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特集:死刑を考える 東京拘置所、刑場公開 教誨室、前室、執行室、ボタン室…

 法務省は27日、東京拘置所の刑場を公開した。刑場の撮影まで認めたのは初めてとみられ、死刑制度を巡る動きに新たな一歩をしるした。刑場公開を機に、日本における死刑の現状や歴代法相のスタンス、執行までの流れ、世界のすう勢などをまとめ、今後の議論を展望する。【石川淳一、木戸哲】

 ◇教誨室、前室、執行室、ボタン室、立ち会い室

 この日公開されたのは教誨(きょうかい)室▽前室▽執行室▽ボタン室▽立ち会い室。教誨室は死刑囚が遺言を述べ、茶や菓子も出される。前室では拘置所長から執行を告知され、ガーゼの目隠しや胸の前で両手に手錠をつけられる。執行室中央の踏み板の上で両足も縛られ、拘置所幹部の合図で、ボタン室の刑務官3人が一斉に三つのボタンを押す。いずれかで踏み板が開く仕組み。拘置所長らは立ち会い室にいて、執行室下段に落ちた死刑囚の死亡を確認する。下段の立ち入りは認められなかった。

 ◇厳罰化傾向が加速 収容中の死刑囚100人以上に急増

 死刑の執行者数は、戦後から70年代中盤までは年間2けたも珍しくなく、1957年と60年の各39人が戦後では最多だ。89年11月の執行後に4代の法相が執行命令を出さず3年4カ月にわたって死刑が停止され、93年3月の再開で同年に7人に執行されて以降も、06年までは年1~6人の執行にとどまり「抑制的」とみられてきた。

 だが、07年以降は事情が変わる。厳罰化傾向の加速により04年から毎年10人以上の死刑が確定したことに伴い、90年代には50人台だった収容中の死刑囚は07年に100人以上まで急増。こうしたことから、07年8月に法相に就任した鳩山邦夫氏は、法相の判断に依拠しない「自動執行」の方向性を問題提起した。法相在任中(05年10月~06年9月)に執行命令を出さなかった杉浦正健氏以降、07年の執行は3回9人、08年は5回15人、09年は2回7人に上り、一時は2カ月に1度のハイペースが保たれた。93年の死刑再開後の執行は84人に上る。

 ところが09年9月、民主党に政権交代して千葉景子法相が就任。今年7月28日の執行までの1年間、執行は見送られた。

 現在収容中の死刑囚は107人。名張毒ぶどう酒事件の奥西勝死刑囚(84)のように判決確定から40年近く拘置所に収容されている死刑囚がいる一方、大阪・池田小乱入8人殺害事件の宅間守元死刑囚(執行時40歳)のように確定から約1年で執行されたケースもある。

 近年は、最高裁判決を待たずに上訴を取り下げるなどし、1、2審で死刑を確定させる死刑囚が目立つのも特徴だ。

 ◇19の罪の最高刑

 ◇執行の流れ 刑確定→法相命令 5日以内に

 現行法は殺人や強盗殺人、現住建造物等放火など19の犯罪について法定刑の上限を死刑と定めている。

 通常の事件の場合、警察が逮捕した容疑者を検察官が起訴して裁判が始まり、地裁、高裁を経て最高裁で死刑が確定することが多い。だが、被告側が控訴・上告しなかったり、弁護人の控訴・上告を被告自ら取り下げて確定することもある。

 判決が確定すると、法相の命令で死刑が執行される。刑事訴訟法は「法相は確定から6カ月以内に命令を出さなければならない」と定めているが、再審請求中や共犯者の裁判中は「6カ月」に算入しないとの規定もあり、実際は再審請求中のような場合は執行が原則見送られている。法相が命令を出した場合は、刑訴法の規定により、5日以内に執行される。執行は検察官の指揮に基づいて行われるため、検察官が立ち会うことになっている。

 ◇139カ国、事実上廃止 09年執行、18カ国

 死刑廃止を求める国際人権団体「アムネスティ・インターナショナル」が09年に国連加盟の192カ国を含む計197カ国を調査したところ、世界で死刑を廃止している国は104カ国。死刑制度を残していても10年以上執行がない国は35カ国あり、計139カ国が事実上の死刑廃止国となっている。一方、死刑制度を存置させている国は58カ国・地域あるが、09年に死刑を執行したのは日本も含めて18カ国にとどまった。

 死刑廃止の機運は、基本的人権の尊重を定めた1966年の国連による国際人権規約採択以降、欧州を中心に高まり、89年に国連総会で死刑廃止条約が採択された(発効は91年)。冷戦崩壊で東側諸国の民主化が進んだこともあり、廃止国は90年の46カ国から急増。欧州では09年、執行が一件もなかった。欧州連合(EU)は死刑廃止を加盟条件にしている。

 一方、存置国は政府が死刑の執行を公表しない国も多い。アムネスティの調べでは、中国では68罪に死刑が規定され、09年は数千人に執行されたとみられるが、正確な数は不明だ。イラン、イラクでも100人以上に執行されたとみられる。執行は絞首刑が多いが、石打ちや銃殺を採用する国もある。09年の死刑判決は少なくとも56カ国で2001人。中国は今年に入り、麻薬密輸罪で死刑が確定した日本人4人の刑を執行し、日本政府は「刑が重すぎる」と懸念を表明した。

 国連は07年12月の総会で、EUなどが提出した死刑執行の一時停止を求める決議案を初めて採択した。08年には国連の国際人権規約委員会が、処遇の見直しや、精神的苦痛を軽減するため死刑囚への執行日時の事前告知を日本政府に勧告。存置国への国際世論の批判は強い。日本弁護士連合会も政府に執行停止を求めている。

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 ◇上限に死刑を定める罪

 《刑法》

・内乱首謀

・外患誘致=外国と通謀(つうぼう)して国家に武力行使させる罪

・外患援助=外国から武力行使があった場合に加担する罪

・現住建造物等放火

・激発物破裂=火薬、ボイラーなどを破裂させ住居などを損壊する罪

・現住建造物等浸害=出水させて住居などを浸害する罪

・汽車転覆等致死

・往来危険による汽車転覆等致死

・水道毒物等混入致死

・殺人

・強盗致死

・強盗強姦(ごうかん)致死

 《特別法》

・爆発物使用(爆発物取締罰則)

・航空機墜落等致死(航空危険行為等処罰法)

・航空機強取等致死(航空機強取等処罰法=ハイジャック防止法)

・人質殺害(人質強要行為等処罰法)

・決闘殺人(決闘罪に関する件)

・組織的殺人(組織犯罪処罰法)

・船舶強取・運航支配等致死(海賊対処法)

毎日新聞 2010年8月28日 東京朝刊

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