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民主党代表選がきょう告示される。菅直人首相と小沢一郎前幹事長が激突し、代表、そして首相の座を争う。直接対決を避けようという動きが土壇場まで続いたが[記事全文]
日本航空の再生の青写真ができた。年初に経営破綻(はたん)した日航と管財人の企業再生支援機構が、銀行団との7カ月あまりの調整を経て更生計画案をまとめ、東京地裁に出した。経[記事全文]
民主党代表選がきょう告示される。
菅直人首相と小沢一郎前幹事長が激突し、代表、そして首相の座を争う。
直接対決を避けようという動きが土壇場まで続いたが、うまくいかなかった。「密室の談合」といった厳しい批判を招くのは必至だっただけに、民主党にとっては幸いというほかない。
小沢氏は記者会見で、菅氏について「挙党一致態勢をとるべきではないという考えだったようだ」と指摘した。
菅氏は、仲介者から人事面での配慮を求められたが、「国民から見えないところで決めるのはおかしい」と考え、応じなかったと説明した。
菅氏の対応は当然である。
挙党一致と、ポストをめぐる水面下の取引は別物であり、そんなことで首相を決められては国民はたまらない。
それにしても、鳩山由紀夫前首相の一連の行動は理解に苦しむ。
菅、小沢、鳩山の3氏によるかつての「トロイカ体制」に立ち戻って、「挙党態勢」を構築するよう訴えた。菅、小沢両氏の会談を「責任を持って仲介の労を取る」とまで述べた。
いまさら「トロイカ」を持ち出す思考に驚く。政治とカネの問題で引責し小沢氏とダブル辞任したばかりなのに、どういう脈絡からこうした発言が出てくるのかわからない。
鳩山氏は身を慎むべきである。
今回の代表選は、菅政権が発足してわずか3カ月で実施される。党としての決まりごとだからやむをえないが、あまりにも短命な首相を生みかねない仕組みは本来、好ましくはない。
しかし、小沢氏が出るというなら、話し合いで正面衝突を回避するより、正々堂々と戦ってもらう方がいいだろう。この党の抱え込んできた矛盾が、あまりにも大きいからである。
結党以来、民主党は様々な政治的潮流を併せのんできた。小沢氏が率いていた自由党との合併が典型だ。
理念や政策路線、政治体質が違っても、政権交代という大目標は共有できたから、まとまってこられた。
しかし、目標を達成してしまうと、党内がばらけ、迷走感が深まった。いったい何をめざす政党か、足場を定める作業を怠ってきたからである。
この機会に徹底して議論を戦わせ、決着をつけないと、民主党のみならず政党政治そのものが漂流してしまう。
この代表選を、単なる権力闘争ではなく、新しい政治をひらくきっかけにしなければならない。
民主党の議員らには、首相選びに加われない国民に代わって、どちらがふさわしいか見極める重い責任がある。ポストがほしいから、報復が恐ろしいからと判断を曲げては、有権者から手痛いしっぺ返しを受けるだろう。
これは実質日本の首相選びである。そのことを心してもらいたい。
日本航空の再生の青写真ができた。年初に経営破綻(はたん)した日航と管財人の企業再生支援機構が、銀行団との7カ月あまりの調整を経て更生計画案をまとめ、東京地裁に出した。
経営の再建には、破綻の要因ともなった高コスト体質を根本から改革することが欠かせない。更生計画がグループ人員の3分の1にあたる1万6千人を削減し、国内外の計45路線から撤退するという厳しい内容を盛り込んだのは当然である。
銀行団に融資や社債などの債務を9割近くカットしてもらい、支援機構から3500億円の公的資金の注入を受けることになったのも、抜本的な改革への決意が前提にあればこそだ。日航はそれを貫いてもらいたい。
更生計画提出にこぎつけた背景には、幸運もあった。世界経済が同時不況から回復に向かい、航空需要もかなり戻ってきたからだ。今期は営業黒字への転換を見込む。
政府支援下で事前調整型の破綻処理となった利点もあった。政府保証のつなぎ融資を受け、効率の悪いジャンボ機をすべて退役させて新型の中小型機に買い替えることができるようになり、経費削減を進めやすくなった。
しかし、今後の経営環境については決して楽観すべきでない。
米国景気の悪化が明らかになり、世界経済の失速が懸念されている。航空市場の先行きも不確実性が強まったが、環境が悪くなっても、政府支援の追加に安易に頼るようなことはもはや許されない。
全日空との競争だけでなく、海外との価格競争がますます激化することも考えておかねばならない。日航が生き残りをかけて挑むアジア市場には、低コストを武器にした各国の格安航空会社がひしめいている。
だが、単なる価格競争に陥るのではなく、サービスの品質を武器に競争力を保つことが課題となる。
カギとなるのは、第一に「安全」だ。また、日本の航空会社には、運航時間の正確さが世界トップという強みもある。安全と正確さをコスト削減と両立させることが、アジア市場で生き抜く条件になるのではないか。
破綻の根本原因と指摘されてきた「親方日の丸」意識を変えることも重要だ。会長に迎えた稲盛和夫京セラ名誉会長に民間経営のあり方を学び、意識改革を進めているというが、こびりついた意識を変えることは一朝一夕にはできないだろう。
日航は政府支援の期限である2013年初めまでに再建を終え、再上場か新スポンサー探しをする必要がある。景気の動向や競争激化を考えれば、時間とのたたかいには厳しいものがある。組織と意識の改革を急ぎ、業績改善を目に見える形で示してほしい。