燃える秋


今年もいよいよ、実りと紅葉の季節がやってきました。
といっても、京都市内の紅葉のピークは、11月中旬頃なのですが、自称、「旅する京女」の私としては、10月から紅葉前線が始まっている北海道や東北、信州などの山岳へ行きたくて仕方ありません。でも10月は、京都でも秋祭シーズンの真っ最中。毎年、他府県の紅葉をねらうか?それとも京都のお祭をねらうか?・・・迷いの季節でもあります。
秋の京都では、北野天満宮の「ずいき祭」、北白川天神宮の「高盛御供」など、収穫感謝系のお祭が続きます。あちこちでお神輿がかかれ、神楽や舞楽が奉納され、お祭カメラマンの体力がそろそろ限界に近づく頃、皆さんご存知の「時代祭」が行われます。今年は新たに室町時代が登場して話題になりましたね。
時代祭と同じ10月22日の夜に行われる、京都の三大奇祭のひとつ「鞍馬の火祭」など、10月後半から11月には、火に関するお祭も多いようです。
「鞍馬の火祭」は全国的に有名ですが、京都には他にも、真夜中の2時頃から始まる「石座の火祭」、何十基もの提灯と花傘の行列が美しい「保津の火祭」があり、こちらもなかなか素敵なので毎年楽しみにしています。
火祭だけでなく、11月になるとあちこちの神社で「お火焚き」が行われます。急に冷え込んでくるこの時期に、炎の熱さがありがたいお祭です。

ズイキなど、色んな野菜類で作られている「ずいき神輿」
さて、数あるお祭の中でも、炎の迫力では鞍馬の火祭が、やっぱり一番でしょうか。また、観光客密度がものすごく高いので、京都のお祭の中で一番撮影がしんどいのも、このお祭。そういえば、昔、まだ普通の社会人だった頃、ふと、思いついて、通勤帰りにそのまま叡山電車に乗り込んで、鞍馬の火祭へ行ったことがありました。

ぎゅうぎゅうの満員電車に乗って鞍馬駅に着いて、やっぱりギュウギュウの人ごみに揉まれながら、「立ち止まらないで下さい!」と叫ぶ警察官の誘導にしたがって由岐神社の石段下をかすめて歩き続け、そのまま流れに身をまかせているうちに駅に戻って帰路につく・・・今から思えば「火祭の現場を通ってきた」だけの冒険でしたが、市内中心部よりずっと冷え込む鞍馬の地で、燃え上がる大松明を見て、その熱を感じただけで大満足して、「私、鞍馬の火祭、行ってきた!」と自慢しまくっていました。
でも鞍馬の火祭の魅力は大松明だけではありません。足を逆さ大の字にした青年を担ぎ棒にくくりつけたまま、お神輿が急な石段をおりていく「チョッペン」(大人デビューの儀式だとか)、お神輿の後ろには鎧姿の若武者が立っていたりと、奇祭の名にふさわしい、ちょっと珍しいお祭なんです。
しかも、お祭は真夜中の1時半頃まで続きます。唯一の公共交通手段である叡電の終電時刻は0時20分過ぎ。今までは、町中を巡行した二基のお神輿がお旅所に帰ってくるのを見届けてから、駅に走ってギリギリ間に合う終電に乗り込んでいました。
毎年、「この後、何があるんだろう?」と後ろ髪を引かれながら帰っていたのですが、ついに今年はお祭の最後まで粘ってきました。
私の知らなかった終電後のお祭は、こんな感じでした。
太鼓と鐘が鳴り響く中、お神輿の前で大松明を背負った若衆が左右二つの焚き火の周りをぐるぐる廻り、最後に大松明を火にくべます。その火で炙ったスルメとお神酒が配られるうち、少しずつ、人が減っていき、気が付くと残っているのは、夜通しお神輿のお守をする白い衣の方が数人、お祭マニア数人と、白人系の外人が20人ばかり。
さっきまで賑わっていた群衆が消え、急にだだっ広く、肌寒く感じる京都の山奥のお旅所。まだ松明が燃え続けている焚き火と、きらびやかなお神輿を前に、浮かび上がる人影は、よく見ると日本人より外人のほうが多い。もれ聞こえてくるのも異国の言葉・・・ちょっと不思議な感じがしました。
11月の風物詩、お火焚きでは、お稲荷さん(伏見稲荷大社)のお火焚きが特に迫力あります。白い水鳥が翼を広げて羽ばたくように、大きく袖を振りあげ、束ねた護摩木を燃え上がる炎に投げ入れる神職さんの所作には、美しささえ感じます。
もう少し、小規模のお火焚きの場合、その火であぶったミカンが振舞われたりするのですが、お稲荷さんで燃やすのは護摩木だけです。
その代わり、神事終了後、柄の長い特製スコップで炭を拾う信者さん達がいました。炭といっても、まだまだ燃えていますから、拾い上げた炭はバケツの水にジュッと浸けてから袋に入れています。炭だけでなく、火床を覆っていた焦げたヒバも持って帰ります。たくさん実がついている枝がいいそうです。これを家の周りの四方に置くと厄除けになるのだとか。(例によって、この手の話は神社公認ではないようですが)
私も火傷しそうになりながら、手や服を真っ黒にして集めました。ヒノキで組み立てられた火床やヒバの枝からは、ほのかに清涼な香りがします。ヒノキ花粉症の私は、気のせいか、鼻粘膜が少々過剰反応してしまいましたが。(笑)
ところで、みなさん、火のあるお祭に、フリース(化繊)の服は厳禁ですよ!軽くて暖かいフリースですが、火の粉が落ちると、猛烈な勢いで溶けていきます。
実は私も一度だけ、やってしまいました。
「変な匂いがするな〜」と思ったら、自分の腕(のフリース)が燃えていて、どんどん焼け穴が拡がっていきます。幸い、近くに水があったので、大慌てで水をかぶりましたが、怖かった〜 あれ、ほんとに危ないです。火の用心、火の用心。
お火焚きのシーズンが佳境を迎える頃、こんどは木々の葉が燃えるように色づき始めます。いよいよ本格的な秋の観光シーズンの始まりです。

文・写真:星野 佑佳

■星野 佑佳(ほしの ゆか)
京都市生まれ、在住の女性カメラマン。エッセイニスト。
2000年、海外放浪の撮影旅に出、帰国後自然風景や旅風景を求め、日本全国を旅しながら撮影。桜を追いかけて全国を旅する女性カメラマンとして、TBS系のTV番組に出演。2005年頃から再び、地元である京都の風景や行事を中心に撮影、現在に至る。

 2007年度クラレ社の企業カレンダー(B3サイズ14枚)
 JR北海道 2007年春の海峡物語キャンペーンポスター(2007年4月著)      ほか

夢は「今までの旅で撮影した写真をフォトエッセイ集としてシリーズで出版すること」


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