【コラム】ヨーロッパ式の夏休みが取れないワケ

 最近はバゲット(フランス人の主食である硬いフランスパン)を買うのも一苦労だ。なぜならば、町のパン屋がどこも夏休みに入り、店を閉めているからだ。夏休みの期間はたいてい1カ月間。わたしが住むアパートの管理人も1カ月の休暇を取り、故郷のポルトガルに帰ってしまったため、新聞や郵便物を受け取るのも大変だ。この数カ月間、職がない隣の家の女性も、飼い犬を連れてバカンスに出かけた。夜アパートを見ると、20世帯のうち明かりが付いているのはわずか3世帯だった。

 パリ市内に出ても、街にあふれているのは観光客ばかりで、「パリっ子」たちの姿は見当たらない。そのおかげで市内の道路は渋滞ゼロ、路上駐車をするのも楽だ。特派員として赴任し、初めてこのような光景を目にした時は、開いた口がふさがらなかった。「週に35時間だけ働き、あとは遊んでばかりいる人たちが、さらに1カ月間も夏休みを取るとは…」。うらやましいと思ったのもつかの間で、韓国と比べるとしゃくに障った。

 ヨーロッパの先進国は、「ライフ・スタイル先進国」を自認している。世界的な金融危機以来、ヨーロッパ諸国は財政悪化で福祉制度の見直しを始めたが、「少し働き、たくさん遊ぶ」というライフ・スタイルには何ら変化はない。こうした生活の質の差は、どこから生じるのだろうか。

 経済指標にそのヒントを求めてみよう。先進国の労働生産性は韓国に比べ依然として高い。同じ仕事をしても、生産する付加価置が違うため、少しだけ働いてもたくさん遊べるというわけだ。では、労働生産性の違いはどこから来るのだろうか。まず、技術と知識の違いがよく挙げられるが、海外で暮らしてみると、そうした説明には簡単にうなずけなくなる。銀行や役所の窓口、スーパーマーケットのレジなど、日常生活で接する「先進国」の労働力の質は、韓国人の想像よりもむしろ遅れているという印象を受ける。実は、その答えは資本力の差にある。同じことをするにも、「素手」でするのと、特化された「設備」を持っているのとでは、全く別の結果を生むからだ。では、その例を挙げてみよう。

 町のパン屋に小麦粉を配達に来たトラックを見たことがある。韓国のように小麦粉の袋を人が背負って運ぶのではなく、消火栓に消火ホースを挿すように、小麦粉の貯蔵庫につながっているパイプにホースを挿し、小麦粉を流し込んでいた。2-3人がかりで半日かかる仕事をわずか10分で終わらせ、帰って行った。別の例を挙げると、パリ市内には犬のふんを片付ける「スイーパー」がいる。スイーパーたちは電気掃除機のような特殊な装置が付いたバイクに乗り、半径2-3キロ内にある汚物の掃除を一人でいとも簡単にこなす。また、韓国人アーティストの作品展を行っていたシャンゼリゼ通り近くのギャラリーに行った時は驚いた。一見、小さくて古びたギャラリーだったが、フォービスム(野獣派)の巨匠ジョルジュ・ルオーの作品を約140点も所有していた。世界各国の美術館も、このギャラリーの協力がなければルオーの展示会を企画できないという。これも、少しの投資で多くを得る生産性ではないだろうか。

 韓国は輸出実績の面でイギリスに追い付き、国内総生産(GDP)の規模ではヨーロッパの中小先進国を追い抜いた。しかし、統計には現れない社会的な総資本の面で、ヨーロッパ諸国に追い付くまでの道のりは今も遠い。これこそ、ヨーロッパ人が1カ月の夏休みを楽しんでいる間に、韓国人が同じことをできない理由なのだ。

パリ=金洪秀(キム・ホンス)特派員

朝鮮日報/朝鮮日報日本語版
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