神社で秋場所、はっけよい


天高く馬肥ゆる秋・・・今年もいよいよ、食欲の秋の到来です。
お相撲さんに比べたら、私なんてガリガリの痩せっぽちですが、それでも、ちょっと体重計に乗るのが怖くなってしまう季節です。
そんな、実りの秋には五穀豊穣を願うお祭があちこちの神社で行われ、奉納相撲や神事相撲が多いのもこの季節です。
9月には、上賀茂神社の重陽の神事で「烏相撲」、松尾大社の八朔祭で「八朔相撲」、三宅八幡宮の放生会で「ちびっこ相撲大会」、大原野神社の御田刈祭では「神事相撲と奉納相撲」が行われ、10月上旬には、平岡八幡宮の例祭で「三役相撲」が行われます。
国技でもある相撲が、単なるスポーツではなく、神事としての意味合いが強いのはみなさんもご存知ですよね。ネットで検索してみたら、全国各地にユニークな神事相撲が残っていました。
その中で、燦然と輝いていたのが、上賀茂神社の烏相撲(カラスずもう)。
歴史的にも、ユニークさでも、必ず紹介されていました。
烏相撲は、9月9日の重陽の節句に上賀茂神社で行われる「重陽神事」のなかで催されます。
この日は、葵祭の斎王代も参加され、細殿から相撲を見学。
この細殿の前には、白い砂を三角錐にかためた「立砂」が二つ並んでいて、土俵はこの立砂の前に作られています。
神事なので、相撲を奉納する子供達は、まず、境内の小川で足を清め、本殿にお参りしてから挑みます。裸足のまま、元気に参拝する子供達の足取りは、ワクワク感で弾んでます。
烏相撲で有名なのが、勝負に先立って、土俵で行われる儀式。
東西に分かれた、烏帽子に白張姿の二人の刀祢(とね)が、横っ飛びにピョンピョンピョンと跳ねながら何度も往復し、立砂の前に弓矢や円座を持っていき、そこに座り込んで、カラスのように「カアーカアーカアー」「コーコーコー」と鳴き真似をするのが有名なんです。

それがすむと、今度は、子供達が、立砂の周りを8の字を描くように、3周します。真ん中を通る時は、正面の斎王代にぺこりと挨拶。ちょっと照れくさそうです。

さあ、いよいよ、勝負です。
禰宜方(ねぎかた)、左の祝方(ほうりかた)に分かれた各10名ほどの子供達は、白いフンドシをしめ、禰宜方はフンドシに赤い布をつけています。
実は、前日の夜、「内取式」といって、烏相撲の予行練習がありました。これは、予選も兼ねていて、当日の東西の勝敗が偏らないように組み分けされます。なるほど、神事といえども、子供同士の勝負は、手加減なしの真剣勝負! やらせはできませんもんね。
子供相撲を堪能した後は、延命長寿、若返り効果もある?菊酒がいただけます。
菊の花びらを浮べたお神酒は、見た目にも素敵です。
ガラッと変わって、松尾大社の八朔祭と大原野神社の御田刈祭では、赤ちゃんが相撲をする「泣き相撲」が行われます。
他府県には、赤ちゃん同士を向き合わせて、どっちが先に泣くかで勝敗をつけるところもあるようですが、京都の泣き相撲は、大人が赤ちゃんを抱えて、土俵でシコを踏み、最後に土俵に寝かせて土をつけると、スクスク元気に育つという縁起ものの儀式です。
赤ちゃんは1歳前後の男の子限定。
母親から引き離され、知らない男の人に抱えられて、ほとんどの赤ちゃんは、泣きわめきますが、中には眠り続けていたり、平気な顔をしている豪傑も・・・
土俵の上にしっかと足を踏ん張ってしまい、寝かせようとしてもゴムのようにビヨーンと反り返り、なかなか仰向けにできない赤ちゃんや、ハイハイで土俵から逃げ出そうとする赤ちゃんもいて、会場には、笑いが絶えません。
松尾大社では、当日、同じ土俵で学生相撲も奉納され、これは公式大会の京都府予選も兼ねているので、「おすもうさん」らしい若者や関係者で熱気にあふれています。この日は、女神輿や六斎念仏踊りも行われ、見る方もあっちにこっちに大忙しです。
大原野神社では、泣き相撲の前に、子供横綱の土俵入り(本殿前と土俵にて)や、神相撲の儀式が行われます。
神相撲は、それほど太ってない大人二人が取り組み、最初は東が押し出し、続いて西が押し出すという「引き分け」式。取り組みの前には、二人で四方の柱にお神酒をかけたり、土俵の真ん中に盛られた白砂を、土俵一面にまんべんなく拡げたりします。この準備から、取り組みが終わるまで、二人はずーっと、白い紙を口にくわえたままです。人の息って不浄なんでしょうか。でも、なんだか、こちらまで息苦しくなりそうです。二人の力士(太ってないので力士という感じでもないんですが)は、赤ちゃんを抱っこして、シコを踏む役もこなします。赤ちゃんの人数はけっこう多いので大変そう。
勝負?を終えた赤ちゃんには、鹿が描かれた「ちえ守り」を、榊につけて授与されます。
そうそう、赤ちゃんのフンドシには、「祈・大原野神社・健」という文字が書かれていました。うーん・・・神社名の上におもらししても、いいのかなあ
この日、大原野神社では小学生の相撲大会も行われます。
小学生の相撲大会といえば、三宅八幡宮の放生会も盛大です。
神社の裏手にある相撲場は、山の斜面が、階段状のコンクリート席になっていて、見やすいし、応援しやすく、たくさんの保護者で賑わっています。
小学一年生の部から始まるちびっこ相撲は、女の子も参加できます。案外強くて、入賞する女の子もいます。「勝ったら、今夜は焼肉やぞ〜」なんていう応援の声に会場が盛り上がります。
面白かったのは、「どんどん勝ち抜き戦」
三人抜きしたら勝ち・・・なんですが、前の勝負が終わると、控えの挑戦者は待ったなし、一目散に走って向っていきます。勢い余って、前の勝負で負けて戻ってくる子供と正面衝突する子も・・・さっきまでは、神妙な顔つきで仕切っていた子供達も、活き活きと楽しそうです。
平岡八幡宮の三役相撲は、「子供が大人に勝つ」神事相撲。
地元の小学3年生(8歳)の男の子が、青年と取り組み、宙を振り回されたり、土俵際まで追い詰められたりしますが、最後には必ず勝つというユニークな相撲です。
勝つことになっている子供が転びそうになると、慌てて対戦相手の大人が助けたりと、違う意味でのスリルを味わえるのが、また面白い。私が見に行ったときは、ライオンみたいな髪型の強そうな青年が、一人終わったらまた一人と、次々続く子供達を、持ち上げたり振り回したりと、大活躍で立ち回り、しまいにはフラフラになっているのが印象的でした。負かしちゃいけないってのも、案外難しそうです。
最後には自分で転ばなきゃいけないしね(笑)
そういえば、私も幼い頃、父親や、親戚のお兄ちゃんに負けてもらったお相撲ごっこが大好きでした。そんな思い出、みなさんにもありませんか?

文・写真:星野 佑佳

■星野 佑佳(ほしの ゆか)
京都市生まれ、在住の女性カメラマン。エッセイニスト。
2000年、海外放浪の撮影旅に出、帰国後自然風景や旅風景を求め、日本全国を旅しながら撮影。桜を追いかけて全国を旅する女性カメラマンとして、TBS系のTV番組に出演。2005年頃から再び、地元である京都の風景や行事を中心に撮影、現在に至る。

 2007年度クラレ社の企業カレンダー(B3サイズ14枚)
 JR北海道 2007年春の海峡物語キャンペーンポスター(2007年4月著)      ほか

夢は「今までの旅で撮影した写真をフォトエッセイ集としてシリーズで出版すること」


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