掲載2010年5月7日

訳者メモ

ウィリアム・イングドール氏から「この記事は娯楽にどうぞ」とメールが来た。娯楽と言われても、心温まる話題でも、腹を抱えて笑う内容でもない。新疆の暴動の記事でも登場したが、NED(National Endowment for Democracy, 全米民主主義基金)という組織は、公然バージョン(公然と隠密活動を行う)CIAとも言うべき重要な存在のようだ。

表題のRWBの「凶悪人」リストのページはこちら(リンク先で下にスクロールすると世界地図がある。赤いところを見ると米国がどこを狙っているのか参考になる)。

それでは、娯楽用にどうぞ・・・

「報道の自由」を掲げるRWBの「凶悪人リスト」

The "Evil Guys List"?
"Free Journalism" in the Service of US Foreign Policy
The Role of Reporters without Borders

F・ウィリアム・イングドール

By F. William Engdahl

(http://engdahl.oilgeopolitics.net/)

2010年5月5日

「国境なきレポーター」(RWB:Reporters Without Borders、仏語の略称はRSF)を自称する組織が、「2010年・報道の自由の略奪者・ワースト40人」を発表した。そのリストには、ロシアのウラジミール・プーチン首相、中国の胡錦濤主席、イランのマフムード・アフマディーネジャード大統領、カザフスタンのヌルスルタン・ナザルバエフ大統領、ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領が含まれている。この「凶悪人」リストで注目すべきなのは、これらの人物や国の地政学的な意味である。現在、米国の国務省の「敵」リストにあがっている国と重なっている。RWBという組織が何なのか調べれば分かることだが、これは偶然の一致ではない。

「この略奪者たちにも顔があるのだから、よく顔を覚えて糾弾しよう。そこでRWBは、略奪者たちの似顔絵を描くことにした」とRWBは述べている。

この表現力豊かな言葉も、単なる思いつきではない。略奪者(predator)という言葉は、多くの人に恐怖のイメージを抱かせる呪文だ。

この最新の「凶悪人」リストの発表に当たり、RWBは、ロシアのプーチン首相を論評している。「プーチンは、さまざまな組織を操っているだけでなく、ロシアの民族意識を高揚させ、反体制派や自由思想家の虐待を奨励し、刑事免責の範囲を拡大した。これは法による支配を着実にむしばんでいる。」 そして、「元KGB職員」のプーチンは、ロシア人の生活を隅から隅まで全面支配しており、「今やロシアのテレビ局は単一の意見しか伝えていない」とも言っている。だが、面白いことに、ロシアの国営メディア・RIAノーボスチ通信は、RWBがプーチンを凶悪人と名指ししたことを記事にしている。[1]

中国については、「2008年のオリンピック以来、中国の権力(原文ママ)を最大級に誇示する上海万博を祝し、RWBでは先週、中国での自由の蹂躙を特集したページを製作し、インターネット・ユーザーの閲覧に供している」と述べている。[2]

RWBが凶悪人と名指しした人物もさることながら、RWBが名指ししなかった人物に注目することも大事だろう。例えば、言論・報道の自由という意味では、世界クラスの敵といってよいグルジアの独裁者ミハイル・サーカシビリのような人物が何故リストにないのか? あるいは、ウクライナの前大統領のヴィクトル・ユシチェンコ、最近追放されたキルギスの独裁者バキエフが載っていないのは何故か? この三名は、いずれもワシントンが後援した政変(カラー革命)で権力を握っている。反対にRWBが「略奪者」と名指ししたのは、近年、ワシントンが資金提供している不安定化工作の標的になってきた人々である。

RWBの背後にいるのは誰?

「略奪者」などという表現を使ってRWBが巧みに世界にばらまいているイメージは、たまたま思いつきでやっているのではない。RWBの広告エージェンシーが考案したものだ。5月3日にウェブサイトに40人のリストを発表した際、RWBは「本日発表した報道の自由の略奪者のリストは、Saatchi & Saatchi (サーチ&サーチ社)が製作したキャンペーン広告の後援による(略)今年の略奪者リストは40名で(略)報道機関の敵であり、ジャーナリストを直接攻撃している。強力で、危険で、暴力的であり、法律を超越している」と述べている。[3]

サーチ&サーチ社は、世界有数の広告代理店であり、「影のパースエイダー(説得者、マインドコントローラー)」である。保守党のマーガレット・サッチャーを首相にしたキャンペーンで評判を上げ、労働党のゴードン・ブラウンの広報エージェントでもある。顧客には、シティグループ(Citigroup)、ヒューレット・パッカード(Hewlett-Packard)、デュポン(DuPont)、プロクター・アンド・ギャンブル(Proctor & Gamble)もいる。では、そのような優秀なアドバイザーを雇う資金をどうやってRWBが得ているのかという疑問が生じるであろう。

RWBの背後にNEDを発見

去年の一年間にプーチンや胡錦濤、アフマディーネジャードが報道機関にどんなことをしたかという話よりも、いったい誰がこうした国家元首たちを「審判」しているのかということの方が興味をそそられる。そしてその「審判を審判しているのは誰?」と尋ねるべきだろう。その答は、ワシントンだ。

RWBは、国際的な非政府団体(NGO)である。RWBのウェブサイトの情報では、本部はフランスのパリにある。奇妙なことにパリという都市は、米国政府にヒモづいた機関や米国議会が資金提供する様々な組織の本拠地になっていることが判明している。

では、世界の報道の自由の審判者を自認する彼らの背後に誰がいるのかと調べてみても、RWBのウェブサイトには何も記述がない。RWBの役員名すら記載がなく、まして資金源の情報はない。年次収支報告書を見ても、資金源の手がかりはない。

RWBの何百万ドルとう年次収入は、「出版物の売上」によるものと開示されている。その出版物の名称や販売先の記載はない。あるリサーチャーは、「書物の出版コストがタダであったとしても、RWBが言っているように年間2百万ドル以上を稼ぐためには、2004年に170,200冊、2005年に188,400冊(毎日516冊)の売上がないと不可能だ。明らかに別のところから資金が出ており、実際にそれが判明している」と指摘している。[4]

RWBの出版物を注文しようとウェブサイトを訪問しても、購入方法も価格表も本の概要の記載もない。本当に不可解だ。

2009年9月に発行されたRWBの公式な財務・収支報告書を見ると、「当組織の2008年の財政状態で特筆すべきことは、収支を大きく左右していた2008年・北京オリンピックのキャンペーン(2001年にスタート)が終了したこと」と記載されている。[5]

ということは、RWBは過去8年間にわたり、開示されていない金額を、2008年北京オリンピックに向けて準備を進めていた中国政府に敵対するキャンペーンに費やしていたことになる。いったいどんな目的で? 奇しくもRWBは、今年の「略奪者」に中国の胡錦濤主席を指名している。2009年7月の新疆と2010年3月のチベットの暴動を弾圧したことが理由であるが、この両事件とも、米国が資金支援するNGO、つまり、NEDの隠密工作によるものだ。

なるほど。

パリ拠点のRWBの Robert Menard事務局長は、ずっと何年も隠しとおそうとしていたが、ついに、RWBの資金は主として「米国の外交政策と固く結び付いた米国の組織」から出ていることを、自白した。[6]

このRWBを支援している組織には、USAID(米国国際開発庁)、米国議会のNEDが含まれている。また、「自由キューバ」(Center for Free Cuba)も含まれている。この組織の理事は、ベネズエラで民主的に選出されたウゴ・チャベス大統領を転覆しようとしたCIAの仕事に関わっていたことが露見したため、ブッシュ政権から辞任するハメになったOtto Reichである。[7]

あるリサーチャーは、RWBへの資金供与に関してNEDに問い合わせを行ったが、何ヶ月も返事がなく待たされ、RSF(RWBのフランス)のLucie Morillon常務理事には素っ気無く否定されていた。だが最終的に、NEDからの情報で、RWBは少なくとも過去3年間、IRI(共和党国際研究所)から助成金を受領していたことをつきとめた。IRIは、NEDの四つの直系組織の一つである。[8]

私が、『フル・スペクトラム・ドミナンス:新世界秩序の全体主義的民主主義』で詳述しているように、NEDは、レーガン政権のときに米国議会によって創設された。CIAの市民団体を装った隠密活動が、1970年代中頃に上院のチャーチ委員会によって問題にされたため、その機能を引き継ぐために、当時のCIA長官ビル・ケーシー(Bill Casey)が主導して設立したものだ。NED設立の法案を書いた男アレン・ワインスタイン(Allen Weinstein)が後年認めているように「我々が今日やっていることの大半は、25年前ならCIAが隠密活動として行っていたことだ」。

世界の報道の自由を審判する立場にある組織ならば、もう少し自らの資金源について情報公開と透明性を心がけるべきではなかろうか。さもなくば、何か秘密でもあるのではないかと疑いたくなる。

(翻訳:為清勝彦 Japanese translation by Katsuhiko Tamekiyo)

関連情報

原文 The "Evil Guys List"? "Free Journalism" in the Service of US Foreign Policy

脚注

[1] RIA Novosti, RSF names Putin, Kadyrov freedom "predators," RIA Novisti, Moscow, May 4, 2010, accessed in http://en.rian.ru/world/20100504/158862330.html

[2] Reporters Without Borders website, Reporters without Borders works on all fronts, May 3, 2010, accessed in http://en.rsf.org/

[3] Ibid.

[4] Diana Barahona, Reporters Without Borders and Washington's Coups, ZNet, August 2, 2006, accessed in http://www.zcommunications.org/

[5] Reporters Without Borders, Income and Expenditures to end December 2008, published September 7, 2009, accessed in http://en.rsf.org/

[6] Source Watch, Reporters Without Borders, accessed in http://www.sourcewatch.org/

[7] Ibid.

[8] Diana Barahona, op.cit.

[9] Allen Weinstein, quoted in David Ignatius, Openness is the Secret to Democracy, Washington Post National Weekly Edition, 30 September 1991, pp. 24-25.