
紅葉の夜に・・・
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一年で一番多くの観光客が集まる秋の京都。「今年もいよいよ・・・」と紅葉も張り切っているのではないでしょうか。京都では11月中旬〜12月初旬が紅葉の見頃。清滝や高雄から始まり、最後を飾る下鴨神社・糺の森で華やかな秋舞台の幕を閉じるまで、2週間以上にわたって市内の何処かが紅葉で溢れ、毎日駆け回っても追いつかないほどです。昨年、私は67ヶ所もの紅葉を撮影しましたが、行きそびれている場所はまだまだあります。
おまけに最近は寺社の夜間拝観が一気に増え、嬉しい悲鳴をあげています。ライトアップといえば、夜空に浮かぶ白い桜の方が見栄えしそうですが、紅葉のライトアップもなかなかのもの。
清水寺や高台寺など東山界隈はもちろんのこと、紅葉の季節ならではの永観堂のライトアップ、南禅寺塔頭・天授庵や嵐山宝厳院の夜間拝観も毎年恒例となり大人気です。色々ありすぎて、どこに行ったらいいかと迷うところですが、「京都の夜観光は初めて・・・」という方には、まずは夕方の高台寺と夜の清水寺のコースをお薦めします。
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夜間拝観を行っている寺社はほとんどが昼夜入替え制で、日中の参拝客は一旦、外に出されてしまいますが、高台寺は例外でそのままライトアップに突入します。(2008年秋情報)
つまり、太陽光でも人工の光でも一番紅葉が美しくみえる「夕照〜薄明の時間帯」を無駄にしなくてすむわけです。特にライトアップは真っ暗になってからより空の色が少し残っている日没後30分位までが最高です。夜の高台寺は池に映りこんだ紅葉や臥龍廊が素晴らしいので、できたら風のない晴れた夜に行ってみて下さい。感動すること間違いなしです。また、清水寺は夜10時が閉門なので、他の夜間拝観やお食事の後でも間に合いそうです。秋の夜長をめいっぱい有効に使えるのが嬉しいですね。
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永勧堂と天授庵の夜間拝観もセットで行くのが効率的です。近くには南禅寺や哲学の道、法然院、少し歩きますが真如堂など紅葉の名所が色々あるので、このエリアで一日をゆっくり過ごして、夜はライトアップで締めくくるのもいいですね。
周辺の「食べもん屋さん」も充実しています。観光地ならではの有名店で湯豆腐や懐石を頂くこともできますし、白川通りや東大路通りまで出れば、学生街らしい安くて美味しいお店がたくさんあります。うどん、そば、ラーメン、パスタなどのお手軽系でも、その道のグルメファンが行列するお店が揃っています。食後には永勧堂境内の茶店で花見酒ならぬ「紅葉に甘酒」なんていかがでしょう。
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南禅寺塔頭の天授庵は私にとって思い入れの深い場所です。
ここを初めて訪れた時、方丈前庭にある幾何学模様の畳石と苔の組合せにビックリしました。それまでの「お寺の庭」のイメージを変えたモダンな模様が、江戸時代の作庭家の発案だと知り、二度ビックリ。夜間拝観では灯りの透けた障子の前でお庭を眺める参拝客のシルエットが恋愛映画のワンシーンのようで、知らず知らずのうちに見惚れていました。
このお寺にはもうひとつ、池泉回遊式庭園があります。青白く光る竹林と赤・黄色の紅葉は、その一部が水鏡に映るためかどうも距離感がつかみにくく、異空間を覗き込んでいる錯覚に陥ります。
さきほどの前庭が恋物語なら、こちらはSF・ファンタジーといったところでしょうか。同じ境内とは思えない2つの夜に出会えるのも魅力ですね。
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東山と並ぶ京都二大観光地のひとつ、西の横綱・嵐山方面の夜は意外とひっそりしているのですが、宝厳院のライトアップは見逃せません。ここは昼夜・初秋・晩秋ともに見て頂きたいお気に入りの紅葉名所。紅葉のトンネルの参道、小川の両側に広がる苔の絨毯。真っ赤な紅葉と獅子の岩・・・と境内全域が見所づくしです。
名庭の多い京都ですが、これだけ色鮮やかで広々とした「絵」の中を歩けるお庭はなかなかありません。何回訪れても満足感に浸れる大好きな場所のひとつです。
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ちょっと珍しいところでは、山科小野の随心院の夜間拝観。今年は11月15日〜30日に行われるようです。ここのライトアップは案外知られておらず、私も随心院の行事「小町忌」を撮りに行った時に初めて知りました。

小町忌は年によって日程が変わるそうですが、私が訪れた年は紅葉がちょうどきれいに色づいていました。渡り廊下越しに眺めたお庭は時が止まったように穏やかでしたが、夜に再訪するとガラリと雰囲気が変わっていました。冷たげな蛍光色を放つ苔庭は、さざ波を立てる妖しげな夜の海に。紅葉は炎を吐く灼熱の孤島のようです。不思議な魅力に吸い込まれて踏み出した自分の足音が、シンと静まり返る廊下に響いてギクリとし、思わず忍び足になったのを覚えています。
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小町忌についても少し触れておきましょうか。
世界三大美女の一人ともいわれる小野小町ゆかりの随心院では、毎年11月に「ミス小野小町」を決めるためのコンテスト「小町祭」が催されます。ここで選ばれた美しい女性達が、小町忌当日に十二単衣を着て、小野小町の法要に参加します。
他の寺社行事でも十二単衣姿の姫君が登場することはあるのですが、ほとんどが舞の披露や着付けの公開、神事の一部としてなので、どうしてもお人形さん感が否めません。
自然体な十二単衣姿の姫君達にお目にかかれる小町忌は、とっておきのビジュアル系行事なのです。
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しばらく拝観できなくなってしまった幻のライトアップもあります。
詩仙堂の近くにある圓光寺は、まだこのお寺がそれほど有名ではなかった10年以上も前からライトアップを始めた先駆け的なお寺です。
しかも光だけでなく、シンセサイザーの音楽が流れ、それに合わせて光が次々に変化するという、当時としては非常に斬新なものでした。
あっというまに圓光寺お目当ての観光客が増え、それまでは秋のシーズン中でも夕方になると静かだった界隈が賑やかになり、付近の飲食店は随分と恩恵にあずかったようです。
ところが、昼夜ずっと見られ続けることに、紅葉も疲れたのでしょうか?ライトの光が眩しくて、睡眠不足になったのでしょうか?ここ数年、紅葉の傷みが激しくなったということで、今年からライトアップは控えられるようです。今後どうされるかはわかりませんが、いつかまた見てみたいなあと思わせる夜のお庭でした。
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大原の宝泉院と勝林院でも夜間拝観が行われています。(夜は両寺共通券での拝観)
このあたりは夜になると真っ暗なので、バス停や駐車場近くに待機しておられるお寺の方からミニ懐中電灯を貸して頂きました。嬉しい心配りです。小さな明りを頼りに夜道を進み、三千院を通りこして未明橋を渡ると、正面に勝林院が見えてきました。闇に浮かび上がる様は幻想的で極楽浄土を連想させます。堂内には声明が流れ、金色に輝く阿弥陀如来像は昼間以上に神々しく、信仰心に乏しい私も思わず手を合わせました。
続いて宝泉院に入ると、さっき歩いて来た寂しい夜道はまやかしだったのかと思うほど沢山の観光客であふれていました。ただ、室内が暗いので人の多さはそれほど気にならず、思う存分、夜の額縁庭園に身を委ねることができました。
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ところで、どこの寺社でもライトアップ開門直後の時間が一番混雑するようです。むしろ遅い時間の方が空いてくるので、「ここぞ」という場所には、閉門時間から逆算して行ったほうが、落ち着いて拝観できるかもしれませんね。
裏技チックになりますが、ライトアップは「少々見頃時期を逃しても、紅葉がきれいに見える」マジック効果が高いのも利点です。
少し赤味がかったライトが紅葉をより鮮やかに演出してくれるので、例えば昼間だと見るに耐えない枯れ紅葉も、ライトアップでは生き返ります。
秋の京都は夜も魅力が一杯です。ゆっくり眠ってなんかいられませんね。
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文・写真:星野 佑佳
■星野 佑佳(ほしの ゆか)
京都市生まれ、在住の女性フォトエッセイスト
00年 海外放浪の撮影旅へ出発、帰国後自然風景を求め、日本全国を旅しながら撮影。
05年頃から、旅のかたわら、地元である京都の風景や歳時記を撮影、現在に至る。
夢は「旅の風景写真や京都の写真を、フォトエッセイ集としてシリーズで出版すること」
ホームページ『京都発 地球のうえ 〜 旅の風景写真&京都の写真集』主催。
写真を担当した一般書に「京都12ヶ月 年中行事の楽しみ方」(ダイヤモンド社)、「京暦365日」(らくたび文庫ワイド版)、「旧暦びより」(コトコト社)、「京の茶の湯遊び」(らくたび文庫)等がある。
また、全国の風景写真を企業カレンダーやポスターに提供している。
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