子育て

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きっと、だいじょうぶ。:/10 遊びのもつ力=西野博之

 「ここは何にもないんですねぇ」「どうやって遊ばせたらいいんですか」。幼児を連れて初めて遊びに来た母親が、戸惑いながら声をかけてきた。確かに、町の公園で見かけるような金属で作られた既製の遊具はひとつもない。

 一緒にいた3、4歳くらいの男の子は、じっと立ったまま他の子が遊んでいる姿を目で追っている。そしておもむろに歩き出し、落ちていたシャベルを手にとって、土の山に登った。そこで穴掘りに夢中になっている子どもたちの横で、穴を掘り始めた。

 しばらくしてその場に行ってみると、いつの間にか他の子たちと一緒にバケツの水を穴の中に流し込んでいる。既に服は泥だらけ。ハラハラ見守る母親を横目に「常連」の子にならって靴も脱ぎ捨て、裸足になって足で水をかき混ぜている。足の指先にまとわりつくヌルッとした泥の感触。バシャバシャと足でたたく水の跳ね返り。飛び散る水しぶき。初めて会った子ども同士が歓声を上げている。この後、穴はどんどん大きくなって、やがて泥のお風呂へと変わっていったのだった。

 遊びにはプログラムもマニュアルもない。やってみたいと思ったことを手がかりに、自由な発想で作り、展開していく。ゴールも正解もない。大人が用意したマニュアルには必ず上手下手という評価が生まれる。子どもにとって、それは遊びとはいえない。

 いまの子どもの世界には、やりたくもないことをやらされて、いい悪いを他人から評価される関係がはびこっている。この関係から外れて、子ども自身が主体となって、五感をフルに使い、自由にやってみたいことに挑戦できる遊びの世界を、幼いころから手に入れておいたほうがいい。

 どうやったら大人からほめられるかではなく、自分の気持ちに正直に快、不快を感じられる心と体をはぐくむこと。これは遊びのもつ大きな力だ。そしてこれこそが、生きていくうえでとっても重要な力となっていく。

 土や水、廃材があって、ノコギリやカナヅチなどの工具が使えて火をおこせる環境がある。できる限り「禁止」の看板を持たない冒険遊び場(プレーパーク)を地域の中にもっともっと増やしたい。

 きょう8月29日は日本で初めて160の団体が協力して開かれる「冒険遊び場全国一斉開催の日」(詳細は日本冒険遊び場づくり協会ホームページhttp://ipa‐japan.org/asobiba/)。お近くの遊び場に、ぜひ子連れでお出かけください。(NPO法人フリースペースたまりば理事長)=次回は9月26日

毎日新聞 2010年8月29日 東京朝刊

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