2010年08月25日 (水)スタジオパーク 「反対運動の中の更生保護施設」
刑務所を仮出所した人の社会復帰を手助けする国の施設が福島市に作られ、先週から運用が始まりました。施設は、反対運動が続く中でのスタートとなりました。友井解説委員と伝えします。
Q1:新たに運用が始まった施設は、どんなものですか?
A1:刑務所を出た人が立ち直るのを支えようという国立の施設です。
「福島自立更生促進センター」という名前で、懲役刑の期間を少し残して仮出所した人が 社会復帰に向けて、原則3か月間、生活します。
施設を出てからも、自立して安定した生活を送って、再び事件を起こす、再犯をすることのないようにと、仕事や住む場所を探します。
仮出所した人が入る施設は、民間の施設が、全国に100余りありますが、そこが受け入れきれない人のために、国が作りました。
民間の力に頼りすぎだ、国がもっと主体的に役割を果たすべきだという指摘を受けて、計画された施設なのです。
先週、50歳代の仮出所者が入って、運用が始まりました。
Q2:反対運動があるというのですが、どういうことですか?
A2:施設は、2年前に建物が完成したのですが、8万を超える反対の署名が集まり、運営開始が延期されていました。
今も反対運動は根強く、反対ののぼりが立ち並ぶ中でのスタートになりました。
反対の理由はいくつかありますが、大きいのは、施設を作るにあたっての手順の問題です。
どんな施設を作るのか、ほとんど事前の説明がなかったではないか、役所の考えを押し付けられてはたまらない、と主張しています。
もう一つが場所の問題です。
施設は、福島駅から1キロぐらいのところですが、周りに学校が多くあります。
子供たちの安全を守れるのか、と不安の声があがったわけです。
Q3:国の対応はどうだったのですか?
A3:反対運動を受けて、国は、地域の人を対象にした説明会を繰り返し開きました。
施設の定員は20人ですが、当面は、人数を減らして運営し、性犯罪や、子供相手の事件を起こした人は入れないことにしました。
施設の運営にあたっては、地域の人が参加する会議を設けて、意見を聞きながら進めていくということです。
国は、反対から賛成に転じた人もいて、一定の理解を得られたとして、スタートに踏み切りました。
Q4:新しい施設で、再び事件を起こさないようにできるのですか?
A4:そうしてもらわなければ困ります。
施設に入った人は、金銭管理をはじめとする生活指導や、被害者の心情を考えるプログラムなどを受けます。
酒の害についての学習や、周囲の人とコミュニケーションをとる訓練などもあります。
国は、保護観察官という専門の担当者が、24時間体制で指導や援助を行って再犯を防ぐとして、理解を求めています。
Q5:そこまでして、新しい施設を作るのは、どうしてですか?
A5:再犯を防ぐことの大切さがクローズアップされてきたためです。
刑務所を出るには、刑期が終わって出てくる満期出所と、刑期を少し残して早めに出てくる仮出所とがあります。
平成16年に刑務所を出てから5年間に、再び事件を起こして刑務所に入った割合は、満期出所の場合は55%余り、仮出所は32%余りでした。
仮出所した人は、刑期が終わるまでの残りの期間、保護観察を受けます。
保護司や、保護観察官の指導や監督のもとで社会復帰を目指す制度です。
指導や援助を受けながら社会の中で生活する、いわば助走期間があるわけで、社会復の
環境を整えて、再犯の危険性を小さくする効果が期待されています。
仮出所は、反省していると判断された人が対象ですが、刑務所を出た後に住む場所があることも必要です。
ですから、満期出所した人の中には、まじめに服役していたのに、身寄りがなく、住む場所もないために、仮出所できない人もいます。
刑務所からいきなり社会に出て、誰の手助けも受けられなかった、仕事や住む場所があれば、再犯をせずに済んだのではないかという人もいるわけです。
福島市の施設は、刑務所を出た後に住む場所がない人の受け皿としての役割を果たし、仮出所者の社会復帰を、確実なものにすることが狙いです。
Q6:反対運動が続く中のスタートで、大丈夫なのでしょうか。
A6:出所者の立ち直りを支える対策は、これまでのやり方を変えなければならない転換期に来ているのですが、国が、まだ十分に対応できていない面があるのは否定できません。
京都と福岡で計画された同じような施設は、強い反対運動で凍結状態になっています。
去年、北九州の港湾地区で初めての施設がスタートし、福島市が二つ目ですが、いずれも、反対運動があります。
出所者の社会復帰を支援することは、これまでもずっと続けられてきたわけですが、言ってみれば、ひっそりと行われてきました。
しかし、プライバシーを保護しながらも、できる限り情報提供をして、社会の理解や協力が得られないと、立ち行かない状況になっています。
この点で、まだ国の努力が足りているとは言えませんし、ノウハウの蓄積が必要です。
Q7:確かに、再犯や、保護観察制度の現状について、広く知られているとは言えませんね。
A7:保護観察のための施設を、危険な施設と受け止めるか、そうではなくて、社会の安全に貢献する施設と受け止めることができるか、という問題になってきます。
刑務所に入った人は、ほとんどが、いずれは社会に出てくるわけです。
その立ち直りを支え、再犯を防ぐことは、本来は、社会全体で背負わなければならない課題です。
地域の人たちが、どこに不安を感じるのか、協力しようと思えるようになるには、何が必要か、説明の手順はどうあるべきかなどと考えていくことは、福島の施設だけにとどまらない問題です。
投稿者:友井 秀和 | 投稿時間:14:06