
冬の蛍
冬。紅葉の鮮やかな色が消え、枯れ色になった京都。雪化粧の京都は素晴らしい眺めですが、いつ雪が降るかなんて予測できないので、旅行者にとっては運任せのサプライズ。
どうしても景色が地味になってしまうオフシーズンの京都ですが、美味しいものを食べながらゆっくりと観光したい方や、「冬の特別拝観」で普段は非公開の寺社を巡りたい方など、何度目かの京都旅行リピーターにはお薦めの季節です。
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そして冬の京都に来られたら、ぜひ寄り道してもらいたいのが夜のイルミネーション。
シンシンと冷え込む夜をほんわか暖かい雰囲気に変えてくれるオレンジ色の灯りや、厳かさを感じさせてくれる水色の明かり。
あちこちでちょこちょこと楽しめる京都のイルミネーションは、それほど派手ではありませんが、観光シーズンとは違った、しっとりロマンチックな夜を味わえます。
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京都でもイルミネーションのほとんどはクリスマスに向けての催しですが、中にはバレンタインデーや2月一杯まで点灯している場所もあります。
ツーンとした冷たい空気の中、「いよいよクリスマスやな〜」と盛り上がり、「お正月も、もうすぐや」と眺めるイルミネーション。
正月が終わり気忙しさが一段落した頃、再び目にするイルミネーションに、10代の頃には一大イベントだった「バレンタインデー」を思い出して、甘苦い(?)気分になったり・・・
チカチカと輝く光には記憶を呼びおこすスイッチがあるのかもしれません。
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京都でもっとも早くお目見えする冬のイルミネーションは11月下旬、西大路五条にある「ローム」の並木道です。京都を代表する企業でもあるロームが、14年前から敷地内の並木道に電飾をはじめ、今では京都の冬の風物詩になっています。
そしてなぜかここが一番、私に「クリスマス」を連想させるんですね。天使やトナカイの飾り、キャンドルの灯りさえないのですが、金色に輝く並木道が幼い頃にめくったクリスマスの絵本に登場していたのかもしれません。
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12月に入り秋の観光シーズン用のライトアップが終わって間もなく、入れ替わるように始まるのが「嵐山花灯路」です。
嵐山花灯路一番の見所は渡月橋。ライトアップされた渡月橋の背景には青白く浮かび上がる山。まるで冬の吐息に山が凍りつき、時が止まったような眺めです。
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ガラリと変わって法輪寺は現代アート風のライトアップで、本堂や多宝塔にカラフルな幾何学模様の映像が次々と映し出されます。
赤や緑の光が蠢く様は妖しげで、どこかしら「魔界・京都」を彷彿とさせます。 |
今年はじめて訪れた植物園のイルミネーションも素晴らしいものでした。
青や緑に光る木が合わせ鏡のように水面に映っていたり、光で模った妖精やトナカイの引くソリに、大人はもちろん小さい子供も大喜びです。光のトンネルもあれば、カップルには「二人だけの世界」風にデコレーションされたベンチまで用意されています。
その中でも植物園の方が「これが今年の目玉です」と一推しされた「夜の温室」は、入った途端に蒸気でカメラがまっ白になるほどの温かさ。そして甘い香りにうっとり。クリスマスの花・真っ赤なポインセチアの群生が咲き乱れる温室はまるで別世界で、再び寒空の下に出た時にはエデンの園から追放されたイヴの気持ちになりました(笑)
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植物園の近くにある北山通の教会も見逃せません。

毎年クリスマス前にはロマンティックなイベントが行われ、訪れたカップルは「こんなところで結婚式を挙げたいわー」と夢がふくらむ表情に。
願い事を託した小さな銀色のベルをクリスマスツリーに飾る「聖なるベル」も人気です。
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教会といえば、ミッションスクールもがんばっています。
御所の西側にある平安女学院では、生徒さん達がペットボトルを利用して作ったイルミネーションが公開され、外部の方でも楽しめるようになっています。
御所の北側にある我が母校・同志社大学にも、大きなクリスマスツリーが飾られます。
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数あるイルミネーションの中でも規模の大きさでいえば、京都駅。
巨大クリスマスツリーもすごいですが、吹き抜けの駅全体がそれとなく電飾され、その中を歩いていると気分が高揚してきます。
そうそう、1日限定ですが京都タワーも青やピンク色になるんですよ。
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新風館のイルミネーションも華やかですね。舞台ではコンサートなどのイベントも楽しめます。3月には広場に「平成女鉾」が登場して、祇園囃子を奏でたこともありました。季節はずれに聴く祇園囃子もいいものでしたよ。 |
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御池の市役所前や京都ホテルオークラにもイルミネーションがあります。通りすがりに目にする方は多いでしょうが、一度、足を止めて、出来たらエントランスまで降りてみてください。素敵です。
京都ホテルオークラやしょうざん、新風館では2月までイルミネーションが楽しめるのも嬉しいですね。
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最後のご紹介は、市内を離れて丹波方面・琴滝で行われる「冬ほたる」
行くのが少々大変ですが、自然の中に創られた光の世界はとても幻想的でお薦めです。
暗い木立の中、青白い光がどこまでも続くなだらかな坂道、このまま異次元に吸い込まれそう・・・と思いつつ進んでいくと、光に彩られた大きな滝が見えてきて・・・素敵でしたね〜 まさに「冬蛍」のイメージそのものです。
そう、蛍の光が舞う光景って、「この世」じゃない感じがしませんか?でも「あの世」でもない。どこでもない空間が、そこに浮かんでいる感じ。どこかに続いていそうだけど、どこかはわからない。そんな世界がここにあります。
冬の京都、ぜひ足を延ばしてみて下さい。 |
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文・写真:星野 佑佳
■星野 佑佳(ほしの ゆか)
京都市生まれ、在住の女性フォトエッセイスト
00年 海外放浪の撮影旅へ出発、帰国後自然風景を求め、日本全国を旅しながら撮影。
05年頃から、旅のかたわら、地元である京都の風景や歳時記を撮影、現在に至る。
夢は「旅の風景写真や京都の写真を、フォトエッセイ集としてシリーズで出版すること」
ホームページ『京都発 地球のうえ 〜 旅の風景写真&京都の写真集』主催。
写真を担当した一般書に「京都12ヶ月 年中行事の楽しみ方」(ダイヤモンド社)、「京暦365日」(らくたび文庫ワイド版)、「旧暦びより」(コトコト社)、「京の茶の湯遊び」(らくたび文庫)等がある。
また、全国の風景写真を企業カレンダーやポスターに提供している。
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