防犯ビデオに映っているとして窃盗罪に問われたものの、公判で「映像の男は別人」とする鑑定結果が証拠採用された無職の男性被告(62)=金沢市=に対する判決公判が1日、金沢地裁であり、入子光臣裁判官は「被告と犯人は別人と認められる」として、無罪を言い渡した。金沢地検は論告求刑公判で被告に謝罪し、異例の無罪を求刑していた。地検は即日、上訴権を放棄し、無罪が確定した。
被告は、昨年8月に石川県白山市のコンビニエンスストアの現金自動受払機(ATM)で他人のキャッシュカードを使い計100万円を盗んだとして起訴された。
公判で検察は、現金を引き出す男が映ったビデオ映像を提出し、被告だと主張。被告自身も捜査段階で「(映像の男は)自分だ」と供述したが、入子裁判官はこの検察官調書について、「供述は鑑定と矛盾し、信用性に乏しい」と述べた。
その上で、「防犯ビデオの画像について鑑定を行うなど捜査を尽くしていれば起訴はあり得なかったはずで、本件の捜査・起訴はずさんだったと言わざるを得ない。今後、このような捜査方法を改めることを切に要望する」と指摘した。
被告は起訴内容を否認し、弁護人は被告と映像の男とでは「耳の形が違う」と反論。検察が、高度な画像鑑定が可能な愛知県警科学捜査研究所に鑑定を依頼したところ、両者は別人とする鑑定結果が出た。検察は7月の論告公判で被告に謝罪し無罪を求刑していた。【宮本翔平】
土本武司・筑波大名誉教授(刑事法)の話 防犯ビデオの映像は有罪立証のための重要な証拠だったはずだ。映像を判断する際、「犯人だ」という思い込みを取り払うべきで、捜査段階での鑑定が必要だった。まして、否認事件であり、一層慎重な捜査が求められた。「人違いだった」では済まない基本的な捜査ミスであり、検察は猛省すべきだ。
毎日新聞 2010年9月1日 9時55分(最終更新 9月1日 11時55分)