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東京拘置所:刑場初公開 「踏み板」挟み、生と死 執行室、14畳の「厳粛な場」

 東京拘置所(東京都葛飾区)の刑場が27日公開され、「立ち会い室」からガラス窓を隔てて8・5メートル先にある死刑の「執行室」を見た。上段は木目の壁に淡紫色のじゅうたん。その部屋は想像よりも明るく彩られていた。一方、下段は白壁に灰色の床のモノトーン。「踏み板」1枚を挟んだ2層構造が、人の生と死を如実に表しているように思えた。

 27日午前、東京拘置所に集まった21人の報道陣はカーテンが閉じられたマイクロバスで刑場に向かった。「拘置所内でも刑場の位置は秘密中の秘密」(法務省矯正局)のためだ。拘置所内のどこに向かったか分からないままバスを降り、手を合わせて一礼しながら入室する拘置所職員に続いて刑場へ。廊下の入り口には清めの盛り塩。置かれた香炉から香りがかすかに漂った。

 最初に入ったのは「教誨(きょうかい)室」。収容されている単独室から連れてこられた死刑囚はまずここで執行の事前告知を受ける。遺言を委ねたり、希望すれば教誨師と話すこともできる。壁に大きな仏壇があり、机を挟んで向かい合うように二つのいすが置かれていた。

 廊下を伝い「前室」へ。正面の壁に金色の仏像がはめ込まれ、右手の青いカーテンが開いた奥に執行室が見えた。広さは約14畳。10人も入れば窮屈だ。執行当日、ここで死刑囚に拘置所長が執行を正式告知する。医療用ガーゼで目隠しされ、両手に手錠を掛けられるとカーテンが開く。死刑囚が直接執行室を見ることはないという。

 4・8メートル四方の執行室も約14畳。床の真ん中に1・1メートル四方の踏み板が赤いテープで囲われ、その中央部にさらに同じテープの四角形。視線を移すと、ロープを設置する四つの銀色の大きな輪が床から壁を伝い、天井をくりぬいて設置した滑車に延びていた。その高さは3・8メートル。直径約3センチとされるロープは付いていないが、存在感の強い堅固な機材が、ここが刑場であることを物語る。

 ボタン室の壁には黒いボタンが三つ。踏み板の上に立つ死刑囚の首に縄がかかり、拘置所幹部の合図とともに3人の刑務官が一斉にボタンを押す。誰のボタンが作動したのか分からない仕組みで踏み板が開くと、死刑囚は約4メートル下の「死の世界」に落ちていく。前室から執行までに要する時間は数分という。わずかひと月ほど前の7月28日も、ここで2人の死刑が執行された。

 全体を見渡せる立ち会い室から、下へと階段が延びる。下りることは許されなかった。吸い込まれそうな深さを感じながらコンクリートの打ちっ放しの床を見ると、踏み板のちょうど真下に当たる場所に排水溝が見えた。

 公開が認められたのは15分ほど。「刑場は死者の魂のいる厳粛な場」と、沈黙を求める職員の説明が耳に残る。ありのままの刑場は宗教色も相まって、死刑囚の最期の息遣いを脳に直接、訴えかけてきた。【石川淳一】

 ◇刑務官「緊張感で手が震える」

 東京拘置所の刑場公開にあたり、法務省は執行に携わった刑務官らから聞き取った声を公表し、「死刑囚や多数の関係者の心情にも配慮した報道を」と求めた。

 ある刑務官は「厳粛な職務で失敗が許されるものではなく、精神的負担は他から想像するのは困難と思われるほど極めて大きい」とし、別の刑務官は「手が震えるほどの緊張感の中、粛々と職務を遂行する。被害者遺族や社会正義の実現のためには自分がやらなければならないんだと自分に言い聞かせ、大変な決意を持って執行に携わっています」という。

 「執行された者のため、供養もお祈りもしている」「刑場に立ち入る際には、死者の魂に敬意を表している」との声もあった。

毎日新聞 2010年8月28日 東京朝刊

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