ブナ科の生きた化石「Trigonobalanus」樹木にTuberculatus属アブラムシは存在するか?(萌芽的研究)
「どんぐり」ができる木の仲間には,カシワ・ミズナラ・コナラ・クヌギなどが含まれるコナラ(Quercus)属,マテバシイやシリブカガシが含まれるマテバシイ(Lithocarpus)属,その他にシイ(Castanopsis)属やクリ(Castanea)属などが挙げられる。これらはまとめて「ブナ科(Fagaceae)」に入り,世界で9属・約1000種知られている。Manos et al. (2001)は,5.8S rRNAとITS領域を解読することによってブナ科の分子系統樹を構築した。またKanno et al. (2004)は,カシワ・ミズナラ・コナラ・ナラガシワの分布と系統関係を葉緑体DNAのハプロタイプから明らかにした。
それらの結果は,従来の各属のまとまりを良く支持していただけではなく,いくつかの示唆に富む内容であった。
1. シイ属+クリ属グループとマテバシイ属は姉妹群を形成した。
2. クヌギは,コナラ属中のCerris節に入り,カシワ(Quercus節)と同じグループには入らなかった。
3. ブナ属の次に分岐が深かったのは,(広義の)Trigonobalanus属(Trigonobalanus, Formanodendron, Colombobalanusが含まれる)であった。これらの樹木は,世界で3つの地域のみに限定分布している。上記3種は,マレーシア(サバ州・キナバル山),中国(雲南省),そして南米コロンビア(アンデス山脈)にそれぞれ自生している。
4. カシワ・ミズナラ・コナラ・ナラガシワは,多分岐となった。
このブナ科を寄主とするTuberculatus属アブラムシは,国内に約20種分布しており,二次寄主を持たない非寄主転換性である。本属の特徴として,アリ共生・季節・コロニー内密度に関係なく,単為生殖世代の成虫は全て有翅虫になることが挙げられる。国内のTuberculatus属20種を対象にCOI+ND1で分子系統樹を作成したところ,その系統関係と寄主である樹木の系統関係とが(現段階では)よく一致していた。
すなわち,
1. クリから採集したT. kuricolaとマテバシイから採集したT. pilosusとは姉妹群を形成し,コナラ属のTuberculatus18種とは異なるグループになった。
2. クヌギから採集したT. capitatusは,他のコナラ属から採集したアブラムシよりも分岐が深かった。
3. カシワ・ミズナラ・コナラから採集したTuberculatusは,寄主植物ごとにまとまらなかった。
上記3点は寄主-宿主の共種分化の観点からは一致していたが,以下の点が矛盾していた。
Tuberculatus属アブラムシの最基部に位置したT. querciformosanusはカシワから採集したものだが,寄主植物の相当する位置はTrigonobalanus属になっていた。
T. querciformosanusは,北京・ソウル・プライマリ(ロシア)と東アジアに広く分布しており,寄主植物もカシワだけでなくリョウトウナラやナラガシワも利用している。カシワとナラガシワは雲南省にも分布しており,Trigonobalanus属との接点もあったのではないかと推測される。Trigonobalanus樹木にTuberculatus属アブラムシがいるならば,次の仮説が考えられる。
仮説1. T. querciformosanusは,今でもTrigonobalanus属にいるのではないか?
仮説2. もし別種がいたとしても,T. querciformosanusとは極めて近縁な関係になっているのではないか?
今回のゼミでは,ブナ科樹木とTuberculatus属アブラムシの共種分化の可能性について検討する。
参考文献
Kanno M, Yokoyama J, Suyama Y, Ohyama M, Itoh T, and Suzuki M. 2004. Geographical distribution of two haplotypes of chloroplast DNA in four oak species (Quercus) in Japan. J. Plant Res. 117: 311-317.
Manos PS, Zhou Z-K, and Cannon CH. 2001. Systematics of Fagaceae: phylogenetic tests of reproductive trait evolution. Int. J. Plant Sci. 162: 1361-1379.
電子出版物を公表された著作物と認める国際動物命名規約の改定について
学名および命名法的行為が適格であるためには、公表された著作物において行わなければならないと現行の国際動物命名規約第4版において定められている。公表の要件は条8-9において定められているが、これにはWorld Wide Webのように電子信号として発信される文書や描画は公表された著作物として認められていない。しかしながら、電子出版物がますます普遍となりつつある昨今において、国際動物命名規約委員会では電子出版物を公表された著作物に含められるように国際動物命名規約第5版において規約を改定する準備を進めている。電子出版物において問題となりうるのは、長期間アクセスできることが保証されるか、後に変更が加えられる恐れはないかといったことである。そこで、国際動物命名規約委員会では電子出版物を出版者以外の組織にも保管すること、電子出版物で新学名を発表した場合にはZooBankに新学名を登録することを義務付ける規約を改定案に含めている。今回のゼミでは一連の議論を紹介するとともに、電子出版物の現状と今後の展開について考えていきたい。
参考文献
Anonymous (2001) The future of the electroniic scientific literature. Nature, 413, 1, 3.
Fenton E. (2006) Preserving electronic scholarly journals: Portico. Ariadne, 47.
Howe D. et al. (2008) The future of biocuration. Nature, 455, 47-50.
Knapp S., Polaszek A. & Watson M. (2008) Spreading the word. Nature, 446, 261-262.
International Commission on Zoological Nomenclature.
Proposed amendment of the International Code of Zoological Nomenclature to expand and refine methods of publication. (Zootaxa, 1908, 57-67; Zoological Journal of Linnean Society, 154, 848-855; Bulletin of the Zoological Nomenclature, 65, 265-275などで発表された)
Polaszek A. et al. (2005) A universal register for animal names. Nature 437, 477.
Szalay A. (2008) Preserving digital data for the future of eScience. Science News, 174, 32
Wheeler Q.D. & Krell F.T. (2007) Codes must be updated so that names are known to all. Nature, 477, 142.
Zander R.H. (2004) Report of the Special Commitee on Electronic Publishing with two proposals to amend the Code. Taxon, 53, 592-594.
北海道産イワナ属魚類の集団遺伝学的および系統遺伝学的解析
種内レベルでの多型情報は、対象種の進化や保全に関する課題を解決する上での有用な指標である。このような同種個体を識別できるような分子多型を検出するには、多型性の高いマーカーと高精度な検出方法を用いることが有用となっている。アメマスとオショロコマはともに北海道在来のイワナ属魚類であり、この2種について両者を明確に区別できるマイクロサテライトマーカーの開発が報告されており、また、それらを用いた遺伝子型判定により両種間での遺伝的交流が確認されている(田村,2006;高久,2007)。そこで本研究では、北海道内のアメマスおよびオショロコマについて、マイクロサテライトDNA多型をさらに詳細な手法によって検出することにより、種内の遺伝的構造および近縁関係を解明、および両種間の交雑個体の出現頻度および分布についての情報を蓄積することを目的とした。
今回解析に用いた5座位のマーカーのうち、salvelinus5,salvelinus37,malma4, malma5の4座位においては、アメマスおよびオショロコマ間で高頻度に検出されるアレルに偏りが認められ、これらのマーカーは両種を区別できるマーカーであると判断された。また、salvelinus92においてはアメマスとオショロコマでともにCおよびQが高頻度を示した。これらの結果から個体におけるハプロタイプを決定した結果、両種間の雑種個体と予想される個体が13個体(うち外部形態でアメマスと判断したものが9個体、オショロコマと判断したものが4個体)検出された。これらの雑種個体は藻琴川で最も多く検出され、藻琴川で両種間の遺伝的交流が特に頻繁に生じているという報告(田村,2006;高久,2007)を支持した。
また、平均ヘテロ接合度およびアレル多様度を算出した結果、アメマス全体では0.249および10.8、オショロコマ全体では0.266および12.8の値を示し、両種における遺伝的多様性はほぼ同程度であることが示された。河川ごとの解析結果においては、雑種個体が検出された河川では遺伝的多様性が高い傾向が認められた。また、アメマスでは西側あるいは道央に近い河川ほど、平均ヘテロ接合度と遺伝子多様度がともに高くなる傾向が認められ、このことは、道東から道央の河川では東端から中央部へ向かうほど、河川あるいは水系の規模が大きくなる傾向にあることが関係しているのではないかと推察された。
さらに、系統解析の結果、各個体は大きくクレードI,IIの2系統に分かれ、さらにクレードIはクレードA,Bに大別された。クレードIはすべてオショロコマで構成された。クレードIIは主にアメマスで構成されており、一ヶ所の河川で採取された個体が必ずしもAおよびBのいずれか一方のクレードのみに属するという結果にはならなかった。この結果から、北海道のアメマスには起源が異なる2系統が存在し、互いに分散を繰り返すことにより両系統の個体が混在するような分布が形成されたものと推察された。また、クレードAは然別湖産のオショロコマ(ミヤベイワナ)2個体から構成される姉妹群を含み、クレードBにはオショロコマおよび雑種個体からなる側系統群が含まれていた。この側系統群に含まれるオショロコマの多くは知床半島産のものであり、過去には知床半島の河川においてアメマス由来の対立遺伝子を保有するオショロコマが検出されていることから(Yamamoto et al., 2004;田村,2006;高久,2007)、対立遺伝子がアメマス型か、オショロコマ型かを分類する基準を再考することにより、これらの個体も雑種と判定される可能性があるものと考えられた。
参考文献
田村友喜:北海道産イワナ属魚類における魚種特異DNAマーカーの探索ならびに自然交雑の証明(卒業論文):生物産業学部生物生産学科:東京農業大学,2007
高久泰仁:北海道産イワナ属魚類の分子系統遺伝学的解析(卒業論文):生物産業学部生物生産学科:東京農業大学,2008
S.Yamamoto, K.Morita, S.Kitano, K.Watanabe, I.Koizumi, K.Maekawa, K.Takamura (2004) Phylogeography of White-Spotted Charr (Salvelinus leucomaenis) Inferred from Mitochondrial DNA Sequences. Zool sci. Vol21(2).229-240
サラグモ科(Linyphiidae)の分類学的研究
サラグモ科(Linyphiidae)は、体長1~8mm、8眼、3爪、無篩板の完性域類で、主に落葉中や岩の間など地表に生活している。世界中に分布していて北半球の冷温帯から寒帯にかけて特に多様であり、日本では約110属280種が記載されている。本科の分類学的研究は進められてはいるが、汎用される分類体系は確立していない。サラグモの中でも、Arcuphantes(ヤミサラグモ属)やFusciphantes(ナガエヤミサラグモ属)など、種ごとの分布域が狭く種分化が進んでいて、地理的変異が見られる種もある。これらは地理的な変異が著しく、今後多くの種が追加されるものと思われている。卒論研究では、サラグモ科の採集をし、それらの形態分類・記載を行う。そして地域間比較をし、地理的変異について考察を行う。
札幌市周辺におけるセイヨウオオマルハナバチ(Bombus terrestris)の適応について
セイヨウオオマルハナバチは温室栽培での花粉媒介目的で輸入されたが、90年代後半より野生化し現在では北海道全域に広まっている。
卒業研究では、このセイヨウオオマルハナバチが帰化後十数年間でどのように北海道の環境に適応したかを形態の変化などから考察し、また在来のマルハナバチとの競合や嗜好性の違いなどについても考えていきたい。
ヒメコバチ科(Eulophdae)の分類学的研究
ヒメコバチ科(Eulophdae)は、膜翅目細腰亜目コバチ上科に属する大きなグループで汎世界的に分布しており、世界では約330属4300種、日本では32属約130種が記載されている。4〜5亜科に分けられるが上位分類体系は不確定。体長は0.2〜5mm、付節は4節、前脚脛節距は短くて曲がらない、2〜4の繋節を持つなどの特徴がある。多くの節足動物の一次寄生者であり生物的防除に使われる一方、食植性のものは害虫として扱われている。卒論研究でヒメコバチ科の形態分類と記載を行う。
ヤドリノミゾウとニレノミゾウ幼虫の形態比較
ハルニレに出現するニレノミゾウの幼虫は潜葉性(マイナー)であり、ハルニレの葉の内部を食べ「坑道」を掘りながら成長する。多くのノミゾウ類幼虫は潜葉性である。一方で、ニレノミゾウと近縁であるヤドリノミゾウムシの幼虫は、ハルニレにゴールを作るTetraneura属のアブラムシゴールに寄生し、アブラムシを捕食することが知られている。ノミゾウムシ類でゴール寄生性及び幼虫の肉食性が確認されているのはこの種のみである。ヤドリノミゾウムシは捕食者(寄生蜂)を避けるため、或いはより良い栄養を求めてアブラムシゴールに寄生するようになったと考えられる。卒論ではヤドリノミゾウムシと、姉妹種であるニレノミゾウムシの一齢幼虫から終齢幼虫までの形態変化の観察 (特に食性の変化に伴って頭部・口器)及び、可能なら寄生蜂からの寄生を受けた個体の割合を調べる等して、ゴール寄生性を獲得した背景について考察したい。
カワトンボ類における精子置換のしくみと雌雄の生殖器の進化
昆虫類では、一般的にメスが多数回交尾を行うため、卵の受精をめぐって複数のオスの精子が競争する現象がおこる(精子競争)。カワトンボ類では、そのリスクを下げるため、オスが交尾のときにメスが貯えている精子をあらかじめ掻き出した後に自分の精子を渡す(精子置換)。しかし、オスの交尾器やメスの精子貯蔵器官(交尾嚢と受精嚢)の形態はカワトンボ類の種ごとに違い、部分的にしか精子を掻き出せない種も知られている。精子置換の研究はこれまで主にオスの交尾器の形態的進化の面から行われてきたが、本研究では、メスの精子貯蔵器官の構造だけでなく、蛍光染色法を用いて精子の生存率を測定することによって、その機能についても明らかにした。さらにメスの精子貯蔵器官とオスの精子掻き出し器官の機能的相互作用について、野外で外科的手法を用いて調査した。それらの結果を、受精嚢がよく発達したミヤマカワトンボCalopteryx corneliaと、受精嚢が退化的なカワトンボMnais pruinosaの2種(いずれもカワトンボ科)について比較する。
動物命名規約の歩き方
動物命名規約は、程度に違いはありますが、すべての動物学研究者にとって避けては通れない道です。今回のゼミでは、動物命名の基本的な事柄について、以下の点を中心にお話ししたいと思います。
1) 動物命名規約とその範囲
2) タイプ制原則(主に種階級群)
3) 有効名と無効名(主にシノニム・ホモニム)
参考文献
ICZN(2000)国際動物命名規約第四版(+追補 (2005))
大久保憲秀(2006)動物学名の仕組み 国際動物命名規約第4版の読み方
植食性昆虫と植物の間の相互作用
植食性昆虫にとって植物は餌であり住処であり繁殖の場である。しかし、植物にとって植食性昆虫は厄介な攻撃者であるためこれに対して直接的または間接的な防衛手段を獲得してきた。また、植物と植食性昆虫との間には、攻撃・防御の関係以外にも様々なタイプの間接的相互作用が存在することが明らかとなっている。更に、それらの相互作用には捕食者が影響を与える場合があることも分かりつつある。今回のゼミでは、insect-plant biology第10章の内容を中心に植物と植食性昆虫、または植物と植食性昆虫と捕食者や草食の脊椎動物の関係について紹介する。
甲虫の形態における小型化の影響と、小型化を制限する要因について
小型化miniaturization(極端に小さな体サイズの進化)は、生物が様々な環境、ニッチに侵入することを可能にする、動物で広範かつ頻繁に生じる現象である。小型化は様々な構造の単純化・特殊化を引き起こすことが知られており、形態学的・進化学的に注目されている。昆虫では極端な小型化進化が複数回にわたり起きており、小型化の実態を知る上での好材料になると期待されるが、これまでの小型化研究の多くは脊椎動物を対象としており、昆虫における小型化の研究は非常に少ない。今回のゼミでは、その数少ない研究例であるツブミズムシ亜目とムクゲキノコムシ科の甲虫の小型化に関する論文を紹介し、「小型化に伴う構造的改変」と「小型化の限界を定める要因」の2点に着目して甲虫における小型化の実態に関して説明する。
1. Beutel, R.G. and Haas, A. (1998) Larval head morphology of Hydroscaphanatans (Coleoptera, Myxophaga) with reference to miniaturization and the systematic position of Hydroscaphidae.
Zoomorphology 118: 103-116.
2. Grebennikov, V.V. and Beutel, R.G. (2002) Morphology of the minute larva of Ptinella tenella, with special reference to effect of miniaturisation and the systematic position of Ptiliidae (Coleoptera: Staphylinoidea).
Arthropod Structure & Development 31: 157-172.
3. Polilov, A.A. (2005) Anatomy of feather-winged beetles Acrotrichis montandoni and Ptilium myrmecophilum (Coleoptera, Ptiliidae).
Entomological Review 85(5): 467-475.
4. Polilov, A.A. (2008) Anatomy of Smallest Coleoptera, Featherwing Beetles of the tribe Nanosellini (Coleoptera, Ptiliidae), and Limits of Insect Miniaturization.
Entomological Review 88(1): 26-33.
5. Grebennikov, V.V. (2008) How small you can go: Factors limiting body miniaturization in winged insects with a review of the pantropical genus Discheramocephalus and description of six new species of the smallest beetles (Pterygota: Coleoptera: Ptiliidae).
European Journal of Entomology 105: 313-328.
6. Polilov, A.A. (2009) Miniaturisation effects in larvae and adults of Mikado sp. (Coleoptera: Ptiliidae), one of the smallest free-living insects.
Arthropod Structure & Development 38: 247-270.
3種の遺伝マーカー(COI、Buch16S rDNA、マイクロサテライト)を用いたHyalopterus属アブラムシの集団遺伝学的研究に関する論文紹介
GENETIC EVIDENCE FROM MITOCHONDRIAL, NUCLEAR, AND ENDOSYMBIONT MARKERS FOR THE EVOLUTION OF HOST PLANT ASSOCIATED SPECIES IN THE APHID GENUS HYALOPTERUS (HEMIPTERA: APHIDIDAE)
Jeffrey D. Lozier , George K. Roderick, and Nicholas J. Mills, Evolution 61-6, 1353-1367, 2007
Over the past several decades biologists' fascination with plant–herbivore interactions has generated intensive research into the implications of these interactions for insect diversification. The study of closely related phytophagous insect species or populations from an evolutionary perspective can help illuminate ecological and selective forces that drive these interactions. Here we present such an analysis for aphids in the genus Hyalopterus (Hemiptera: Aphididae), a cosmopolitan group that feeds on plants in the genus Prunus (Rosaceae). Hyalopterus currently contains two recognized species associated with different Prunus species, although the taxonomy and evolutionary history of the group is poorly understood. Using mitochondrial COI sequences, 16S rDNA sequences from the aphid endosymbiont Buchnera aphidicola, and nine microsatellite loci we investigated population structure in Hyalopterus from the most commonly used Prunus host species throughout the Mediterranean as well as in California, where the species H. pruni is an invasive pest. We found three deeply divergent lineages structured in large part by specific associations with plum, almond, and peach trees. There was no evidence that geographic or temporal barriers could explain the overall diversity in the genus. Levels of genetic differentiation are consistent with that typically attributed to aphid species and indicate divergence times older than the domestication of Prunus for agriculture. Interestingly, in addition to their typical hosts, aphids from each of the three lineages were frequently found on apricot trees. Apricot also appears to act as a resource mediated hybrid zone for plum and almond associated lineages. Together, results suggest that host plants have played a role in maintaining host-associated differentiation in Hyalopterus for as long as several million years, despite worldwide movement of host plants and the potential for ongoing hybridization.
メスが交尾拒否から得られる利益について
多くの種でオスとメスでは最適な交尾数が異なる為,しばしば交尾において雌雄間で対立が生じます.必要以上の交尾がメスにとってコストになる場合,それは交尾への抵抗や拒否となって表れます.有性生殖を行う生物は繁殖の為に少なくとも1度は交尾しなければならないので,そのような抵抗例の報告の多くが2度目以降の交尾に対するもので,初回交尾から激しく抵抗を示す例の報告はほとんどありません.私が研究しているサッポロフキバッタのメスは,集団によって強さに違いはあるものの,オスの交尾の試みに対して激しい抵抗を示します.特に初回交尾に最も抵抗するという特徴が有ります.他の昆虫で似たような例を探していた所,『全ての交尾に対して抵抗を示す』いう単独性バチ,アルファルファハキリバチの論文が最近出たので,今回はそれを紹介したいと思います.
Sexual harassment by males reduces female fecundity in the alfalfa leafcutting bee, Megachile rotundata.
Benjamin H. Rossi, Peter Nonacs, Theresa L. Pitts-Singer
Animal Behaviour 79 (2010) 165-171
ABSTRACT
Under sexual conflict, males evolve traits to increase their mating and reproductive success that impose costs on females. Females evolve counteradaptations to resist males and reduce those costs. Sexual harassment is a form of sexual conflict in which males make repeated, costly attempts to mate. Costs to female foraging or predation risk have been measured in several species, but quantitative measurements of direct fitness costs are rare. In the alfalfa leafcutting bee, Megachile rotundata (Fabricius; Hymenoptera: Megachilidae), males harass females, and females resist all mating attempts. We placed bees in large, outdoor cages with various male-biased sex ratios. Harassment rate, nest progression, offspring production, temperature, and food availability were measured daily for 7 days. Harassment rates were highest at intermediate sex ratios. Harassment reduced the number of foraging trips and increased the duration of foraging trips made by females. Females produced offspring at a slower rate when subjected to higher rates of harassment. This shows a direct link from sex ratio to harassment to female fitness under natural conditions. We also discuss an alternative explanation that female resistance is a mechanism for mate choice for high-quality males, which would require that indirect benefits accrue through either daughters or grandsons, because all sons in haplodiploid species arise from unfertilized eggs.
ヒッチハイクするハジラミ
ハジラミのhost間の移動、特にphoresis(便乗)に関連する2つの論文を紹介します。
1. Comparative Transmission Dynamics of Competing Parasite Species. Christopher W. Harbison, Sarah E. Bush, Jael R. Malenke, and Dale H. Clayton
Ecology 89 (2008) 3186-3194
競争と移入のトレードオフのモデルは、競争する能力と生息地において競争者フリーのパッチを形成する能力とのトレードオフの点で、競い合う種同士の共存を説明しうる。このモデルのシンプルな予測は、劣っている競争者はより優れた分散者になりうることである。しかし分散についての計測は困難なため、この予測は自然集団においてはほとんどテストされていない。Host-parasiteのシステムはこの点で見込みがあり、特にparasiteが一生をhostの体表上で過ごすような永久の寄生の場合はなおさらである。このようなparasiteはhostとの関係性が強く、host間の移動を正確にモニターすることができる。筆者らはfeather feeding lice(鳥に寄生する比較的宿主特異的で、永久的なハジラミ)の移動のダイナミクスを記録することで、競争と移入のモデルにおける分散予測についてテストした。ここではRock Pigeons(Columba livia)の一般的なparasiteであるwing liceとbody liceとして知られる2グループを比較した。この2グループは生態が似ており、host上で資源競争していることが知られている。過去の研究からbody liceのほうが資源競争においてwing liceに勝っていることが示されており、wing liceのほうが新しいhost個体への分散能力において優れていると予想される。筆者らはこの予想を、寄生性のハエ(Diptera: Hippoboscidae)での便乗を含む水平移動と、垂直移動を用いたhost間の分散について、body liceとwing liceの能力を比較することにより示した。捕らえた鳥と野生の鳥の両方において一連の実験から、wing liceのほうがbody liceに比べ新しいhostへの移動能力に優れていることが確認された。wing liceは明らかにひな鳥への垂直移動に優れ、ハエに乗り新しいhostへ移動する能力にも長けていたのに対し、body liceはphoreticでなかった。これらの結果はliceのphoresisに関する初めての厳密な実証であり、またparasiteの移動のダイナミクスを理解する際の、communityレベルでのアプローチの重要さを強調している。
2. A Hitchhiker’s Guide to Parasite Transmission. Christopher W. Harbison, Matthew V. Jacobsen, Dale H. Clayton
International Journal for Parasitology 39 (2009) 569-575
parasiteにとって新しいhostへの移行は根本的な課題である。いくつかの種では自身よりもっと移動的なparasiteにヒッチハイク(phoresis)してこの問題を解決するものがある。例えば鳥に寄生するfeather liceは、鳥の間を行き来するシラミバエに便乗して移動することで知られている。しかし似たような生活史を持つものでもRock pigeonのwing liceはphoresisを行うがbody liceは行わない。このような違いが何故起きるのか、シラミバエに関連した適応、移動、付着能力に関する一連の実験を行い検証した。実験の結果、wing liceはbosy liceよりも、活動している(歩く、手入れする、飛ぶ)シラミバエへの付着能力が高いことがわかった。wing liceの高いphoretic能力は、hostの翼や尾羽の羽上での生活に適応した形態のためではないかと考えられる。
“相同 Homology”にまつわる諸問題
私は,体長に匹敵するほど長い交尾器がなぜ&どのように進化したのかに興味を持って研究を進めています.その一環で,最近,伸長部をもつグループと持たないグループ間で交尾器の形の比較を行っています.両グループ間で,一見,形が大きく異なるのですが,進化的に同一起源のパーツ(=相同な部位)を推定し,極性の決定をおこなうことで(進化の方向決め:派生的な形質状態の推定),交尾器伸長の起源を探ろうとしています.その過程で,相同とは何か・相同をどう推定するかに頭を悩ませています.
相同とは何か・相同をどう推定するかという問いは,進化を研究する上で,非常に重要な問題です(実験的に進化を観察している場合は別).なぜなら,私たちが実際に見ることのできない進化を,観察可能な現象から推定するとき,まず「相同な部位の比較」を行うからです.たとえば,系統樹を構築するとき,形態でも分子でも相同な部位を比較して形質状態をデータとして抽出します.たとえば,ある行動の進化プロセスを考えるとき,相同な行動を種間で比較して,極性決定し議論します.このとき,我々が暗黙のうちに見なしている相同は,本当に進化的に同一起源といえるのでしょうか.
真に相同な部位か否かは,もちろん実証できません.なぜなら,それは歴史的産物であり,観察不可能な事象だからです.でも,それをより確からしく推定するにはどうしたらいいでしょうか.私自身,悶々と悩んで答えがでていません.これに関しては,いろいろ議論があるようですが(まだ概観できていません),その一端についてゼミで発表します.
参考文献.参考文献中には分子の話もでますが,形態を中心に発表します.
1. 相同(Homology)とは何か
2. 相同と判断する基準
・Wägele JW2000. Foundation of Phylogenetic Systematics, 第4章 The search for evidence of monophyly の前半部(p 117-133 相同性に関する項目)
・Wägele JW2000. Foundation of Phylogenetic Systematics, 第5章 Phenomenological character analysisの前半部(p 142-152相同性に関する項目)
・Morgan MJ, Scot A. 2010. Inference of molecular homology and sequence alignment by direct optimization. Molecular Phylogenetics and Evolution 56: 305-311.
3. “Deep homology”という概念について(新奇形質の進化と絡めて)
・Scotland RW. 2010. Deep homology: A view from systematics. Bioessays 32: 438-449.
・Shubin N, Tavin C, Carroll S (2009) Deep homology and the origins of evolutionary novelty. Nature 457: 818-823.