「今年も見事に咲いたわね。本当に素敵」
一面に広がる黄色の大地。
空には燦々と照りつける黄色い光。青空と入道雲。
今年も見事に咲き誇る花を見渡し、私は満足げに目を細める。
能力を使えば咲かせるぐらいわけは無いが、やはり必要以上に手を掛けるのは美しくない。
自然が一番など安っぽい台詞ではあるが、私はそう思うのだ。
豊かな土、太陽の光、それに水。これさえあれば十分だ。
それは分かっていても手をかけまくりたい、寝食忘れて世話をしたい花が私にはあるのだ。
目に入れても痛くない、むしろ入れたい。
「ねぇそう思わない?あなたが丁寧にお世話をしてくれたお陰よ」
「はい母様。本当に綺麗です・・・」
「今日はここでお昼ご飯にしましょう。お弁当を作ってきたわ」
いそいそと弁当をバスケットからとりだす。
今日はもう一段と気合を入れて作ってしまった。驚きの重箱仕様だ。
玉子焼き、ハンバーグ、タコさんウインナー、おいなりさん、うさぎ型のリンゴetc・・・
朝早く起きて調理した甲斐もあり、大満足の出来栄えだ。
シートに広がる作品を前に、驚きの顔を浮かべた後に笑みが漏れるのをみて
私は心の中でガッツポーズをとる。
何しろ今日は私たちにとって特別な日なのだから。
「おめでとう美咲。今日は幻想郷に来て初めての誕生日ね。」
そう今日は我がいとしの娘、風見美咲の誕生日なのだ。
なんという素晴らしい日なのだろうか。幻想郷の記念日として休日にしてもいいぐらいだ。
外界では偉い人の誕生日が休日という制度があるらしいじゃないか。
こっちにも早速導入するように隙間に申し入れてみよう。
『風見幽香の娘 美咲の誕生日』
是非カレンダーに載せたいものだ。
というより作ってしまおう。そう決めた。
作ると心の中で思ったなら、行動を起こすそれが決まりだったような?
話が脱線してしまったが美咲は正真正銘私の娘である。
細かいことは割愛するが、種族としては半人半妖となるだろうか。
容姿は私をそのまま小さくしたような愛らしさ。歳は花も恥らう6歳だ。
ああ可愛い。
カリスマ溢れる超クールな母親を目指す私は、超スパルタ教育を施してきたつもりだ。
一人でお花のお世話をさせたり、一人でお風呂にはいったり、一人でトイレにいったり
一人で着替えたりと、涙をぐっと堪えてムチを振るってきた。当然陰から見張っていたが。
その甲斐あって見事に箱入り娘となりました。本当にありがとうございます。
美咲は私に似て穏やかで優しい心をもっているので、
花畑で妖精たちといつの間にか仲良く遊ぶようになっていた。
挨拶をしようと笑顔で近づいたら、妖精たちは泣きそうな顔をして散り散りに去っていったこともあった。
「母様。その笑顔では泣く子も黙ると思います」
などと言われたりして凹んだりしたこともあったが、健やかに平和に過ごしてきたのだ。
・・・そう娘が可愛すぎて生きてるのが辛い状態だったのだが。
「・・・そろそろ私もこの幻想郷を見て回りたいです。色々な人たちとお話してみたい。
飛ぶ練習も一杯してきました。お願いです母様」
「・・・・・・」
お昼を食べ終わりまったりしていた所、娘から真剣な顔で懇願される。
ああアルバムに残しておきたいシーンだわ。
『幽香心のアルバム』に今の光景を残しつつ、私は考える。
問題点はいくつかあるが、一つ目は私に子供がいることを誰にも教えていないのだ。
花畑の妖精たちは3日立てば細かい事を忘れてしまうようで、楽しく遊んだという記憶しかないらしい。
人間たちは人間友好度:最悪の妖怪のテリトリーになど近づかないし。
妖怪たちは私の警戒する空気を感じて近づいてこない。
それがいきなり颯爽と登場して『私の娘です。コンゴトモヨロシク』などといったら、
どこで攫って来たんだこの糞妖怪!などと濡れ衣を着せられかねない。
そんな展開になったら、思わず相手の顔を軽く何回も撫でてしまいそうになるだろう。
厄介そうなのは隙間、天狗、貧乏巫女、人里の教師といったところか。
弾幕ごっこではなくリアルバトルに突入してしまう可能性が非常に高い。
2つ目は何にでも首を突っ込んでる白黒魔法使いと出会う可能性が高いことだ。
万が一にも美咲が懐いてしまい、だぜだぜ言うようになったら恐ろしい。
非常に恐ろしい。
『ようおふくろ!今日も絶好調だったZE☆』
とマスタースパークをそこら中に撃ちまくり
『落ち込んだりもしたけれどワタシは元気だぜ!』
箒やらデッキブラシに乗って、黒猫と共に幻想郷を駆け回るのだ。
思わず卒倒しそうになる。オラの美咲ちゃんが不良になっちまっただ!と叫びそうになった。
とここまで考えること3秒。
正直デメリットばかりだが私は、娘の願いを聞き届ける以外に道はない。
なぜなら・・・
「いいわ。但し悪い魔法使いには近づいちゃダメよ。後弾幕ごっこの練習も少しだけやりましょう」
「ありがとう母様!いっぱい練習します!」
満面の笑みを浮かべて抱きついてくる美咲。
この笑顔が見れるなら他のことなど些細なことではないか。
私は心のアルバムにまた一枚納めつつ、今度は本当のアルバムを作ろうかと思案するのだった。
風見幽香
花を操る程度の能力