
花咲く季節
今年も桜に促されるように、春の花々が咲き乱れる季節となりました。
京都中を薄桃色に包み込んだ染井吉野が爽やかな新緑に変わっても、松尾大社の山吹や、長岡天満宮のキリシマツツジ、伏見の桂川沿いの菜の花、乙訓寺の牡丹など、京都の4月は百花繚乱。5月に入ると上御霊神社のイチハツや大田神社の杜若など鮮やかな紫色の花も加わって、花好きにはたまらない季節です。
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とはいうものの、花といえばやっぱり「桜」。
でも一言に桜といっても染井吉野ばかりじゃないんです。
出町柳にある長徳寺のおかめ桜や百万遍・知恩寺のふじ桜、車折神社の河津桜などは三月中旬から咲き始め、続いて御所の糸桜、祇園白川や醍醐寺の枝垂れ桜が咲く頃には、誰もがみんな浮き足立ってきます。そしていよいよ、あちらこちらで一斉に染井吉野が咲き乱れる桜本番を迎えます。
染井吉野が散ってからも、紅枝垂れ、八重桜と、年によっては4月末まで桜を楽しめるのが京都の魅力。京都市内という狭いエリアで、約一ヶ月間も桜が咲き続けるのは、ものすごい底力だと思います。この桜密度は世界一なのではないでしょうか?
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ところで、京都の桜で最後に咲くのは、仁和寺の御室桜だと思っていませんか?
低木で「花(鼻)は低とも人は好く」とお多福桜の愛称もある御室桜は、確かに後半組ではありますが、もっと遅くに満開を迎える桜も結構あるんです。
桜巡りに少しゆとりが出てくる4月の半ば、御室桜と同じ頃に見頃を迎えるのは、原谷苑や平安神宮神苑の紅枝垂れ。そして、右京区京北町にある常照皇寺の九重桜。
更にその一週間後位に満開になるのが、同じく常照皇寺の御車返しの桜と、そこから車で5分ほど走った場所にある黒田の百年桜です。
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幹に大きな穴が開いてしまって、ちょっと痛々しい感じの常照皇寺の九重桜は、国の天然記念物に指定されています。私も春の常照皇寺といえば、いつもこの九重桜を目指して訪れていました。九重桜が満開の頃、同じ境内にある御車返しの桜はまだ蕾です。
この御車返しの桜は元々の古木が数年前に枯れてしまって、今はその子供の木が植えられています。まだ若い木なので、それほど大きくありません。
だから、正直なところ、そんなに期待していませんでした。
ところがです。これが満開になると見事! 蕾の時には想像できないほどの見応えです。
この桜、一枝から一重と八重の花が一緒に咲くという珍しい桜だそうで、「御水尾天皇が一旦通り過ぎた後、一重か八重かを確かめるために、御車を引き返した」のが名前の由来だとか。華やかなピンク色の黒田の百年桜も、同じように一重と八重が同時に咲く珍種ですが、花の色が明らかに違うので、関連性はないようです。
少し離れますが、清水寺境内にある地主神社の地主桜も、一重と八重が同時に咲いていました。(現在の地主桜は、桜守で有名な佐野藤右衛門さんが近年に献木されたそうで、まだ幼木です。)一重と八重の競演、そういう桜だと知らないと案外見逃しがちですが、よく見ると木によって八重が多かったり一重が多かったりするのも面白いですね。一度、ご自分の目で確かめてみては?
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京都の桜の最後を飾るのが八重桜。
数年前までは八重桜って桜餅を連想させるばかりで、花としての魅力はあまり感じなかったのですが、梅宮大社でツツジと一緒に咲いている八重桜を見てから、ちょっと視点が変わりました。
気をつけてみると八重桜って、けっこうあちこちで咲いているんですね。
御所の小川の出水の八重桜も絵になりますし、六孫王神社や妙蓮寺、北野天満宮でも美しい八重桜に会えます。二条城前の堀川通りや京都地方裁判所の東側など、八重桜の並木が道路沿いを何気なく彩っているのも見逃せません。
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そしていよいよ私の京都の桜巡りは、雨宝院の歓喜桜と千本えんま堂の普賢像桜でフィナーレを迎えます。
どちらも散り姿が素晴らしいので雨あがりが最高です。
特に千本えんま堂の普賢像桜は、八重の花がそのままの形でボトリと散るので、桜の木の下はピンクのふわふわの絨毯が敷きつめられたようになります。素敵ですよ。
もう何年か前になりますが、早朝にえんま堂境内にある紫式部供養塔の前で、どっしり構えて撮影していると、庵主さんが朝のお勤め(読経)に来られました。慌てて場所をあけようとする私に「どうぞ、そのまま、そのまま」と気を使ってくださり、私の隣で読経されました。
桜の魅力もさることながら、庵主さんの優しい気持ちが伝わってきて、とても幸せな気分になりました。桜を慈しみ、花見にきた人を温かく迎えてくれる・・・素敵な春を頂きました。
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文・写真:星野 佑佳
■星野 佑佳(ほしの ゆか)
京都市生まれ、在住の女性カメラマン。エッセイニスト。
2000年、海外放浪の撮影旅に出、帰国後自然風景や旅風景を求め、日本全国を旅しながら撮影。桜を追いかけて全国を旅する女性カメラマンとして、TBS系のTV番組に出演。2005年頃から再び、地元である京都の風景や行事を中心に撮影、現在に至る。
2007年度クラレ社の企業カレンダー(B3サイズ14枚)
JR北海道 2007年春の海峡物語キャンペーンポスター(2007年4月著) ほか
夢は「今までの旅で撮影した写真をフォトエッセイ集としてシリーズで出版すること」
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