もみじ絵 

今年の秋はお天気のいい日が多くて、気持ち良かったですね。
皆さん、紅葉狩りの収穫は如何でしたか?
私も紅葉の季節の2週間あまりは、小春日和の京都市内を自転車で走りまくりました。
観光シーズンは自転車が一番便利で速いんです。渋滞中の車を横目にスーイスイと走りぬける・・・のではなく、細い裏通りを進みます。市内中心部の観光渋滞は、自転車さえも通り抜けられないほど混むんですよ。
それほどの観光客が来られるだけあって、秋の京都は見所一杯。何年もかけて、毎日休まず撮っていても、まだ「あそこも」「ここも」とキリがありません。12月を迎えても、散紅葉や名残りの紅葉の美しさに、なかなか紅葉モードから脱出できません。数日前の激しい雷雨で、ようやく秋にお別れを告げる気になり、やっと一息ついたところです。
京都で紅葉といえば、赤いイロハ楓。昔から赤い紅葉ばかり見ていたので、日本全国そんなものだと思っていました。でも他の地域では真っ赤な紅葉にお目にかかることって案外少なくて貴重なんですね。黄金色に色づく樹の方が圧倒的に多いようで、京都の紅葉は「やっぱり特別?」とちょっぴり嬉しくなったりもします。
ところが、今年の京都の紅葉は、赤い色が少なかったように思います。
例年なら赤色に染まるはずが、黄色から中途半端なオレンジ色になるのが精一杯で、そのままひからびてしまう木に度々遭遇しました。
赤の中でも、深緑から真紅に変化する種類の紅葉は綺麗に色づいたようですが、たいていは緑から黄色、そして赤へと移り変わるタイプの紅葉です。また、そのグラデーションが魅力でもあるのに、「もうそろそろだな」と待っているうちに茶色くなってしまったり・・・遠目に見ると綺麗でも、近くで葉っぱをよーく見ると、チリチリに縮まっていることもしばしば。紅葉にとって、今年の気候は厳しかったのかもしれません。
こんな事情もあり、最初はなんとか粗隠しをしようと工夫した結果、「額縁もみじ」を撮りはじめました。そのうち、「額縁」の魅力にはまってしまい、いつのまにか見事な紅葉に出会っても「額縁視点」で撮影に勤しんでいました。
確かに、画面一杯にバーンと紅葉を写しこみ、「どうだー」って感じもいいですが、
雄大な自然というよりは緻密に計算されつくしたお庭が魅力の京都です。紅葉も柱も屋根も床も全部ひっくるめて「一枚の絵」として味わうのも、京都ならではの楽しみ方かもしれません。

さて、京都には「額縁庭園」と紹介されているところが沢山あります。そういう場所だとわかっていても、お部屋に入り、目の前にぱっと鮮やかな紅葉が現れると、思わず近くへ近くへと歩み寄ってしまう私。そうすると次に来た人も隣に座り、その次の人も・・・電線に並んだ雀みたいになってしまいました。
「ここは離れたところから、額縁的にお庭をみるのがいいんですよ」
後ろでタクシーの運転手が、連れてきたお客さんに説明しているのが聞こえます。
縁側にずらりと座り込んだ先客達に、心なしかイラついているような(笑)

でも「美しいもの」に出会った時の、「もっと近くで見たい!」という衝動のままに、まずは視界全部に赤・黄・緑の庭木や石や水で作りあげられた「自然的風景」を眺めるのもいいものです。
ちょっと落ち着いたら、今度は少し離れてお部屋ごと、お庭を眺めます。
さっきの「自然的風景」が、今度は「一枚の絵」になります。
近づいたり離れたり・・・同じお庭なのに、たった数メートル移動するだけで様々に変化する・・・京都のお庭は私達を名画家にしてくれます。
ただ、やっぱり「額縁庭園」として有名な所では、あんまり縁側でウロウロしないほうがいいかもしれませんね(笑)
自分のペースで「もみじ絵」が楽しめる私のお薦めは、八瀬の瑠璃光院、小野小町由来の随心院、建仁寺などです。
瑠璃光院では、一階のお茶席から、「瑠璃の庭」の全体像、目の前に広がる緑の苔と紅葉の木々が眺められますし、二階からは紅葉の色づいた部分を、窓越しにパノラマで楽しめます。まるで立体化絵巻物が現れたような、現実離れした贅沢さです。
随心院は紅葉を眺めながら渡り廊下を進み、最後には目の前で色とりどりの紅葉をたっぷりと味わえます。ライトアップも浮かび上がる紅葉が見応えありました。私が訪れたのは「小町忌」の日で、十二単衣のお姫様(ミス小野小町)にも会うことができましたよ。

建仁寺では、四方の渡り廊下から鑑賞できる潮音庭も素敵だったのですが、「私的紅葉賞」は双龍図のあるお堂から眺めた紅葉です。出口の向こうに燃えるような赤い紅葉を見つけた時は、息を呑みました。
外ばかり見ている私に、天井の龍達も「おい、どこ見てんだ?!」と、不思議がっていたかもしれません。
「もみじ絵」はお庭だけに限りません。
秋の京都は、どこを見ても紅葉・・・というより「紅葉が描かれた絵画」で溢れています。
南禅寺の三門の太い柱と柱の間から見る紅葉、神宮道の朱色の橋の背景に続く桜紅葉、二尊院では勅使門(唐門)が紅葉をそのまま絵の中に封じ込めています。この唐門がまた、威厳があってかっこいいんです。
唐門といえば、古知谷の阿弥陀寺参道にある白い唐門と紅葉の組み合わせも絵になります。
ここから本堂までは急な山道を登らなければならないのですが、一帯に清らかな空気が漂っていて、まるで別世界です。
唐門をくぐったら、ぜひ振り返ってみてください。
「あれ?さっき、くぐる前に見た紅葉と違うみたい」
そんな不思議な感覚を呼び起こす唐門は、結界の役目も担っているのかもしれません。
紅葉を飾るフレーム以外にも「紅葉の景色」を「もみじ絵」に変えてしまうエッセンスは色々あります。
石段の散紅葉が美しい安楽寺や毘沙門堂では、突当りに見える門が、もみじ絵に生命を吹き込んでいます。
安楽寺の散紅葉は毎年12月に入ってからで、以前は特別公開終了後。そのため門はピシャリと閉まり、おまけに「拝観謝絶」の立て札まで立っていました。
今年は12月の初めまで公開されていたようで、開けられた門の向こうにも色づいた木々が見えました。画面では小さな小さな門ですが、それが開いているだけで、こんなにも視界が拓けることに、感動さえ覚えました。
窓越しに紅葉を見る楽しみも忘れちゃいけませんね。
鷹が峰・源光庵の丸い「悟りの窓」と四角い「迷いの窓」や、東福寺塔頭・光明院の吉野窓は有名ですが、探してみるとあちこちに色んなデザインの窓があり、「窓越し紅葉」を楽しめます。障子付の窓は、開閉できるところが多いので、開け具合で色んな絵に仕上がります。
もっと奥ゆかしく、締め切った障子越しに見る「透かし紅葉」も、想像力をかきたてます。
こちらは上賀茂神社で催されていた香梅会のワンシーンなのですが、ぼんやりと浮かびあがる紅葉のシルエットに、ほのかな色気さえ感じました。このまま時間を止めてしまいたい・・・そんな想いを写しこめたらと、息を殺しながらシャッターを押し続けました。

ふぅー。今年も色んな「もみじ絵」ができあがりました。
色鮮やかな秋が終わり、これからクリスマスにむけて、町にはイルミネーションが輝きます。それから雪化粧の京都も待ち構えています。冬の京都も楽しみですね。

文・写真:星野 佑佳

■星野 佑佳(ほしの ゆか)
京都市生まれ、在住の女性フォトエッセイスト
00年 海外放浪の撮影旅へ出発、帰国後自然風景を求め、日本全国を旅しながら撮影。
05年頃から、旅のかたわら、地元である京都の風景や歳時記を撮影、現在に至る。
夢は「旅の風景写真や京都の写真を、フォトエッセイ集としてシリーズで出版すること」
ホームページ『京都発 地球のうえ 〜 旅の風景写真&京都の写真集』主催。

写真を担当した一般書に「京都12ヶ月 年中行事の楽しみ方」(ダイヤモンド社)、「京暦365日」(らくたび文庫ワイド版)、「旧暦びより」(コトコト社)、「京の茶の湯遊び」(らくたび文庫)等がある。
また、全国の風景写真を企業カレンダーやポスターに提供している。


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