水説

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水説:日本は中国の3倍?=潮田道夫

 <sui-setsu>

 中国のその筋と親しいA氏の話では、かの国で近ごろの痛恨事といえば、米国の「危ない資産」に投資したのが軒並みやられてしまったことだそうだ。すごい損害で頭を抱えているらしい。

 そうだろうな。有名どころでは消滅してしまったあの投資銀行リーマン・ブラザーズにも巨額のカネをつぎ込んでいたっけ。リーマンとともに金融危機の震源のひとつとなったファニーメイ(住宅ローン)にも突進したと聞く。底値買いのつもりで買いまくったようだが、思惑はずれの高値づかみになった。

 むかし、シティバンクが危機に陥ったとき、サウジの王子が太っ腹なところをみせて出資に応じ、結果として大もうけしたことがある。おそらくそれが頭にあって、米国への逆張りに踏み切ったのだろう。が、柳の下にいつもいつもどじょうはいない。

 いま、中国が円換算200兆円を超える外貨準備の組み替えを静かに行い、米国資産の比率を下げている。ドルへの一極集中は危ないと、この間身にしみたからだろう。A氏は現在の円高の背景には中国の「円買い」があるのではないかと言っていた。

 中国はいつも抜け目がなくて、日本のやることはみな間が抜けている。そういう自虐的な世界観がまだ幅をきかしているようだから、必ずしもそうではないことを示す例としてあげてみた。

 今年4~6月の国内総生産(GDP)で、中国が日本を抜いたというニュースが世界をかけめぐった。しかし、センセーショナルな報道や論評は割合、少なかった。

 どの記事も判で押したように言っているが、問題はひとり当たりGDPであって、それで見れば日本が中国に追い抜かれることは当分ない。

 ニューズウィーク誌の最近の記事「成長力と幸福度の世界番付」が面白かった。「どの国に生まれれば健康で安全で豊かに暮らせ将来性もあるか」のランキングだが、総合で日本は9位だった。米国も11位と上位である。そんなところだろう。日本は一種の危機にあるとは思うが、浮足立つ必要はない。

 そうそう、GDP2位入れ替えをめぐる論評の中では、第一生命経済研究所の熊野英生さんの考察が「目からウロコ」だった。

 結論だけ紹介すると、名目GDPでは追いつかれたが、インフレの水ぶくれ分を差し引いた実質GDPを計算すると、まだ日本の方が中国の3倍も大きいそうだ。これには意表をつかれた。中国のインフレと日本のデフレが相乗的に増幅した統計のマジックではあるが。(専門編集委員)

毎日新聞 2010年9月1日 東京朝刊

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