あれ? なんだ死なないのか俺。残念……いや残念じゃないよ! 良かった!

「……自分の能力なのによくわからないのか?」

「そ、そうよ! その時になってから何となくわかるだけで、私もヨークXについて何も知らないの!」

 不条理だ。俺も命名された時点で不条理に巻き込まれているが、この子のほうが遥かに不憫である。

「マスターである俺が死んだらどうなるんだ?」

「それもわからないってば! ただ、わからないからこそ……恐ろしいの。名前を書いちゃったレフトだって死なないという保障はないわ」

 やっぱり死ぬのか俺? くそ、謎が多すぎる。

「テスト……知り合いとかいないのか?」

「私には何の記憶もないっていったでしょ。だからあなたが……す……すべて……」

 よし来た! 俺とだけ親密な美少女!

「私は自分が存在する意味すらわからなくて……」

「そうか……じゃあ俺が、お前の意味になってやるよ」

 自分でも意味不明な台詞を吐きながら、俺はテストの頬に手を添えた。
 テストは一瞬びくっと身をすくめたが、すぐに落ち着いた表情になり、俺の差し出した右手と交錯するように――クロスカウンター!

「ぐふっ!」

「な、なれなれしく触らないで!」

 ええええ!? そういう流れじゃないのか!?
 豪快に殴られた俺は吹っ飛ばされながら驚いた。

「あんたを助けたのは私の存在が消えるかもしれないからよ! 勘違いしないで!」

 好意じゃない……だとッ!?

「でもしもべになったんだから触るくらい、ぶへっ!」

 今度は蹴られた――が、見えた! やはり黒に統一か。

「それは形式的な話にすぎないわよ! そもそも私が助けなきゃあんたは死んでたんだから、あんたがしもべになってもいいくらいよ!」

 くそっ、なんて態度の悪いしもべだ。俺は真剣な思いだというのにまったく! ……ブラも黒だろうか。

「べ、別にこっちだって助けてだなんて頼んでねぇよ!」

「あらそう。ならもしもあんたが死んでも私には関係ないってことがわかった時は、真っ先に殺して残機にしとくわ」

「ううっ……」

 言われてみれば圧倒的に俺のほうが弱い立場にいるぞ!
 しかし、俺はなぜかこういう時こそ攻めに転じたくなる。

「へっ! 出て行ってやる!」

 しかし何か攻め方を間違ったような気もするが、気にしない。
 俺は勢いよくドアを開けた。
 するとそこにいたのはチュパカブラ潤。

「きみ、ここにいたのかぁ」

 そうだ、チュパカブラ潤との戦いが終わっていないのだ。すっかり忘れてた!
 俺は出て行った勢いが嘘のように、すばやく部屋の奥に戻った。ワンルームなので不可能なことではない。
 が、奴はもう既に家の中に入り込んでいる。やはりワンルームなのでもう既に追い詰められている。
 奴はどうやらにおいを嗅いでいた。

「うん、やっぱりきみで間違いない」

 奴には余裕が窺え、悠然と近寄ってくる。
 急な出来事に唖然とするテストは俺と奴との間にいた。
 奴はテストに目を向けた。

「あれぇ? もっとおいしそうだぁ」

 奴の雰囲気が変わったと気付いた瞬間、俺は地面を蹴りだしていた。
 おかげで俺は奴の素早い攻撃からテストを守ることに成功した。
 が、奴の腕は俺の胸を貫いていた。少し遅れて激痛が走る。

「おっと。まぁどっちが先でもいいか」

 そして奴が俺を吸おうとした時、奴はドアが開いたままの玄関から外へ吹き飛んだ。テストが奴を蹴り飛ばしたのだ。

 俺は大量の血を噴き出しながらその場に倒れ、意識が朦朧とし始めた。そんな俺を抱え、テストは叱る。

「ばか! 何してるの!」

「だってお前が……」

「ばかばか! もう残機ないんだから死んじゃうんだよ!」

「それはお前も同じだろ……」

「もうばかばかばかばか! 私は強いから大丈夫なの!」

「そうか、なら安心だ……」

 俺は痛みも感じなくなってきた。

「待って! 死なないでよ! あんたがいなくなったら私の意味もなくなっちゃうじゃない!」

「なんだ……想いは伝わってるじゃないか……」

「当たり前よ! あんなこと言われたら嬉しいに決まってるじゃない!」

 良かった……
 俺は全身の力が抜けてくのを感じた。もう口も動かない。

「だめ! 行かないで!」

 泣き叫ぶ顔もかわいいなぁ……
 やっぱり美少女に抱きつかれるのはいいなぁ……
 俺が思うのはそんなことばかりで、これほどの幸福感に包まれて死ぬのなら悪くないと思った。

「待って! 少しだけでいいから持ちこたえて!」

 そう言ってテストは立ち上がった。
 テストが視線を向ける玄関はドアが開いたままで、そこに奴が戻って来るのが見えた。

「お嬢さん、強いんだねぇ」

 奴は細い舌をちょろちょろと出して笑った。

 するとその瞬間、俺は時が止まったように感じた。
 音がなく、まるで真空のように張り詰めた空気になり、だだっ広くて何もない真っ白な空間に、俺とテストと奴がいる。
 そしてテストは何故か靴を履いていて、前かがみで静止している奴に向かい、カツ、カツと靴を鳴らしてゆっくりと近寄った。
 テストが奴の額に手を触れると、奴は体を支える力を失ったようで、どさりと倒れた。もう生きている感じではなかった。

 そこでテストは叫んだ。

「消えろ!」

 奴の体が無数の粒子になってパッと散ったかと思うと、それは煙のようにどこまでも上昇していって見えなくなった。

 すると一気に白い空間がテストの手元の一点に収束して消え、そこは元通りの俺の部屋になっていた。奴の姿はもうなかった。
 テストが振り向くと目が合った。どうやら何か言っているようだが、惜しくも俺はそこで死んでしまった。

 次第に意識を取り戻すと、どこかに立っている感覚があった。俺は生き返ったのかと思って目を開けてみた。しかし、何も見えなかった。やはり死んでしまったのだ。
 ところが視界が下のほうから徐々に戻っていった。目の前にはようかん。俺はまた復元されたようだった。

 不意に何かが体にぶつかる衝撃があったので、また敵かと思って視線を下に向けた。テストが勢いよく抱きついたのだった。

「もう、ばかばかばかばかばかばか! 間に合わなかったのかと思ったんだから!」

 テストは俺の胸をポカポカと叩いた。頬は大量の涙で濡れている。
 恐らくチュパカブラ潤を倒したおかげで残機を得ることが出来たのだろう。確かに間一髪で、俺は守られた。それを理解して胸がすっとした。
 そうして守られることに爽快感を感じてしまうのは現代の潮流ではないか、などという議論は創作をする上では重要でかもしれないが、ここで語るのはよそう。そんなことよりも大切なものが目の前にあるからだ。

「テスト……」

 俺の胸で泣く彼女の頭をそっとなでた。それに対し、彼女は俺の体に回している手にぐっと力を入れて応えた。

「呼んで……名前を呼んで……」

 彼女はすがるような目で俺を見つめた。

「テスト……テスト……」

「……もっと!」

「テスト! お前はここにいるぞ、テスト!」

 俺はテストをきつく抱きしめ、柔らかな黒髪に顔をうずめた。石鹸の優しい匂いがした。さっき動いたせいか、そこに少しだけ汗の匂いが混じっていた。
 だが全然嫌な匂いではない。むしろ胸をくすぐり、愛おしいと思った。

 俺と彼女は互いの温もりを感じ合い、そして互いの体温が同じになるまで抱き合っていた。
 俺が力を抜くと、彼女も呼応した。肩に手を乗せ、体を離した。そして顎にそっと手を添え、しばらく彼女の潤んだ瞳を見つめた。そこで無言のやりとりをした。
 彼女は目を閉じ、背伸びをした。俺もかがみながら目を閉じ、唇を寄せた。
 彼女の弾力のある唇と自分の唇が溶け合うように感じ、互いの唾液も少し混じる。隙間からどちらのものかわからない吐息が漏れた。
 唇を離すと二人は額を付けた。そしてかすかに微笑むと再び互いの唇を求めた。
 背中に回した手からは彼女の熱が伝わる。さするように動かすと彼女は身をよじらせた。
 俺は彼女の長い髪をかき分け、首筋にキスをした。彼女の熱い吐息が俺の肩にかかった。
 そのまま下ってゆき、黒いシャツのボタンを上から一つずつ外す度に露わになる肌へ、キスをした。黒いブラジャーが次第に姿を現す。
 一番下のボタンを外し、へその下にキスをすると、彼女は「うぅ」と声を上げ、がくっと前かがみになった。
 俺は下からそっと手を這わせてシャツを脱がせた。彼女も袖から手を抜いた。
 もう一度ゆっくりと唇を重ね、今度は背中に回した手でブラジャーのホックを外した。唇を離し、肩紐を片方ずつ外す。
 彼女は顔を真っ赤に染めて俯き、手でブラジャーを押さえていた。俺は顎先に手を添えて顔を上げさせ、軽く突付くようなキスをした。互いに笑みがこぼれた。そして静かに抱いた。彼女も俺の背中に手を回す。
 俺が体を離すと、黒いブラは支えを失って自然に落ちた。露わになった白い乳房は小ぶりだが、下部の輪郭は円に近い丸みを描き、その中心点よりほんの少し外側にちょこんと乳首が立つ。彼女はまた恥らうが、俺は構わず一方に唇を寄せ、右手でもう一方の乳房が作る曲線を崩した。
 指先で弾く度に突起は反発を強くする。先端を舌が走れば彼女は詰まったような声をわずかに漏らし、前かがみになった。
 俺は立ったままの彼女を押しながら、ベッドのふちに座らせた。そこで自分のシャツも脱ぎ、肌を合わせた。もう二人の間に入るものは何もない。直接触れ合う肌は今まで以上に互いの熱を伝え、想いを交換する。
 さらに押すと、彼女はベッドに寝る形となった。俺はするすると靴下を脱がし、その健やかな脚を下からすうっと撫でた。上まで来るとスカートを脱がせた。彼女の黒いショーツが露わになった。
 彼女の秘部に手を近づけるとこもった熱気のようなものを感じた。ショーツの上から触ると、案の定湿っていた。軽く撫でてからぴったりと体に沿うきつめのショーツを反転させるように脱がすと、わずかに糸を引いた。
 彼女の絹のような肌をした下腹部を目にし、つい俺は口にした。

「あれ? 毛がない」

「し、知らないわよ! 気付いたらそうなってて……」

 彼女は言いながら赤くなった。

「で、でも子供じゃないんだからね!」

 怒るような顔付きで言ったが、すぐに目を泳がせ、聞こえるか聞こえないかという声で「……だからやめないで」とつぶやいた。

「はは、大丈夫。これから大人になるんだしさ」

「ばか……」

 彼女は朱の差した顔でそっぽを向き、こんな状況なのに無関心ぶってみせた。だから俺はいきなり彼女の奥まった部分の先端を刺激し、いじめてやった。
 そうして離れかけていた意識が再び呼び戻され、互いに求め合い始めた。








 (中略)








 それでも彼女の声は次第に大きくなり、ある時点から膜を突き破ったかのように彼女本来のよく通る声が響いた。俺も息に声が混じり始める。
 そして二人が何か一つの、拍動する新しい存在になったかのように感じたところで、一緒に果てた。
 俺の顎先から汗が落ち、彼女の目に入った。彼女はぐったりとしながらも、笑った。


 ――ティッシュ、用意しといて良かったな……
 そういえば何日か前にちゃんと用意してあったのだ。自分の完全無欠な周到さには我ながら感心する。

 風が吹くと背中の汗が冷え、行為を遂げたことを改めて実感する。


 ……風?

 顔を上げ、衝撃の事実を知る。


 ベッドに横たわり、満足げな顔をしている彼女に俺は告げた。

「ドア開いたままだった……死にたい……」

 その日は夜になっても電気すらつけず、無言で、物音も立てなかった。
 俺たちは暗い部屋の隅でいつまでも、膝を抱えて座っていた。 〈完〉





   <あとがき>

 ここまで読んでくださってどうもありがとうございます。
 続編は書くかもしれませんが、とりあえずここで完結です。

 なんだか力の入れどころを間違えた気がしないでもない。

 あくまでこれは『ドラゴスクエスト』の息抜きとしてノリで書いた作品です。
 テストというキャラも今後『ドラゴスクエスト』に登場するメインキャラのプロトタイプですし。
 ↓ここに書き始めた作品のシングルカットです。
http://mai-net.ath.cx/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=test&all=21229&n=0&count=1

 とはいえ、息抜きレベルの作品なので書けと言われたらたぶん書けます。
 感想であーだこーだといってくれればありがたいです。


 猫田犬次郎の作品リスト↓
http://mai-net.ath.cx/bbs/sst/sst.php?act=search&page=1&cate=all&words=%E7%8C%AB%E7%94%B0%E7%8A%AC%E6%AC%A1%E9%83%8E


↓感想



[21582] おまけ 弁護士、チュパカブラ潤!
Name: 猫田犬次郎◆d6c5414a ID:235038a9
Date: 2010/09/01 19:30
     おまけ


   弁護士、チュパカブラ潤!



 ――家畜が食いたい!

 いや駄目だ。私は立派な社会人なんだ、そんなことは出来ない。それに弁護士だ。社会的地位もそこそこ高いというのに、それをぶち壊せる訳がない。テレビにも何回か出たことがあるんだぞ。
 しかもチュパカブラだってこともバレてはいないんだ。たまたま地球に来てから中身を吸っちゃった人間が弁護士だったのだ。うん、こういうことって、よくあるよね。

 そうして文字通り人間の皮を被って生活している訳だが、やはり自分に対してはチュパカブラの本性を誤魔化しきれない。家畜を見るとどうしても中身を吸いたくなるのだ!

 ああ、旨そうだ。あの牛……いやいや今は仕事が優先だ。いや、今どころかずっと仕事が優先だ。仕事が恋人なのだ。弁護士としての仕事の面白さに気が付いた私は、弁護士以上に弁護士としての誇りを持って働いている。
 金なんか二の次だ。弁護士としてきちんと働いていれば普通に生活できる。私は国選弁護士だってやったことがある。純粋に「人を弁護して助ける」という行為が好きなのだ。
 待てよ? 私はいま自己弁護に走っているのではないか? はっはっは! いかんいかん、職業病だな。チュパカブラとして未開惑星の原野を走っていた頃からすれば考えられないことだ。

「すいません。あの、これ落としましたよ」

 振り向くと女性が立っていて一枚の写真を手に持っていた。

「あっ、ごめんなさい。どうもありがとうございます!」

 短い間に八回くらい小さくお辞儀をしていたと思う。私はもうすっかり日本人だ。
 咄嗟に受け取った写真を見てみると、今度の裁判に関する資料だった。

 ――まずい!

 これは他人に見せてはいけない資料だった。そしてなにより、私がそれを入手していることが知れてはいけない資料だった。
 不正である。確かに不正である。しかし、人を救うためだ。仕方ない。こうでもしないと大企業との裁判で小市民が勝つことは難しいのだ。

「あっ! これ、見ちゃいました? ごめんなさい見なかったことに出来ませんか? わたくし、なにぶんこういう者でして……」

 そう言って名刺を渡した。

「ええと……」

「『かぶらき』です。『鏑木潤』という弁護士です」

「弁護士さん……」

「そうなんです。これは第三者に見せてはいけない資料でしてね……」

「大丈夫です、私、見てませんから」

「そうですか。じゃ、お時間とらせて申し訳ありません。失礼します」

 私はそそくさと自分の事務所に戻ろうとした。

「待ってください!」

 女性の声は切実な様子だった。

「……お願いが……あるんです」

 憂いを帯びた女性の目は私に懇願の意思を向けた。

「相談に……乗ってくれませんか?」

 よくよく見ると女性は魅力的だった。やや癖のある黒髪は華奢な肩に垂れ、毛先が首をもたげるように少し上を向いている。
 控えめだがすっとした鼻、小さな顎に弾力のありそうな艶やかな唇。
 そして真面目そうな外見に似合わず、服の上からでもその官能的な肉感がわかる大きな胸。

 ――たまらない。

 なんということだ仕事が恋人であるというこの私が心奪われるとは。

「いいでしょう、何なりと。相談でお金を取ったりはしませんよ」

 私はチュパカブラと思えぬ紳士的な態度で言った。

「本当ですか! お、お願いします! 困ってるんです!」

「はは、頭を上げてください、まだ何もしてませんよ」

 そこで渾身のチュパカブラスマイル!
 女性の目に信頼の念がこもったのを確認できた。

「では少し、あちらで話しましょうか」

 私が仰々しく手を差し出すと、女性は頬を染め躊躇しながらも、その手を取った。
 そして私は女性を人気のない路地裏に導いた。
 ぶっちゃけ容姿はどうでもいい、肉だ肉!

 ――そこで吸いました。



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