
鴨川おさんぽ桜

まだ、季節や桜にあまり興味がなかった幼い頃、私が春を実感するのは、高野川沿いに咲く満開の桜並木だった。
高野川は出町柳で賀茂川と合流する川で、春、父の運転する車に乗って、この桜並木の続く川端通りを北へ向かって走ってもらうのが大好きだった。
車が通るたびに花びらが「ぶわー」っと風に舞うさまが、綺麗なのと危なっかしいのとで、思わず車のスピードがゆるむ瞬間にスリルを覚えた。
開けた窓から白い花びらが舞い込んでくると、それがまた嬉しくてうれしくて、大はしゃぎで「もう一回、通って〜」とせがんだものだ。
大人になり、写真を始めてまもなく、私は桜に魅入られてしまい、春には桜を追いかけて、日本中を旅するようになった。
沖縄から北海道まであちこちの桜を訪ね歩き、寝る間を惜しんで日本列島を駆けめぐっていたため、京都に住みながら、一度も京都の桜に会えない年もあった。
そんな生活を7年ほど続けた後、
もう少し大人になった私は、今、あらためて京都の桜に引き寄せられている。 |
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春の京都はどこもかしこもが桜尽くし。行っても行っても、まだ廻りきれないほどの桜で溢れかえる。
そんな日本一「桜濃度」の高い京都で、一番「何気ない」桜の名所が「賀茂川」かな?・・・と思う。 何気ないけど侮れない。
人や車でごった返す桜の名所めぐりに疲れたら、賀茂川の桜並木をのんびりと歩いてみよう。
普段から、賀茂川沿いの遊歩道では、近所の人が犬の散歩をしたり、学生さんが楽器の練習をしたり、ベンチでカップルが話し込んでいたりと、ゆるやかで心地よい日常が息づいているが、桜の季節になると、それはもう、賀茂川が「歌ってる」んじゃないかと思う位、楽しげな空気に染まってゆく。
私のお気に入りは、
出町の北、葵橋から北大路橋にかけて続く1.5キロほどの桜並木。なかでも出雲橋から北大路橋の東岸の遊歩道は、満タンの桜が覆いかぶさるように咲いていて、背の低い私でさえ、伸ばした手が頭上の花に届いてしまう。
このあたりは車道からも離れているので、深呼吸をしながら、のんびりとお散歩ができる。
賀茂川沿いには、美味しいおやつ屋さんがあるのも嬉しい。春のうららな昼下がり、桜に包まれた賀茂川でお気に入りのおやつを食べる贅沢。 |
たとえば出雲橋から7分ほど東へ入った加茂みたらし茶屋。ここはみたらし団子発祥の地だそうで、みたらし団子はもちろん、桜餅も美味しい。お店で食べることもできるが、桜の季節ならテイクアウトして、賀茂川でお気に入りの場所を見つけて食べるのが楽しみ。
出町柳なら、和菓子ふたばの豆餅や、町屋風のパン屋でサンドイッチを買って行ってもいい。パン屋さんの二階にはイートインスペースもあるから、散歩の後にゆっくりとお茶もできる。
そうそう、出町橋南西の妙音弁財天にある六角堂は、年の数だけ周ると、願い事が叶うといわれているので、お試しあれ。 |
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市内の桜が盛りを過ぎる頃、北大路通りから北山通りにかけての賀茂川沿いにある「半木の道」では、紅枝垂れ桜が見頃を迎える。
鮮やかなピンク色の並木道は、遠くから見ると、そこだけが別世界のように浮かび上がって見える。
せっかくなので、しだれ桜のトンネルを歩いてみたい。
桜に見とれていると、1キロ弱の遊歩道は、あっというまだ。
鴨川の桜といえば、出町柳から北がおすすめだが、南の方はどうなのか?
実はこのあたりの桜は、まだ成長中の若木が多いので、ちょっと物足りない気がする。
なので、バスや京阪電車でスッと四条通りまで行ってしまうのも一案。鴨川沿い、四条通りの近くには、料亭が立ち並ぶ祇園白川がある。
のんびりモード賀茂川散策の最後に、祇園白川でがらりと違った艶やかな夜桜が楽しめるのも、京都の醍醐味かもしれない。
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文・写真:星野 佑佳
■星野 佑佳(ほしの ゆか)
京都市生まれ、在住の女性カメラマン。エッセイニスト。
2000年、海外放浪の撮影旅に出、帰国後自然風景や旅風景を求め、日本全国を旅しながら撮影。桜を追いかけて全国を旅する女性カメラマンとして、TBS系のTV番組に出演。2005年頃から再び、地元である京都の風景や行事を中心に撮影、現在に至る。
2007年度クラレ社の企業カレンダー(B3サイズ14枚)
JR北海道 2007年春の海峡物語キャンペーンポスター(2007年4月著) ほか
夢は「今までの旅で撮影した写真をフォトエッセイ集としてシリーズで出版すること」
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