梅・桃・桜 

あかりをつけましょ ぼんぼりに〜 お花をあげましょ桃の花〜
桃の節句の雛祭・・・私は誕生日が近かったので、子供の頃はお誕生日会に合わせてお雛様を飾ってもらいました。お友達と一緒にお雛様の前でご馳走を食べたり、プレゼントをもらったり。友達から誕生日プレゼントを貰えることを前提に、あらかじめ親と一緒に「お返し」のキャラクター文房具などを買いに行くのですが、自分の好きなものを沢山選べるのが嬉しかったですね。(すぐに友達にあげちゃうんですけどね)
あの頃は杉花粉症でもなかったので、春が来るのが本当に楽しみでした。
少々愚痴ってしまいましたが、今でも「雛祭」と聞くとワクワクします。
京都の雛祭といえば、3月1日の宝鏡寺の「雛祭」(拝観料が必要ですが、人形展や太夫の舞を見ることができます)、3日の下鴨神社の流し雛(見学自由)、市比売神社のひいな祭(有料、人間雛人形が目玉です。)が有名。最近では上賀茂神社や松尾大社でも流し雛が行われています。

他にも3月3日には、三十三間堂で春桃会(瀬戸内寂聴さんの青空説法や東風檀参拝・結縁綱参拝などができます)、左京区の八大神社では草餅御供祭(蓬と餅米を搗いて、雛壇に飾られているような菱餅を作ります)が行われ、お祭カメラマンには忙しい一日です。
ところで皆さん、雛祭の桟俵(さんだわら)ってご覧になったこと、ありますか?
下鴨神社で流される桟俵のお内裏様とお雛様がとっても可愛いんです。
幼い頃、この桟俵が姉の部屋に飾ってあり、ものすごくうらやましかったのを覚えています。なんで私の分はなかったのかな。当時はお守りとは知らず、「お姉ちゃんのおにんぎょさん」として、憧れていました。
その後、下鴨神社で垂涎の的だった「おにんぎょさん」が大量に御手洗川を流れるのを目撃した時は・・・ある意味、ショック。ある意味興奮しました。
下鴨神社の流し雛では、十二単のお雛様とお内裏様が二人並んで仲良く桟俵を流した後、舞妓さんやタワワちゃんも続きます。
京都市が誇るマスコット・タワワちゃん、もちろんご存知ですよね。タワワちゃんは下鴨神社の行事に出没することが多く、今ではすっかり人気者ですが、数年前、京都タワーを模したタワワちゃんが初めて下鴨神社の流し雛に登場した時には、観客席からどよめきがおこりました。私も「えーっ」って思ったのをはっきり覚えています。
タワワちゃん、今まで私は性別なんて考えたこともなかったんですが、どうやら「女の子」だそうで、この日は十二単(らしき)衣装をつけて登場です。ピンクのリボンも似合っています。(あれ?でも節分祭の時は裃姿だった気が・・・)

この日のタワワちゃんの大仕事は、御手洗川に桟俵を流すこと。3頭身?のタワワちゃんは、お付の人に手をひかれ川べりまで降りると、ちょこんと正座。参拝客の「かわいい〜!」の声に応え、手を振ったり、投げキッスをしたり、はしゃぎモード全開です。さあいよいよ本番です。手にした桟俵を御手洗川に流そうとしたのですが・・・
あれれ?・・・届きません・・・
手が短すぎて桟俵が水面まで届きません。届く前に、タワワちゃんが頭から川に落っこちそうです。
女の子の厄を祓ってくれる神聖な桟俵です。「すぐに大人のマネをする」幼稚園児達もタワワちゃんの所作を凝視しています。祈りと感謝をこめてそっと川面に託すべく、タワワちゃんも必死で手を伸ばし、がんばったんですが・・・最後はポイっと投げざるをえませんでした。仕方ないですね(笑)

ここでちょっとしたウンチクを。雛壇に飾られている花は、実は桃ではなく「桜」だそうです。そう、御所の紫宸殿前にもある左近の桜、右近の橘です。
なるほどですが、女の子の厄除けを願う雛祭では、やっぱり桃の花も飾りたいですね。
中国では桃は仙木・仙果と呼ばれて、魔除けの霊力を持つとされるそうです。おまけに不老長寿の効力もあるんだとか。アンチエイジングを目指す女子には見逃せません。

実際に桃の花が楽しめるのは3月下旬になってから。梅や桜の名所は多いのですが、桃の花となると案外見かけません。そんな中、御所の桃林は、小さいながらもお薦めの場所。年によっては早咲きのしだれ桜も見頃を迎えています。
ちょっと逆行しますが、桃、桜に先駆けて春を告げる花といえば梅。
毎年、私の杉花粉症も、梅の開花と共に始まります。
梅の名所では、芸舞妓さんのお点前が楽しめる梅花祭でおなじみの北野天満宮や城南宮の枝垂れ梅が有名ですが、ちょっと遅れて見頃を迎えるのが山科の小野・随心院です。
随心院は、「花の色はうつりにけりな〜」の和歌でお馴染みの絶世の美女・小野小町由来のお寺。小町老後の姿である卒塔婆小町像が安置されています。
ここでは「はねず色」とよばれる薄紅色の梅が咲き揃います。この梅苑の前で3月下旬の日曜に催される「はねず踊」は、行事の少ない3月の京都では貴重な存在です。

「はねず踊」は、美貌全盛期の小野小町を慕う深草少将が、なんとか彼女の愛を得ようと百日通いをする物語が軸になっています。少将は毎夜ずっと通い続けたにも関わらず、九十九日目の大雪の夜だけ、代理の者を遣わしたそうです。ところが、その日に限って、小野小町は「あと一日残っているけど、まあいいか」と通い人を招き入れたのだとか。ところがビックリ。少将本人ではなかったので、せっかくの九十八夜通いは無駄になっちゃった・・・という悲劇のような喜劇のような物語を、小学生の女の子達が「百夜まだでも、まあおはいりと、あけてビックリ、よーおかわりじゃー」と唄い踊ります。はねず色の衣装の色合いも華やかで、お祭カメラマンとしてお薦めしたい行事です。
梅が実をつけ、桃も満開を過ぎた頃、京都は桜に包まれます。
この時期は桜を追いかけるのに必死で、もうお祭どころじゃないのですが、桜にちなんだお祭としては、平野神社の桜花祭、地主神社の縁結び祈願さくら祭(白川女の献花など)、各寺院の花まつり等があります。50品種もの桜が咲く苑を持つ平野神社は、桜好きなら一度は行っておきたい名所。
10月頃から咲き始めた桜が、冬もポチポチ咲き続け、4月8日の花まつりの頃に満開になる妙蓮寺の御会式桜も、桜マニアには必見です。私は最近知ったのですが、御会式桜の散った花びらを持っていると恋が叶うのだとか。無理やりとった花びらには効果がないそうなのでご注意を。
おっと。桜好きの日本人の中でも、極めつけの桜ファンの私。桜を語りだしたら、きりがありません。また今度、ゆっくり語らせていただきたいと思います。


文・写真:星野 佑佳

■星野 佑佳(ほしの ゆか)
京都市生まれ、在住の女性フォトエッセイスト
00年 海外放浪の撮影旅へ出発、帰国後自然風景を求め、日本全国を旅しながら撮影。
05年頃から、旅のかたわら、地元である京都の風景や歳時記を撮影、現在に至る。
夢は「旅の風景写真や京都の写真を、フォトエッセイ集としてシリーズで出版すること」
ホームページ『京都発 地球のうえ 〜 旅の風景写真&京都の写真集』主催。

写真を担当した一般書に「京都12ヶ月 年中行事の楽しみ方」(ダイヤモンド社)、「京暦365日」(らくたび文庫ワイド版)、「旧暦びより」(コトコト社)、「京の茶の湯遊び」(らくたび文庫)等がある。
また、全国の風景写真を企業カレンダーやポスターに提供している。


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