エアコンの省エネ性能が、「かさ上げ」されている“疑惑”が持ち上がった。大手メーカーは否定するが、通称「爆風モード」と呼ばれる手法を使う。電気代の節約効果でも、カタログと実態の乖離が問題視され始めた。
「エアコンに“爆風モード”という隠し機能があるのを知っていますか」。あるエアコン業界関係者は、匿名を条件にこう語った。「これにより、省エネ性能が実態以上に良く見えている」。
エアコンの省エネ性能は日本工業規格(JIS)に基づき、メーカー各社が加盟する日本冷凍空調工業会(日冷工)のセンターで試験する。測定するのは冷暖房能力を消費電力で割った「COP」という指標だ。この値が高いほど、省エネ性能が高い。現在は「APF」という指標がカタログに掲載されているが、実質的にはCOPとほぼ同じだ。
APFは、政府がエコポイントを付与する基準にもなる。だが前出の関係者によれば、この数値が「大きくかさ上げされている」という。
快適性を無視した試験モード
爆風モードとは一体何なのか。
大手エアコンメーカーは「何のことか全く分からない」(広報)と存在を真っ向から否定する。だが複数の関係者への取材を総合すると、大きく2つのパターンが浮かび上がってきた。
まずはリモコンに「隠しスイッチ」を仕込むもの。温度や風向といった複数のボタンを、普段の生活では絶対にやらないようなパターンで押すと、エアコンが特殊な状態になるという。もう1つは、特定の温度と湿度を満たす空間にエアコンが置かれると、内蔵マイコンが検知して爆風モードが作動するというものだ。
そしていずれも、一般家庭では許容できないレベルの騒音を出しながら強風を吹き出し始める。騒音を減らすとその分消費電力が増え、COPが下がるからだ。さらに暖房の場合は肌寒く、冷房では生暖かい風を連続して吹き出すことで、消費電力を抑える。
冷房試験の際、日本の夏では不可欠な「除湿運転」を行わない手法もある。湿度は人間が感じる「快適性」を左右するが、除湿運転をすると消費電力が増加するからだ。カタログに載っているCOPは、実際の利用環境を反映しない状況での試験で、測定されているのが実情だ。しかも省エネ性能を高く見せれば拡販効果があるため、なし崩し的に“かさ上げ行為”が拡大してきた。
独立行政法人建築研究所の澤地孝男・環境研究グループ長は「時速60kmで巡航した時の燃費のみを切り出して、自動車のカタログに表示しているようなもの」と手厳しい。
澤地グループ長が研究用の集合住宅で、エアコンの実性能を評価したのが右のグラフだ。実際に人が住んでいるような条件を再現し、省エネエアコンと一般エアコンの暖房効率を調べた。その結果、省エネエアコンの方がカタログ値との乖離が激しかった。「カタログ効率から期待されるほどの省エネ効果は、必ずしも得られなかった」と澤地グループ長は指摘する。
エアコンの消費電力は室内外の気温や断熱性能など、様々な要因によって影響を受ける。評価の難しさも、COPの「過大表示」を蔓延させる原因になっている可能性が高い。
トップランナー制度の弊害
こうした状況を招いた背景にあるのが、1999年に導入された「トップランナー制度」だ。エアコンではCOPが指標となり、各メーカーに常に省エネ努力が課せられるようになった。
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