「サーヴァントセイバー、召喚に応じ参上した」
ワケがわからない。それがなのはの感情だった。自分はただ、いい子でいなくてもいい相手が欲しかっただけ。だから神様にお願いした。
(私が本音を言い合える『誰か』が欲しい)
いい子でなくても傍に居てくれる誰かが。父が入院している現在、なのはは家族の邪魔にならないように『いい子』を懸命に努めている。でも、なのはも子供だ。甘えたい時やワガママを言いたい時もある。だから、本音を言い合える相手が欲しい。それがなのはの偽らざる気持ちだった。
「でも、こんなのはないよ……」
そんな願いをした途端、目の前に金髪の女性が現れ、しかも鎧や剣といったおとぎ話のような出で立ちときている。驚きよりも残念と言う面持ちのなのはに対し、セイバーはその凛々しい表情のまま、なのはにこう問うた。
「問おう。貴方が私のマスターか」
「…違うよ。マスターじゃない」
幼いなのはに、マスターの意味は理解できなかった。でも、それは自分の求めるものじゃない事だけは、なんとなく感じ取っていた。
セイバーは、幼い少女の言葉に先程までの表情ではなく、どこか不思議そうな顔をして、なのはを見つめた。
「私は、なのはは……あなたと、ともだちになりたいの」
自分の言葉に軽く驚くセイバーを見て、なのはは嬉しかった。自分はそんなものじゃないくらい驚かされたのだ。その十分の一でも返す事が出来て満足したのだ。
そんななのはの笑顔を見て、セイバーも笑みを浮かべた。二度目の召喚時は月光の中で。今回は星光の中、幼い少女に呼ばれた。イリヤスフィールよりも幼い彼女からは、強大な魔力を感じる。だが、それはどうでもよい事だった。
「友、ですか……。なら、失礼ですが貴方の名前を聞かせて頂きたい」
セイバーは、自分が出来うる限りの優しい声でそう言った。
「あ、はい。私はなのは。高町なのはです」
「ナノハ?……なのは、ですね。私はセイバー。セイバーと呼んでください」
こうして少女は、初めての友を得るのと同時に、永遠の友をも得た。星の光が差し込む部屋に、二人の笑みが輝いていた……。
突然の出来事に、フェイトは戸惑っていた。それは傍にいたアルフやリニスも同じ。フェイトが様々な魔法に挑戦していた最中、転移魔法を構成した時、それは突然現れた。
「おいおい、今度は子供かよ。ま、十年後に期待か、こりゃ」
全身を青いタイツのようなものでつつみ、手には紅い槍を所持している。アルフとリニスは全身で警戒感を示しているが、男はそんなものはどこ吹く風とばかりにフェイトを見つめている。
「そんな警戒すんな、って言っても無駄だわな」
やれやれと両手を挙げて、男はフェイトの前で膝をついた。
「サーヴァントランサー、召喚に応じ参上した。お嬢ちゃんがマスターって事でいいか?」
真面目だったのは途中まで。名乗りを終えると再び立ち上がり、フェイトの頭に手を乗せる。それをなぜか不快に思えない事に、フェイトは驚いていた。その手は暖かく、自分を安らげるように、ぶっきらぼうではあるが優しく撫でている。
そんなランサーの態度に、まず安堵したのはリニスだ。本能も、理性も、勝てない、と判断した相手。それがひとまず敵ではない。それがわかっただけでも良かった。
(フェイトも無意識に甘えているようですし、安心ですね)
「え?え?ランサー?マスター?」
「ああ。ま、主人って意味だ」
「主人?……えっと、多分違うと「フェイトから離れろ!」て、アルフ?!」
見ればアルフがランサーの腕に噛み付いている。それを止めようとするフェイトと、決して放すまいとするアルフ。そして、噛まれているにも関わらず、笑みを浮かべてフェイトを撫で続けているランサー。
そんな光景を眺め、リニスは思う。この男ならば、もしもの時から二人を守り抜いてくれるのでは、と。
そして、願わくばその時が訪れないようにと、強く強く念じながら、微笑みを浮かべて三人の傍へと歩き出した。
「えっと……」
「ふむ、今回はまともな召喚のようだ」
はやては唐突な現状に、必死に頭を回転させていた。冷静になれ、とまだ十歳にも満たない少女が自分に言い聞かせていた。
両親が亡くなり、独りになってまだ日も浅い。そんな中、突如として現れた謎の男。はやては冷静に、いたってシンプルな結論に辿り着く。
「うん。ケーサツや」
「ちょっと待て」
何やら呟いていた男を無視し、電話をしに行こうとした途端、不審者が若干焦りを帯びた声で待ったをかける。
はやてはそれでも止まらない。制止を流し、車椅子を動かそうとして――――男が目の前にいた。
「君の考えは理解出来る。だが、私の話を聞いてほしい」
「おじさん、ドロボーやろ」
「こんな格好の泥棒がいるかい?」
そう言われて、はやては改めて男を見る。赤いコートのようなものに、黒い服。おまけに銀髪ときている。確かに、泥棒には相応しくない格好だ。泥棒は、渦巻きのような袋を背負って、頭巾をしているものだった。
はやてはそう思い出し、男をドロボーとは言わない事にした。
「ならなんや?」
「サーヴァントだ」
男の言葉に再び頭が混乱し出すはやて。そんな少女の姿に、男は何かを思い出し、微かに笑う。自分も『あの時』こうだったのだ、と。日常に非日常が入り込んだあの日。なら、自分がすべきは赤い彼女の役割だと。
「まあ落ち着け。サーヴァントは使い魔の最上級だと思ってくれればいい。つまりは……」
そこまで言って、彼は言葉を濁す。目の前の少女にわかるように説明するには、あの時自らが拒否した言葉しか浮かばなかったからだ。即ち、召使い。だが、それは己の誇りに賭けても使ってはならない。
そこまで考えて、男は何かに気付く。先程から少女以外、誰も出て来ない事に。
「なぁ……」
そんな彼を思考から引き戻したのは、消え入りそうなはやての声。見れば、俯いて膝に置かれた手が震えている。
「何かな」
穏やかな声だった。思えば初めから気配が少女以外なかった。それから導き出される答えは一つ。
「おじさんは……ツカイマさんなんか?」
「そうだよ」
「それって、わたしのそばにいてくれるって事?」
「君が望むなら」
「なら――――――っ!!」
勢いよくはやてが顔を上げると、そこには男の笑顔があった。見る者を穏やかにするような笑顔があった。
思わず言葉を失うはやてに、男はしゃがんで、はやての震える手にそっと手を重ねた。
「選んで欲しい。このまま一夜の夢として忘れて生きるか、私と共に生きてみるか」
我ながらズルイと、男は思う。こんな聞き方を一人で暮らす子供にすれば、後者を選ぶに決まっている。だが、男はどんな形であれ、少女に決めて欲しかった。
車椅子での生活。まだ小学校に通い立てかその直前か。どちらにしろ、この少女に待っているのは大人でも辛い生活だ。
それを支えてやりたい。だが、押し付けではなく、少女の意志でそれを選んで欲しい。それが男の問いかけの真意。彼女が望むなら、どんな相手にも立ち向かおう。彼女が願うなら、どんな事をも成し遂げよう。この身は一振りの剣。故に己が望み等はなく、主の望みが我が望み。
「どうかな?」
男の声に、少女は我を取り戻したように、数回瞬きをした。そして、男の予想通りの答えを…………。
「いやや」
言わなかった。それどころか、両方とも蹴った。
「忘れる事も出来んし、共に生きる事も違う」
「では――――」
どうするのか?と続けようとした。が、それははやての言葉に遮られた。
「家族や」
「なっ……」
「わたしの家族になって、一緒に暮らす。共に生きるって、なんか違う気がするんよ。一緒に暮らすって言う方がしっくりくる」
先程まで弱々しい雰囲気をしていたとは思えない程の断言。はやては男の目を見つめたまま、そう言って笑った。
その力強さに、男も黙った。なぜなら、その言葉にある女性を見たから。
(ああ、どうやら俺は、よっぽど気の強い女性に縁があるらしい)
穏やかな表情を浮かべ、どこか遠い眼をする男を見て、はやては胸が高鳴るのを感じた。それが何を意味するかなど、まだ幼いはやてに知る由もない。しかし、それが不思議と悪い感じがしない事だけは、確信を持って言えた。
「そういえば、まだ名乗っていなかったな。私はアーチャー。サーヴァントアーチャーだ」
「あ、わたしははやて。八神はやてや」
そうやって互いに名乗りあったところで、なぜだかはやては笑い出した。それを不可解そうに見つめるアーチャー。どうかしたのかと尋ねても、ただただ笑うのみ。
ややあって、はやては笑うのをやめ、なぜ笑い出したのかを話し出した。曰く、アーチャーの名前を聞いた時、くだらないダジャレを思いついたらしい。それがツボに入り、苦しかったと、はやては語った。
「あまり聞きたくはないが、どんなものだ」
「ぷくっ……ア、アチャーなアーチャーや」
そう言うと、再びはやては笑い出す。どうやら相当気に入ったらしい。一方のアーチャーは「やはり聞くのではなかった」と言って苦い顔をした。それがますますはやての笑いを刺激する。
そんなはやてを見ながら、アーチャーは小さく微笑む。この日、孤独だった少女に、久方ぶりの笑いが戻った……。
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ひとまずこんなところで。本当はアリサやすずかの所も考えたけど、力尽きました。
気分転換の作品なので、未熟な箇所はご容赦ください。
思いつきでやった。今は反省してる。