トヨタからまた1件、大規模なリコールの届出があった。
「エンジンの『バルブスプリング』が折損する可能性があるので、全数交換で対応する」というもの。
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日本国内では今年に入ってからトヨタのリコールがたびたび話題になり、このコラムでもその内容を解説してきたので、読者諸兄姉としては「また・・・」という印象ではないかと思う。
改めて振り返ってみれば、ここ半年~1年にわたって次々に表面化した事例のほとんどは「複雑化する機械+電子制御システム」の弱点、造り込みの浅さ、甘さが現れたものだった。
しかし今回の内容は、「自動車という工業製品」の根幹に関わる部分であり、かつこれまで数十年にわたって先人たちが考え、試し、確かめることを繰り返して、営々と積み上げてきた技術的な知見と経験則に直接関わる内容である。したがって、私の、そして自動車技術をよく知る人々の目から見れば、ことの重大さはここ一連のリコールを上回るもの、と言わざるを得ない。
新聞やテレビなど一般のメディアの報道を見聞きしただけだと、「エンジン内部の小さなバネ部品」の品質問題、と理解しているのではないかと思う。
しかし「バルブスプリング」は、エンジンが機械として動作し、燃料を燃やして力を出すプロセスにおいて、欠くことのできない重要な機能を受け持つものである。しかも、機械部品として耐久性を確保することが難しく、だからこそ日本だけでなく世界の先人たちが多くの知恵と労力と時間を費やして、今日ではクルマが寿命を全うするぐらいの時間は何事もなく機能するところまで来たのだ。
「傘」を押し付けてバルブを閉じるバルブスプリング
まずは、自動車を走らせている原動機、エンジンのメカニズムについて、それも「バルブスプリング」に関わるところを、できるだけ分かりやすく(と言っても難しいが)追ってみる。
この場合の「エンジン」は、「燃焼の圧力で往復(レシプロ)運動を生み出し、それを回転運動に変換して出力する」動力機械、いわゆる「レシプロ型内燃機関」である。
このタイプの内燃機関は、シリンダーと呼ばれる密閉できる円筒容器の中で「吸入」「圧縮」「燃焼~膨張」「排気」という作動サイクルを繰り返す。
これをシリンダーの中を往復するピストンの下降・上昇の「ストローク」ごとに行い、その2往復、すなわち出力軸の2回転で完了するものを4ストローク、あるいは4サイクル機関と言い、これが今日の標準形。
ここで、ピストンが下降しながらシリンダーの中に空気、または空気と燃料が混じり合った「混合気」を吸入する時(吸気)、燃焼~膨張が終わった後のガスを排出する時(排気)、それぞれの時にシリンダー頂部の「燃焼室」に通じる流路を開ける。
この役割を受け持つのが、燃焼室の一部に組み込まれたバルブ(開閉弁)。当然、「吸気」用と「排気」用がある。
そのバルブは「ポペット弁」と呼ばれる類のもので、キノコを逆さにした形をイメージするのが分かりやすい。
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