こころを救う

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こころを救う:患者の自殺、募る後悔 埼玉・精神科医団体が事例分析

 ◇「もう一歩、踏み込んでいれば」 経験共有し生かす

 自分の患者をなぜ救えなかったのか。埼玉県内の精神科クリニックでつくる埼玉精神神経科診療所協会(悳(いさお)智彦会長)が通院患者の自殺事例を会員から集め、分析を進めている。協会幹部は「後ろめたい経験をさらけ出すのはつらいが、一人でも自殺を減らしたい」と説明する。こうした取り組みは全国の精神科の診療所団体でも例がないという。【江刺正嘉】

 協会は自殺対策基本法の施行をきっかけに07年度、自殺予防委員会を設置。診療所名を公表しないことを条件に報告を求めている。09年度までの3年間に、60カ所の診療所のうち、33カ所から144人の事例が寄せられた。

里村淳院長
里村淳院長

 集計の責任者を務める富士見メンタルクリニック(富士見市)の里村淳院長(63)の患者も複数自殺している。「患者が多い日に診察時間が短かったのが悪かったのか」「もう一歩気持ちに踏み込んでサポートしていれば」。後悔の思いに駆られてきた。

 他の医師たちの報告の自由記述欄にも同じような気持ちがつづられている。「もっと話を聞いておけば」「患者との信頼関係が築けたというのは思い込みだった」……。多くの医師が「まさか、あの人が」と、予想外の人が自殺した経験をしていた。

 しかし、改めてカルテを読み返すと、自殺のサインとも取れる微妙な変化を見つけることもある。「私も母が亡くなった年齢と同じ年になりました」。こうした記述に「ああ、これだったのか」と自分を責める。

 これまで実態が不明だった精神科診療所へ通院していた患者の自殺のデータを集めれば、有効な対策を立てられるのではないか。こうした視点で分析した結果、自殺した144人のうち、通院期間は1~5年が70人と最も多かった。次いで1年未満が45人、6年以上は29人だった。4分の3の107人は規則正しく通院していた。

 うつ病が66人と半数近くを占め、自殺の手段では首つりが61人で最も多く、飛び降り18人、向精神薬などの過量服薬15人。144人のうち4分の1の38人が、過去に過量服薬を経験していた。里村院長は「受診態度がまじめで、比較的長く通院している人が自殺するケースが多いのには驚いた。今後も事例を集め、つらい経験やデータを会員が共有することで対策への取り組みが進むのではないか」と話している。

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 情報やご意見をメール(t.shakaibu@mainichi.co.jp)、ファクス(03・3212・0635)、手紙(〒100-8051毎日新聞社会部「こころを救う」係)でお寄せください。

毎日新聞 2010年8月17日 東京朝刊

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