きょうの社説 2010年8月31日

◎日銀の追加緩和 円高阻止へ次の一手が必要
 日銀が発表した追加金融緩和策は事前予想の範囲内で、外為市場に及ぼす影響は限定的 だろう。せめて2週間前なら効果はもっと期待できたはずだが、追いこまれた末の政策決定という印象が強く、市場が期待したサプライズもなかった。

 米国では連邦準備制度理事会(FRB)による追加緩和の可能性が急浮上しており、米 国が金融緩和方向に動けば、日銀の追加金融緩和の効果は打ち消され、再び円高・ドル安が加速しかねない。その時こそタイミングを逃さず、インパクトのある緩和策を打ち出す必要がある。政策金利の引き下げや国債の買い入れ増額など、円高阻止に効果的な次の一手を準備しておきたい。

 政府は日銀の臨時金融政策決定会合に合わせて、追加経済対策の基本方針を前倒しで決 定した。こちらも省エネ家電と省エネ住宅に対するエコポイント制度の延長や企業の環境関連投資を促す対策などにとどまり、日銀頼みの姿勢がかい間見える。内容より政府・日銀が協調して行動を起こしたことに意義を見いだすほかない。政府・日銀ともに円高を阻止し、景気を支える断固たる姿勢が不足しているように見えるのは残念だ。

 日銀の白川方明総裁は会見で、「景気の下振れリスクに対応し、先取り的に追加緩和を 行った」と述べた。市場の反応とは、まったく逆の見方には、苦笑するほかない。それでも景気の下振れリスクを認め、これまでの楽観的な見方を修正する考えを示したのは一歩前進と受け止めたい。

 FRBのバーナンキ議長は講演で「経済見通しが悪化した場合、追加金融緩和を実施す る用意がある」と明言し、追加緩和策を打ち出す可能性を示唆した。米国の追加緩和で、日米の金利差がさらに縮小すれば、一層の円高・ドル安は避けられないのではないか。

 政府・日銀は、ドル安やユーロ安への誘導を試みる欧米諸国と、その意をくむヘッジフ ァンドなどの投機筋の動向を注視し、市場を好き勝手にさせないために、あらゆる手を尽くしてほしい。折に触れて強い警告を発するだけでなく、積極果敢な行動が求められる。

◎里山里海の「宝」探し 活用策の可能性追求を
 石川県は能登の2地区を「里山里海ミュージアムプロジェクト」のモデル地区に選定し た。地域を一つの博物館に見立て、里山、里海で掘り起こした資源の魅力を県内外に発信していくものである。県内各地で地域の自然環境を保全し、活性化につなげようという動きが広がっている。モデル地区では資源の活用策の可能性を追求し、各地の参考となる取り組みを展開してもらいたい。

 ことしは2年間にわたる北國新聞社の舳倉島・七ツ島自然環境調査が終了し、ふるさと の海の豊かさと環境変化の実態が再認識された。また、いしかわ動物園でのトキのひな誕生などで、人と動物との共生やふるさとの自然に対する県民の関心が高まっている。12月には金沢市で国際生物多様性年の締めくくりイベントが開催され、石川の地を広くアピールする場となる。各地域で身近にある貴重な資源を見つめ直してほしい。

 モデル地区では里山、里海に残る農産物や生き物、景観、民謡・伝承などの「宝」を選 び出すことにしている。モデル地区となった能登町の春蘭の里では、農家民宿が連携して農業体験や各種の自然体験メニューなどを提供し、宿泊者数が伸びている。豊かな自然や特産品などの身近な資源が、過疎や高齢化が進む地域の活性化につながることが裏付けられており、資源の掘り起こしはその地域の価値を高めることになる。

 また、モデル地区では資源の魅力を紹介する担い手として、地域住民を「里山(里海) 学芸員」に認定する仕組みを作っていく。もう一つのモデル地区の珠洲市の北部地区(三崎町〜木ノ浦)では地域活性化の担い手を育てる金大の「能登里山マイスター」養成プログラムなどが展開されている。資源の発掘とともにそれらを保全し、活用する人の力が求められる。これまでの取り組みも生かして、人材育成に力を入れてほしい。

 環境省が地方への普及を本格化させようとしている「エコツーリズム」は里山、里海が 格好のコースとなる。地域の資源の発掘と人材育成は、エコツーリズムの受け皿づくりにも欠かせない。