残り美


怒涛の紅葉シーズンが終わり、ほっと一息つきました。
今年の秋は、なかなか寒くならず、木々の色づきの遅れが心配されましたが、さすがは観光地京都。
ラストスパートの急激な冷え込みで、紅葉の見頃をしっかりと23日からの連休に合わせてきましたね。
空に映える赤黄色真っ盛りの紅葉も素敵ですが、京都は散紅葉も絵になります。
むしろ散りの時期にこそ行きたくなるお気に入りの場所がたくさんあるんです。
真っ赤な紅葉が緑苔の上にはらりと落ちている風情や、厚手の絨毯のように広がる散紅葉の絢爛さは、散りゆく姿まで計算されつくした京都ならではの粋な美しさなのかもしれません。

散紅葉を楽しむなら、なんといってもお勧めなのが、「厭離庵」
ビロードのような苔の上に、真紅の大きな紅葉が、惜しみなく敷きつめられる贅沢さは格別ですし、紅葉の中にちょこんと佇む小さな石仏さんも可愛いんです。

同じ嵯峨野周辺の「祇王寺」も散紅葉の名所。平家物語の悲恋をしのばせる庵をバックに、はらはらと紅葉が積もっていきます。
少し離れますが、「鹿王院」の参道も、お勧めしたい場所のひとつです。
散紅葉の名所では、西山三山のひとつ、「粟生光明寺」もはずせません。表参道と、東側の参道があるのですが、私が好きなのは「もみじのトンネル」「紅葉参道」とも呼ばれている東側。しっとりした雨の日がお勧めです。
京都中心部からはちょっと離れている西山ですが、他の二山である善峯寺、揚谷寺の他、金蔵寺や勝持寺、大原野神社など、紅葉の綺麗な場所が沢山あります。ただ、その辺りの紅葉のピーク時には、まだ光明寺の紅葉は散っていないので、いっぺんに鑑賞できないのが残念。でも、二度足を運ぶだけのことはあると思います。
散紅葉の穴場でお気に入りなのが、「鷹ケ峯吟松寺」と「葉室山浄住寺」。
鷹ケ峯といえば光悦寺や源光庵が有名ですが、そこから歩いて7分ほどの吟松寺は、最近でこそタクシーの運転手さんに連れられて訪れる観光客も増えてきましたが、まだなんとか物静かさを保っている隠れ名所です。ここは観光社寺ではないため、中には入れませんが、北山杉を背景にしたロケーションで、紅葉最盛期も素晴らしく、坂の上から境内を見下ろすもよし、入り口から眺めるもよし、散紅葉の参道もよしと、色んな楽しみ方ができます。
葉室山浄住寺は、静かに紅葉を味わえるお寺でした。
地元の方がお散歩がてらに訪れる場所のようで、参拝者同士が、「あら、こんにちは」「今年も綺麗に色づきましたね」と声を掛け合う様子がとてもいい感じでした。
参道の入り口で写真を撮っている私を見た地元のご婦人が、このお寺には珍しい竹があることやご住職のお人柄などを説明してくれ、「上のほうも素晴らしいので、ぜひ行ってみてください」と、同行してくれました。でも、どうやら心臓に持病を抱えておられたらしく、階段を上りながらの説明に、どんどん息切れがひどくなり、途中で「私はここで失礼します」と戻っていかれました。しんどい思いをしながらも、地元の素晴らしさを伝えようとする姿に、じーんと熱いものを感じました。
毎年、行きそびれてしまうのが「京都御所」。
京都のど真ん中にあり、桜も紅葉も見応えのある御所ですが、広い敷地全体が砂利なので、重い機材を積んだ自転車族の私は、つい避けてしまいます。
今年は桜紅葉の散り際に、なんとか駆け込むことができました。
来年こそはじっくりと撮りたい場所のひとつです。
落葉が美しいのは楓だけではありません。金色のイチョウが敷きつめられた風景もいいものです。
今年は、「大徳寺」のイチョウ並木を撮りに行きました。土塀と並木の間にイチョウがフワフワと積もっています。
銀杏の実が落ちた木の周りでは、独特の香りが漂っているのも、秋の風物詩ですよね(笑)。
ついでに、「大徳寺塔頭の高桐院」の参道にもお邪魔しました。今年は訪問が遅すぎて、参道の散紅葉はすでに落葉色に変わっていました。もう少し早い時期なら、お寺の中にある散紅葉のお庭が楽しめます。これも来年の宿題ですね。
「紅葉観光には遅すぎた」という方のお助け聖地が、「鹿ケ谷の安楽寺」石段の散紅葉。
京都で最も遅くまで楽しめる紅葉としては、「下鴨神社の糺の森」が有名ですが、ここ、安楽寺の散紅葉も、毎年12月になってからが素敵です。期間限定で公開されるこのお寺、散紅葉の頃にはすでに拝観謝絶になっていますが、入り口外の石段の散紅葉を見ることはできます。
さて、食いしん坊の私としては、花より団子、いえ、紅葉より旨いもん、昔から中風封じの厄除けとして親しまれている冬の京都の風物詩「大根焚き」をちらりとご紹介。
大根焚きといえば師走12月のイメージがありますが、大根焚きの皮切りは、紅葉が盛りの11月下旬、暦でいう小雪の頃に、大覚寺門前の覚勝院で行われます。
その後、12月に入ると、宇多野の三宝寺、千本釈迦堂、鳴滝了徳寺、岩倉妙満寺(数年前から始められたそうです)とあちこちで大根焚きが行われます。年が明けても1月15日には法住寺、2月の初午に三千院でも行われています。
同じ大根焚きでも、千本釈迦堂はまん丸い聖護院大根、了徳寺は篠大根を使っていたりと、それぞれにこだわりが。もちろんお味も違うので、食べ比べてみるのも面白そうです。
ちなみに大根焚きにはふっくらと煮込まれたキツネ色のお揚げがついているのですが、私は大根よりも、このお揚げが好きだったりします。柚子ご飯(別途有料)がセットになっている所もあるので、お昼ご飯代わりにいかがでしょう。
ところで大根焚きは、一椀500円から1000円と、それなりのお値段がするのですが、11月の第三日曜日、六孫王神社のお火焚祭で振舞われる大根焚きは、なんと無料。お味もいけてます。お火焚ならではの定番アイテム「焼きミカン」も振舞われます。

名残の紅葉を楽しみ、大根焚きで厄除けして、しばしほっこり休んだら、そろそろ大掃除と年賀状の準備に追われる年末の到来です。

文・写真:星野 佑佳

■星野 佑佳(ほしの ゆか)
京都市生まれ、在住の女性カメラマン。エッセイニスト。
2000年、海外放浪の撮影旅に出、帰国後自然風景や旅風景を求め、日本全国を旅しながら撮影。桜を追いかけて全国を旅する女性カメラマンとして、TBS系のTV番組に出演。2005年頃から再び、地元である京都の風景や行事を中心に撮影、現在に至る。

 2007年度クラレ社の企業カレンダー(B3サイズ14枚)
 JR北海道 2007年春の海峡物語キャンペーンポスター(2007年4月著)      ほか

夢は「今までの旅で撮影した写真をフォトエッセイ集としてシリーズで出版すること」


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