京都年末年始〜お餅とお粥


京都の年末年始は行事も盛り沢山。
もちろん大晦日〜元旦は、京都中のお寺や神社で繰り広げられる除夜の鐘と初詣の撮影で大忙しです。京都の行事を撮り始めてから、新年が始まる時間に、家にいた試しがありません(笑)
年が明けても、書き初めにカルタ始めや蹴鞠始めなど、色んな行事始めが目白押し。
この期間、人一倍、お正月行事を見ているにも関わらず、かつての寝正月とのあまりの違いに、かえってお正月気分を実感できないまま、今年も小正月が過ぎてしまいまいました。

お正月といえばお餅。私はお節料理より、お餅を食べるのが楽しみです。
でも残念ながら、餅つき風景って、あまり見かけませんよね。昔は年末には必ずお餅つきをしていたはずなのに、今はどこのスーパーでも一年中お餅が売っているからでしょうか。

私が行ったことのある京都市内の餅つきは、11月1日護王神社の亥子祭(亥子餅はゴマやピーナッツなど何種類かの粉を混ぜ込んである茶色いお餅)、12月23日引接寺、通称千本えんま堂の小野篁忌(たかむらき)、1月8日京都えびす神社の宵々えびすの3箇所。

えべっさんの丸餅は、残り福の1月11日、福笹を買った参拝客に舞妓さんから手渡ししてもらえます。よく見ると舞妓さんは「稲穂」の髪飾りをつけています。本物の稲穂です。ご注目!
餅つきのなかでも印象深かったのは千本えんま堂。
えんま堂の開基である小野篁は平安時代の歌人で、昼は朝廷に仕え、夜は冥府へ通い閻魔様に仕えていたといわれています。小野篁の命日といわれる12月22日の翌日、えんま堂では、閻魔様にお供えする大きな鏡餅と、檀家信徒さんに配る丸餅を作ります。30sもの餅米を、何時間もかけてついては丸め、ついては丸め。延々と続く餅つきを、延々と撮り続ける私。最初は夢中で撮っていたものの、そろそろペースが落ちてきたなという頃に「見てるだけやのうて、餅、ついてみいへんか?」と促され、飛び入り参加させてもらいました。ご褒美には、つきたてのお餅が。
あんこやきな粉、大根おろしから好きなものを選んで、まだあたたかいお餅と一緒に頂きます。ここでは、あんこをお餅の中に包み込んで食べるのが通のようで大人気。私のお薦めは大根おろしかな。
お正月には、あちこちの寺社で、鏡餅がお供えされます。
道端のお地蔵さんにも、ちゃーんとお供えされているんですよ。
この御供えされたお餅は、正月明けの七草粥や小豆粥に入れられることが多く、お接待のお粥をよそおうおばさんも、「ただのお餅やないんよ。神様(仏様)のおさがりやから、ご利益あるえ」と自信ありげです。
お正月にお供えされたお餅は、お正月飾りを燃やす「とんど」(左義長)で炙ってから参拝者に授与されることも多いようです。
平岡八幡宮では、とんどの火で焼いたお餅を、竹で挟んで醤油餅にして振舞って頂けます。これがすごく美味しいんです。
新熊野神社でも、とんどの火でさっとあぶられたお餅が、おさがりとして配られます。こちらはお持ち帰り用です。
餅といえば、食べるだけじゃなく、餅花という可愛らしいお正月飾りもありましたね。
楊などの木の枝に紅白のお餅をくっつけた餅花は、京都だけの風習ではないのですが、花街や老舗の店先で見かける餅花には京都ならではの風情を感じます。
さて、年末年始で疲れた胃袋に優しいのがお粥。
1月7日は七草粥、1月15日は小豆粥を食べるというのが昔からの慣わしですが、当日、これを振舞う寺社は案外少ないんです。
「自分のうちでやりましょう」ってことなんでしょうが・・・
お粥自体は味が薄いため、美味しく食べられるように色んなオプションがあるのも楽しみです。

春の七草を刻んだ七草粥のお接待があるのは、上賀茂神社(500円すぐき付・餅入り)、御香宮神社(300円塩昆布付・餅入り)、西院春日神社(300円柚子風味の小芋付)、福王子神社(無料・お漬物付・こんがり焼いたお餅が嬉しい。)、城南宮(旧暦の正月7日に近い2月11日に行う・450円・餅入り)
七草粥のお接待で穴場なのが福王子神社。
福王子神社は小倉百人一首にある「君がため 春の野に出でて若菜つむ わが衣手に 雪はふりつつ」の作者、光孝天皇の奥様が祀られている神社。お二人の子供である宇多天皇が、料理好きだった父を偲び、当時中国の風習だった七種粥を宮中にとり入れたのが七草粥の始まりだとか。これにちなんで地元のご婦人の発案で、春の若菜を使った七草粥のお接待が、6年ほど前から行われているそうです。宮司さんの「日本の良き風習を伝えていきたい」という思いがこめられた心温まるお接待です。
小豆粥のお接待があるのは、下鴨神社(300円お餅入り・塩味)、西本願寺(無料・塩昆布)、泉涌寺塔頭戒光院(志納・ユカリ付)。
妙心寺塔頭の東林院では、ちょっと贅沢な小豆粥が頂けます。(1/12~31 福茶と祝菓子&小豆粥と精進料理 3700円) 
小豆粥のお膳が運ばれる部屋に入ると、見慣れぬものが置いてあります。板のような器に無造作に小豆粥が盛ってあるんです。これ、さば(生飯・施食)といって、食事を頂く前に、自分の分から少しだけ小鳥や小動物にも分けてあげましょうという禅寺で行われる儀式だそうです。というわけで、まずは一箸分の小豆粥を寄付、これは後でお庭に置かれた器に移されるそうです。そういえば、お庭にも小豆粥の入った器がありました。ちょっとしたことですが、素敵な儀式ですね。
小豆粥取材の果てに、「粥占」なる神事に興味をもった凝り症の私。
「粥占」は、御粥を煮る時に竹筒を入れて、中の空洞にどれだけお粥が入ったかによって、その年の収穫を占うもの。神聖なる神事ゆえに非公開の所が多いのですが、幸運にも、ある神社で粥占の神事を拝見させていただきました。
神事は夜半、宮司さんが米を研ぐところから始まり、薪火にかけられたお釜に、お米、小豆、お神酒、お塩などを入れた後、早稲、中稲、晩稲、小豆など、何種類もの作物の名札をつけた竹筒が入れられます。
そして、御粥が出来上がるまで、待つこと2時間。
出来上がったらお釜ごと神前に運び、取り出した竹筒を半分に割っていきます。
竹筒についている名札によって、「その作物が実る頃の天気」が予測されるそうです。これがバッチリ当たるとか・・・神秘です。
さて、おさがりの小豆粥。
ピンク色に染まった小豆粥は、2時間煮込んだだけあって、ふっくら柔らかい小豆と、とろりと蕩けそうなお粥。最高に美味でした。
ちなみにここのオプションは砂糖と塩。塩は清めの意味で、釜の蓋に盛られていた塩を使います。3年分位ご利益がありそうな小豆粥でした。

どうやら今年もよい一年になりそうです。

文・写真:星野 佑佳

■星野 佑佳(ほしの ゆか)
京都市生まれ、在住の女性カメラマン。エッセイニスト。
2000年、海外放浪の撮影旅に出、帰国後自然風景や旅風景を求め、日本全国を旅しながら撮影。桜を追いかけて全国を旅する女性カメラマンとして、TBS系のTV番組に出演。2005年頃から再び、地元である京都の風景や行事を中心に撮影、現在に至る。

 2007年度クラレ社の企業カレンダー(B3サイズ14枚)
 JR北海道 2007年春の海峡物語キャンペーンポスター(2007年4月著)      ほか

夢は「今までの旅で撮影した写真をフォトエッセイ集としてシリーズで出版すること」


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