それは4月も終わりに近づいた、ある日の出来事でした。
最近に日課になりつつある、お父さんによる晩御飯の支度。順調に進むかと思われたそれは残念ながら暗礁に乗り上げたんだ。
「ふむ。困ったな」
「どうしたの、お父さん?」
ガサガサと物音がするから台所を見に行くと、お父さんが見慣れた印がプリントされたビニール袋からレシートを取り出して、
「ああ、少々問題が起きてね。一緒に買ったと思ったが、どうやら玉子を買い忘れていたようだ」
と、まじまじと見つめながら言ったんだ。すると――。
「あら、将司さん。それなら私が買いに行きますよ」
なんて事をお母さんが言うんだけど、そーは問屋は卸さない。だってお母さんはお腹が大きく膨らんでいるんだもん。
え、何が言いたいかって?2ヶ月後くらいには我が家、白鷹(しらたか)家に新たな家族が増えるんだよ、つまり私に弟か妹ができるって意味です。
「あ、お父さん。それなら私が行くよ♪お母さんはダ~メ~です。家でお留守番」
「うう~将司さん。巴ちゃんがお母さんをイジメル。これが家庭内暴力なのかしら。お母さん負けないわ」
「まあまあ、香織も落ちついて。巴は香織とお腹の子を心配しているのだぞ」
「そーそー。ダメだよ、お母さんはちゃんと静かにしてないと~」
「でも、将司さんも巴ちゃんも、私に最近家事とかぜんぜんさせてくれないじゃないですか。香織は皆の除け者なのね~しくしく」
よーよーと泣くまねをするお母さん。そーだね、お腹が大きくなって以来家事とかぜんぜんさせてもらえてないよね。でもダメだよ。何かあったら大変だもん。
小さな子供みたいに頬を膨らまして、ぐちを溢すお母さんをお父さんと私の二人でなだめるとお父さんから竹と橘の彫られた硬貨をいただきました。
――という訳で、私、白鳥巴(しらたかともえ)が晩御飯に足りない玉子を買いに近くのスーパーに行くのだよ。もちろん、お釣りでお菓子を買ってもいいと我が家の大蔵大臣のお墨つき♪
だけどね、家を出てしばらく歩くと、こーいうの神隠しって言うのかな?何だかよく解らないけど、とつぜん暗くなったと思ったらぜんぜん人が居なくなっちゃって、
「誰かー!誰かいませんか~?」
と、ちょっぴり泣きそうな声で何度も何度も言うんだけど、返事はなくて、だけど大通りに出れば、もしかしたら誰かに会えるかもしれない、そう考えたんだ。
それがあんな事になるなんて……。で、でも仕方ないよね。小学3年生の子供一人で誰もいない夜の町並みを歩くなんて、ふつーなら怖くて心細いよね。
「………」
「……!」
「…」
だからね、誰かの話し声が聞こえて、涙を拭って声のする方向に走ると、女の子がいたんだ。その子、魔法少女?みたいな変わった白い服を着てて、だけど手にしてるのは可愛らしいハートステッキなんかじゃなくて…なんだろう、見るからに危なさそうで邪な気配が漂う物で、
それと定番のお付きのマスコットなのかな…肩にね、フェレットっぽい小動物がいたんだ。とにかく、私一人じゃないってのがわかって嬉しくて近づいたら――。
「えっ?結界内に!?あの娘「ユーノくんは黙ってて!!」…はい」
「だいたいね、ユーノくん…私は普通の女の子なの!!それが、ある日とつぜん魔法少女になったと思ったら実は魔砲少女で、しかも熱血バトルしなきゃいけないんだよ!?(中略)
そんなに戦いたいなら、おにーちゃんかおねーちゃんに任せればいいの、ね、わかる?」
「ご、ゴメンなさい…」
なんと魔法少女は同じクラスの女の子でした!!
驚いた私はその事を声に出したちゃったんだ…。
「高町…ちゃん!?な、何、その格好!!」
「うにゃ!!巴ちゃん!?わ、私はなのはじゃないなの……そう、私は星光の殲滅者なの!!!……ところで…見たよね?」
だけど返ってきたのは冷たい言葉。まるでお、お尻に氷柱を…あう~こ、こんな表現書けないよ!
と、とにかく『ぞっとする』雰囲気を醸し出す知り合いの女の子の質問に私は、ふるふると首を振って答えたんだけどね。
「に、にゃ!こんな格好見られたからには、キルゼムオールでデストロイオールヒューマンなのっ!それしか私が明日を迎える方法はないのっ!!」
【目撃者はサーチアンドデストロイですね。さすがは私のマスターです♪どこぞの駄フェレットとは違いますね。嗚呼、デバイス冥利に尽きると言うものです】
「レイジングハート、お願いっ!」
【No problem,My master.Count 10seconds】
高町ちゃんもとい自称星光の殲滅者ちゃんはね、こーなんというか正気を失ってそうなグルグルとした瞳で私を見つめると、桜色の怪しげな光を湛える杖?ソレを私を向けたの。
アレは危険だ、はやく逃げるんだ、なんて私の本能はガンガンと警告を鳴らすんだけど、肝心の私は、蛇に睨まれたカエルみたいに怖くて動けなかったんだ。
「巴ちゃん、痛いのちょっぴりだけガマン出来る?」
【8,7…ひゃあ!もう我慢できませんねっ! ゼロだー!】
「いっ、イヤぁあああー!!」
ロボットアニメに出てくる武器みたいなソレから轟々と音を立てて桜色の光放たれ、私の目の前一杯に広がった時は死を覚悟したんだ。
それで怖くて目を瞑って…だけど、優しげな声がして、気がつくと私と同じくらいの歳の女の子にぎ、ぎゅ~っとだ、抱っこされてたんだよ。あ、あう~。
「ここは危険だ。キミは早く逃げるんだ…」
「は、ハイ」
「チッ…フェイトちゃん…もう来ちゃったんだね。ユーノくんの役立たず!」
「ご、ごめ「謝る暇があるなら今度からは強固な結界を張るよう努力しろ、なの!」…」
【おやおや、誰かと思えばフェイト嬢ではありませんか、目的はジュエルシードですね?しかし残念ですが、貴女には私のマスターの覇道の礎となってもらいましょう】
「断る!ジュエルシードは渡さない。そして…私が、あなた達を倒す!征くよバルディッシュ!!」
【Get set!】
女の子は、闇のように黒い衣装。だけど紅い瞳には強い意志を秘めて、夜風に揺れる金色の髪が印象的で、でもどこか悲しそうでした……。
黒い少女は、私を降ろすと空を舞う。対するのは白い闇と呼ばれる女の子。皆の笑顔を守ると心に決めた戦士と究極の闇をもたらす者との戦いが…あれ?なに書いてるんだろう?
「アルフ!」
「あいよー」
それでその子が誰かの名前を呼ぶと、いつの間にか私の後ろに茜色の髪のお姉さんがいて、あまりの突然さに驚いて、アルフってのはお姉さんの名前かな?なんて突飛な事を考えていると――。
「さー嬢ちゃん。ここにアンタがいるとアタシのご主人様の戦いに邪魔になるからね。行くよ!」
「わ、私、きゃっ!?」
お姉さんに抱きかかえられ、空を飛ぶんだけど、こ、こんどは…お、お姫様抱っこだよ!!しかもふくよかなム、ムネが当たってたし。
顔を赤くした私を見て、お姉さんはニカっと笑って頭を撫でてくれて…まあ、いいよね。紅くなった頬に夜風がひんやり心地良かったけど、その私、男の子だよ。
「さ、ここまでくれば大丈夫だ」
「え?え?あ、ほんとだ…その、ありがとうございます」
気がついたら、あの変な空間じゃなくて普通の夜の街でした。電灯や星明かり、行きかう車の喧騒が聞こえたから、間違えようがないもん。
それでお姉さんに適当な場所で降ろしてもらうとお礼を言ったんだ。するとちょっと照れくさそうな顔で、
「なぁに、アタシは自分の仕事をしただけさ」
なんて言うんだよ。すごっくカッコいいよ!ぴょこんと出てる犬耳もアクセントになって。
ん?犬耳?美緒さんの親戚かな?まーいっか、魔法少女だもんね…。
「お姉さんにも、あの女の子にも、ご武運を!」
「なーに、アタシのご主人様のフェイトは無敵さ。ま、嬢ちゃんのお礼として受け取っておくよ」
お姉さんが夜空に溶け込むように見えなくなるまで手を振って、それで私はお使いをして無事家に帰ったんだ。
お父さんの作った晩御飯を食べて、お母さんと一緒にお風呂に入って、いつもの日常が待ってて幸せで。
だからかな、あの事を頭の片隅に置いたのは。だけどね、寝る前に今こうして思いだしちゃったんだ。
明 日 、 学 校 に 行 く と 高 町 ち ゃ ん に あ う こ と を 。
「お父さん、お母さん、ごめんなさい。それからお母さんのお腹の子にも、一緒に遊んであげれなくて、ごめんね。さき逝く親不幸な巴を許してください。巴は明日死ぬのかもしれません…。
だけど、それで高町ちゃんを恨まないでください。きっと、高町ちゃんにもやむ得ない事情があったのだと、巴は思います。…って、何これ?これじゃまるで遺書だよ、遺書!ぜんぜん日記じゃないじゃん!!」
ふーふーと荒い息をして私は、日記の内容を訂正したのでした。けど、ほんとにどうしょう…明日…。
あとがき:むしゃくしゃして書いた反省はしていない。
別の作品がスランプでぜんぜん進まないから、短めのギャグSSならいけると思って書いたけど次回のネタが思いつかない件。