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円高と景気への対策で、政府と日本銀行が足並みをそろえた。国民の不安に応えようと動いたことはひとまず評価できるが、連携のあり方などについて課題を残した。日銀はきのう、臨時[記事全文]
いつものように非公開で移動しながら、さらに今回は異例ずくめだった。金正日総書記の中国訪問である。父の故金日成主席と会談して核危機を一時しのいだ元米大統領のカーター氏が1[記事全文]
円高と景気への対策で、政府と日本銀行が足並みをそろえた。国民の不安に応えようと動いたことはひとまず評価できるが、連携のあり方などについて課題を残した。
日銀はきのう、臨時の金融政策決定会合で追加の金融緩和を決めた。政府もそれに続いて追加経済対策の基本方針を発表した。
世界的な景気後退懸念の中で、欧米諸国は金融緩和と通貨安容認に傾いている。このためドルやユーロが売られ、日本の円は消去法的に買われて円高となる構造が続いてきた。
米国の景気悪化や金融緩和が見込まれているため、今後も円高の波が押し寄せてきそうだ。
日銀の追加緩和は昨年のドバイ・ショックに伴う円高を受けて始めた「新型オペレーション」と呼ばれる資金供給策の拡大だ。これによって市場の金利を全体として押し下げ、民間設備投資を刺激するなど景気テコ入れを図る。同時に、円高ドル安の誘因となる日米間の金利差縮小を防ぎ、円買い圧力を減らす策だ。
政府の追加経済対策は、4〜6月の国内総生産(GDP)で景気が予想外の失速ぶりを示したことを受けて具体化した。若者の採用促進など雇用を重視したり、企業の設備投資を国内に誘導して内需拡大につなげようとしたりする点などは評価できる。
急ごしらえで、予備費9千億円の枠内にとどめたために小粒ではある。だがこれを手始めに、新成長戦略に沿って環境・エネルギーや医療・介護をはじめさまざまな分野で雇用と需要の創出を進めるべきだ。
政府・日銀の対策が出そろう過程では、気がかりな点もある。菅直人首相は日銀の追加緩和策や白川方明総裁との会談を求め、日銀を臨時会合へ追い込んだ。これは民主党代表選に向けた実績作りの色彩も帯びた。
両者の協調は大切だが、首相はあくまで日銀の独立性に配慮した物言いや行動に徹してほしい。
毎年巨額の国債発行が続くことを考えれば、日銀の独立性を守ることがきわめて重要だ。将来、日銀が国債の引受機関と化すとの疑いを生み、日本経済に対する世界の信頼が崩壊するような事態を防ぐためにも、首相は適切な距離を保たねばならない。
日銀も反省すべき点がある。特に市場との対話のまずさが円高を助長したのではないか。総裁の会見などでは行き過ぎた円買いの芽を摘むような情報発信が重要である。
米連邦準備制度理事会(FRB)のバーナンキ議長は、内部で合意していない金融緩和の選択肢についても最近のスピーチで言及している。日銀も、慎重な言い回しにこだわる伝統の殻に閉じこもってばかりはいられない。
いつものように非公開で移動しながら、さらに今回は異例ずくめだった。金正日総書記の中国訪問である。
父の故金日成主席と会談して核危機を一時しのいだ元米大統領のカーター氏が16年ぶりに訪朝しているというのに、会いもせず、平壌に氏を残したまま中国へ向かった。
ふつうは首都・北京で外国首脳と会談する胡錦濤国家主席がわざわざ地方に出向いて金総書記に応対した。しかも、前回の訪中と会談からわずか3カ月余りしかたっていない。
よほどの事情があるのだろう。
いま北朝鮮は分水嶺(ぶんすいれい)に差しかかっている。金総書記の健康不安は、後継体制構築が急務であることを示す。
指導政党の労働党は、党大会に匹敵する代表者会を来月上旬に開く。「最高指導機関選挙」が目的だと宣告しており、統治と後継の問題が大きくからんでいるのは間違いあるまい。
そんな折の訪中だった。両首脳は友好を確認し、「国際および地域問題について見解が一致した」という。
核を開発し、危機的な経済にあえぐ北朝鮮はどう進むのか。それは北東アジアの平和と安全に直接かかわる。日本はいかに対応すべきかを探るためにも、北朝鮮の動向にさらに目を凝らしていかねばならない。
北朝鮮にとって唯一の「頼みの綱」はやはり中国である。
経済再生と後継体制固めには対外関係の好転が欠かせないが、韓国が「北朝鮮製の魚雷攻撃」と断じた3月の韓国艦沈没事件の後、北朝鮮は無関係だとして日米韓と対立を深めている。一方、日韓に続いて、米国も北朝鮮への経済制裁の強化へと動いている。
中国は、周辺が不安定になるのを嫌い、事を荒立てたくない。そうはいっても、中国には、北朝鮮問題の深刻さを重視し、圧力もかけて北朝鮮を説得してもらいたいところだ。
だが北朝鮮は中国に一層、寄り添おうとしているようだ。経済再建に中国の資本を期待している。北朝鮮はいま激しい水害に襲われているが、食糧を含めた支援も望んでいよう。
また労働党の重要会議を前に、後継体制について中国側に説明し、理解を求めたかもしれない。
そういえば、今回の訪問先では故金主席が抗日運動時代に足跡を残したというところが目立った。国内向けの宣伝だろうが、三男ジョンウン氏とされる後継者への世襲の正当化を狙ってのことではないか。
ただ、国内の厳しい思想統制のなかで後継体制づくりはそれなりに進むだろうが、北朝鮮が生きていくうえでの難題は山積している。それらを打開していくには、日米韓をはじめ国際社会に対し誠実に臨まなくては、展望は開けない。