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[21147] 【習作】こんな○○だったら死にそうに無いかも知れない。(学園黙示録)【ネタ】
Name: do◆579b2688 ID:d32f757b
Date: 2010/08/23 18:59
タイトルにちょっと追加してみたりする。
コレで見てくれる人が増えれば良いなと思ったり。



[21147] 【習作】こんな○○だったら死にそうに無いかも知れない。【ネタ】
Name: do◆579b2688 ID:d32f757b
Date: 2010/08/17 12:19
~注意~
・作者の文章力はゴミ。
・何か石井君がおかしい。死にそうに無い。
・性格改変から転生系になってしまった。どうしてそうなった。
・御都合主義。
以上の事が「許せるッ!!」と言う人だけお読みください。
許せない人はもっと上手い人の記事を見ると良いと思うよ!!


















―――思えば、それなりに有意義な人生だったのかもしれない。

「隊長!!」
「隊長ぉ!!」
「しっかりしてくれよ隊長!!」

部下が叫んでいる。
無茶言うなよ。
血が流れすぎて意識が朦朧としてきてんだ。
しっかりしろとか拷問か、お前ら。

「隊長ぉ…何で俺なんか庇ったりしたんだよぉ…」

あーもう、泣くんじゃねぇよマルス。
昔からそうだなお前。
拾ってやった頃から、毎回毎回ピーピーピーピー泣きやがって。
誰よりも精密な射撃ができるようになったくせに、そういう所だけは変わっちゃいねぇなぁ。
『百発百中のマルス』の名前も泣くぞ?
そもそも何でって、お前の反応が遅かったからだろうが。
まったく、どん臭いったらありゃしねぇ。
だーからお前は孤児院だとかに行けって言ったんだよ。ソレなのに『隊長の役に立ちたい』だの何だの格好付けやがってよぉ。
許しちまった俺が悪いみてぇじゃねぇか。

「隊長!!しっかりして下さい!!今助けますから!!」

オイオイ、ペーター。
見てみろお前、この出血量で助かるわきゃねぇだろうが。軍医がそんなもんすら見切れなくてどうすんだよ。ったく。
幾らお前の腕が良くても、この出血量じゃあどうしようもねぇよ。
それに奴さん等、銃弾に毒なんぞ仕込んでやがる。
解毒剤もねぇんだ。どうしようもないさ。
それにそろそろ寝かせてくれねぇか?もう十分なんだよ、俺は。

十分に、生きたんだ。

あー、でも心残りは一つあるなぁ。

「…おぉい、アレックス…」
「―――何だ、隊長」

何だよアレックス。冷血漢で知られるお前まで泣いてんのかよ。
雨の中だからばれねぇとか思ってんじゃねぇぞこの野郎。バレバレなんだよバーカ。

「アレ…ゴフッ…煙草、寄越せ。薬用じゃないやつ…」
「―――ああ」

アレックスがポケットから煙草を取り出し、俺の口に差し込む。
そしてその巨体を雨傘代わりに、ライターで火を点けてくれた。
大きく煙を吸い込む。
―――ああ、不味い。
ベッと吐き出せば、自分の血と混ざり合って赤黒く染まった水溜りに落っこち、鎮火した。

「ゲフッ!ゴフッ!…アレックス…お前、よく、そんな不味いもん…吸える、なぁ」
「―――隊長は、味覚が餓鬼だからな」

うるせぇよ。いいじゃねぇか、パフェが好きでも。
それに薬用パイプとか、ハッカパイプとかは好きだぜ?頭が冷やせるからな。

「ああ、眠い」

とても眠い。瞼が勝手に下がってくる。
思い返せば、色々あった。
親が飛行機事故で死んだと思ったら、傭兵に拾われて、暗殺者なんぞの技術を仕込まれて、何時の間にやら傭兵部隊の隊長だ。
敵を殺して、仲間が死んで、何でか知らんが生き延びて。
一時期は自棄になって、たった一人で百人以上の軍隊にゲリラ戦仕掛けた事もあったっけか。
結局、生き延びたが。
そのせいで付いた渾名は、『神出鬼没の――――』

「ハハッ」

ああ、ソレこそどうでもいいことだな。
色々とクソッタレな人生だったが、部下には慕われていたようだ。

俺なんぞの為に、泣いてくれる奴らが居るんだから。

なら、それでいい。
最期を看取ってくれる奴らが居るんだ。
俺には、贅沢すぎる最期だ。

「――――」
「隊長?…隊長ぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

傭兵部隊『名無しの兵士』隊長、『神出鬼没の何処かの誰か(ジョン・スミス)』死亡。






           ~プロローグ 死亡フラグと転生の巻~





「死亡した、はずだったんだがねぇ?」

ぼりぼりと頭を掻き、ずり落ちかけたサングラスを押し上げる。
普段は伊達眼鏡なのだが、休み時間だとかには『昔』を思い出すために此方をつけている。
場所は屋上、昼休み。
あの後、気付けば赤ん坊だった。
いや、何を言ってるか分からんと思うが自分でも何を言ってるか分からん。マルスが良く読んでいた、『俺の故郷だと思われる国』で描かれたコミックに出てきた凄まじい髪の毛の奴の言葉を借りるなら。

『あ、ありのまま起こったことを(ry』

って奴だ。
いや、マジで意味が分からんかったな。あの時は。
何を言っても「おぎゃー」としか発音できんわ、周囲の奴らはソレを見て「元気な男の子ですよ」とか言いやがるわ。
その後、落ち着いてみれば自分が赤ん坊になっていた事が分かった。
何かもう、疲労感しか湧かなかった。
結構カッコいい死に様だったと思うのよ。
その後、あいつ等が『隊長の意志を~』とか言って走ってって、隅っこにでかでかと『完』とか書いてあれば―――。

「いやいやいや、漫画に毒されすぎだろう俺」

無い無い無い、ソレは無い。
幾らなんでも現実と空想をごっちゃにしすぎだろう俺。
思い出は美化されるとか言うが、本当だなオイ。
少なくともあいつ等はそんな殊勝な事はしない。
俺が死んだ後は『ヒャッハー!!やりたい放題だぜー!!敵討ちと題して汚物は消毒だー!!』だの、叫びまくって阿鼻叫喚の地獄絵図を作り出したに違いない。

「・・・・・・」

…ひ、否定できねぇぇぇぇぇ。

チクショウ、美化された部分だけは決定的に否定できるのに!!
非常識な行動にだけは否定が全くできねぇ!!
あいつら『たが』が外れると、即座に自分たちのやらかしたい事をやり始めるからなぁ。
そのせいで俺がどんだけ苦労した事か…!!

「まぁ、今更どうしようもないんだがねぇ」

前世がどうあれ、今の俺は、学生だ。
しかも世界中で一、二を争うであろう平和な国、『日本』の学生である。
『何処かの誰か(ジョン・スミス)』であった時の俺の、故郷では無いかと目されていた国でもある。
そんな事はどうでもいいが、ともかく『戦争』とはほぼ無縁の国だ。
俺が『あいつ等』に出会うことは、二度とないのだろう。
―――そも、『同じ世界』である保障も無い。
ペーターが好んで読んでいたSF小説だとかでもよくあるアレだ。

平行世界。パラレルワールドってやつ。

似ているけれど決定的に違う世界。
少なくとも俺は親を飛行機事故で失っていないし、どっかの飛行機が墜落した、と言う話を聞いても生存者が一人だけ、と言う話も聞いた事が無い。
そもそも、俺が拾われたシチュエーションである『密林に突っ込む飛行機』なんぞ滅多に無いだろうに。
ともあれ、同じ世界であると言う可能性は極めて少ない。
昔は鼻で笑ったりもしたが、まさか自分がその当事者になろうとは。

「意外と言う他、無いわなぁ」

ポケットから煙管を取り出しふかす。
人体に悪影響を与えるようなあのクソ不味い煙草ではなく、ハッカだとかハーブの類を詰め込んであるものだ。
『今の俺』の祖父に当たる人物から貰ったものだ。
パイプも良かったが、この煙管と言うのも中々どうして良いものだ。
そう思うのは、前世も日本人であったからなのか。

「分からんなぁ。分からんよ」

己の黒髪を撫で付ける。
前世と同じ、真っ黒な髪の毛。
日本人と言う人種を象徴するパーツの一つ。
まぁ、黄色人種である。と言う事のほうが外国にとっては代表的であるのだろうが。

「全く、どうしたもんか」
「一人で何ゴチャゴチャ言ってんだよ」

そう言って俺の特等席、屋上へ続く階段の屋根の上に登ってくるのは。

「小室坊か」

小室・孝。同じ二年生であるが、別の組の少年だ。

「お前、その呼び方やめろよ。同じ歳だろ?」
「まぁ、そう何だがねぇ」

不平を言いながら、俺の隣に座り込む小室坊。
この呼び方は、最早癖なのだ。
どうしても年下に見てしまうのは、前世の年齢分か。
元より六十近くまで生きた老兵であったのだ。同級生を見ても、孫とかそこら辺にしか見えん。
故に、ほとんどの人物に『坊』や『嬢』と付けてしまうのだ。
一度、その事で先輩方に呼び出されたこともある。無論、逃げ延びてやったが。

「その癖直さねぇと、また先輩方に呼び出し喰らうぞ?」
「大丈夫だ。また逃げ延びる。そして先生方に助けを請う」

面倒事は避けるに限る。態々喧嘩して先生方に眼をつけられる事も無い。
一応、評判だけは良いのだ。傭兵生活じゃあさして出来なかった勉強、と言う事もあり学生生活はほぼ勉強一辺倒。此処、藤美学園に入れたのもそういう理由がある。
存外に偏差値が高いのだ。この学園。

「…表面優等生」
「やかましいぞモテモテ王国の国王。ファーザーか?ファーザーと呼んでやろうか?」
「お前、偶に本気でムカつくな」

小室がグググッと拳を握るが、前世の習慣故に幼い頃から鍛え続けている俺のマッシヴボディには太刀打ちできないと踏んだのか、はぁ。と溜息を零して下を向く。
うむ。賢い判断だ。
俺と小室は、何時もこんな感じでじゃれあっている。
本来ならば俺と小室は出会わなかったのだろう。
何せ、教室が結構離れているし部活も違う。
『普通』では、一切の接点を持ち得なかった。
そんな俺と小室が、どうやって出会ったのかと言えば―――。

「あー!!やっぱ此処に居た!!」

バン!!と屋上へ続く扉を開けて出てきたのは、一人の少女。

「そら、嫁候補一号が来たぞ幸せ者」
「…茶化すなよ。そんなんじゃない」
「コラ其処ぉ!!人を無視してコソコソ話さない!!」

肘で小突いてやれば、少し恥ずかしそうに反論する小室。
そんな俺たちを指差して吠えるのは、小室の嫁候補一号。
宮本・麗。本来ならば三年生になる筈だった、俺たちの同級生だ。
下に居るそのお嬢さんこそが、俺たちが知り合う切欠になった人物なのだ。
事の起こりは、何のことも無い。

お嬢ちゃんが留年した事に対しての口論を見てしまった。それだけのことである。

最初は痴話喧嘩かと思った。何せ校内で見かけた事が何度もあるが、偉く仲がよさそうで既に付き合いを始めていたのかと思い。
その喧嘩している姿を見て。

『チクショウリア充爆発しろ!!』
『『!!?』』

何だか非常にムカついた。
前世でもほとんど女気の男が無かった俺。野郎ばかりの中で、戦争と宴会に明け暮れた日々。
別れるかどうかの瀬戸際たる痴話喧嘩とは言え、羨ましく見えたのだ。
周囲に誰も居ないと思っていたのか、叫んだ俺のほうを見て驚愕に眼を丸くする二人。
其処からは、ほとんど俺の独壇場である。

『前世でも現世でもモテない俺に謝れ!!謝罪しろ!!』
『え?いやその』
『シャーラーップ!!痴話喧嘩とかテメェ何様だコラァ!!周囲の事も考えろバーカ!!』
『ちょっと、ねぇ』
『死ね!!氏ねじゃなくて死ね!!股間爆発して死ね!!』
『オイ、なぁ』
『バーカバーカ!!もげちまえ!!はげちまえ!!』

思いつく限りの罵詈雑言を吐き散らかしてやった。
若干涙目になったのは、秘密だ。言ってて自分が悲しくなったからしょうがない。
でまぁ、俺の乱入により有耶無耶になったお嬢ちゃんとの口論は、俺を共同作業で撃沈した事により頭の片隅にでも追い遣られたのか二人仲良く帰っていった。
対する俺は。

『すいません。悪気は無かったんです。ただ、痴話喧嘩してたあの二人が羨ましくて…』
『分かったから、な?カツ丼でも食って、元気出せよ。学校には連絡しねぇから』
『お巡りさん…!!』
(哀れ過ぎて言いにくい、とは言えねぇやなぁ…)

近所迷惑で通報され、事情聴取をされた。
幸い、お巡りさんは俺の言い分に何処か共感するものがあったようで(目を逸らしていたのが気になるが)、学園への通達は思いとどまってくれたようである。
流石は義理人情の国、日本である。
あの優しさを、俺は忘れる事は無いだろう。

「…何泣いてんだ?お前」
「いや、お前さんたちとの出会いと日本の素晴らしさを少々」
「あー、アレね…」

宮本のお嬢ちゃんが、思い出したくも無い記憶を思い出してしまったかのようにうな垂れる。
隣の小室も同様である。
そして俺も。
俺にとってもあの魂の叫びは黒歴史なのだ。
何故か屋上が、昼休みと言う爽やかな時間帯にも拘らず暗雲立ち込めるようなどんよりした空気になりつつあるとき、ソイツは現れた。

「おーい、お前ら。そろそろ昼休み終わるぞー」
「出よったなサワヤ・カーン十三世。またの名を井豪・永坊」
「いや井豪の方が本名だからな?」

そう言って苦笑するのが、サワヤ・カー…じゃなくて、井豪・永。空手の有段者であり爽やかな笑顔と優しい心を持つI・K・E・M・E・Nである。
死ねばいいと思う。

「あ、呼びに来てくれたの?ありがとね」
「いや、気にしないでくれ。俺が好きでやったことだから」

宮本嬢の麗に対して、気恥ずかしそうな顔をする井豪。
毎度毎度思うのだが、どうにもこの男。

宮本嬢の事が好きらしい。だが小室とも親友。

見事なまでに板ばさみ。宮本嬢は小室坊が好きで(イマイチ小室のほうはそういうのに疎いようだが)、けれどその小室坊は自身の親友。
青い青春の中に混じる、小さな苦味。

「おお、何と言う悲劇。――――見てる分にはすっごい楽しい」
「何言ってんだお前」
「一々反応してると疲れるよ、孝」
「そうそう。ソイツの独り言は今に始まった事じゃないだろ?」

それもそうだな、と俺の隣から宮本嬢たちの隣へと降りていく小室坊。

「失敬な。俺は自分に正直なだけだ」
「「「ハイハイ」」」

そんな俺の言葉を無視して屋上から引き上げていく一同。
ちょっと寂しかったりする。

「――――」

皆が居なくなった事を確認し、学生服の袖からするりと『ある物』を取り出す。
それは。

「…なぁんで、『コレ』が此処に在るかねぇ?」

此処は、かつて自分の居た世界ではない。
分かっている。それは、決定的であり曲る事の無い事実なのだ。
なのに、今、俺の手の中にあるのは。

「―――相棒」

幾つもの戦場を戦場を潜り抜け、数えられぬほどの敵の首を切り裂き、何度も俺の命を救った、一本のナイフ。柄を押す事で刃が飛び出るタイプのものだ。
柄を押し込み、刃を露出させる。
極限にまで鋭く研ぎ澄まされたソレは、日の光を受け純白に輝いていた。
かつての俺が十五の誕生日を迎えた日、始めて自身の金で買った武器。
今の俺が十五の誕生日を迎えた日、枕元に置いてあったもの。
何故、コレが此処に在るのか。

「分からん、分からんが―――」

どうでもいいと思った。
損があるわけではない。寧ろ、かつての重みが喜ばしい。
なら、それでいい。
十分じゃあないか。

「さて」

刃を戻す。
袖の中にナイフを仕舞い込み、グッと一度身体を引き伸ばす。

「行くかね」

空を見る。何処までも続く青空だ。
平和だ。生温い日常。けれどソレは、かつてどれだけ欲しても手に入れられなかった幸福。
『死こそが永遠の安らぎ』とは、誰が言ったのか。俺の現状を死と呼んでいいのか知らないが、確かに死んでから安らぎが手に入ったとは思う。
そう思い、首を一つコキリと鳴らした。
――――――――――――――――――――それが、最期の安らぎだとも知らずに。











「おーい、早く来いよ。石井」

ああ、そう言えば自己紹介がまだだった。
床主市在住、藤美学園二年生、石井・和(いしい・かず)。かつて『何処かの誰か』と呼ばれた男の、今の名だ。



~あとがき~
何か知らんが書き直したら転生系とかそんな感じになっていた。何でだろうね。
こうすれば強かろうが何だろうが納得できる…のか?
「チートじゃねぇか!!」とか言われるかも知れませんが、強さとしては毒島先輩よりも弱いです。
後、石井君in元傭兵がやらかしたせいで井豪と宮本は付き合ってません。小室もふてくされてないです。つまり損をしたのは井豪だけ。哀れ井豪。
シリアスのままで行こうと思ったら途中でギャグが入った。心に余裕が無いと書けないんです。
では、アンケートお願いします。
①こっちでいいよ。
②前のほうがいいよ。
③妖星は天をも動かす美と知略の星。

②が多かった場合、前のほうを復活させようかと思います。優柔不断ですみません。



[21147] 【習作】こんな○○だったら死にそうに無いかも知れない。【石井無双】
Name: do◆579b2688 ID:d32f757b
Date: 2010/08/19 11:54
~注意~
・作者の文章力はド低脳。
・割かし御都合主義だよ。
・ほぼ白紙であるモブが生き残るためには転生系とかにするしかなかった。今は反省している。
・石井君Tueeeeeeeeeeeee!!みたいなノリだと思われる。
以上の事が許容できる方のみ、お進み下さい。
許容できない人はもっと面白い作品を読めばいいと思うよ!!

































―――――日常は、想像以上に脆く、儚いものだったのだろう。

「シッ!!」

ナイフを振るう。『学生』だった『ソレ』の内、一人の首が飛ぶ。

「どっせい!!」

保健室のベッドを蹴飛ばす。ぶつかった衝撃で、『ソレ』の動きが止まる。
ナイフを腰の鞘に収め、点滴を吊るして置くアレを手に取り、『ソレ』を下敷きにしたベッドの上へ飛び乗る。

「ふんぬおらぁ!!!」

点滴を吊るして置くアレで『ソレ』を薙ぎ払う。三匹ぐらいが連鎖的に吹き飛んで行く。

「わぁー、凄いのね君。そう言えば、名前は?」

パチパチと手を叩く空気の読めない保険医。腹が立つ。

「やかましい!!どうしてこうなった!!どうしてこうなった!!」
「どうしてかしらねぇ?」

少々テンションがおかしいが、そうでもしなければ正気を保てる気がしない。
できることなら、夢であって欲しい。
今だって、『脳天気な後ろの先生を護る』という目的を支柱として無理矢理自分を奮い立たせているだけに過ぎない。
正直、混乱の極みである。

「アアアアアアアア!!」
「死ねッ!!」

倒れた状態から再度起き上がってくる『ソレ』の首を、ナイフで切り飛ばしていく。起き上がってくる、と言っても頭か体を潰さねば幾らでも襲い掛かってくるようなので、薙ぎ払ったり、ベッドの下敷きにしても起き上がると言うことは予測出来ていたといえば出来ていたのだが。

「クソ…マジでどうなってんだよ、コレ」

冷や汗が流れる。首が落ちれば死ぬ、と言うところだけは人間と同じのようで助かった。でなければ、既に俺の命は無かっただろうに。
『ソレ』の血で汚れたナイフを軽く振り、血を飛ばす。後ろでホルスタイン体型の保険医が「スカートが、スカートが汚れたぁ」だの何だの言っているが、知った事ではない。

「何だって、学園の生徒が」

生ける屍(リビングデッド)なんぞに成っている?




             第一話「悲鳴と校医と切断の巻」




事の起こりは、何であったのか。

朝食を食べて、『今の俺』を育ててくれた両親の仏壇の前で手を合わせてから学園に来た。
其処までは良い。
普通に授業を受け、普通に放課が入り、また授業。
その授業の途中で、睡魔に負けた。

「…ぬ」

起きてみれば、自分だけ。
移動教室であったのに寝過ごしてしまったようで、誰一人居ない教室の中。
教師に叱られる事を前提として、面倒くさいと思いながらも腰を上げる。
その時だった。
スピーカーから聞こえる不快なノイズ。
次いで入る、教師の声。

『全校生徒・職員に連絡します! 校内で暴力事件が発生、全生徒は職員の誘導に従って避難してください! 繰り返します……!』

(…暴力事件…?)
物騒な話もあったものだ。
こんな平和な国でそんな事は―――いや、無いわけじゃあないな。何処の国でも馬鹿やらかす奴は居るのだ。
ともかく、それならば一旦クラスメイトと合流しなければ。
そう思い、歩を進めれば。
またもや、ノイズ。
次いで入ってくる、教師の声。
けれど、先ほどのものとは全く異質のもので。








『ギャアアアアアアッ!!あっ!!助けてくれっ止めてくれ!!たすけっ、ひぃっ!!痛い痛い痛い痛い!!助けてっ!!死ぬ!!ぐわぁぁぁあ!!』








(――――――――)

一瞬、思考が停止した。
が、騒音ですぐさま動き出す。
両隣の教室から、我先にと逃げ出す学生たちの影が見える。
押しのけ、踏みつけ、『自分だけでも』と足掻く。
悲鳴と怒号が、学校中を響き渡る。

(オイオイオイ、一体なんだってんだこりゃ)

今さっきの放送で、校内のほとんどの人物が混乱に陥っているのか、非常に騒がしい。
恐らく、恐怖で思考が停止しているのだろう。

それでは、駄目だ。

(オーケー冷静になれ俺。『神出鬼没の何処かの誰か』は何時でも何処でも冷静にあれ。思考が止まれば死期が早まるだけだ)

此処で思考を停止させるほど、危険なことは無い。
叫び出したい、自暴自棄になりたい、そんな風な思考を無理矢理抑え、深呼吸をして気持ちを諌める。

(少なくとも、尋常の出来事じゃあ、ねぇわな。殺人鬼でも入り込んだか?笑えんジョークだが、現状じゃあ一番確率が高い出来事ではある、か)

ならば。

袖の中に仕舞い込んだナイフの有無を確かめる。
いつも通り、己の相棒は其処に在った。
次いで学校に常備してあるナップザックを開き、中を見る。

(乾パン良し、飲み水良し、防犯ブザー良し、裁縫セット良し、救急セット良し、トランシーバー良し。これだけあれば、事足りるだろう)

何故こんなものを常備しているかと言えば。
何を隠そう、俺は『災害時対策同好会』と言う変な同好会に入部しているからである。
元々、去年卒業した三年生の先輩が設立したものであり、正直なところ部活はどうでもいい、と思っていたところを勧誘されたのである。
部室など貰える様な立場ではなかったが、先輩が実費で購入したこのナップザックだけあれば事足りるようなもんである。

そもそも、災害時対策同好会とか部室貰ってもどうすりゃいいんだよ。
学生じゃあ大した事なんて出来んぞ。

ともあれ、先輩が置いていってくれたものは、現時点において高確率で生命を保証してくれるものだ。どんな状態になっても、一ヶ月か二ヶ月ぐらいは補給無しで生きていける。
まぁ、流石にそういうことは無いだろうが…。

「嫌な予感がする」

かつて戦場を渡り歩く間に身に着けた、直感的な予測。
『今の俺』になっても鈍らないソレは、存外に当たるから困る。
ともあれ、ナップザックを背負い、ドアを開けて教室の外に出てみれば。

「―――随分な有様だな、コリャ」

思わず、顔をしかめる。
其処には、想像以上に惨い情景が広がっていた。
踏みつけられ、骨があらぬ方へ曲った男子生徒が居る。

押しのけられ、顔の半分が潰れた女子生徒が居る。

他にも、点々と続くように死体が転がっており―――。

「―――ん?」

否、一人だけ生きている奴が居る。
確か、アレは同じクラスの。

「岡田、だったか?」

走りよってみれば、微かだが呼吸をしている。今ならばまだ、間に合うかも知れない。
見捨ててもいい、見捨ててもいいのだが…。

「…ちょっとばかし揺れるけど、我慢してくれよ」

ちと、後味が悪い。
ナップザックを背中から降ろし、荷物を入れる部分が胸のほうに来るようにする。
そして岡田を背負い、一気に保健室のほうへと駆け出す。

(まだ保険医が居てくれるんなら凄まじく助かるんだが――――居なかったときは、俺が処置せざるを得ない、か)

傭兵やってたこともあるのだから当然、止血だの何だののやり方は知っている。保険委員でもあるし。
救急セットを使わないのは、出来るだけ『いざ』と言うときの物品を減らしたく無いからだ。
岡田には悪いが、俺とて命は惜しいのだ。『いざ』と言うとき止血が出来なくて死んだとか洒落にならんだろうし。
少なくとも間に合うとは思う。

「死んでも恨むんじゃねぇぞ!!岡田ぁ!!」

この時の俺は、気が付かなかった。気がつけなかった。
目の前の惨状を見せ付けられ、死に掛けた岡田を一刻も早く保健室へ連れて行きたかったから。
だから、気にしなかった。
眼を向けなかった。
岡田が、何故死に掛けていたのかを。
骨が折れているわけでもない。
内臓が破裂しているわけでもない。
ただ、身体の何処かに――――。






―――まるで喰いちぎられた様な、そんな傷が―――











「―――無礼講だがご勘弁!!」

保健室に辿り着いた事でほっとしながらも、急ぐ事には変わりない。
褒められた事ではないと分かっていながらも、保健室のドアを蹴り飛ばし、中に入る。
中で驚いたような顔をしているホルスタイン体型の女性は――――校医の、鞠川・静香先生だ。

「ちょっと!ドアは手で開けて入って来てく「悪いが非常事態なんです!とっととこいつをベッドに寝かせてやってくれませんか!!?」え?あ、ええ」

鞠川先生の言葉を遮り、岡田をベッドに寝かせる。
そして額に濡れたタオルを乗せてやるが…。

そこで、ある『変化』がある事に気が付いた。

(…ん?)

タオルの端が、赤黒く染まっている。
血涙。岡田が赤黒い血を、瞳から流している。
先ほどまでは、何も無かった筈。
ならば、何故。
変化はそれだけに留まっていなかった。
明らかに、血色がおかしい。
確かにさっきも顔は蒼白かった。だが、コレは最早蒼白いなんてレベルじゃなく―――。

そんなことを考えた時。

「ヴオアァアァァァァァア!!」
「―――!!?」

岡田が、起き上がった。
だがそれは、明らかに『生きている者の姿』ではない。
白目をむき、灰褐色の肌をして、口や瞳から血を垂れ流すその姿を、断じて生者と認めるわけには、いかなかった。

「ンのやろッ!!」

腹部を思い切り蹴り飛ばし、壁に衝突させる。
思い切り頭部をぶつけた様だが、痛がる様子も見せず、ノロノロと立ち上がる『岡田であった者』。
一体、どういうことだ?
俺が寝ている間にどんな事があったんだ?

「困ったわぁ」

そんな事を思っていると、校医の鞠川先生はのん気にも薬品類が揃えてある棚に向かって行く。
一瞬、その素敵ボディーに目を捕られそうになるが自制する。幾ら女気が無いからってこの非常事態に色ボケるほど耄碌しちゃいない。たぶん。

「警察も消防も電話が繋がらないし、手当てしてる噛まれた人は絶対死んじゃうし、死んだら蘇っちゃうし、まるで変な人たちがだーい好きな映画みたい」

まるで、世間話でもするような軽さで、鞠川先生は衝撃的な言葉を放った。

「――――は?」

今、何と言った。
噛まれたら、死ぬ?死んだら、蘇る?
何だ、ソレは。
B級映画じゃないんだぞ。現実なんだ。現実だってのに、何だ、ソレは。
性質の悪い冗談としか思えないが、事実なのだろう。何せ、目の前で『恐らくそれであろう事態』が起こっているのだから。

ガサリ。と、何かが立ち上がる音がする。

『岡田であった者』が、再起を果たしたのだ。
殺さねば、殺されるだけ。奴は既に『岡田』と言う人間では無く、『岡田』という名の化け物なのだから。

「ヴォオオア!!!」
「…チッ」

袖から滑り落とすようにナイフを取り出し、刃を露出させる。
かつての経験と、今生でも磨き続けたナイフの使い方を思い出し、構える。
突進してくる『岡田だった者』に対して、俺は。



「許しは請わん。―――――――死ね」



ナイフを、振りぬいた。

ゾブリ。と『岡田だった者』の首に食い込んだナイフは。

まるで、バターでも斬るかのように。

滑らかに、首を切断し。

『岡田だった者』の首はあっけなく胴体から離れ、保健室の床へと落下した。

次いで、身体が傾き、倒れる。

「…殺す事に、こんだけ重圧を覚えるとはね」

随分と平和ボケしたものだと思う。十七年間と言う年月は、存外に長いものだったようだ。
特別親しかったわけでもない。ただ、二言三言の言葉を交わしただけの間柄であった。
かつての傭兵生活ならば、数ヶ月前に共に酒を飲み交わした奴らの首を刎ねる事なんぞ、幾度もあった事だと言うのに。

「…南無三」

軽く念仏を唱え、冥福を祈る。化け物となって果てる、何て、ただの学生であった奴にはこれ以上なく不本意な最期であっただろうに。
けれど、こうなった以上はこのまま嘆いているわけにも行かない。
少なくとも、噛まれた奴が今のようになるとするのならば今現在もねずみ算方式で奴らは増えていっている、ということなのだろう。
安全な場所が存在するのかどうか不明だが、ともかくさっさと逃げなければ、また<奴ら>に襲われるだけだ。
出来るだけ、狭い空間は遠慮したい。

「とっとと逃げるぞ!!鞠川先生!!」

思わず、荒々しい口調になる。教師に対しては出来るだけ丁寧に接しようと思ってはいるのだが、今はそんなことを気に出来る場合でもない。

「ちょっと待って。持ち出せるだけ持ち出さないと…」
「ンな事やってる場合じゃねぇだろ!!馬鹿かアンタは!!」

そんな俺の言葉には意も解さずに、鞠川先生は薬品漁りを続けている。
アンタさっき自分で『手当てしても意味無い』的なことを言ったばかりじゃねぇかよ!!今更薬品とか持ってってどうする気だよ!!

「あああああああああ!!さっきみたいな奴が来たらどうす――」

パキン、と。

部屋のガラスが割れる音が、聞こえた。







「ゼェイ!!!」
「ヴ・・・ア」

グシャリ。と、ナイフを最後の化け物の顔面に突き刺す。
コレで、最後のはず…。

「ヴオオオオアアアアアアア!!!」
「んなっ!!?」

完全に、油断していた。
大きく腕を振り上げ、此方に飛びかからんとする化け物を見たとき、最後に思ったことは。

(そう言えば、あいつ等…生き残れたかね)

最期に思い出すのは、小室坊や宮本嬢、井豪坊などの面々だった。
まるで、スローモーションのように。
その情景は、流れて行き。
眼前に、化け物の口が差し掛かったとき。






ゴシャッ。と、肉を叩き潰す音が聞こえた。






「――――え?」
「そこの君、無事か?」

見上げれば、女神が居た。

凛とした佇まい。

切れ長の瞳。

女性らしさを残しつつ無駄の無いしなやかな体躯。

美しく長い髪の毛。

コイツは―――。

「―――コイツはまた、別嬪さんな救世主が来たもんだ」
「フフッ、世辞が上手いな」
「世辞じゃねぇよ。少なくとも俺にとっちゃあ救世主さね」

軽口を叩くが、正直さっきの戦闘のせいで心臓が五月蝿くてしょうがない。

「そうか。私は、三年の毒島・冴子だ。君は?」
「…二年の石井・和。まぁ、好きに呼んでくれ」
「そうか、では石井君と呼ばせて貰おう」

そう言って柔らかに微笑む毒島嬢。…別嬪さんな面で『ぶす』島とはこれいかに。
いや、それにしても真面目に綺麗な女性だと思う。
凄く今更なのだが、この学園て女子のレベル高すぎじゃね?少なくとも宮本嬢や小室の嫁候補二号たる(二人とも否定するだろうが)高城、校医の鞠川先生も美人に分類される。
性格とか、そういうもんは置いといて。
とりあえず俺の無事を確認した彼女は、鞠川先生のほうへと向かって行った。
二人で何事か話しているが、気に出来るほど余裕は無い。
何というか、腰が抜けた。
張り詰めていた緊張の糸が、ぷつんと切れてしまったようだ。

「く、はぁ」

思わず、息が抜ける。
アレだけ緊張したのは、何時以来だろうか。
ペーターが変なテンションになって俺やマルスを新薬の実験台にしようとした時以来だろうか。
或いは、赤ん坊のときに『漏らすしかない』と自覚したときだろうか。
どちらにせよ、今俺は生きている。
それでいい。
その事実だけで十分だ。
とりあえずナイフの刃を仕舞い込み、袖の中へと戻す。
それと入れ違いで懐から薬用煙管を取り出しふかす。
…あー、色々と爽快な気分だ。

(とりあえずこっから先のことを考えねぇとなぁ。長居するのは選択肢としては下の下だし、学園の中はあの化け物だらけだろうし…ともかく、市街地にでねぇ事には袋のネズミ感は否めんな。その為にも足が要るか。学園の教師にそんな大き目の車、持っている奴居たっけかね。まぁ、ご都合主義的にマイクロバスとかありゃ良いんだが其処までこの学園が立派かと言うと…)

そんな風に今後の計画を立てていると。
バキリ。と、保健室のドアが、壊れる音がした。

「チッ…思考の時間すら与えてくれんか。ま、考える事すら最早出来んだろテメェらに比べりゃ、大分マシなんだろうな。――――こんな軽口が、吐けるくらいに」

ぞろぞろと化け物が現れる。
先ほど仕舞い込んだばかりのナイフを取り出し、咥えていた煙管を懐に仕舞い込む。
鞠川先生との会話も終わったのか、毒島嬢も、俺の横に並ぶように歩み寄る。
だが、其処で少々妙な事に気が付く。
先ほどと同じ、強烈な鬼気を発する彼女。
けれど、その口元が些かおかしい。

(オイオイ、まさかこの嬢ちゃんこの状況で――――)

笑ってんのか?
その女傑の口元には、薄く、笑みが浮かんでいた。

まるで、この厄介極まる化け物との戦闘を、楽しみにしているかのように―――――。

~あとがき~
石井君in元傭兵、奮闘するの巻。ちと強すぎたかも知れない。
そして毒島先輩と鞠川先生登場。やったねイッシー両手に花だよ!!持てないだろうけど。
ともあれ、次でフラグマスター小室君達との合流です。
果たして石井君は、フラグマスターのフラグ建築を遮りつつ、誰かにフラグを立てられるのか。
ちなみに○○嬢とか嬢ちゃんとか、呼称が安定しないのは仕様。基本呼び方適当なんですこの人。
そしてアンケート。
①構わん。続けろ。
②とっととこの低レベルな作品をやめろと言っているサル!!
③激流に身を任せ同化する。








~おまけと言うか何と言うか~
それは、保健室を脱出してからの話である。

「オオオォォアアアア」
「―――」

無言で化け物の手を払いのけ、ロッカーに叩き付ける毒島嬢。見事なもんである。
と言うかおかしいだろう常識的に考えて。何でこんな状況で冷静なの?馬鹿なの?死ぬの?俺なんて、数え切れないぐらい戦場に立った覚えあるのに正直怖くて仕方ねぇよ?ホラー苦手なのよね俺。

「職員室とは…全く面倒な事を言ってくれる」
「だって、車のキーは皆あそこなんだもん」

そう言って毒島嬢の斜め後ろ辺りから話しかけるのは鞠川先生。そう、俺たちは学園脱出のための移動手段を取りに行っているのである。
何?俺は話に参加しないのかって?殿やってるんで無理だ。常時警戒態勢。とは言え。

「オ・・・アアア」

ドスッと、出てきた化け物の胸に木刀の突きを叩き込む毒島嬢。とまぁ、このように出てきた化け物を毒島嬢が片っ端から片付けていくからあんまり殿の意味無いんだけどね。

(とりあえず、止め刺しとくか)

先ほどすっ飛ばした奴の首をさっくりと切り落とす。早足で移動しているので、動きの遅いこいつ等に後ろからガブリ。何て事は無いだろうが念のためである。
そんな俺の地味な作業に気が付かないのか、鞠川先生は毒島嬢に並走しようと速度を上げる。アンタは自分が非戦闘員だと言う自覚を持ってください。いやマジであんまり前出るんじゃねーよチクショウ。

「どーしてやっつけないの?毒島さんなら簡単なのに」

やっぱ俺の行動気が付いてねぇ。物音立てずにやってんだからしょうがないけど。

「出くわす度に頭を潰しているのなら、足止めされているのと同じだ。取り囲まれてしまう。それに、腕力が信じられないほど強い、捕まれたら逃げるのは難しい。…心配性の人物は後始末をしているようだがな」

チラリと此方を見る毒島嬢。どうにも、気が付いていたご様子。本気で何者なんだこの嬢ちゃん。元とは言え暗殺家業を営んでいたときもある俺としては軽くショックである。
まぁ、そんな事は置いといて。
御覧の通りと後ろを指せば、胴と頭が泣き別れした<奴ら>が点々と。まぁ、嬢ちゃんが的確に転がしてたから順当に出来た事なんだが。
そんな俺の行動に対し、毒島嬢は一つ頷くと外の様子を窺い始めた。

「へー、凄いのね」

そんな事を言って、前に踏み出す鞠川先生。だが。

「いやぁ!」

そのたわわな果実を揺らしながら、こけた。

「いやぁ、何なのよーもー」

そんな文句を言う鞠川先生。…いかんな、どうにもあの果実には気を取られる。てか、鼻血が出そうだ。あんまそういう耐性無いんだよ、俺。
そんな余裕がなけりゃあ、見ないで済むんだろうけど下手に余裕があるからどうしても視界に入る。
赤くなった顔を隠すためにそっぽを向き、伊達眼鏡の変わりにサングラスをかける。コレで顔が赤いのは隠せただろ―――。

「走るには向かない格好だからだな」

まるで、そんな俺の思いを裏切るかのように。
裂いた。一辺の躊躇も見せず、毒島嬢が鞠川先生のスカートを裂いた。
そして視界に飛び込んでくるのは。

――――紫のレースッ!!そして太股!!

いかん、無理。限界。出る。
ゴパァ!!と言う音と共に、鼻血を噴出し仰け反る俺。ソレを見て噛まれていたのかと鋭く問い質す毒島嬢、それどころじゃないのかスカートを気にする鞠川先生。
結局、根性で鼻血を止めるまでの数分の間、不毛な言い争いが続いたとか続かなかったとか。

―――ジョン・スミス。生前あまりに女気がなかったせいで、極限まで耐性が下がった男。それは、新たな生を受けてからも、変わらぬ事実。彼が最も苦手としたのは、色仕掛けだったとか。





[21147] 【習作】こんな○○だったら死にそうに無いかも知れない。【石井無双2】
Name: do◆579b2688 ID:d32f757b
Date: 2010/08/19 11:48
~注意~
・作者は駄目人間。
・文章力低いよ。
・石井君in元傭兵。つまりISHII。
・ご都合主義的な流れがあるよ。
以上の事が許容できる方のみお進みください。
許容できない方は此処は俺に任せてもっと面白い記事の所へ行くんだ!!
























――――油断は死を意味する。故に、油断はしない。

バスッ、バスッと。
射撃の音が聞こえた。
けれどもソレは、かつて慣れ親しんだ銃撃の音とは違う少々軽めのものであったが。

「…この音、職員室からか?」

顎に手を当て、推測を口にする。
そんな俺を見た毒島嬢はその左手を軽く中空で彷徨わせ、意を決したように身体の横に降ろすと、こう言った。

「格好つけているところを悪いとは思うのだが、その、何だ。――――鼻にちり紙を突っ込んだ状態で言っても迫力に欠けるぞ?」

言うな。言ってくれるな嬢ちゃん。俺とてソレは分かるのだ。
元々、冴えているとは言えない面をしているのだ。肉体部から眼を逸らせばどちらかと言うと気弱そうな方だという自覚はある。
自分で思って悲しくなった。

それはともかくとして、銃撃の音だ。

あの化け物に思考能力というか、『ものを使う』という知能は無いだろう。ともすれば、この音を鳴らす者は自ずと『生きている者』と言う結論に達する。
どちらにせよ、職員室に向かうのは決定事項である。
現状、先の射撃音を鳴らした人物がこの極限状態で狂気に陥っていない事を祈るばかりであるが――。






―――イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!





悲鳴が、聞こえた。
いやもうちょっとばかり気品にかける声だったと思うのだが、こう『ウヤアアアアアアアア』とか『ギヤアアアアアアアア』とか。

(って、んな事はどうでもいい)

問題は、その声が存外に聞き慣れたような声であったことだ。
頭に思い浮かぶのは、『ソイツ』以外には基本的にツンケンした態度を取り『ソイツ』に対しても大抵は『ツン』、しかし一時的に『デレ』を見せる高等技術、所謂『ツンデレ』と言うものを習得した天才少女。

名を、高城・沙耶と言う。

「オイオイ高城嬢の悲鳴じゃねぇかよ今の!!」
「知り合いか?」

毒島嬢が聞いてくる。
知り合いと言えば知り合いなのだが、小室坊や宮本嬢とは違い然して親交があるわけではない。たまに校内で見かけるぐらいだ。
いや、一回だけ小室坊により対面させられたこともあるが、『馬鹿』と『冴えない男』と言う罵倒の言葉が乱舞して絶望の底に落ちかけた気がする。
黒歴史ゆえ、記憶の片隅へと追い遣っておく。

「知り合いの知り合いで知り合いと言うか何と言うか、まぁ知り合いである事に変わりはねぇな」

顔を一筋の冷や汗が流れる。
殺す事に、躊躇はしない。何故ならば、俺はかつて数え切れぬだけの者を殺した傭兵であり、化け物となってしまったのならば、おこがましいが殺す事こそ至上の救いだと思うのだから。
しかし、出来る事なら生き残っていて貰いたい。

「何はともあれ、急ぐとするかね」
「ああ」

毒島嬢と顔を見合わせ、頷く。話に入ってこれなかった鞠川先生が「ま、待ってー」とか何とか言っているがそんなもんは知らん。
死なない程度に面倒は見るが、それ以上は管轄外である。
ともあれ走る。
職員室目指して走る。
幸運な事に、道中は化け物に出会う事はなく比較的安易に向かう事が出来たのだが…。

「…バイクのエンジン音」
「いや、ドリルの回転音だな。コレは」

思わず、某世紀末漫画における世紀末救世主の言葉を言ってしまったが、毒島嬢に素で返された。
冗談でも言わなければやっていけない状況であるにしろ流石に汚染されすぎだろう、俺。俗に言う漫画脳という奴であろうか。こんな状況でなかったら、寺にでも駆け込んで座禅を組ませてもらうのも良いかも知れない。
そして、職員室へ向かう辺りのT字の廊下。

「―――小室坊!!宮本嬢!!無事だったか!!」
「石井!!」
「石井君!!」

逆側から、小室坊と宮本嬢が現れた。
この二人と大抵の場合一緒に居る井豪坊が居ないと言う事は―――――いや、言葉にはするまい。彼が居ないと言う事は、どんな形であれ井豪坊は『死んだ』と言う事なのだろう。

死者への同情は、無意味だ。

出来るのは、ただその死を悼むのみ。
とりあえず再開の喜びは後回しにして、音のする方へと顔を向けてみれば。

「うっうううっ!!」

―――化け物の顔をドリルで削り取る、高城嬢の姿があった。

(・・・・・・)

手助けするべきかどうか。
決断は、一瞬だった。

「ヴオオォォォアア…」
「アアア…」

手助け出来るほど、此方の状況も楽では無いようだ。
何時の間にか周囲を囲む、死者の群れ。
袖からナイフを取り出し刃を露出させる。

「…仕方無い」

此方もやる事をやるとしようか。

「右は任せろ!!」
「麗!!」
「左を抑えるわ!!」

毒島嬢が、小室坊が、宮本嬢が即座に行動を起こす。

「やあああ!!」

恐らく槍の代用であろう何かの柄(モップだろうか?)で、化け物を突き上げる宮本嬢。

「でえええい!!」

大きく振りかぶった金属バットで化け物の頭部を強打する小室坊。

「――――」

声も無く、素早く二匹の化け物の頭部を打つ毒島嬢。
やはり、その口元に浮かぶ薄い笑みが気になるところではあるが。

「まぁ、何だ」

クイッ、とずり落ちかけたサングラスを指で押し戻し。

「――――――念仏ぐらいは、唱えてやるよ」

手近な化け物の首を、容赦なく刎ねた。






             第二話~音と<奴ら>と若者の巻~








「・・・・・・」

呆然としている高城嬢。まぁ、ソレが普通なのだろう。
俺はまぁ、精神年齢とか構造とかが一般とは異なっているから良いとしよう。生ける屍、という未知の敵は『よく分からない』という怖さはあっても頭部を潰せば死ぬ、という事と動きが緩慢であるという欠点はその恐怖を大体消し去ってくれる。
しかして彼女からすれば、襲ってくる<奴ら>は恐怖でしかない。生きてきた中で、今日が初めて『命がけ』で行動した日なのだろう。

「た、高城さ…」

眼鏡を掛けた太り気味の少年が高城嬢に声を掛けようとするが、その前を宮本嬢が横切り。

「うんッ」
「ぅぁあん」

同じく高城嬢の元へ向かう鞠川先生の特大胸部装甲(超軟質)によって、間抜けな声と共に弾き飛ばされた。
決して羨ましいとは思ってないぞ?

「高城さん!!大丈夫?」
「・・・・・・宮本ぉ」

高城嬢の声が震えている。そりゃあそうだろう。
そんな彼女らを他所に、小室坊はドアの辺で何事かやっている。
その小室坊に、毒島嬢は声を掛けた。

「鞠川校医は、知っているな?私は毒島・冴子。三年A組だ」
「…小室・孝。二年B組」

そんな二人の自己紹介に触発されたのか、宮本嬢が顔を上げ、弾き飛ばされた件の少年も起き上がって来ている。

「去年、全国大会で優勝された、毒島先輩ですよね?私、槍術部の宮本・麗です」
「あ、えと、び、B組の、平野・コータ、で、す」

顔を赤くしながら自己紹介をする少年、平野・コータ坊。
二人の自己紹介を聞いた毒島嬢は、

「よろしく」
「―――ぁぁ…」

微笑みながら、言葉を発した。
見惚れる平野坊。まぁ、そりゃあそうだわなぁ。あんな別嬪さんに微笑みかけられたら、男なら誰でもそんな風になるわなぁ。

「…ッ何さ、皆デレデレして」

キッと毒島嬢を睨みつけながら高城嬢が言う。立ち直り早いなオイ。いや、目じりに涙が溜まってるのを見ると強がりか?
ん、とかお、とか各々が軽く声を漏らしつつ高城嬢の方を見る。
俺?まだ警戒中。大丈夫だとは思うけれど、そういう慢心がミスを招いた事などかつては何度もあった。主にマルスとかマルスとかマルスとかが。

「何が先輩よ!宮本なんか留年してるから同い年な癖に!」

その言葉に、少なからずショックを受けた様子の宮本嬢。
ふむ、ちとコレは空気が悪いかも知らんな。

「んな、何言ってんだよ、高城」

そんな小室坊の言葉に反応して、何か凄まじい表情をする高城嬢。
プライドの高い彼女にとって、さっきの自分の醜態や、毒島嬢が自分より頼りにされているこの状況が気に入らないのだろう。
ふむ、此処は―――。

「馬鹿にしな「高城嬢、高城嬢。ちょっと気が付いた事があるんだけど良いかね」何よ!!」

よし、釣れた。プッツン来ているであろう嬢ちゃんならば、些細な事でも気に障る。ならば、何ぞ声を掛けてやれば反応するだろうと思ったが、予想通りだ。
そして俺は、切り札を切る。







「―――この学校の女性陣て、胸的な意味で偏差値高く無いか?」







高城嬢と宮本嬢の二人がかりでボコボコにされた。毒島嬢は目が怖かった。

「いやね?老婆心と言うかね?ちょっと空気が悪かったから変えようと思っただけでいやすいません調子乗りました打たないで突かないで潰さないでそんな眼で見ないで」
「いやお前、それでも今の発言は無謀すぎるだろう。ソレと変なトラウマ発生してるぞ」

頭を抱え込みガタガタと震える俺と、先ほどの不注意を責める小室坊。
女性陣は先ほどのことで結束力でも高めたのか知らないが、ともあれ今、高城嬢は毒島嬢の胸の中にて絶賛号泣中である。その前にも色々あったようだが、想像以上の暴力に怯えていた俺には一切外界からの情報は入ってこなかった。
女って怖いね。これからは言葉をもうちょっと慎重に選ぼうかな。

「まぁ、どうでも良いか」
「…石井。お前ってさ、顔に反して意外にいい度胸してるよな」
「あ、あははははは…」

とりあえず命に関わらない面倒事はサラッと流す主義の俺に対して、小室坊はジト眼で睨みながらそう言ってくる。平野坊はただ苦笑いするばかりである。

「ま、嬢ちゃんたちが落ち着くまで警戒態勢敷いとこうや。警戒して損は無いだろうし」
「…もういいわよ」

おん?と少々間抜けな声を出しながら振り向けば、未だ涙目ながらもしっかりと立っている高城嬢。
正直な話、殴られまくってから気がついたんだが全部毒島嬢に丸投げしとけば穏便に片付いたんじゃあないのかなと思わないでもない。
アレ?俺もしかして殴られ損?

「発言はどうあれ、君の言葉で悪い空気が払拭されたのは事実。損では無いだろう」
「人の心を平然と読むな嬢ちゃんよ」

コツコツと此方へ近づいてきた毒島嬢。本気で何なのだろうこの女子は。武神とかそういう尋常でないものの生まれ変わりなんじゃなかろうか。

「君の心情が顔に出ていただけだ」

そうですか。ポーカーフェイスにゃ自信があったんだが、精神が肉体に引っ張られて来てるってのもあるのかも知らんな。
死ぬ三年前には、女に魅力を感じなくなっていたはずなのに、鼻血出たし。

「それと、嬢ちゃんとか嬢をつけて呼ぶのは止めてくれないか?年上ぶるつもりも無いが、一応な」

ついでとでも言うようにそう言ってくる毒島嬢だが、ソレは難しい。

「あー、うん。まぁ、努力はする。癖ってのは中々取れないもんでね、コレが」
「…やれやれ」

頭を押さえ、首を振る毒島嬢。許せ、精神年齢が下がって来てはいるものの、最早そういう呼称が俺のデフォルトになりつつあるのだ。
そんな遣り取りをしつつも、俺たち七人は、職員室へと向かうのだった。








「行くぞ!!」

小室坊の号令の元、皆が駐車場へと向かう為に職員室から出て行く中、殿を務める俺は職員室の中で起きた事を思い出していた。
職員室に入った俺たちが最初に始めた事は、一先ずの情報交換と方針の決定である。
お互いに気がついたことを述べたところ、以下のような事が分かった。

・化け物は生きている者を襲う。
・力は強いが機動力は無い。ついでに知恵も無い。
・視力では無く聴力を頼りに動く。
・噛まれたら終了。
・異常に生命力が強い。

この五つである。とは言え、この中で最も重要なのは恐らく『音』に反応するという事。
どういう原理かは知らないが、あの化け物は同類を襲わず生きている人間を襲う。
そして、その判断基準が音であるのなら。

(存外、コイツが役に立つかも知れんな)

ゴソリ、と背負って来たナップザックから取り出したのは防犯ブザー。あの留め金を外すと凄まじい音を鳴らすアレである。
最初、去年の先輩が買ってきた時は。

『一体何に使うんだよテメー!!』
『ハブラシッ!!』

と、思わず飛び蹴りをかましてしまった事もあったが今は感謝の念を禁じえない。
備えあれば憂いなし、とはこの事である。
そして、この先の方針といえば。

(とりあえず学園からの脱出、か。方針と言えるか知らんが、目的無いよりはマシかね)

少なくともこの学園の中で過ごすよりはマシだろう。補給の手段も無いことだし、どれだけの間、耐え続ければよいのかと言うのも分からない。

…耐えた所で、無意味なのかも知れんが。

また極めてどうでも良い事だが、あの亡者どもの呼称は<奴ら>に決定した。小室坊と宮本嬢が、あの化け物の事をそう称していた故である。
――――最初に言い出したのは、既に居ない井豪坊であったとの話だが。
だが、それすらも今は枝葉末節、どうでも良い事なのだ。
問題は。

「全世界規模のパンデミック、か。本当、笑えねぇな」

つまり、逃げ場が無いということになる。
パンデミック。スペイン風邪や黒死病、インフルエンザといったかつて世界中で爆発的に流行した病。だが、まだそれらはマシなほうだ。
掛かれば死ぬ。それだけだ。
今現在の問題となっているのは、そんな生易しいものではない。
普通の方法が、通じる相手では無いのだから。

その事が知れたのは、宮本嬢が見ていたテレビからの情報であった。

起き上がる死者。

意味を成さないテレビ報道。

麻痺した交通機関。

増える被害者。

テレビに映る情景は、流れ出る血と燃え盛る炎、乱舞する悲鳴と<奴ら>の群れ。或いは断絶したが故の砂嵐。地獄絵図とは正しくそのこと。

かつて居た戦場が思い出される。

役に立たない報道に怒りをぶつける小室坊。
小さな希望に縋ろうとする宮本嬢。
ソレを押し潰すような事実を淡々と述べる高城嬢。
パンデミックという言葉が放たれたのも、彼女の口からである。
天才を自称するだけあって、彼女は博識だった。
ソレが、絶望を深めるだけの情報であったとしても。

『どうやって、病気の流行は終わったんだ』

そんな小室坊の言葉に、鞠川先生はこう答えた。
――――色々考えられるけど、人間が死にすぎれば大抵は終わり、と。
なるほど確かに、感染すべき者が居なくなれば、ソレも終わるのだろう。
だが。

『死んだ奴は皆、動いて襲ってくるよ?』
『…拡大が止まる理由が無い、ということか』

平野坊の言葉に続くように、毒島嬢が絶望を口にする。
しかして、死体は死体。最先端医療を学んできただけの事はあるのか、鞠川先生が希望を口にする。

『これから暑くなってくるし、肉が腐って骨だけになれば、動けなくなるかも!』

確かにその通りである。普通ならば、それで納得できる。
では、現状を普通といえるのか。
無論、否である。

『腐るかどうか分かったもんじゃないわよ』

そんな俺の意志を代弁するかのように、高城嬢が肉体の腐敗を否定する。
動き回る死体など、現代医学の範疇では無いと。
少々の間、沈黙が落ちる。

『―――家族の無事を確認した後は、何処に逃げ込むかも重要だな』

その沈黙を破ったのは、毒島嬢であった。
毒島嬢はそう言うが、果たしてそんな場所が在るのか否か。そも、『家族』は未だ『家族』で在るのか。
思わず口を開きそうになるが、出てくる思想はネガティブなものばかり。最悪を『想定』するのは戦場の基礎だが、口にするかどうかはまた別物なのだ。

『ともかく、好き勝手に動いていては生き残れまい。チームだ、チームを組むのだ!』

そう一喝する毒島嬢。
―――なるほど、覇気がある。所謂、カリスマと言うものか。
その覇気に中てられたのか、憔悴したような状態から決意を決めたかのように身体に力を張っていく小室坊たち。
その調子ならば、容易く死ぬ事もあるまい。
殿を務めることを毒島嬢に伝え、降ろしていた腰を上げる。

『…出来る限り、生き残りも拾っていこう』
『はいっ』

毒島嬢の言葉に、小室坊が応答する。

『何処から外へ?』
『駐車場は、正面玄関からが一番近いわ』

宮本嬢の疑問に、高城嬢がルートを示す。
かくして、俺たちは駐車場に向かう事となったのだ。
それにしても。


(いやはや、都合よくマイクロバスがあって良かった。そういや、スクールバスとかあったなぁオイ。家が近いからすっかり忘れちまってたわ)


そして。

「やぁる事ねぇなオイ」
「そうねぇ」

いや鞠川先生、アンタは単純に戦闘能力が無いだけだろうが。
平野坊が改造釘打ち機で、小室坊が金属バットで、宮本嬢がモップの柄で、毒島嬢が木刀で<奴ら>を薙ぎ払っていく。高城嬢は指令を出したりしている。俺と鞠川先生、やる事なし。
サボりたくて殿言い出したわけじゃ、無いのよ?
そんなこんなで辿り着いたのは、昇降口。
一度全員が立ち止まり、毒島嬢が口を開く。

「確認しておくぞ。無理に戦う必要は無い。避けられるときは、絶対に避けるんだ」

確かにそうだ。突破口を開くときだけ戦う。それで十二分に進んでいける。
無駄に相手をするのは、愚の骨頂だ。…職員室に来るまで、態々首を刎ねていた俺の言えた事じゃ無いかも知らんが。
仕方ないだろうに。その時は<奴ら>の特性がイマイチ分かっていなかったのだから。もし急に素早くなったらどうする。

「連中、音にだけは敏感よ。それから、普通のドアなら破るくらいの腕力があるから、掴まれたら喰われるわ。気をつけて」
「近くに居たら、<奴ら>の手を切り落とすって手段もあるがね。あんまり期待はすんなよ」

そう言って、ナイフを手の中で弄ぶ。首を容易に切り裂けるコイツならば、一応捕まっても死が確定、と言うわけでもない。
過度な期待は、禁物だが。
そんな風にお互いの見識を再度確認しあったところで。

「キャアアアアアアアアアアアアアア!!」

悲鳴が聞こえた。
下方、階段の途中である踊り場に、四人の生徒が見えた。
四人のうち二人の男子は、バットとさすまた…だろうか、アレは。ともあれ、何らかの器物で武装しているようである。
だが、後ろ二人を庇いながらだと幾らなんでもきつかろう。

「平野坊。こっからの射撃は任せられるかね」
「え?あ―――ああ、任せてくれ」

突如声を掛けた俺に驚いたのだろう平野坊は、しかし直ぐに改造釘打ち機を構え狙撃の体勢に入った。頼もしい限りである。

「んじゃあ、近接戦部隊、行くとしますかね」

コキン。と首の骨を鳴らしながら言う。

「……気楽そうね、石井君」

宮本嬢がそう言ってくるが、そんなわきゃ無い。幾ら戦場に出た事があろうと恐ろしいものは恐ろしいのだ。ただ、俺は。

「―――こんな風にでも振舞わにゃ、真っ当に精神を保てんだけさ」

ソレを覆い隠すのが、他人よりも少しばかり上手いだけだ。









階段の欄干に足を掛け、一気に下まで飛び降りる。
どうにも毒島嬢も同じような思考に到ったようで、欄干を蹴り宙を舞う。

「そぅ…らっ!!」

ナイフを投げつけ、<奴ら>の頭部へと突き刺し、その近くに居た<奴ら>の頭部を踏み砕き、ナイフを回収する。
グチャリ、と肉を踏みつける感触が気持ち悪い。
後ろから襲い掛かってくる<奴ら>を、降り立った毒島嬢が吹き飛ばす。
一瞬の視線の交錯後、背中合わせとなる。

「こいつぁどうも、油断してたわ」
「…自ら囮になったつもりか?君は」
「いんや。俺はお前さんよりも弱いんでね。ちと力を借りただけさ」

元々、俺が生前得意としていたのはゲリラ戦である。
生存能力、といった意味では俺のほうが上なのだろう。だが純粋な戦闘能力、と言った意味では毒島嬢の方が上なのだ。もう本気で何この子。
階段を駆け下りながら、小室坊も<奴ら>を片付けているようだ。同じく階段の辺りで戦闘を繰り広げている宮本嬢だが。

「ふっ!!」
「オアア」
(おーおー、蝶のように舞い蜂のように刺すってか)

<奴ら>の腹を一刺し。ターンするように<奴ら>と自分の位置を入れ替えた。
階段と言う少々足場の悪い場所で、軽快なステップを踏んでいる事には、流石槍術部、と褒めるべきか何故にそこまで動ける、とツッコミを入れるべきか。
そんな状況確認をしている間に、最期の<奴ら>を毒島嬢が叩き潰したようである。

「あ、ありがと」
「大きい声は出すな。噛まれた者は、居るか?」

女子生徒の言葉を遮り、毒島嬢が確認を取る。
その言葉に女子生徒は手を左右に振り、「いません」と繰り返す。

「大丈夫みたい。本当に」

宮本嬢が毒島嬢にそう報告する。階段を降りてきた小室坊は、件の四人に対して「ここから脱出する。一緒に来るか?」と短く告げる。
その言葉に、彼らは頷いた。






「やたらと居やがる…」
「だな。増える速度的には黒い『アレ』よりも性質が悪い」
「…『アレ』並みに素早い<奴ら>とか、想像したく無いなぁ…」

小室坊が呻き、俺が同意し、平野坊が顔を青くする。どうよ、この男三人友情連携。
え?どうでもいい?
そんな風に階段で留まっているのに痺れを切らしたのか、高城嬢が文句を言う。

「<奴ら>は音だけに反応してるのよ?眼なんて見えないから隠れる事無いのに」
「そいつぁ些か早計、と言わざるを得んぞ高城嬢。お前さんも言ったように、奴らが現代医学の通りに動いている確証は無い。音に反応するのは間違いないだろうが、それ以外にも判断基準を持ってるかも知らんぜ?何せ<奴ら>、同士討ちをしねぇんだから」
「ムッ…」

薬用煙管を咥えながらそう論ずる俺に、高城嬢は顔をしかめながらも反論はしなかった。俺の言葉に、思うところがあったのだろう。

「しかし、このまま校舎の中を逃げ続けても、襲われたとき身動きが取れない」

確かに。毒島嬢の言うとおりである。さて、ではどうやって行くか。

「…玄関を突き抜けるしか無いわね」

宮本嬢が言う。だが、それには常に危険が伴う。
…否、『後続が安全に行けるだろう方法』ならば、ある。

「―――高城君の説を、誰かが確かめるしかあるまい」

つまり、そう言う事。けれど、ソレがどれだけ危険なことか、毒島嬢も分かっているのだろう。
訪れる沈黙。
その沈黙を破ったのは。

「僕が行くよ」

小室坊であった。だが、周囲の人物は。

(おーおー、不安そうな面してまぁ)

しょうがない。此処は俺が一肌脱ぐとしよう。

「いや、俺が行くよ。行かせてくれ」

決して、かの『足の速い飛べない鳥クラブ』の真似をしたかった訳ではない。
単純に、生存率が高いのは俺であろう。というだけである。
…『もしも』の時の、秘密兵器もあるわけだし。

「お、オイ石「まぁま、お前さんは此処で待ってなさいな」…」

文句を言う小室坊を手で制せば、おとなしくなる。
聞き分けのいい奴は好きだぞ?俺は。

「…良いのか?」

毒島嬢が問い掛けてくるが、態々聞くほどのことでも無かろうに。

「お前さんら、小室坊が立候補しようとしたときの面、鏡で見せてやろうか?えっらく不安そうな顔、してたぞ?其処で俺の出番だよ。一応武器らしい武器も持ってるし、小室坊よりも逃げ足は速いつもりだぜ?だから」

そう、だから。

「…気にすんな。小室坊の半分でも心配してくれりゃあ、それだけで十二分だ」
「…そう、か」

毒島嬢は、何処か暗い表情を見せる。だから、そういう面をするなと言うに。

(・・・・・・あの子等も、こんな気持ちだったのか)

思い出すのは、遠い日の戦場。
地雷原の上を歩かされた少年少女。見ているしか出来なかった俺。
思えば、酷いことをした。

態々、未来ある若者を犠牲にする必要も無かろうに。

肉体年齢で言えば、俺も彼らと同じなのだろうが、そんな事はどうでもいい。
死んだとしても、行くべきだった場所に行くだけだ。
それが十七年間も猶予をもらえて、平和と言う時間を満喫できたのだ。
お釣りが来るぐらい、幸せだ。
死ぬ気は無いが、死んでもいい。それで彼らの未来に繋がるのなら、それでいい。
だから。

「んじゃ、行ってくるわ」

軽く手を振り、階段を降りて行く。
心臓が、早鐘を打つ。
下に向かうたびに、叫び声が出そうになる。

(あー、やっぱ死ぬの怖いなコレ)

早すぎる前言撤回ではあるが、致し方ないだろう。怖いものは怖い。
<奴ら>が徘徊するフロアに、降り立った。

右を見る。来ない。

左を見る。来ない。

正面から<奴ら>が一匹。…真横を通り過ぎる。

…襲ってくる気配は、無い。

(見えて、ないな。視界は無い、か。<奴ら>同士が喰い合わない理由は分からんが、十分だ。んじゃ、此処でこいつを使う必要も無いか)

ポケットには、防犯ブザー。いざとなれば囮として使用できるソレを、今は消費しなくて済む。
地面に落ちている、喰われたであろう生徒のシューズを拾い上げ、そして―――。

(フンッ!!)

遠くへと、叩き付ける。
ガゴン。と、バケツか何かにでもぶつかったのだろうか。それなりに大きい音を立て衝突したシューズは、十二分に囮の役目を果たしてくれた。
一斉に<奴ら>は音のした方へと顔を向かせ、移動していく。
粗方が移動したところで、小室を先頭として次々に生徒が下りてくる。
先に行け、と指で指し示し警戒を怠らない。音が絶対にならない状況、などというのは真空状態以外では存在し得ないのだ。であるのなら、警戒は自明の理。
そして、さすまたの生徒が降りてくる時。



カァン、と。



さすまたが、ぶつかった。
普段ならば大した事は無いであろうその音は、嫌に大きく響き渡り。

「ヴアア」

<奴ら>の注意を、引き付けた。

「「走れ!!!!」」

小室坊の叫びと、俺の叫びが重なる。
完全に、此方へと<奴ら>の注意が向く。ああ、もう、面倒臭ぇ!!

「何で声だしたのよ!!黙っていれば、手近な奴だけ倒してやり過ごせたかも知れないのに!!」

そう小室坊にかみつく高城嬢の後ろに、<奴ら>。
木刀で、毒島嬢が打ち据える。

「無茶ほざくな阿呆が!!あんだけ音が響けば、嫌でも注意がこっち向くに決まってんだろ!!叫ぼうが叫ばまいがどっちにしろ気付かれてたよ!!文句言う暇があるならとっとと走れ嬢ちゃん!!」
「~~~ッ!!」

さすまたの生徒をとっとと逃がし、高城嬢の横を駆け抜けながら吠える。何か言いたそうな顔であったが、続く小室坊の言葉がそれを許さない。

「話すより、走れ!!走るんだぁ!!」

その言葉が、皆の背中を押す。
走る。切り裂きながら、突き飛ばしながら、走る。
先頭を行くのは、小室坊と毒島嬢。

「小室坊、毒島嬢!!殿は任せとけ!!」
「頼む!!石井!!」
「頼んだぞ!石井君!!」
「応さッ!!」

言い出した以上、期待に応えようじゃない。
首を刎ね、蹴り飛ばす。
止まらぬように、一所で立ち止まらぬように、されど隊列は乱さぬように。
其処で、見つけた。

「―――んの野郎ッ!!」

はみ出したのか、はみ出さざるおえない状況であったのか。
バットの少年が、囲まれている。
必死に<奴ら>の頭を潰しているが、状況は芳しくない。
今から走ったところで間に合わず、かといってナイフを投擲した後に素手で生き残れる保証も無い。

「クソッ!!出来る事ならバスに乗る時に使いたかったんだがなぁ!!」

ポケットから防犯ブザーを取り出し、振り回す。
学校側へと留め金に繋がる紐が最も伸びきったときに、思い切り引く。

留め金が外れ、勢いのままに飛び、そして。

ビィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!!

騒音を鳴らし、落ちていくブザー。
それに釣られて、動いていく<奴ら>。
ギッ!!と睨みつけるのは、バットの少年。

「オイコラ!!そこのバット!!テメェだよテメェ!!」

イマイチ自分の事か分かっていない様子の少年に指を突きつける。

「とっとと行けぇ!!必要ないならその無駄な取っ掛かりは捨て置け!!掴まれるぞ!!」
「わ、分かった!!ありがとう!!」

首からかけていたタオルを外し、走っていく少年。

「…クソッ!!」

コレで、バスに乗る際に狙われる確率は高くなった。完全な無防備状態を、狙われ易くなったのだ。
先ほどの投擲で、疲労感が酷い。
肉体的な面よりも、精神的な部分で。
引き付けられなかった奴らの首を、刎ねる。だが、先ほどよりも刃の通りが悪い。

(チッ…疲労が出てきやがったか。動きが鈍く感じやがる…)

だが、泣き言は言っていられない。
各所でも、色々な人物が奮闘している。
何やら鞠川先生が立ち止まっているが、小室坊がカバーに入る。
――――バスに、辿り着いたか!!

「行け行けテメェらぁ!!さっさと乗り込めぇ!!」

未だ辿り着かない奴らを急かし、自身も前へと突き進む。
残りは…バスの前で護衛している、小室坊と毒島嬢だけか!!

「小室坊!!毒島嬢!!ちゃっちゃか乗んな!!殿は俺の役目だ!!」
「了解した。小室君、乗るぞ!!」
「はい!!」

ギュルリと方向転換し、近づいてくる<奴ら>を睨みつける。
二人がバスへと乗り込む音がする。
そして、置き土産とばかりに手近に居る一匹の首を。

「そら…っておお!?」

刎ね、切れなかった。刃は首の半ばで止まり、突き刺さったままだ。
どうやら、血と油で切れ味も随分と落ちていたらしい。
そして首にナイフを刺したまま、<奴ら>の顔が近づき―――。

「ンなろがッ!!」

ゴシャッ、と<奴ら>を蹴り飛ばし、ナイフを抜き取る勢いで、そのままバスへと飛び込んだ。

「ほっぶはぁ!!」
「無事か!?石井!!」
「…まぁ、ギリギリ、何とか。んな事よりさっさとドア閉めろ!!小室坊!!」
「ああ!!」

思いっきり頭を打ち付けたが、何とか無事である。噛まれてもいない。
とりあえず、小室坊にドアを閉めるよう促すが――――。

「――――――助けてくれぇ!!」

それを引き止めるように、声が聞こえた。

~あとがき~
はい。石井君、春の殿祭。バックアタックからは逃げられないですから。
そしてあの人物登場直前に終了。そしてまた石井君が無双。いかん、もっと無様に死に掛けるんだ石井君よ。君はかっこよくないんだよ石井君。
本当は今回で『あの人物』出そうと思ってたのに、想像以上に長くなってしまった。
どうしてこうなった。
それとアンケート。
①続けるんだぁぁ!!
②止めといたほうがヨクネ?
③ISHII祭開催。




[21147] 【習作】こんな○○だったら死にそうに無いかも知れない。【ヅラ疑惑】
Name: do◆579b2688 ID:d32f757b
Date: 2010/08/24 21:39
~注意~
・作者の文章力はミジンコ。
・ヒャッハーしすぎた結果がコレだよ!といった内容。
・石井君の皮を被ったオリ主。というか転生系。
・無駄にギャグが入ってくる。
以上の事が許容できる方だけスクロールしてください。
許容できない人はもっと有名な方のSSを見に行くと良うござんす。
























―――――敵は何処か、誰なのか。知ったときには、内側に。

「待ってくれぇ!!」
「おおーい!!」

向こうから走ってくる一団。アレは確か…。

「誰だ?」
「三年A組の、紫藤だな」

小室坊の質問に、毒島嬢が答える。
三年A組担任、紫藤・浩一。一緒に走って来ている生徒は、恐らく三年A組の生徒たちだろう。

「ッ…紫藤…?」
「…?」

声のした方を見れば、宮本嬢が居た。
しかし様子が少しおかしい。
怯えている?いや、怒っているのか?
イマイチ、どちらなのか分からない。
ただ、『拒絶』の意志だけははっきりとしているようだ。
だからこそ、おかしい。
少々混乱時はヒステリックなところがあるとは言え、比較的誰にでも優しい少女である宮本嬢がこんな顔をするとは一体――――。

「行けるわよ!!」

そんな俺の思考を遮り、鞠川先生が小室坊へと声を掛ける。
が。

「もう少し待ってください!!」

小室坊としては、彼らも中に入れてやりたいようだ。まぁ、職員室を出発する際に毒島嬢と『生きてる奴は拾ってく』的な会話をしていたし、律儀にもソレを護ろうとしているのだろう。
しかし小室坊よ。
俺はアイツから嫌な予感しか感じられんのだが、そこんとこどう思うよ?

「前からも来てる!!集まりすぎると、出られなくなるぅ!!」
「踏み潰せばいいじゃないですか!!」

鞠川先生の悲鳴に、小室坊が荒々しく答える。それについては賛成だ。
今更、<奴ら>を人間と同じ扱いしていたら、生き残れない。
けれど、その思いを否定するのは高城嬢。

「この車じゃ、何人も踏んだら横倒しよ!!」

…そうだった。
コレは、バスなのだ。決してジープとかそういう類のものではない。荒々しい道を進むのに適した車で無い以上、障害物が多ければ何らかの不備が生じるのは、当然だろう。
小室坊も反論が思いつかないようだが、それでも紫藤教…まぁ紫藤でいいか。ともかく紫藤とその生徒たちを迎え入れようとする。しかし、ソレを宮本嬢が引き止める。

「あんな奴、助けること無い!!」

…ふむ?まさか、こんな事を言い出すとは。存外に、紫藤と宮本嬢の因縁と言うのは深いようだ。
しかし共通点は何だ?教師と生徒、学園と生徒、教師と少女…。

(うーん、何だろうなぁ、この妙に引っかかる感じ。宮本嬢、紫藤、紫藤……待てよ、あの紫藤の頭、あれは、もしかして)

いやまさか、しかし。
あくまでも推測だが…。

(まさか、宮本嬢は紫藤の『づら』を指摘してしまい、留年させられたのか―――ッ!!)

おのれ紫藤、何と心の狭い。




          ~第三話 街と頭と目的地の巻~




「皆さん急いで!!絶対に辿り着けますよ!!」

さて、問題の紫藤の素行である。
普段からも先生方に評判が良いと聞く敏腕教師だ。
この状態でも生徒を先導して目的地へと導くその行動は、教師の鑑といえよう。しかし…。

(あの眼。いやーな眼ぇしてやがんなぁ)

ずっと紫藤を観察しているから気が付いた事。ソレは、紫ど…いやあんな心の狭い奴はカツラヘアーでいいか。ともかくカツラヘアーの眼に、何か嫌なものに感じるのだ。
何処かで見た目だ。今の俺では無く、かつての俺が。
何処かの戦場で。

(何処で見た?どっかで見たぞあの眼。えーとアレだ、アレ。戦争で部下を切り捨てて自分だけ逃げる準備整えてた上官の眼だ。しかも戦術とかそういうんじゃ無くて単純に自分自身の保身の為に)

ああいう眼をした奴は大抵の場合、容易く部下を切り捨てる。
それが正しい事もあるが、さて。

「この場合はどうでるかね」
「…何やってんの?アンタ。てか、何でそんなもん持ってんのよ」

俺が乾パンの中身を真空パックに詰め替えていたところ、高城嬢が不審気な眼で見つつもドン引きしていた。非常に失敬である。
というか、何時の間に平野坊の隣から移動していたのかが気になるところだ。

(…まぁ、いいか)

ともあれ何時でも何処で準備万端、油断大敵、石橋はハンマーとかで叩いてから渡れがモットーである俺に『何でそんなものを』とか愚問もいいところである。
役立つものは常に準備してあるのだ。

「乾パンの空き缶とか凄い音が響くだろ?囮とかに使い易いかなぁって。角砂糖、いるか?」
「…食べる」

空き缶を高城嬢に見せ付けながら、角砂糖を手渡す。頭の疲れをとるには甘いものが良いと言うし、頭の回る高城嬢には是非とも今のうちに回復してもらいたい。
そしてこの空き缶は『音に反応する』という特性を持つ<奴ら>に対して、大きな武器になると思う。ブザーのほうが設置してから使えたりするし音の持続も長いので便利なのだが、既に無いものを強請っても仕方が無い。
常に前向きに、柔軟に対処するのが生存の秘訣なのだ。

「…んお?」

そんな遣り取りをしている内に、外のほうで変化があったようだ。
何やら本を大量に抱えていた眼鏡の生徒がずっこけて、カツラヘアーの脚にしがみ付いて叫ぶ。

「足首を挫きましたぁ!!」

…何と言うか、ご愁傷様?
この場面で脚を挫くとか致命的にも程があるぞオイ。マルスでもやらなかった最悪のミスをやらかしたやがったぞあの眼鏡。
というか何故本を抱えていた。
捨てろよ、移動の邪魔になるんだから。
ツッコミと同時にかつての仲間に思いを馳せていれば何かカツラヘアーが倒れた眼鏡のほうを向きながら何事かを言い、

ゴシャッと、眼鏡に思い切り蹴りをぶちかました。カツラヘアーが。

うん、まぁ生きるためには正しい判断だけどな?
それだけだったら俺とて批判する気はねぇんだけどな?

悪人面でこっち向くんじゃねーよ。

完全に本性丸出しじゃねぇか。
黒だ。アイツ絶対に黒だ。
内部に入り込んでも絶対良い事なんぞ無いよアレ。
間違いなく自分が生き残るためならあらゆる手段を使うよアレ。
仲間とか間違いなく切り捨てるぞ。いや、『仲間』という意識どころか周囲全部を『道具』としか見て無いようなタイプやも知らんな。

(…何であれ、疫病神としか言えんな。奴は)

眼鏡の生徒を囮に悠々と此方に突き進むカツラヘアー。
…あの様子じゃあ、もう空き缶を投げても助けられる可能性は無い、か。
まだカツラヘアーが肩でも貸してやっていれば何とかなった気がせんでも無いが奴にそれを期待する、という行為自体が無謀であったか。
カツラヘアーが乗り込むと同時に、小室坊がドアを閉める。

「静香先生!!」
「行きます!!」

小室坊の呼びかけに応え鞠川先生がアクセルを踏む。

「ごふぁ!!」
「石井君!?大丈夫か!?」

が、急激なアクセルと蛇行運転により地べたに座り込んでいた俺は慣性の法則により大きく身体を揺らして頭を打つ。近くに居た毒島嬢が心配してくれるが、問題無いと手で制する。
ぬぅ、ちとしくじったな。思慮が足りんかったか。
そりゃこの極限状態、急ぐに決まっとるし急激なアクセルも仕方が無い。準備して無い俺の責任だ。
とりあえず転がって辿り着いたバスの後ろ側から、何と無しに前のほうへと向かい、運転席近くの場所に立つ。
座れよって?立ってたほうが『色々と』行動し易いのさね。

「校門へ!!」
「分かってる!!」

高城嬢の声に応えながら、速度を上げ続ける鞠川先生。
道を塞ぐ様に現れる<奴ら>。

「人間じゃない…」

軽く俯きながらそう呟く鞠川先生。
次の瞬間、<奴ら>を睨みつけるように見て言い放つ。

「もう、人間じゃない!!」

更にアクセルを踏む。
バスが加速する。
群がる<奴ら>を跳ね飛ばしながら、蛇行運転を行うマイクロバス。
てかコレ車に弱い奴とか絶対に酔うだろ!!
こんな密室空間で吐くとかゴメンだぞ俺は!!
思わず心中で悪態をつくが、贅沢は言えない。
鞠川先生の表情を見ても、必死さが見て取れる。
そんなアクロバティックな運転をしつつも、バスは校門を突き破り外へと飛び出る。

「ぬおっ…!!」

軽く車体が跳ねながらも、素晴らしくクレイジーにドリフトを決めながら走行を続ける。
運転席の頭部クッションを咄嗟に掴まなければ、恐らくさっきよりも酷いレベルで頭をぶつけていたと思われる。
俺の判断力に乾杯。よくやったぞ、俺。
そう自画自賛しつつも、前方を向く。サクラの花びらを散らしながらも、バスは突き進んでいる。
そんな時、ふと鞠川先生の顔を見た。

「…ハァ…ハァ」

若干ながら、憔悴している。
脳天気だと思っていた先生も、少々先ほどの事は堪えたようだ。
そりゃあそうだ。あんなとんでもない体験をして、平常心を保てているほうが異常と言える。
このバスの大半が異常とか、言ってはいけないぞ?

(…こんなんは、柄じゃ無いんだがねぇ)

そう思いつつも、口が勝手に開いた。

「―――まぁ、何だ、鞠川先生よ。気休めにしかならんとは思うが、アンタのせいじゃあねぇさ。あんまり気に病むなよ?<奴ら>を轢いたこと」

カリカリと頭を引っ掻きながら言う。
どうにも女の弱っている顔、と言うのは苦手だ。
かつて周囲に居た女性と言うのが、豪胆な人物ばかりだったからであろうか。
突然に俺が発した言葉に、驚いたような顔をする鞠川先生。
しかし、彼女は前を向きながらもすぐさま穏やかな笑顔を浮かべて言った。

「フフッ、心配してくれたの?」
「…運転手に倒れられちゃ、困るってだけですよ」

あー、もう。俺は何故にこんなドギマギしているんだ。
人生経験で換算してみろ。二十七年しか生きていない小娘と合計で八十年近く生きた爺だぞ。『心だけは若々しく』と思ってた時期もあるが、耐性下がりすぎだろう俺。

「そう…でも、お礼を言っておくわ。ありがとう」
「…どう、いたしまして」

訂正。女の弱っている顔だけじゃない。穏やかな笑顔、ってのも苦手だ。
―――こうして俺たちは死者で溢れた地獄のような学園からの脱出に、成功したのだった。





「…どうにかだな」
「…うん」

後ろの席で、小室坊と平野坊が会話していた。
まったくもって同意見である。
どうにかこうにか逃げおおせられたものの、運が良かっただけの状況、と言うのも多数あった。
特に<奴ら>の群れに単身で突っ込んだときは、死ぬかと思った。
音だけに反応してくれる性質で、本当に良かったと思う。

「助かりましたぁ」

カツラヘアー…もう『ヅラ』で良くないか?
ともかくヅラが、毒島嬢に声を掛ける。
あー、一難さってまた一難とでも言うのだろうか。
コイツが居た。
獅子身中の虫と言うか、ある意味<奴ら>よりも面倒で厄介な敵が。

「リーダーは毒島さんですか?」

俺が眉間に皺を寄せて自分を見ているのにも気付かず、話を続ける。
俺の事など大したことは無いと思っているのだろうか。
たぶん、そうなのだろう。

「そんな者は居ない。生きる為に協力し合っただけだ」

そう素っ気無く毒島嬢が言う。
カリスマ発揮して皆を纏め上げたのは、お前さんだと俺は思うんだがね。
そんな毒島嬢の言葉に、眼鏡の奥の瞳を僅かに細めるヅラ。

「―――――――それはいけませんねぇ。生き残るためには、リーダーが絶対に必要です。全てを担うリーダーが」

言いながら、眼を厭らしい三日月形に歪めるヅラ。
否定はしない。
リーダーが居る、自分たちに指示をくれる人物が居る。
そう思える安心感は、かつて指示を貰う側であった事もある俺にもよく分かる。
この混乱した状況ならば、確かにその効果は大きい。

「…後悔するわよ」

負の感情を込めた声がした。
声のする方を見れば、やはりと言うべきか。
宮本嬢が居た。
彼女は小室坊を睨みながら言う。

「絶対に、助けた事を後悔するわよ」

強い断定の口調。
同意見だ。
小室坊はキョトンとしているが、コレは宮本嬢が正しい。
間違いなく奴は厄介事を引き起こす。『アレ』はそういう類の人間だ。
内心で宮本嬢に同意しつつ、視界の端に街を捉えた。だが。

「街が!!」
「…オイオイ、こりゃあまた、随分な景色じゃねぇのよ」

男子生徒の声に反応して、外を見る。
街からは、黒煙が立ち上っている。
恐らく<奴ら>が現れたが故だろう。逃げ惑う中で点けっぱなしになっていたガスコンロやら何やらを火種として、火災が起こったのだと思われる。
かつて、見慣れた景色。
…結局俺は、この景色を直に見なければ人生を終えられないのだろうか。
そんな風に微かな苦悩を抱きながらも、バスは進んでいく。

それから数分後の事。

「だからよぉ!!」

金髪の生徒が叫ぶ。
この状況に対する不安が、狭い車内に居たせいで爆発したのだろう。

「このまま進んだって危険なだけだってばぁ!!」

んじゃ何処に逃げりゃ良いんだよこのすっとこどっこい逆プリンヘアー。

「大体よ、何で俺らまで小室達に付き合わなきゃならねんだ!!」

その言葉に、平野坊と高城嬢が嫌悪を露にプリンヘアーを睨みつける。
俺もムカつくが、此処は大人の対応だ。
眼を閉じ、大きく深呼吸をする。…いかん、やっぱぶん殴りてぇ。
本来、俺たちだけで逃げるところを乗せてやったんだからちったぁ我慢しろと思うのは、流石に自己中が過ぎるのであろうか。
…たぶん、過ぎるのだろうなぁ。他の奴らもコレ目当てで一旦職員室に寄ったかも知れんのだし。

「お前ら勝手に街に戻るって決めただけだろぉ?ガッコん中で安全なところを探せば良かったんじゃねぇのかぁ?」

ならば何故残らなかったし。
いかん。もうこれ以上はヤベェかも知らんな。
思わずヒュッと首を刈り取っちまうかも知らんねコレは。
だが、俺よりもストレスが溜まっている人が居る。
鞠川先生だ。
こんな状況で、使い慣れないバスの運転なんぞをしてるんだ。その上で口やかましい餓鬼の言葉である。そのストレス、押して図るべしと言ったところか。
ああほら、イライラしてシートベルトを弾いたせいでたわわな果実が…。

オーケー、俺はまだ大丈夫だ。この程度の騒音など耐えてくれるわ。

心中で今の光景を記憶に焼き付ける。よし、良い感じに耐性が出来てきたぞ俺。
そんな自分の微妙な成長に喜びを感じているところに、後ろの気弱そうな生徒が言う。

「そうだよ、何処かに立てこもったほうが…さっきのコンビニとか!!」

その言葉に、ついぞ痺れを切らしたのか鞠川先生が急ブレーキを踏む。
そして安定した速度に安心しきっていた俺はというと。

「ハブラシッ!!」

ゴシカァン。と、バスのフロントガラスに顔面をぶち当てたのである。
しかし隣の先生、俺をガン無視。
いいけどね、別に。それだけ頭に来てるって事だろうし。
だくだく流れ出る鼻血を抑えながら立ち上がれば、シートベルトを外して身体ごと生徒たちに顔を向けている鞠川先生が見える。

「いい加減にしてよ!!こんなんじゃ運転なんて出来ない!!」

バン、と鞠川先生が手を叩きつければそのたわわな果実が揺れ動く。
…ほぼ真横に立ってる此処からでも見えるって、一体どういう大きさしてるんだよアレ。
きっと先祖は乳牛とかだよこの人。

「んな…んだよ…ッ!!」

プリンヘアーが不満を鞠川先生に叩きつけようとするが。







「あ?」







逆に思いっきりガン付けしてやった。殺気込みで隣の俺が。
確かにどん臭いとか脳天気すぎると思うことはあるが、その部分に救われた事がある。

精神的に、救われたところがある。

だから、彼女に不満をぶつけるようなら容赦なく殴り倒す。
仮に手を出すような事があれば、手足の一本や二本は覚悟してもらう。

「え、う、いや、その…」
「――――ならば君はどうしたいのだ?」

此方の殺気に気おされたのか、たじろく金髪少年。
そんな彼に追い討ち…いや、この場合は助け舟か。言いたい事の捌け口がシャットアウトされてしまい言葉が出ない状態から捌け口を用意してやったのだから。
何であれ、問い掛ける毒島嬢。

「グッ…き、気にいらねんだよ!!コイツが!!気にいらねんだ!!」

そう言って、小室坊を指差す金髪少年。
…いつか『そういう奴』が出てくるとは、思っていたがね。
こんな状態なのだから、精神的にまいってくる。そうなれば、精神は安定を求めてストレスの捌け口を探し、ぶちまける。
つまり、金髪少年の現状。
彼は小室坊にそのストレスの捌け口を見出したのだ。
だが、ソイツに言ったのは間違いだったな。
高城嬢は顔をしかめるし、平野坊に到っては舌打ちしながら武器を構え始めている。
高城嬢が手で制しているが。

「さて」
「?どうする気?えーと…」
「石井です。いい加減覚えてください鞠川先生」

チクショウ、結局人の名前を忘れてやがるよこの人。
それはともかく。
――――俺も、頭に来ているのだ。仲間が不当な怒りを受けて、ムカつかん奴はおらんよな。
音も無く、小室坊を見る金髪少年に近づく。

「何がだよ」

立ち上がりながら冷静に言葉を口にする小室坊。
今日気が付いたことだが、かなり図太い性格の少年だと思う。

「俺がいつお前に何か言ったよ!」

前言撤回。若干怒ってるよ、肝は据わってるけど図太いかと言われるとそうでもねーよこの子。
当然の反応なのだけれどね。
と言うか、一人称安定しねぇな小室坊。僕とか俺とか。

「てんめぇ!!」

小室坊に殴りかかろうとする金髪少年。それに対して、小室坊の近くに座っていた宮本嬢が武器を持ち駆け出すが。

「はーいストップ、宮本嬢は武器を下げなさいな、そんなもんで突き込まれたら吐くぞ?んで金髪少年よ、お前さんは―――首刎ねられたく無かったら、大人しく座っとけ餓鬼が」

最後の言葉だけ、ドスを利かせて言う。
金髪少年と宮本嬢の間に入り込んだが故に、何とか止める事が出来た。
いや金髪少年がどんだけボコボコにされようと構わんのだけれどね?ただ、ゲロの臭いが充満した車内とか居たくないのよ俺。
俺の言葉に宮本嬢はしぶしぶながらもモップの柄を下げ、金髪少年は腰が抜けたのかその場に座り込み小刻みに震えている。

(…ちと、やりすぎたかね)

シャコン。とナイフの刃を仕舞い込みながら思う。
ほら、生徒の目が何と言うか殺人鬼とかそういうおっかないものを見るような眼になってるよ。
その反応に対して反省していると、パチパチと手を叩きながら逆プリンを乗り越えてヅラが此方側へと向かってくる。

「いやぁ、実にお見事。素晴らしいチームワークですね。小室君、宮本さん、えーと…」
「いや単純にイラッと来たからやっただけでチームワークとかじゃねぇから」

とりあえず、反論しておいた。
今のをチームワークとかお前の目は節穴か阿呆。
何処をどう見ればチームワークに見えるのかと小一時間。
そう思いながらヅラを見れば、笑顔だが若干口の端っこが引きつっている。恐らく自分の言う事が否定されたのが気に喰わないのではなかろうか。
ざまぁと言わざるおえない。
てかコイツまで人の名前を覚えてないのかよ、覚えられても困るけど。

「し、しかしぃ、こうして争いが起こるのは、私の意見の証明にもなっていますねぇ」

何処か自慢げに言うヅラ。あーもう、面倒臭い奴だな本当に。

「やはりリーダーが必要なのですよ、我々には」

笑顔で宮本嬢に顔を近づけるヅラ。よし、そのまま引っ叩け宮本嬢。
それとも俺が頭のソレを引っぺがしてやろうか?ん?

「で?候補者は一人きりってわけ?」

不機嫌そうに高城嬢が言う。…候補者は一人きり、か。まったくもってその通り、この話の流れならば立候補すると言うか該当するのは。

「私は教師ですよ?高城さん?そして皆さんは学生です。それだけでも資格の有無はハッキリしてます」

ウザイ。非常にウザイ。何がウザイって面がウザイ。こう、『お前馬鹿じゃねーの?そんな事もわからねーの?』みたいな面がウザイ。

「私なら」

そう言って、ヅラが両手の指を立て自分の胸に当てる。

「問題の起きないように手を打てますよ?どうですか皆さん!」

バッ!!と、身体を逆方向に回しながら左手を伸ばす。
演技がかっているのが、またウザイ。
しかし、精神的に不安定な学生には効果抜群であったようだ。
次々に笑顔を取り戻していく学生たち。
…紫藤・浩一という男に、どうやら危険な方向にカリスマがあるようだ。
こういう面倒な自体に、周囲を己の手駒へと変える才能。
奴が現在行っているのは、一種の洗脳。
学生たちに蔓延する不安という穴に対して、『教師と学生』という立場を利用し付け入る。『教師と学生』という生きていく上で必ず覚える上下関係は、紫藤・浩一にある『厄介なカリスマ』の効果を増大させ精神を掌握する。
周囲から次々に賛同の拍手が上がる。
さて…。

(毒島嬢。ちょいと頼みがあるんだが、良いかね?)
(…?どうした、石井君)

コソコソと場所を移動し、小声で毒島嬢に話しかける。
そして、ポケットから取り出した『ある物』を手渡す。

(これを渡しておく)
(…トランシーバーか)
(そ。たぶん、このまま行ったらヅ…紫藤がこの空間の支配者になると思う。俺はどうにもああいう類が苦手でね、降りる。だから…)
(コレで連絡を取り合う、と言う事か。…良いだろう、その役、承知した)

すまんね。と手で返せば気にするな、と同じく手で返す毒島嬢。
恐らく、毒島嬢は『まだ』降りないだろう。
彼女がヅラに対してどんな感情を抱いているかは知らないが、今すぐ降りるといった行動は起こさないはずだ。
故に、現状把握を最も冷静に出来る彼女へと、トランシーバーを託す。

「と、言うわけで、多数決で私がリーダーと言う事になりました」

…どうやら、話は終わったようだな。
それじゃあ俺も降りる準備をするとしようかね、とナップザックを背負い込んだ時の事である。

「――――ッ!!」

バン!!と、宮本嬢がドアを開け放ち道路へと降り立った。
…どうやら彼女も、ヅラがリーダーを勤めるような集団には居たくなかったようだ。

「麗!!」
「嫌よ!!そんな奴と、絶対一緒に居たくなんか無い!!」

小室坊が引きとめようとするが、宮本嬢は拒否を口にする。
やはり、ヅラと宮本嬢との溝は酷く深いらしい。
ヅラの方はといえば、一瞬苦虫を噛み潰したような顔になりながらもすぐさま芝居がかった仕草で行動を共に出来ないのであれば仕方が無い、と言った。

「ッ!?何言ってんだアンタ!!…クッ!!」

続いて、小室坊が飛び出す。その行動に高城嬢と平野坊が驚いている。
ふむ、思いのほか道中の仲間が増えたと言うか何と言うか。
まぁ、とりあえず。

「すいまっせーん、紫藤センセー」
「何ですか?えーと…」
「石井・和です。えーとですねぇ…」

わざとらしく言葉を伸ばしながら、紫藤の注意を引き付ける。
もう少し、もう少し。
タイミングを見計らい、一瞬の隙を突いて。







スパーンと、その頭部を引っ叩いた。







「何だ、ヅラじゃ無かったのか。つまらん話だ」

ソレだけ言って、さっさと外へ出る。
先ほどの音が相当響いたのか、此方に注意を向けていたのだろう二人は、ポカーンとした顔をしていた。とりあえずサムズアップを繰り出せば、宮本嬢は数瞬をおいて笑いながらサムズアップを返し、小室坊ははぁ、と小さく溜息を吐く。
しかしてそんな安息も束の間である。

ファーン、と音が聞こえた。

「ん?」
「おん?」

小室坊と共に音のする方をを向けば。

巨大なトラックが、立て回転しながらも此方へと突っ込んで来ていた。

「うおわぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
「グゥッ!!」

俺は一人で。
小室坊は近くに居た宮本嬢を抱え込んで。
その脅威から飛び退った。









「小室君!!大事無いか!?」

毒島嬢の声に、すぐさまに身体を起こし周囲を警戒する。
…どうやら此処は、トンネルの中のようだ。
それにしても「小室君!大事無いか!?」ときたか。

「おーい、毒島嬢。俺の心配は無しですかーコンチクショー」
「いや、君は物理的な害では死にそうになかったから…」
「アンタは俺を何だと思ってんだ!!…ったく、三人とも無事だ。心配はいらん」

とりあえず、三人纏めて無事である事をバスから降りて走ってきた様子の毒島嬢に報告する。
と言うか、こんな時こそトランシーバーの役目だろうに。
何だろう、微妙に天然入ってるんだろうかと毒島嬢の性格に思案を巡らせていれば、ガラスの割れる音と共に<奴ら>がバスの中から現れる。
燃え盛る身体を、そのままに。

「オイオイ、燃えてても無関係、てか?」

袖からナイフを取り出し、構える。
バスの中で掃除もしたし切れ味は何とかなる…と思う。正直なところ砥石で研磨しておきたいところであるが、贅沢は言えない。

「警察で!!東署で、落ち合いましょう!!」

小室坊が叫ぶ。
とりあえず、此方側に来た一匹の頭を刎ねる。

「時間は!!」
「午後七時に!!今日が無理なら、明日のその時間で!!」

燃え盛る柱が、トンネルを遮るバスとの間に存在していた僅かな隙間を埋める。
向こう側にも<奴ら>は居たが、恐らく毒島嬢ほどの使い手であれば何とかなるであろう。

「…さて、じゃあ俺たちも動くとするかい?」

幸い、此方側に向かってきた<奴ら>は先ほどの一匹だけであったようだ。
クルリと後ろを向き、小室坊と宮本嬢に問い掛ける。
というかね?

「急がないとやばい。マジやばい。ガソリンに炎が引火してやばい」
「「ソレを早く言えっ!!」」

二人に頭を叩かれた。痛い。
とりあえず走る。全力で走る。
今日一日で随分と走ったりナイフ振り回したりしたものだなーと思いながら、走り続ける。
そして、背後で聞こえる爆発の音。

迫り来る爆炎。そして風圧。

けれど、それに巻き込まれぬまま何とかトンネルの外へと辿り着く。

「ッッハァ!!ハァ、ハァ、ハァ・・・あー、しんどい」

ぺたり、と地面に座り込む。
やはり命懸けというのは精神的に『くる』ものがある。学園の中で気を張りっぱなしだったと言うのもある。
余裕かましておいても、結局のところ精神が削られていくには違いないのだ。
―――いかんな。何時までも座り込んでちゃ。
思わず懐の薬用煙管に手を伸ばしそうになるが、グッと我慢。
重い腰を上げ、僅かに前を行く小室坊たちの後を追う。

「…ん?」

ふと、近くの階段の上を見る。
そこには、バイクのヘルメットを被ったままの…。

「んごあッ!?」

衝撃が来た。
階段の上から、飛びかかられたようだ。
着用している服の隙間から見える灰色の肌は、<奴ら>のもの。

(クソッ!!油断した!!)

ギリギリと俺の身体を道路に押さえつけながら、<奴ら>の顔が近づいてくる。

(ん、の…ガッ!!)

激突。しかし噛まれてはいない。
<奴ら>がヘルメットを外していない故に、思い切り頭部をぶつけてきた形になった。
コツコツと歯を鳴らしながら、尚も手を離さない<奴ら>。
噛まれはしない。だが、このままでは何も出来ない。
もし、こんな状況を<奴ら>にでも襲われたらひとたまりも無い。
いや、そもそもヘルメットによる頭突きによって気絶するやも知れない。

「クソがぁぁぁ…!!」
「ヴォオォオォ・・・」

ギリギリと俺を地面へと縛りつける<奴ら>。
けれど、不意にその力が弱まる。

「…ん?」

鈍い音と共に、<奴ら>が視界から外れていく。
ぐらりと傾く<奴ら>の向こう側には、コンクリートブロックを持った宮本嬢が見える。
その隣には、小室坊。
視界から宮本嬢が消え、小室坊だけが残る。

「ゲホッ、カハッ!はぁ、はぁ、はぁ…ハァー…」

呼吸が荒い。
心臓が早鐘を打つ。
目の奥が焼けるように熱い。
久方ぶりに味わった目前まで迫る『死』に、涙が出そうになる。

「ほら」

宮本嬢がコンクリートブロックを捨てに行っている間に、小室坊が手を差し出してくる。
言葉少なく差し出されたその手が、頼もしく見える。

(…そう言えば、昔もこんな事があったなぁ)

己が、己の『息子』と思っていた『仲間』に助けられた時だ。

『隊長!もっと俺のこと信じろよ!!俺、どん臭いけどアンタを助けられるぐらい強くなったんだ!!だから、もっと頼ってくれよ!!俺たちを!!』
『隊長、我々はもう保護者と被保護者では無いんですよ。我々は、あなたの手助けが出来る』
『―――隊長、俺たちは、仲間だろう』

そう言ってあいつ等は、手を差し伸べてきた。
あまりにも酷似する状況に、苦笑。

きっとうぬぼれていたのだ。戦場を駆け回った経験があると。

事が一段楽したのだと、気を抜いていたのだ。

そんなんじゃあ、野垂れ死んでも文句は言えないというのに。

差し出された手に、しっかりと手を重ねる。

「…すまんな、小室坊。いやはや、俺もまだまだ未熟だね」
「寧ろ、今までのお前が異常だったんだろ」

かもな、と笑いながら立ち上がる。
懐から薬用煙管を取り出し、咥えて吸い込む。
…嗚呼、気分が落ち着く。

「…吸うか?」
「いらねぇよ。男と、間接的とは言えキスする趣味は無い」
「そうだな。お前は宮本嬢と熱いベーゼでもかましてたほうがスッキリするだろうな。チクショウお前高城嬢とのフラグまで残留してるとかマジでもげろよ。つーか全国のモテない男子に土下座して謝罪をするべきだろ!!」
「いきなりキレんな!!」

もっげーろ、もっげーろと手拍子を叩く。小室坊が殴りかかってくるが、そんなテレフォンパンチなぞ当たるとでも思ったか!!
バーカバーカと出会った当初と同じように罵倒していたら、後ろから宮本嬢に頭をぶん殴られた。
凄く痛い。

「まったく、何馬鹿やってんのよ!!」
「いや、これは全面的に石井が悪いぞ!?僕は悪くない!!」
「なぁ小室坊。お前さんさ、結局のところ一人称どっちよ?俺なの?僕なの?意表をついておいらとか我輩とかそういう一人称を隠し持ってたりするの?」

うるせーなコノヤローと再度殴りかかってくる小室坊。しかし当たらないテレフォンパンチ。
今度は、二人纏めて宮本嬢に殴られた。
『ツッコミは避けられない法則』を実感した。

「ぬぅ、俺は気になったことを聞いただけなのに…」
「何で僕まで…」

小室坊が俺に続きそう呟く。
…ああ成る程、テンションがアッパー入ると一人称『俺』になるのか。
一人、納得する。
横で突然頷き始めた俺に小室坊が引いている。
だから失敬だろうそういう行動は。
…まぁ、何はともあれ。

「今は、進むしかないわなぁ」
「…そうだな」

俺の言葉に、小室坊が頷く。
結局のところ、安全な場所があるのか。
この事態が本当に収まったりするのか。
分からない事だらけで、危険しか見当たらないこの状況。
だが、前に進むしかない。
進まなければ、何も変わりはしないのだ。

「―――孝、石井君」

そう思い、既に暗くなった空を見上げていれば、宮本嬢の声。

「――――行こっ」

思わず隣の小室坊と目を合わせる。
まるで、俺と小室坊の会話を聞いていたかのように。
彼女は笑いながら、その手を伸ばしていた。


~あとがき~
石井君にフラグを立ててあげようとしたら、逆に立てられていたで御座るの巻。
どうしてこうなった。
そして紫藤の扱いが酷い?ダイジョブダヨー、キットコノサキハアツカイヨクナルヨー。
アニメしか見ていない自分ですが、あのデコの広さは普通じゃないと思います。将来が不安なレベル。

~おまけというかちょっとした幕間というか~

宮本嬢の言葉に従い、俺たちは歩いていた。
とりあえず前を行く宮本嬢の背中を見ながら、小室坊に声を掛ける。

「小室坊よ」
「ん?どうしたんだよ、石井」
「お前さん、鞠川先生についてどう思う?」
「…は?」

何言ってんだコイツ、のような顔で此方を見る小室坊。だから…ああ、もういいや。
俺はこういう立ち位置なのだろう。

「いや、は?じゃなくてだな、鞠川先生だ」
「…優しい先生だと思うぞ?」
「ああ、そうだな。優しいな。天然でもあるが」
「それは否定しないけどさ…だからって、それがどうした?」

小室坊がまさか邪魔、とか言い出すんじゃないだろうなと言いながら真剣な表情で俺に問い詰める。
いやいや、そんな事あるわけないだろ。俺はあの人が好きだ。いや『ラブ』じゃなくて『ライク』的な意味でだが。

「いや、肉体的な意味でどう思う?」
「……………爆弾?」
「ああ、爆弾だな」

思い出すのはあのたわわな果実。
些細な動きでも揺れるアレだ。
それだけでなく、全体的な肉感というか何と言うか。
一般的に言う『理想的な肉付き』というのはああいった感じなのだろうか。いや触ったわけじゃあないけどな?こう、何というか。

「イージーボディー…!!」
「おい石井、変な風にトリップすんな。歩け」

おおっと、俺とした事が。
それにしても、この一日で色気に軽い耐性が出来始めた気がする。

―――何かおっさん臭い方向に耐性が出来始めた気もするが、そこら辺は無視する。

気にしたところで何も無い。耐性が出来た事が大切なのだ。

「とりあえずアレだ。―――無性に抱きつきたくなる。揉みしだきたい」
「…お前さ、今日で色々と変わったな。頼りになる方向と駄目な方向に」

ナイフを振るってる時は頼れるんだけどなぁ、と言いながら宮本嬢の近くへと駆けて行く。
…一般的な青少年の滾りとしては、非常に真っ当なものでは無いのだろうか?それともあいつはかつての俺と同じく枯れているのだろうか?
そんな事を考えながら、同じく宮本嬢の近くへと走る俺であった。


~おまけのあとがき~
駄目な方向に耐性が付いた石井君。こんなんでいいのか。



[21147] 【習作】こんな○○だったら死にそうに無いかも知れない。【いかん、吐く】
Name: do◆579b2688 ID:d32f757b
Date: 2010/08/26 14:13
~注意~
・作者の文章力は塵芥。
・今回石井君必要かコレ?
・こんな事できるわきゃねーだろ的な行動。
以上の事が許容できる方のみスクロールしてください。
許容できない人は今すぐコレの何倍も面白い記事を見つける作業に従事するんだッ!!

























――――絶望は、人の狂気を呼び起こす。同時に滅びも呼ぶのだが。

誰かが言った。頑張れば、何でも出来るのだと。
けれど、頑張っても出来ない事だってある。
例えば俺の現状とか。

「大丈夫か?石井」
「あー、割と無事じゃねぇな小室ぼグッ!!」

噛んだ。
思いっきり、舌を噛んだ。物凄く痛い。
というか揺れる。凄い揺れる。仕方が無いけど揺れる。

「ぬおぉぉ…と、取り合えず小室坊ぉ!!お前は運転に集中しろぉ!!」
「了解!!」

大声で要件を叫び、とりあえず運転に集中させておく。
現状、『俺だけは』ある理由から極限状態にある。その負担を減らしてもらうためにも小室坊には運転を最優先して頂きたい。
だが、どれだけ気をつけても『この状態』で俺の負担を減らすのは不可能に近い事だったとすぐに悟る。
現に俺は今、猛烈に死にそうだ。

「無理無理無理無理やばいってコレどうすんだコレ何なんだコレ」
「今更泣き言なんて言わないでよ!!というか五月蝿い!!」

宮本嬢が叫ぶが、無理を言ってくれるな。

「だってグワングワン揺れるんだよ半端無いんだよ正直車酔いとか目じゃねーぞコレ!!小石とかで跳ねると吐き気が五倍ぐらいに成るんだよ!!」

街中に辿り着いたは良いものの、結局のところ長時間のデンジャラスドライブは無理がある。腕力とか精神力とか限界。
それに加えて、坂道のカーブで横に逸れる。
酔う。寧ろもう吐きそう。

「ぬおぉぉぉ…流石にカートドライブとか無理だろ…提案者俺だけど…」

そう。俺の現状は荷物のカートに乗りつつ、ロープによってバイクに牽引されているという無茶過ぎる状態なのだ。
では何故、そんな無茶をしているのかと言うと。

こうなったのには、ちょっとした理由がある。

ヘルメットを被った<奴ら>を撃退し街へと向かう道中、このバイクを発見したのだ。
恐らくはあのヘルメットを被った<奴ら>の所持品であったのだろうが、未だ使用できる状態だったようなのでとりあえず拝借させて頂いた。
しかし問題がある。
大きさからして、精々二人乗り。対して俺たちは三人。一人余る、確実に余る。
どうしたものかと三人で唸るそんな中、俺が発見したのは倒れたトラック。既に<奴ら>と化していた運転手の首を刎ね、荷台に乗っていたらしいカートに目を付けた。

『よし。コレ使うか』
『は?』
『え?』

二人の疑問の声を無視し、バイクとカートをロープで繋げ即席の三人乗りバイクを製造。
狂人とかキチ○イを見るような眼で二人が此方を見てくるが、仕方在るまいよ。バイクを捨てるのは今の俺たちにはあまりにも惜しいのだ。出来る事なら、早急に毒島嬢たちと合流し戦力を整えたいところである。
そう俺が説明すると、納得したのかしぶしぶと頷く二人。
そうと決まればとっとと進むに限る。しかしカート部分にどっちかが乗るかと言う話になれば。

『宮本嬢は除外するとして…どっちが乗るよ』
『お前が乗れよ!?お前が発案者だろ!!』
『ああ!?何事も経験だぞ小室坊!!乗ってみたら案外快感かも知らんぞ!』

小室坊とどちらがカートに乗るかでもめる。
ついでに候補から宮本嬢を除外したのは、フェミニストを気取る気は無いが流石に女性をあんな場所に乗せるのは気が引けるからという理由。

なので、此処は男衆の出番。

俺と小室坊、どっちかが乗ると言う事。
ジリジリ距離をとり、まるで西部劇の早撃ちの如き緊張感が走る。

『…覚悟はいいか、小室坊』
『…ああ』

その後、死闘とも呼べるほどのジャンケン十番勝負があったと言う事を忘れてはいけない。宮本嬢の眼が冷たかった。後、冷静になった小室坊の自己嫌悪は凄まじかった。
何はともあれ俺敗北。
そして長い間、跳ねたり揺れたりをこの身で体験し続けていた。

「…その結果がコレだうっぷ」
「吐かないでよ!?絶対に吐かないでよ!?」

だから、無茶を言わんといて下さい。




           第四話 ~殺意と狂気とバイクの巻~




夕刻は過ぎ、既に月が昇る時間。
バイクは街中にある一つの坂の中腹辺りで停車していた。

「…誰か助けに来て「うおっぷ…やっべ」…くれないのかしら」
「来な「まずいってコレ」…いよ」
「どうして!?何で「ちょ、喉まで上がってきた」…そう言いきれるの?」
「昼間、学校の屋上で見たヘリと同じさ。僕らを助ける余裕は「うぼおぉぉぉぉえぇぇぇぇ」…なぁ、石井。お前さ、もう少し緊張感持てないのか?」

壁に手を突きながら胃の中のものを吐き出す俺に対して、小室坊が言う。宮本嬢も『空気読め』とでも言いたげな表情で此方を見ている。
無理を言うなチクショウめ、俺はさっきまで此の世の地獄とも言える状態を味わっていたのだ。死体が蠢くこの地獄の再現に、地獄のような状態と最悪の気分。
正にマキシマムヘル、極限地獄である。
とりあえず胃袋の中にあるものを全部消費してから、口の中に水を含み吐き捨てる。胃酸が喉を焼いて気持ちが悪い。
口直しとして、煙管を咥え肺一杯に吸い込む。ミントの爽やかさが口の中に広がり、気持ち悪さを払拭してくれる。

「ぷぁッ…あー、しんどかったぁ」

クハァと息を吐き出す。いやはや、今までで一番美味い一腹かもしれんねコレは。
煙管を懐に仕舞い込みゴキリと肩を一回転させ、鳴らす。
軽く頭の中で二人の会話を整理してみるが、さて。

「まぁ、何だ。…或いは、この先ずっと助けはこんかも知らんな」
「…え?」

宮本嬢が戸惑いの声を上げる。しかして、コレは事実だ。
小室坊の語るように、ヘリや飛行機を使用しているだろう人々が俺たちを助ける余裕と言うものは無いだろう。
彼らとて人間であり、『こんな状況』で他者を救える余裕を持っているのは非常に稀だ。
人間は言うほど強くは無い。無論、心に何か掲げたものがあるのならばそれに縋って『正常』を保つ事も出来るが、ソレは現状において『異端』と言える。普通の人間は惰性に流され、だんだんとこの世界に満ちる狂気に順応し己が精神を保とうとする。『異常』な『一般』が生まれるのだ。
故に、他者を助けると言うのは、まず間違いなく何らかの精神的支柱や目的がある場合に限る。
果たして彼らにソレが有るのか否か。
少々話はずれたが、ようは宮本嬢の頼ろうとする『常識』は既に無いと見て間違いない。
この世界を支配する法則は既に『力』だ。法の護りに意味は無く、己が身を己が力によって護らねば死が待つだけの世界。
…クソッタレな世界だ。かつて居た場所でもあるが。

「…ずっと?じゃあ私たちはどうしたらいいのよ!」
「出来る事を出来るだけやる。そんなところだな」
「そういうことさね。どんな状況であれ、停滞は常に厄介なものだ。手をこまねいている内にぽっくり死んだ、なんて笑い話にすらならんよ」

宮本嬢の悲痛な叫びに、小室坊が応えた。しかし出来る事を出来るだけやればいい、とは早速小室坊はこの状況に適応しつつあると言う事だろう。
それは、昨日までの『世間一般』という流れから逸脱しつつある、と言う事でもあるが。
しかしその言葉は、あまり宮本嬢には相応しくなかったようで。

「…孝っていつもそうね、肝心な時に盛り下がることを口にして。幼稚園の頃からずっと」

不満を露にし、小室坊へと愚痴を漏らす宮本嬢。その言葉に反応し、小室坊が心なし怒ったような表情でバイクの後部に座る宮本嬢へ振り返る。
こりゃあまた、空気が悪くなってきた。

「事実を言ったまで「まぁま、お二人さんよ。喧嘩したところで何も始まりゃせんだろうに。今はただ、生き残ることを考えなさいな。出来る事を出来るだけ、だろ?」…ッ、分かったよ」

バツが悪そうな顔で、バイクの横に立つ俺から顔を背ける小室坊。
そういう物分りの良い奴、好きだぞ俺は。
そう思いながら視線を少し横にずらせば、小室坊の後に陣取る宮本嬢と眼が合う。此方はまだ、納得をしていないようだ。
恐らく小室坊の後には、俺にも不満をぶつけるつもりだったのだろう。
…安全が確保できるような場所でなら幾らでも当り散らしてくれて構わんが、この状況で不和を生むのは好ましくないんだ。頼むから我慢してくれ。
そう願いつつ、言葉をかける。

「宮本嬢も、言い方が悪かったのは謝る。しかしな?立ち止まったところで希望は見えんのだ。いつか誰かが助けてくれる、というのは生きているから言える事。だから、死なないように出来る事、やろうや。…な?」

この通り、と手を合わせお辞儀をすれば、頭上から溜息が聞こえる。
顔の位置を元に戻せば、宮本嬢がジト眼で此方を見ていた。…何ぞ、言葉の選択をミスったか?

「…普段は変な人なのに、時々石井君てお父さんみたいだよね」
「俺変人扱いされてたの!?」
「いや、どう考えたって変人の域だろうお前は」

宮本嬢の口から明かされた新たな事実に驚愕する俺。しかし小室坊は容赦なく追撃をかましてきた。
『お父さん』というのは俺の精神年齢からして微かに納得はいくのだが、変人てのはどういう了見だよコノヤロウ。サングラスかけて薬用煙管を加えた学生の何処が変人だよ!!

―――――想像して思う。変人だった。

ヒッデェ、と俺が言うと二人して俺を笑いやがる。チクショウ仲が良いようで何よりだ。
それに釣られて此方も軽く笑みを浮かべるが、唐突に宮本嬢がハッとしたような表情を浮かべる。小室坊の顔も少々険しい。
やや近くから聞こえる、この足音と唸り声は。

「――――ォォゥ」
「…やれやれ、親睦を深めていたところに、空気の読めない事で」

<奴ら>に文句を言ったところで無意味、とは分かっていても言いたくなる。
電灯に照らされた坂道のカーブ辺りを歩いてくる<奴ら>の数は、両手の指じゃ足りないほどだ。
そんな大多数、まともに相手できるか。
バイクの上の二人も同じ考えのようで、小室坊がエンジンを唸らせる。

「…行きましょ」
「…ああ」

宮本嬢と小室坊が、前を向く。俺も自分の定位置に付くが…。
その位置に立ちでふと思う。
また、バイクによる高速移動が始まると言う事は。

「…たぶん、止まったときにまた吐くんで、そこんとこよろしく」

カートに乗りながら、片手を挙げて言う。
軽いジョークで言ったつもりだったのだが、無言のまま一気にアクセルを入れられた。

死に掛けた、とだけ言っておこう。






さて、<奴ら>から逃げて暫くの事である。
街中の道路で、パトカーを発見した。ライトが付いていたので大丈夫かと思ったが、どうやらトラックと衝突したようで、フロント以外は随分と拉げていた。
取り合えず二人に先行してパトカーを調べてみる。中の警官は死亡していたものの、<奴ら>と成っているわけでは無かった。

『南無三』

手を合わせ唱える。ただの自己満足だが、最低限の礼儀だ。
その後、役に立つ物品が無いかパトカーの中を探し回り、手錠と警棒、そして拳銃を発見。とりあえず視界に入った小室坊へと手渡し、軽く使い方を教える。

『何で使い方知ってるんだよ』
『気にするな。良くある事だ』
『普通無いだろ』

小室坊のツッコミを無視、視線を拳銃へと向ける。小室坊は何処かから戻ってきた宮本嬢と何か話しているようだが、耳に入ってこない。
小室坊が回転式弾倉を横から取り出していたのを思い出す。

(うーむ…弾倉振出式(スウィングアウト)で五連装のリボルバー…)

ニューナンブM60ないしスミス&ウェッソンM37エアウェイトと言ったところか。あまり戦場では見ることの無い銃なので、自信は無い。
だが恐らく、常人が扱うのならばこの程度が丁度いい。

少なくとも、アレックスのようにデザートイーグルを二丁とか普通は出来ないだろうし。

そう考えるとあの冷血漢、どんな筋肉してたんだろうなぁ、と昔を懐かしむ。普通の奴がアレックスのやるデザートイーグル二丁拳銃なんてやらかしたら銃弾があらぬ方向に吹っ飛んでいく事請け合いである。市販のものを改造して、完全に実践用へと作り変えていたから或いは肩の骨が外れるかも知らんような代物に成っていたしなぁ。
そんなんだから『魔王アレックス』なんて呼ばれてたんだが。
ちなみに、デザートイーグルの逸話として女子供が撃ったら肩が外れるだとかの話もあるが、射撃姿勢や扱い方に注意を払えば女性でも扱える。アレックスのは知らん。

『――――うっぷ』

と、そんな辺りで限界が来た。
堪えていた吐き気が、こみ上げてくる。

『やばい。また吐く。護衛は頼んだ』

ソレだけ言い残し、二人から顔を背けた。

そして、今に到る。

「ウボエェェェェェェ…」
「…周囲を警戒するために、僕たちが石井の傍に居なきゃならないのは理解できるんだが…」
「あんまり気持ちのいいものじゃ無いわね…」

小室坊と宮本嬢が揃って愚痴を零すが、仕方ないだろう。
流石にこんな状態のときを<奴ら>に狙われたら、幾ら俺とて一溜まりも無いのだから。

「あー、クソ…もう胃の中に何も残っちゃいないぞコレ…おん?」

そんな事を言いながら口元を手の甲で拭っていると、トランシーバーに毒島嬢からの通信が入った。
すぐさまポケットから取り出し、口元を当てる。

「…あいよー…此方、石井・和…」
『石井君、聞こえるか?』
「…うーい…ちょっと酔いが激しいが、何とか聞こえますよっと…」
『酔い?まさか酒でも飲んだのか?』

んなわきゃ無いだろうよ、と返す。
こんな緊急事態に酒とか飲む奴は馬鹿か酔拳の使い手だけで十分だ。
ずれかけた思考を戻す。

「ちょっと…エキサイティングなドライブをしてきただけだ…」
『ドライブ…?まぁいい、今、どの辺りに居る?』
「え?あー…コンビニの前…っても、コンビに何ぞ山の如くあるし正確にはちょいと分かりかねる」
『そうか…此方は、渋滞のせいで中々動きが取れなくてな』

毒島嬢の言葉にああ、そう言えばそうか、と思った。
こんな状況だ。一刻も早く逃げ出したいと思い、車を走らせる人が多いのは当然の事だ。

何処に逃げればいいのか、と言うのは分からないだろうが。

ともあれ、渋滞になるのは必然でありソレを思いつかなかったのは想像以上に疲労が蓄積していたからなのか。
分からないが、今は必要の無い思考だ。

『それと、君が置いていった乾パン。助かったよ』
「人間、腹ぁ空いてると気が立つからねぇ」

毒島嬢の言葉に軽く返す。
そう。あのバスに置いていったのは、何もトランシーバーだけでは無いのだ。
幾つもナップザックに詰め込んであった、乾パン。その幾つかをトランシーバーと共に毒島嬢に預けておいた。
高城嬢や平野坊に預けても良かったのだが、力づくで奪い取ろうとする奴が出てきてもおかしくは無いという点から、周囲にその強さを知られている毒島嬢に預けたのだ。
鞠川先生も、教師ではあるがあの空間を支配しているのはヅラという点から候補には上がらなかった。

『…まぁ、主な消費者は平野君であったが…』
「とりあえず減量しろ、と言っておいてくれ」

この先、食糧の浪費がどれだけ響くか分かっているのだろうか?平野坊は。
そんな事を考えながら言えばああ、と毒島嬢から返答が来る。
それじゃあ俺たちは進むとしよう、そう思い毒島嬢との通信を切ろうとすれば。

『待ってくれ…私たちも、或いは其方に向かうかも知れん』
「ヅ…紫藤が何かやらかしたか?」
『<奴ら>に対して自衛隊も対抗しているようでね。銃撃の音に怯えた女子生徒を指導が慰めていたのだが…何か、嫌な感じがしてな』
「そうかい。たぶんソレ、当たってると思うぞ」

気をつけろよ、とだけ言って通信を切る。とりあえず先ほどの通信内容を小室坊たちに伝え、カートに乗る。
先を急ごう、と無言のままに眼前の両者を急かす。
同じく無言のままに二人とも頷き、バイクは真夜中の道路を進み始めた。

――――背後で、自動ドアの開く音を聞きつつも。

それから数分の間、バイクは大して振動もせずに道路を走り続けた。そのまま難なく行くかと思いきや、俺に問題が発生した。

「…小室坊、宮本嬢。先に行っててくれ」

唐突に言い出した俺の言葉に、小室坊がバイクを停止させて此方を向く。

「どうしたんだよ。また吐きそうになったのか?」
「いや、そうじゃねぇんだ。ロープが、ちょいとなぁ…」
「あ、切れかけてるわね…」

宮本嬢の言葉どおり、そろそろロープが限界に近い。ぷちんと切れてもおかしくないほどに伸びきっている。
このまま乗っていては、単純に危険なだけだと思われる。
そんなわけで、集合場所を決めて俺は後から徒歩で行こう。

「すぐそこに、ガソリンスタンドあるだろ?ほら、あそこ。あそこで給油ついでに待っててくれ。俺は徒歩で向かうからさ」
「…大丈夫か?」

小室坊が言う。宮本嬢も、心なしか不安げな表情だ。
…こういう優しさを忘れないで居てくれれば、良いのだが。

「心配すんな。音を立てなけりゃ<奴ら>は襲ってこない、だろ?」

徒歩でも、危険が大きいわけじゃない。どちらかと言えば、此方のほうが危険は小さいのだ。
バイクのエンジン音に釣られて出てくる<奴ら>が居ない分。
そんな俺の言葉に、真剣な表情で頷く二人。それで良い。
バイクでガソリンスタンドへと向かう二人を見送り、歩みを進める。
死者の彷徨う夜の街、と現状を言葉にすると随分と不気味に思える。首を刎ねれば殺せるという事実がある分、不気味さは半減されるが。

(それにしても…)

思考しながら、脚を進める。
時折出現する<奴ら>に対しては、ナップザックから取り出した空き缶を無造作に投げ捨てる事で注意を其方に逸らす。

(こんな状況だ。人に遭遇したとしても、信用できるかどうか)

『力』こそが正義と成ったこの世界で、すんなりと生者を信用できるのか。
生者は、ある意味<奴ら>よりも厄介だ。明確に『敵』と断定できる<奴ら>と違い生者は内心で何を考えているか分からないし、どこかで精神に異常をきたす場合もある。
首を刎ねるのは、簡単だ。素人、それも正常な判断すら出来ないような奴の首を刎ねる事など朝飯前、寧ろ準備運動にすらならない。

だが、もし誰かが捕まっていたら?

見捨てりゃあいい、と思う己が居る反面、見捨てていいのか?と思う己も居る。
そもそも、かつて俺は俺を見捨てなかった傭兵団に拾われたからこそ生きていたわけで、傭兵団の団員たちからは『気にするな』と言われていたがそんな大恩を気にしないほど俺の神経は図太く無い。
だからこそマルスやペーター、アレックスたちを拾って育てたのだから。
今更、敵でも無いような誰かを見捨てるのはいかがなものか。

「そこんとこ、どう思うよ」
「ヴ――――」

側面から襲い掛かろうとしていた<奴ら>の首を刎ねる。一体だけならば、然して苦労はしない。大勢で来られるからこそ、逃げざるを得ないのだ。

「戦争は数だよ兄貴。…誰が言ったんだっけか」

何ぞアニメか何かのキャラクターが言った台詞であったはずだが、真理だ。
数が多けりゃそれだけ意識を裂かなければならないのだから、圧倒的多数で真正面から責めるのならば大量破壊兵器を相手が持っていない限り敗北は無い。
森などの中ならば、また別だが。

「ふぅんむ。どうしたもんかね?」

頭を捻るが、正直なところ答えは既に出ている。
小室坊も言っていたように、

「――――やるだけ、やりゃあ良いわな」

助けられる努力を、出来る限りしようじゃないか。
それでも死んでしまったのならば、そりゃあ仕方が無い。
出来る限りの努力を重ね、それでも尚、救出が不可能であると言うのならば諦めるしか無いのだ。冷酷と言われようが、そういうスタンスで生きてきた。
ソレは、きっとこの先も変わらない己の生き方。
死を悼むのは良いが、引きずってはいけない。未練は、いつまでも死者の魂を縛り付け己の行動を停滞させるのだから。

「ってなーに詩的な考えしてるんだよ俺は――――ん?」

思わず己の思考が気恥ずかしくなり、頭を引っ掻く。
其処で、何かが聞こえた。恐らく、ガソリンスタンドの方からだ。

「…やれやれ、厄介事ばっかりだなぁオイ」

ナイフの刃を仕舞い、袖の中へと戻す。
ゴキゴキと体中の関節を鳴らした後、軽く飛び跳ね調子を確認する。
うん、身体はしっかり動く。

「んじゃ、行くかね」

最後に一つそう呟き、死者の彷徨う夜の街を、音も無く駆け抜けた。








ガソリンスタンドへと辿り着いた俺だが、状況は想像以上に悪かった。
こそこそと物陰に隠れながらガソリンスタンド内部の様子を窺ってみたが、どうやら浅黒い肌の青年に宮本嬢が人質に取られているようだ。
そのせいで、小室坊も動けずじまい。

(あー、チクショウ。こんな事になるってんなら、無理してでもついてきゃ良かった)

痛恨のミス、という奴だ。だがクヨクヨしてもいられない。
解決策を、考えねば。

(とりあえず、全員俺に気が付いて無いようだな。小室坊は宮本嬢が人質にされてるから動けないみたいだし、さてどうする?)

状況を打破しようと思考を回転させていれば、彼らの会話が聞こえてくる。
どうやら青年に壊れているのか、と小室坊が聞いているようだがこの状況で壊れていない人間と言うのは少ないのでは無いだろうか。
そう思いながら、様子を窺い続ける。

「――――――――皆の頭、ぶち割って来たんだよ!!親父も、お袋も、婆ちゃんも弟も、小学生の妹までもなぁッ!!」

浅黒い肌の青年が、叫ぶ。己の家族を、己の手で殺したと。
<奴ら>になってしまった家族を、殺したのだと。

(…成る程。そういう理由、か)

或いは彼も、家族思いの青年であったのかも知れない。
だからこそ、狂ってしまった、壊れてしまった。
己が家族を、己自身の手で殺してしまったが故の狂気。精神がその事実を受け止めきれず、壊れ、狂い、そして今に到る。
悲しかったのだろう、辛かったのだろう、苦しかったのだろう。
泣いて泣いて泣いて、涙が出ないほどに涙を流した後に、己を護るために精神が砕けたのだろう。
ならば。

(ああ、ならば…)








同情はしよう。されど、許しはしない。








少なくとも、仲間に手を出したのだから容赦はしない。
理由は同情できるし納得できるが、俺の仲間に手を出したのだから許しはしない。
とは言え現状で何が出来るかと聞かれれば隙を窺うしか無い。あの青年、何だかんだで警戒を解いては居ないのだ。
飛び出したところで、見つかって身動きが取れなくなるだけだ。
一先ずナイフを取り出す。何があっても、対応できるように。
そうした瞬間に、動きがあった。

「まともで居られるわきゃねぇだろぉぉぉぉ!!」
「――――っん!!」

青年が狂ったような叫びを挙げ、その隙を突いて宮本嬢が逃げ出す。

「逃げてぇ!!」

宮本嬢が小室坊に対して叫ぶが、足がもつれているのか動きが遅い。
背後から伸びる男の手に、

思い切り胸部を鷲掴みにされた。

こう、モニュンといった質感をかもし出しながら。
男の顔がにやける。
宮本嬢が顔色を赤く染める。
小室坊が怒りを露にする。
そして俺はと言えば。

(――――)

ざわっ、と。
胸の奥でどす黒いものが燃えたつ気がした。
青年が何かを言っているが、激情が思考を白く染め上げるせいで聞き取れない。その変わりに、殺意が沸き立つ。
思わず、ナイフをぶん投げ脳天に突き刺そうとしてしまうが自制する。
あくまで冷静に行こう。仮にあの男が死んだとして、手から零れ落ちたナイフが宮本嬢に刺さったなど、間抜けにもほどがある。
ひとまず、奴のナイフを何とかしなければ。そうすれば、どうとでもなる。その後、あの胸を鷲掴みにしている腕を切り落とそうか。
冷静に、静粛に、黙々と殺意を燃やし隙を窺う事に徹する。あの男には、まだ少し周囲に対する警戒心が残っている。
今は、動けない。我慢の時だ。
そう己を自戒しているうちに彼らの会話は進んでいたようだ。青年が小室坊に対して、宮本嬢との関係を問い質しているらしい。

「まさか、ヤッてねぇのか!?馬鹿じゃねぇのお前!!」

嘲りの念が篭ったその言葉と共に、男が宮本嬢の胸元を曝け出す。
ピンク色の可愛らしいブラジャーが見える。
そのまま、彼女の胸を揉みしだく青年。我慢の限界に達したのだろう小室坊がついぞ動こうとした瞬間、男の制止が入った。

「おぉっと、バットは捨てな。でなけりゃこの子を殺す…!!」

宮本嬢の首にナイフを突きつけながら青年が言い放つ。その脅しは小室坊に対して強く効果を発揮し、その行動を停止させる。
不意に青年が視線を逸らす。その先には、小室坊たちが使用していたバイク。
このガソリンスタンドに来た、主目的だ。
それに眼をつけたという事は…。

「それから、バイクも頂くぜぇ!!」

やはりか、と眼を細める。
意識しているわけではないのだろうが、現状で青年の行っている行動はこれ以上無く理想的だ。人質、という手段は理性ある真っ当な人間に対して極めて有効だ。
「お前が言う事を聞かなければこいつを殺すぞ」という脅迫は、逆に「言う事を聞けば助けてやる」という意味合いを持ち自己の保身と要求をすんなりと通す。
仮にあの青年が宮本嬢を殺していた場合、何の躊躇も無く小室坊は奴の頭を叩き割っていただろう。

(さて…)

奴の意識は、小室坊と目先の欲望に捕らわれている。行動を起こすのならば、今であろう。
ゆっくりと身体を動かし、相手の死角へと潜り込む。
その間にも、彼らの間で話は進んでいく。

「…ガソリンが無い」
「レジぶち壊したんだろぉ!!金は幾らでもあんだろ!!給油しろぉ!!」
「…」

青年の叫びに小室坊は無言のままに行動を起こす。
小室坊が、バットを投げ捨てる。

――――投げ、捨てる?

甲高い音を立てながら、バットがコンクリートに落下する。
そう、『音』を立てながら、だ。

(――――ふむ)

ああ、そうか、と。
瞬時に小室坊の思考を理解する。
成る程。どうやら、小室坊も相当頭に来ているようだ。随分とえぐい事を考え付く。
それに、奴から見えているのはバットだけのようだ。
捨てるよう要求したのがバットだけ、という部分からもソレは窺える。
『アレ』をまだ、奴は見ていないのだろう。
もしも見ていたのならば、奴は真っ先に『アレ』を捨てさせるのだから。
そうであるのならば、俺の仕事は無い。
有るとすれば。

(とりあえず、周囲の警戒、だな)

予想が的中していれば、の話であるが。
小室坊の思いついた作戦は、危険と隣り合わせの作戦だ。
場合によっては、途中で『来る』かも知れない。
正直な話、『アレ』を使えば結果的にバットを捨てたのと何ら変わりの無い効果があるのだが、そこは冷静に考えられる立ち位置の差だろう。

(なら、冷静に考えられる位置の俺はアフターケアを万全にしようかね)

故に、『もしも』が起こらぬよう警戒する。
夜の闇に眼を凝らし、或いは『来る』かもしれない事態に備える。
邪魔は出来ない。下手に俺が動いて作戦が破綻しては意味が無いし、感情面の問題もある。
恐らく今、最もこの状況が頭に来ているのは小室坊その人のはずなのだから。

(…あ、いや、宮本嬢はそれ以上かも知らんな)

そう思い直しながら、視線を少し小室坊たちに向ける。
小室坊が千円札を入れ、給油を始めた。
給油についての案内音声だけの静かな空間で、小室坊が口を開いた。

「…なぁ、見逃して貰えないか?僕らは、親が無事かどうか、確かめに行く途中なんだ」
「俺の話を聞いてなかったのかよぉ!!街に居るんじゃお前の親も俺の家族と同じだよぉ!!」

――――随分と、思考が短絡的になっているようだ。
全ての人間が<奴ら>から逃れられないわけでは、無い。現に街に居たお前は、今此処まで逃げ延び、宮本嬢を人質に取っているわけで。
この街の住人全てが<奴ら>に成ったと、まだ決まったわけではない。正気かどうかは、別として。

「…終わった」

給油が終了したことを示す小室坊の言葉に、ナイフを振り回しながら男が吠える。
首元からは外れているのだが、宮本嬢は動く気力が既に無いようだ。

「行けよ…行っちまえよ!!」

男の言葉に小室坊が二、三歩横へと動くが、すぐさま男の方を向き説得する。

「なぁ、本当に「うるっせえお前もぶち殺したろかぁ!!」…」

再度ナイフを振り回しながら、男が吠える。
小室坊の、動きが止まる。しかしその手の位置は、『アレ』に近い場所。
――――仕掛ける気か。
夜の闇と小室坊たちのほう、両方に意識を割く。
そうしていると不意に、険しい表情だった小室坊の表情が和らぐ。

「なぁ、お願いだ「黙れぇ!!お前ホンットにぶち殺すぞぉ!!」」

もう一度、男に説得をしようとする小室坊。だが、男は聞く耳を持たない。
男が小室坊の言葉を遮り、ナイフを振り上げた瞬間。

小室坊が、動いた。

手を『アレ』に添え、男のほうへと突撃する。
戸惑ったような声を上げる男だが、既に何をしようと遅い位置だ。
男の右肩にポケットから取り出した『アレ』―――死んだ警官から奪った、件の拳銃―――を突きつけ、撃鉄を降ろす。
コレで、発射準備は完了した。

「…な」

男が、驚愕の声を漏らす。
そりゃあそうだろう。拳銃を持ってる事も知らなかっただろうし、ガソリンスタンドという場所で火気を扱うと言うのは暴挙とも言えるし。

「…撃つのは初めてだけど、コレなら外れない…」

小室坊が、言った。その言葉に、恐れや迷いといったものは感じられない。
本当に肝が据わっている少年だ。

(にしても…まさか、こんなに早く実践するとはね)

小室坊の様子を見て、思う。
思い出すのは、拳銃を渡した際の簡単な説明。

『どうしても外せない時は、ゼロ距離で撃て』
『…いや、無茶苦茶な理論じゃないかソレ?何で遠距離から攻撃できるのにゼロ距離で撃つんだよ』
『気にするな、良くある事だ』
『無ぇよ』

ゼロ距離射撃。絶対に外れない射撃法だ。
まぁ恐らく、俺が言わずともやらかしたような気もするがそれはどうでもいい。

「が、ガソリンに引火するかも知れねぇぞ…?」

男は、恐れを込めた声色で言う。確かに、ガソリンに引火して爆発すれば木っ端微塵で人生終了だろう。
脅しとしても、使える言葉だ。
―――まぁ、通用しないのだろうけど。
案の定、小室坊に動じた様子は無い。
それどころか、逆に言い放つ。








「女を盗まれるのよりは…マシだ」








(―――随分と、格好いい言葉、吐くじゃねぇか)

知らず、口元がつりあがり笑みが生まれる。宮本嬢も、随分と嬉しそうな顔をしている。
小室坊が、引き金を引いた。
銃弾の発射される音と共に、青年の肩から鮮血が吹き出る。
銃弾の勢いに呑まれ青年が仰け反り、宮本嬢を捕まえていた腕を放し、そして倒れる。
あちらの出来事は、今ので決着。
意識を完全に外へ向け空を見上げれば、空が白んできている。夜明けが近いようだ。

(さて……そろそろ不味いな)

明るくなってきたからか、『ソレ』の姿が遠くに浮かんでいる。
いい加減、逃げねば。

「うおっ!!うああぁぁぁぁっぁあぁ!!いだいっ!!血が、血がぁぁぁぁ!!」

銃弾を受けた青年が、激痛に叫びを挙げている。痛みに慣れていないのだから、そりゃあそうだろう。
だがしかし、彼の後ろに般若が一人。青年が差し掛かった影に気を取られ頭上を見上げれば、怒りを顔に表した宮本嬢。

「ヒィィ!!」
「よくも…ッ!!よくも!!」

青年が悲鳴を上げ、逆に宮本嬢が溜め込んだ怒りを爆発させようとしている。だが。

「止めとけよ、麗」
「そうだぞ宮本嬢。これ以上ここに居ると<奴ら>が来るぞ?」

小室坊の静止の言葉に乗っかり、俺も言葉を継ぎ足す。
二人の視線が、ゆっくりと俺のほうを向く。よせよ、照れるじゃないか。

「…何時から居たんだ?」
「そこの青年が家族殺したってところから」
「ほぼ始めからじゃねぇか!!何で助けに来なかったんだよ!!」
「無茶言うな!!俺は忍者じゃねぇんだぞ!?警戒心MAXの状態で気付かれずに近づくとか無理だバーカ!!」

小室坊が怒りを露に叫ぶが、俺も叫び返す。
売り言葉に買い言葉。だが、買い言葉のほうが若干勝ったようで、次の言葉に詰まる小室坊。
ザマァと言わざるを得ない。
だが、こんな事をしている場合ではないのだ。

「ほら、とっととバイク乗れよお前ら。早くしないと<奴ら>が来るぞ?」
「ッ!!…そうだったな。麗、早く行くぞ。石井、お前移動手段は?」
「…デンジャラスドライブ2、チェーンで繋ぐぞ編」

ジャラリ、とそこら辺から拝借してきたチェーンを見せる。
おい、お前らそんな「駄目だコイツ学習してねぇ」みたいな面で見てんじゃねぇよ。仕方ないだろ!?見つけたのコレぐらいしかなかったんだから!!
バイクの後ろにそこら辺から拝借してきたチェーンを巻きつけ、物陰に隠しておいたカートを固定する。コレで、移動手段は調った。いや、出来れば俺もバイクがほしいところだけどね?
無いんだから仕方ない。

「助けてッ!!助けてくれよぉ!!」

男がそう叫ぶが、小室坊は無視し宮本嬢は睨みつける。
俺はと言えば。

「青年よ」

声を掛ける。その声に、男は此方を見る。

「お、お前!!お前、助けてくれよ!!なぁ!?」

喚く男に、にこりと笑いかける。男も、軽く笑みを浮かべる。
――――殺す義理はあっても、助ける義理は無い。希望が大きいほど、絶望も大きい。
それに今回のことについては小室坊に一任しようと決めたのだ。故に、俺が手を出す事は無い。
だから、一つだけ言っておこう。

「青年よ、こんな言葉があるだろう?――――人を呪わば、穴二つ」

男の顔が、絶望に染まった。
出してくれ、と小室坊に声を掛ければ、バイクが走り出す。
後ろから聞こえてくる男の声を無視しながら、俺たちは街中を走っていく。
―――――――――さて、毒島嬢たちは無事かね?

~あとがき~
駄目だこりゃ。今回は何時もに増してガッカリクオリティ。何かこう、モチベーションが上がらない。あれだ、石井君が微妙にはっちゃけられないのがいけないんだ。
そんなこんなで、アニメで言う第四話終了。
次回は五話目に御座るよ。
そして恒例のアンケィィィィト。
①このまま行けば宜しい。
②出直して来いポンコツ野郎!!
③そんなことよりエロスを増やそうぜ!!

~おまけ~
「いやー、快適快適」
「…石井。お前ってさ、適応能力高いよな」
「…やっぱり変人ね」

カートによるデンジャラスドライブに慣れた石井君だった。
凄くどうでもいい一コマである。



[21147] 【習作】こんな○○だったら死にそうに無いかも知れない。【石井暴走】
Name: do◆579b2688 ID:d32f757b
Date: 2010/08/27 11:11
~注意~
・作者の文章力はシャープペンシルの芯の欠片。
・石井君大ハッスル。
・無視される石井君。
・御都合主義もあるよ!!
以上の事が許容できる方のみスクロールしてください。
許容できない人はより楽しい方の記事を見てレッパーリィー!!すればグッド。






















―――――世界は狂って行く。されど、進むしかない。

死者が溢れ、生者は狂い、焔と鮮血が乱舞する。
車が爆砕し、黒煙を上げる。何処か見覚えのあるその光景は―――、

「こいつぁ、何かもう、戦場じゃねぇか此処」
「…それより酷いかもな」

俺の言葉に小室坊が答える。ふんむ、ソレは一理在るかも知らんな。
戦争と言うのは、理由はどうあれ明確な目的があるものなのだ。しかして、目の前で起きているソレには最終目的が無い。

ただ、生き残るために殺す。

悪いとは言わんが、終わりどころも落としどころも無いのが問題なのだ。
目的を達成すれば即座に終了する戦争と言う『手段』に対して、何時終わるかも分からないこの狂乱に乗じた闘争は、単なる『行動』でしかない。
野生の動物とて『満腹』という終わりどころが有ると言うのに、まったくどうしようもない事態だ。

「終わりが無いのは終わり、てか?」

漫画の言葉を引用してみるが精神はまったく軽くならない。
寧ろズンドコ重くなる。
それは置いておくとして、この現場にそのまま居ては危険極まりない。とは言え、目的地たる東署へと向かっているのだから来た道を戻るわけにもいかない。
となれば選択は一つ。

「小室坊、突っ切るかい?」
「ああ。麗、しっかり掴まってろよ?」

そう言う小室坊に、無言のまま抱きつく宮本嬢。おーおー熱いねチクショウもげりゃあいいのになぁ、と思いながらも顔がにやける。
青春とは、かようなものか。
この極限状態にあって、彼らのイチャつきぶりは精神的な清涼剤となる。…ただ、高城嬢がコレに加わると更に愉快な事になるのだろうなぁ。

本人たちには大変な事なのだろうが、見てる分には面白い。

もげろもげろと言ってはいるが、楽しいから言っているのだ。…妬ましさが、無いとは言わんがね?
さて、そいじゃあ。

「行けぇ!!小室坊!!」
「おう!!」

ズビシィッ!!と前を指せば、小室坊が思い切りアクセルを入れる。
ウィリーをかましながら戦場へと突撃する小室坊。お前は何故そんな曲芸走行が出来るんだと聞きたいのだけれどどうだろう。
あれか?実は隠れて乗ってたとかそういう秘密があるのか?
そんな風に考えていれば、何やら周囲が先ほどよりも騒がしい。
よくよく見れば、黒煙と火炎の奥に武器を持った住人が血走った眼で此方を見ながら叫んでいる。既に正気と言うものとは縁遠い面構え。

「おーおー、何やら狂った生者が仰山と。やっべぇぞ小室坊」
「分かってるよ!!」

小室坊へと緊張感の抜けた声を掛ければ、怒声が返ってきた。仕方ないね。
それにしても、真面目に小室坊の操作技術は高いようだ。
<奴ら>を避けつつ、さらには魚屋のおっさんらしき人物の包丁すらも避ける。そして飛んでくる弾丸も避けた。

「うおっ!?あぶなっ!!」

訂正、俺は微妙に避け切れなかった。頬に弾丸が掠ったぞチクショウ。
だがそれにしたって凄まじい。素人が撃ったとは言え弾丸を避けるとは。
天性のドライビングテクニックとでも言えばいいのだろうか。

「ヤベェ、今明かされる小室坊の才能…!!」
「石井、お前本当に余裕あるな…」

戦慄している俺の言葉に反応したらしく小室坊が疲れたように言う。
余裕がある、と言うのとは少々違う。現に危機感はバリバリに持っている。
ただ、愉快な考え方や発言をすることにより恐怖心だとかを覆い隠し、何時如何なるときでも冷静沈着に対処できるよう心がけているだけだ。
あとカートで酔わなくなったてのもあるかね。
そうやってつらつらと思考を回しながらも、後方の警戒を怠らない。

「ッ!!小室坊!!ショットガン二発目、来るぞ!!」

炎の向こうで、ショットガンを構えるサラリーマン風の男性を見た。即座に引かれた引き金は、しかし近くで立ち上がってきた<奴ら>に直撃し結果的に俺たちを助ける事となった。
もしも使い手が使い慣れた人物であったのならばこうは行かんかっただろうなーと思いつつ冷や汗を拭う。やはり銃という兵装は恐ろしいものだ。
俺も嘗てはスナイパーライフルやら拳銃やらを扱っていたが(主流がゲリラ戦であったため、ナイフを主に使っていたが)、使っていない期間が長すぎるのでどれだけ正確に射撃できるのやら。

「どうして!?あたしたちは、<奴ら>じゃないのに!!」

俺の思考を遮り宮本嬢が叫ぶが、そりゃあそうだろうよ。

「普通じゃねぇのさ、色々と。誰も彼も自分の事で手一杯、マトモな判断なぞ期待するほうが酷だ」
「そんな…」

俺の言葉に、宮本嬢が気落ちしたような声を出す。
まだまだ現実を認識していないとは言わざるを得ないが、彼女にとっては信じられない出来事だったのだろう。
しかして思うは昨夜の出来事。

(…ガソリンスタンドの青年って、前例があるのだがね)

まぁ、そういう優しさと言うか素直さと言うのが彼女の魅力なのではなかろうか、と彼女の事を前向きに捕らえてみる。

「…ようは、僕たちと同じさ」
「私たちと同じ…」

そんな事を考えていれば、小室坊が吐き捨てるように言った。
「僕たちと同じ」、か。詰まる話は狂ってきているという自覚があると言う事なのだろう。俺の場合、狂ったというより伏せられていた本性が起き上がったというのが正しいのだが。
つまり俺って臆病なんじゃねぇのかなーと自分の本性を再認識しているところで、

「なっ!?」
「…おん?っておわっ!?」

唐突に小室坊が声を上げ、道を横に曲る。背を預けていたカートの取っ手に素早く掴まり、振り落とされるのを防ぐ。
はて、此方でいいのだろうか?目的地へと向かうのならば、直進の方が早いはずだが。

「何?大橋は真っ直ぐじゃない!」

そんな俺の心情を読み取ったかのように、俺の言葉を代弁してくれる宮本嬢。
しかし小室坊にも何やら考えがあったようで、バイクを停止させ此方に視線を向ける。

「大橋の方、見てみろよ」
「ふむん?何があるんだ…よ…」

宮本嬢と共に大橋のほうを見るが、言葉が出ない。同時に、理解する。
ああ、こりゃあ無理だ。あんな状況じゃあ渡れる気はしないし、渡りきるのにもどれだけの時間を必要とするのやら。
これじゃ何時渡れるか分からない、と言う小室坊に了解の意を示し先を急ぐよう合図を送る。
時間は掛かるだろうが、別ルートのほうが安全であろう。
そうして俺たちは、

――――死者と狂乱に満ちた床主大橋を背に、バイクを進めた。




             第五話 ~離脱と合流と恋慕の巻~




「おー、何か大橋の方に馬鹿やってる奴らがいるっぽいぞ?」
「…石井君、此処から大橋のほうまで見えるの?」
「視力と聴覚、常に正常」

驚いたような声を出す宮本嬢に、サムズアップをしながら応える。
とは言うものの、流石に見えているわけではない。自衛隊と思われる人物が拡声器を使って警告を発しているから、何とか聞き取れたと言う程度だ。
あと、馬鹿が落っこちたのであろう水飛沫。
いやはやどんな時でも馬鹿というのは出てくるのだなぁと思っていると、トランシーバーに連絡が入ってくる。
即座に耳にあて、通信を行う。

『石井君?私だ、聞こえるか?』

毒島嬢の声が聞こえてくる。周囲からも聞こえる声からすると、学校でのメンツが揃っているようだ。

「うーい、此方は石井・和。しっかり聞こえとりますよっと」
『今、何処にいるか分かるか?』
「あー床主大橋が渉れなかったんで、御別橋ルートで合流地点に向かってるがどうかしたんかね」

と言うかこの遣り取りは前もやったような気がする。
前回と違い、今回は場所がしっかりと特定できるような位置に居るのだが。

『…いや、紫藤教諭が新興宗教の勧誘のような事を始めてな…』
「あー、やっぱりか?何時かそうなるような気もしてたしなぁあのヅラ」
『ヅラ?…まぁいい、取り合えず床主大橋ではないルートを進んでいるんだな?』
「イエス、その通り。御別橋ルート。あー、ただバイクで進んでるから結構な速度で動いてる」
『了解した。私たちも、そろそろバスを抜けようかと思ってな』

何でもないように毒島嬢が言う。成る程、今回居場所を聞いてきたのは途中で落ち合える可能性を少しでも高める為か。
確かに途中で出会えるのならば万々歳だ。
しかし、『バスを降りる』というのに懸念事項が一つ。

「…家族は、良いのか?」

俺がそう聞けば、フフッと軽く毒島嬢が笑う声が聞こえた。
人が心配しているのに、何だその態度は。泣くぞ俺。

『フフッ、すまない。先ほど、高城さんにも同じ事を聞かれたものだから』
「…左様かい。で、真面目な話、どうなんだよ。親御さんは」
『家族は父一人、その父も国外の道場に居る。今護るべきは小室君とした合流の約束と自分の命だけ、とさっき高城さんにも言ったところだ』
「あーあー了解しましたよチクショウ。聞いた俺が馬鹿だった」
『…いや、心配してくれたのは嬉しかったよ。ありがとう』

優しげな声が、トランシーバーから聞こえてくる。
…あーチクショウ、何だろうこのドギマギと言うかそういう感覚。あの声色はやっぱり苦手だ、顔が見えなくても想像できてしまう。

『寧ろ、君の方こそ家族の心配はしていないのか?』
「俺が藤美に入学する直前に飛行機事故で死んだよ。だから、天涯孤独とでも言おうかね」
『…すまない、不躾な質問だった』

毒島嬢が気落ちした声を出すが、そう気にされても困る。

「気にするな。俺は気にしない」
『…そうか』
「そうそう。それに、ある意味あの二人はそれで幸せだったのかも知らんよ。<奴ら>と成る事無く、逝けたんだから。俺自身、<奴ら>になっている親を見るのも、殺すのも、御免だしな」

苦笑しながら言うが、本音だ。
子供らしくなかった子供の俺を、愛情を持って育て上げてくれたあの二人には感謝している。もし二人が<奴ら>になっていたら、きっと事故の時以上に苦しい気分になっただろう。

『…分かった。では、私たちもそろそろ出ようと思う』
「ま、何にせよ情報の伝達はしっかりしろ…よ…」
『…?石井君?』

其処まで言って不意に何故か、彼女らと己の『息子たち』が被る。
己の周囲に集まる、『息子たち』の姿を思い出す。

『隊長!!俺、頑張るよ!!』
『怪我したら何時でも言ってくださいよ?隊長』
『―――任務は果たす』
『おーおー、皆燃えてるねぇ。ま、何にせよ情報の伝達はしっかりしろよ?』

彼らの初陣に、かつて俺自身が贈った言葉。
だからなのだろうか。その後に続く言葉までも、当時とまったく同じもので。









「…絶対に、死ぬんじゃねぇぞ。お前さんらはまだ若いんだ。こんな事で人生棒に振る何ざ、あっちゃならねぇよ」









思わず、感情に任せて言ってしまった。かつてマルスやペーター、アレックスや他の部下たちに言った言葉。若い奴らは、死んではいけないという戒め。
学生の俺が言うには、違和感しか生まない言葉。

「―――あー、悪い。忘れてくれ、今の」

誤魔化せるはずも無いが、取り合えず茶を濁す。
しかしそんな言葉で毒島嬢が引き下がるわけも無く。

『…まるで自分は若くない、とでも言いたげな言葉だな』
「――――さてな。そいじゃあ切るぜ」
『あ、おい、こら―――――』

一方的に通信を切断する。
トランシーバーを、ポケットへと仕舞い込む。手のひらを見てみれば、先ほどの焦りで汗が湧き出たのか濡れていた。

(…痛恨のミス、テイクツーってか?)

思わず、感情的になってしまったようだ。
今の俺は『何処かの誰か(ジョン・スミス)』という傭兵では無く、石井・和(いしい・かず)という学生。
必要なのは、技術と経験。感情は、不要だ。
彼女らを自身の『息子たち』と重ねて見るのは、お門違いだろうが。
今はカートの揺れに慣れてしまった己の身体が恨めしいと思った。
気分が悪くなっていれば、無駄な思考を省けたものを。

「あー…クソ、何だろうね?コレは」

呟いてみるが、何も思い浮かばない。
揺れ動くカートの取っ手に背を預けながら、ただただ空を見上げるばかり。

「あー、もう、何なんだよホントに!!おい小室坊!!今の俺の気持ち代弁してくれよ!!」
「知るか!!空き缶でも投げてろ!!」

とりあえず小室坊に問題をぶん投げてみたが、一蹴された。
ですよねー、と思いつつも自販機近くにあった空き缶入れから回収した空き缶を投げ付け、<奴ら>の注意を其方に寄せる。
そう言えば、ラジコンとかあると便利かも分からんね。
こう、後ろ側に空き缶取り付けて走る際に音を鳴らせば勝手に<奴ら>が引き付けられるし。

「うん、いい考えなんじゃないか?」

思考を切り替えることで、さっきまでの鬱屈した気持ちを取り払う。
現実逃避と言う無かれ、こうでもしなけりゃ前を向いて進めないのだ。
其処まで、精神的に強いわけじゃあないのよね、俺。

それから日が傾くまで、御別橋へと向かっていた俺たちであるが。

「此処も同じね…」
「だなぁ。どうするよ、小室坊。他の橋にでも行ってみるかい?」

宮本嬢の気落ちした声に乗っかり、小室坊に意見を聞く。
とは言え、他の橋も大体同じような状況では無いのかとも思う。人の流れがどうなるのかは分からないが、橋という建造物は大抵の場合ショートカットないし分断された場所を繋ぐ為に作られる。
だからこそ橋は交通の要所足りえる。
ならば、他の橋へ向かったところで果たして空きはあるのだろうか。よしんば空きがあったとしても、或いは封鎖されているかもしれない。
小さな橋ならば、また別だが。

「…たぶん駄目だろう、渡れないようにされてるよ。そうでなければ、規制してる意味が無い」
「やっぱり、お前さんもそう思うかい?」
「ああ」

どうやら小室坊も、俺と同意見であったようだ。

「…グッ…」

小室坊が携帯を開き、苦虫を噛み潰したような表情をする。
そりゃあ圏外だろうよ。こんな事態で電波が通ってるなんぞ管理を全自動化する以外ありえない。

「どうにかして御別橋を渡って、七時までに東署へ行かないと…」
「どうにかって…どうやって!?」
「グッ…今考えてる!」

小室坊と宮本嬢が言い合っているが、お二人さん何かお忘れじゃないかね?
パン!と拍手を一つ打ち、二人の注意を此方に向ける。
ポケットから取り出したトランシーバーを見せれば、二人とも「あ」といったような表情になる。

「これがありゃ、別に渡らずとも合流できるぞ?」
「…そう言えば、お前ソレ持ってたな…」

カッカッカ、と笑えば小室坊と宮本嬢も疲れたような笑いを漏らす。
さて、それじゃあちょいと連絡を…。
そう考えた瞬間、聞き覚えのある音が聞こえた。

「銃声!?」

宮本嬢が叫ぶが、コレは銃声ではない。

「んー、いや。こりゃ平野坊の改造ガスガンの音じゃないかね?学校で聞いた気がする」
「…だな。急ぐぞ!!!」

小室坊が言葉と共にアクセルを入れる。
急ぎ向かうは、音のした方。






(…あー俺、死ぬんじゃねぇのかな?)

いきなりの死亡断定に驚いただろうが、現状を説明しようか。

俺、スカイハイ。或いはフライハイ。

平野坊の改造ガスガンの音を頼りに突っ走ってきた俺たちではあるが、目的地へと辿り着く直前にある物品が眼前に現れた。
恐らく、工事か何かに使っていたであろう物品だ。

『小室坊、あれどうすんのよ』

俺の疑問に対して、彼は無言の返答を出す。橋へと駆け上がるように設置されたそれを、小室坊は突っ走った。
怖気づくのが普通であるが、突き進んだのだ。
その角度ゆえにそのまま橋の上へと乗り上げる事は無く、勢いのまま走行中の角度と変わらぬ勢いで宙を舞い、皆の視線を釘付けにしている。
その勇気は讃えよう。しかしである。

(後ろの俺も、気にしてくれよ)

その衝撃により、俺はカートから跳ね飛ばされたのだ。
現状、小室坊やバイクも一緒に空を飛んでいる状態だ。
しかし、安定した車体を持つ彼らと違い俺はカートという不安定な場所に乗っていたわけだ。
運の悪い事に、チェーンも外れてカートだけが先走った。

つまり、俺の足場は無い。

夕焼けに映える、バイクに跨り仲間のピンチに颯爽と駆けつける男女。
その後ろで無様に空中浮遊をする男。そしてカート。
随分とカオスなシーンである。

「「小室君!?」」

(・・・・・・・・・・・・)

平野坊と毒島嬢が、同時に叫んだ。死ぬかもしれない俺では無く、小室坊の名を。
そんな時、不意にプツンと何かが切れる音がした。
きっとそれは、俺の血管で―――――。










「イイイィィィィィィィヤッハアアアアアアアアァァァァァァァァ!!!」











咆哮を上げる。たぶん漫画表現すると目がグルグルマークになっていると思われる。
弾けた。何かもう、全力で弾けた。
俺の発した奇声に周囲が目をむくが、知った事ではない。
眼球をギョロギョロと動かし、<奴ら>の数を大方確認する。

「おーおーおー…喰い放題じゃねぇかよぉぉぉぉぉぉ!!」

叫び、狙いを付ける。
空中で身を捻り、<奴ら>の頭上にウルトラC確定の芸術的回転着地を叩き込みつつ付近の<奴ら>の首を即座に刎ねる。
かつての仲間たちに『変態的体裁き』と呼ばれた体術だ。
拳銃の扱いやらナイフやらの練度は使用できなかった期間が長かったせいで錆付いていたところとてあったが、身体を動かす事は幼少の頃からやっている。
出来ないはずが無い。
グチャリ、と肉を潰す感覚を足裏に感じながら地面を蹴る。
身を低くしつつ正面の<奴ら>の脚を切り払い、身体が傾いたところを踵落としで頭を潰す。昔は良く喧嘩で使っていた技だが、こいつら相手に加減などしない。
先と同じく肉を潰す感覚。

(ああそうだろうチクショウ俺だって鬱憤溜まってんだよお前ら俺のこと嫌いか嫌いなんだなそうかそうかそうですかどうせ毒島嬢も小室坊も宮本嬢も平野坊も高城嬢も鞠川先生も俺のこと何てどうでもいいと思っているんだろ俺のことを変人とか思って馬鹿にしてるんだろうがおんどりゃ嘗めんな俺とて怒るときは怒るんだよ!!)

頭の中で高速の愚痴を唱えつつも、動きを止めない。
下から上へと突き上げるように<奴ら>の顔面を掻っ捌き、バックステップでサイドから来る<奴ら>を避ける。
バイクで突っ込んできた小室坊も奮闘しているようだ。
宮本嬢は、圧倒的で素晴らしい奮闘振りだ。
仲間との、共闘。
ああ、戦場を思い出す―――――――――ッ!!

「遅ぇぞ糞虫どもがぁぁぁぁぁ!!」

叫びを挙げながら、<奴ら>の首を刎ね、潰す。
首を刎ね、ソレをボールのように蹴り飛ばし別の<奴ら>の動きを封じ首を掻っ切る。
嗚呼、もう一本ナイフが無い事が悔やまれる。
あったのならば、こいつ等を思う存分屠れるものを…!!

「ジャアアアアアアアアアAAAAAAAAAASYAAAAAAAAAA!!!」

吼える。最早、意味のある言葉にすらなっていないが怒りを示すには十二分。
ナイフを投擲し、遠方の<奴ら>へと突き刺す。即座に前進し、その頭部から抉り裂くようにナイフを取り去り、返す刃で背後の<奴ら>の首を刈る。
転んだ<奴ら>の頭部を遠慮なく踏み潰す。
完全に死んだ<奴ら>を蹴り上げ、盾にする。

「ハッハァー!!ご機嫌じゃあねぇかオラァ!!」

こんなにおかしなテンションになったのは、百人の部隊を一人で相手した時ぐらいだ。
少し視線をずらせばバイクで<奴ら>を撥ね飛ばす小室坊が、平野坊に拳銃を投げ渡していた。平野坊はその銃を手にした瞬間。

『イイ顔』をしていた。

眼鏡が輝き、獰猛な雰囲気を纏う。
ああ、かつての仲間にああいう奴が居た。
俗に言うトリガーハッピー。引き金を引くことを至上の幸福とする者。

「イイ顔してんじゃあねぇかぁ平野坊よぉぉぉ!!!」

声を掛ければ、サムズアップで平野坊が返す。イイ感じのテンションだ。
今度から、ヒラ坊と呼ぶとしよう。
そんな事を考えながらも寄って来る<奴ら>を蹴散らし、次の獲物へと飛びかかる。
…人間相手なら自殺行為に他ならないが、動きが遅いこいつ等ならば思う存分動き回れる。
バトルジャンキーと言うわけではない。
溜め込んだストレスを爆発させられる場を見つけたことで、正気で無くなっているだけだ。
普段ならば余計な行動は避けるが、今回は無理。

「クカカカカ!!来いよ雑魚どもぉぉぉ!!」
「…石井って、本当はあんな性格してたのね…」
「人間、分からないものねぇ」

ギシィと音がしそうなほどに口元を三日月形に歪めながら吼える。何やら高城嬢と鞠川先生が話しているが、よく聞こえない。
聞く必要も無いが。
手近な<奴ら>の首を刎ねながらそう思う。
そうしている間に、鈍い音が響く。
眼を向ければ、毒島嬢が最後の三匹を随分とアクロバティックな動きで倒したようだ。

「フゥー、フゥー…ファァァァ…」

燃えていた己の精神が、鎮火していくのを感じる。
カリカリと頭をかき、目頭を揉み解す。
おー、表情がえらい事になってんなぁと思いつつ頬の筋肉を元に戻す。
大きく深呼吸を行い、落ち着きを取り戻す。

「…しゅーりょー」

気の抜けた声で戦闘の終わりを告げ、懐から薬用煙管を取り出し口に含む。…あー、いかんねどうも。今日はよく分からん精神状態が続く。
本来なら、もっと落ち着いてやるべきだろう俺。

「すごーい」

鞠川先生が驚嘆の声を上げる。まぁ、あれだけ居た<奴ら>をものの数分で片付けたのだからその驚愕も押してはかるべしというやつか。

「粗方片付いたようだな」
「だなぁ…いやはやテンション上げ過ぎた。今は反省している」
「…君にも、あんな鬼神のような一面があったのだな」

毒島嬢の隣へと歩いていけば、人の事を鬼神と呼びよる。
そう言われてもなぁ、と思う。いつも通りの俺ならば適当に空き缶をぶん投げ<奴ら>の意識をそちらに向けさせて逃げただろう。
今までのストレスがスコーンと爆発したから、あんな風になった。

「知らんうちにストレス溜まってたんじゃないか?お前さんらが俺の心配よりも小室坊たちのほうに視線を向けていたから、何か俺蔑ろにされすぎじゃね?と思ってストレスがこう、ドーンとなったのよ。てか本格的に俺の扱い酷いだろ」
「…それだけ大丈夫そうに思えるということじゃあ…」
「いーよチクショウ慰めんなよ惨めになるだろう俺なんてさぁ!!」

ウボアーと泣き出せば、毒島嬢がオロオロとしている。

「手ごわかったわねぇ」
「アンタは邪魔しかしてないでしょう」

同意するぞ高城嬢。
ゴキリと首を鳴らし、嘘泣きを止める。それを見た毒島嬢が困ったものを見るような眼で此方を見るが知った事ではない。
周囲を軽く見回せば、宮本嬢が鞠川先生へと小走りで駆けて行くところが見えた。

「先生!!」
「あらあら宮本さん!」

宮本嬢が鞠川先生に抱きつく。さっきまで<奴ら>の醜悪な面やら身体やらしか見ていなかったからかえらくその光景が眼に眩しい。
…眼福、と言う奴か。
うんうんと首を振っていると、横の毒島嬢が首を捻っている。気にするな、コレは分かる奴にしか分からんもんだから。

「小室君も!!」

小室坊がバイクを引っ張っていると鞠川先生が声を掛けていた。
へい先生。俺、俺、俺も居る。先生の視界内に収まるような位置に居るよ俺。念のため腕を振ってみる。
が、気付く様子は無い。
地面に俗に言うヤンキー座りでへたり込む。

「はぁー…やっぱ俺、存在感薄い?」
「いや…君ほど存在感の濃い人間は中々居ないと思うぞ…?」

俺がそう気落ちしていると、毒島嬢が苦笑しながらそう言ってくれる。
ならば何故、俺は無視されるんだろうね。
…あ、そういえば。

「トランシーバー、役に立ったかい?道中あんまし連絡来ないんでちと不安だったぞ?」
「十分、役に立った。君たちの大よその居場所を知る事ができたしな」

そうかい、と軽く返す。役に立ったのならば重畳、言う事無しだ。
さてそれにしても…。

「見てる分には、やっぱ面白いねぇ」

カッカッカ、と笑えば眼前には修羅場。
何かこう、高城嬢が小室坊に抱きついてるところを見て宮本嬢が頬を膨らませている。
非常に愉快だ。
まぁ現実に俺があの立場にあったら、どっちを取ればいいのか分からずオロオロした後に投身自殺するんじゃねーかと思うが。
しかしそう考えると小室坊の鈍感さと言うのは一種の精神安定に繋がっているのだろうか。

「…鈍感て、自分を護るスキルだったんだな」
「?…ああ、小室君のことか」
「そう言うこ「こーむろー!!どうしたのこれ!?どうしたのこれ!?予備弾は?これ警察で配備されてるスミス&ウェッソンM37エアウェイトだよね!?M36」ウルッセェェェェェェェェェェ!!!頭かち割るぞヒラ坊!!」

小室坊の拳銃を渡されたヒラ坊がギャースカギャースカ吠え立てるので、ナイフを取り出して吼える。俺の脅しにヒィィィ!?と悲鳴を上げながら後ずさるヒラ坊。
ったく、興奮しすぎだろオイ。
シャコンと刃を戻し、袖の中へと仕舞い込む。
それを見た毒島嬢が眉根を寄せているのだが一体どうしたのだろう。

「…君は、何時もナイフを袖の中に仕舞い込んでいるが何故落ちてこないんだ?」
「企業秘密。そっちのほうが格好良いだろ?」
「…そうか」
「そうだよ」

二人で顔を見合わせ、笑う。
――――或いは、平和な世界でこういう青春を謳歌したかったものだ。
さて、と立ち上がり皆のほうを向く。
願望や理想はままあれど、既に再開を歓喜する時は過ぎた。今からは、この先の話だ。






「ま、大体そっちの状態はトランシーバーだとかで分かってるしそう説明する事も無いんだけどなぁ。それとヒラ坊、お前はいい加減拳銃を仕舞え」
「あだっ!!」

銃を取り上げ、ヒラ坊の頭を引っ叩く。その後「返してよー」と縋りつくヒラ坊に拳銃を仕舞いこませ、皆のほうを見る。
とりあえず橋の上から、下へと移動した俺たちであるが、正直トランシーバーによる情報の遣り取りを行っていたので、互いの現状確認は不要なのだ。

「にしてもまぁ、川も増水してるしどうするよコレ」
「上流に行っても、どうしようもならないわね」
「ですよねー」

高城嬢の言葉に同意する。市外に出る方法を模索してみるが橋は使えないし、この川の勢いでは泳いで渡るというのも無理な話だ。
市外に出ても安全なのかは知らないが、少なくとも外部の状況を知れるだけで行動の幅が広がる。
だがそれは無理、と。
どうするかねぇと一同で考えているところに、鞠川先生が一つの提案を出す。

「あのー、今日はもうお休みにした方が良いと思うの」

鞠川先生が手を合わせながら言うが、中々に無茶を言ってくれる。
そりゃあなんぞ『歩いて大した距離も無いところに知り合いとか自室とかがあるのよー』てな感じのそういう展開なら分かるがね?
そんな御都合主義があるわきゃ―――、

「あのね?使えるお部屋があるの!歩いてすぐのところ!!」
「彼氏のへ「あんのかよ!?」…人の言葉遮るんじゃないわよっ!!」
「ごふぁ!?」

思わずツッコミを入れたら、思い切り高城嬢に蹴飛ばされた。いや流石にそういう展開は夢物語過ぎるだろうって思ったんで…。
とは言え八割言い終えた言葉はその意味を確実に鞠川先生へと伝達し、彼女には珍しくわたわたと慌てたような様子だ。
…この人、子供っぽい仕草が似合うなぁ。

「ち、違うわよ!!女の子のお友達の部屋だけど、お仕事が忙しくて何時も空港とかにいるから、カギを預かって、空気の入れ替えとかしてるの!!」

…ふむ。つまり、こんな感じか?

『いってらっしゃーい!!』

フリフリのエプロンドレスを身に纏い、はたきをクルクルと振り回す鞠川先生。…んー、あれだ、こう、何と言うか…。

「イメクラじゃねーんだよ」
「…石井、何となく考えている事は分かるが声に出すなよ」
「おおっと」

いしのなかにいる!…ちげぇよバーロー。
まぁ何にせよ、安全な場所があると言うのならばホイホイ付いて行かざるおえんな。

「マンションですか?周りの見晴らしは良いですか?」
「あ、うん!!川沿いに立ってるメゾネットだから!!すぐ傍にコンビニもあるし!」

ヒラ坊の質問に笑顔で答える鞠川先生。
果たして現状、付近にコンビニがあることは利点になりえるのかどうかとも思う。まぁ、食料が残っているのなら価値はあるか。

「あ!あとね、車も置きっぱなしなの!戦車みたいなの!!」
「わーい、すてきなまでにごつごうしゅぎーなんでもそろってるねー」
「…石井君、気持ちは分かるが素直に此処は喜んでおけ」

ジープか?ハマーか?ハンヴィーか?それともマジもんの戦車だったりするのか!?
そんな半ばヤケクソに近い思考で鞠川先生を凝視していた俺であったが。

「こーんなだよ!!」
「―――――おぅふ」

鞠川先生が手を広げると同時に、たわわな果実が揺れる。チクショウ耐性できてきたと思ったけどまだまだだったか。
ちょっと鼻血が出そうになったぜ…!!

「確かに今日はもうくたくたぁ…。電気が通ってるうちにシャワーを浴びたいわ…」
「そ…そうですねー…」

ヒラ坊、高城嬢の胸をガン見。気持ちは分かるがずっと見るのは三流だと俺を育てた傭兵の一人が熱く語っていた。
ほら、そんな風に見てるから思いっきり蹴り飛ばされる。
一流は、一瞬で網膜に焼付け脳内妄想へと昇華するらしい。

「そう考えると焼き付ける事しか出来ない俺は二流か」

一人そう呟き、しきりに頷く。一流はド変態の域だから俺はずっと二流でいいやと思う。
というかヒラ坊、気持ちよさそうな声を出してるんじゃ無いMかお前さんは。お前さんはあれだ、勇気で何とでもなると言っておけ。
とりあえず、何だ。

「小室坊。鞠川先生と一緒に、本当に部屋が使えそうかどうか見てきてくれんかね」
「最初からそのつもりだよ…静香先生!乗ってください」

あ、うん!と了承を返し小室坊の後ろへと乗る鞠川先生。それと小室坊、その果実でドギマギしてると嫁候補二人にドカバキされるぞ。
鞠川先生も分かっているのか天然なのか、しっかり抱きついてるし。
ああほらもう宮本嬢から黒いオーラ出てるし高城嬢はヒラ坊を蹴り飛ばしまくってるしどう収拾付けるんだよコレ!!

「…ま、いいか」

思考を投げ出し、地面に腰を下ろす。
結局全員、気が抜けているということだろう。
再開は、想像以上に皆をリラックスさせているようだ。良かった良かった。
そう思い、口に煙管を咥えてふかす。
―――――ああ、うまい。

~あとがき~
ギャグがこれ以上無く楽しい。でもそうすると学園黙示録っぽさが無くなっていくというジレンマ。
とりあえずISHI祭の弊害が此処に出たで御座る。ヒャッハーした石井君、暫くは大人しくしていると思われます。
精神安定の為にジョークとかぶっ放して蹴られたりするかもしれないけど。




~ヲマケというかその後~

小室坊と鞠川先生が帰ってきた、その後の事。俺たちは皆揃って鞠川先生の言う『友達』の家の前へと来たのだが。
…マテや、と言いたくなる。

「ハンヴィー!!それも軍用モデルだぁ!!」
「ねー?戦車見たいでしょー?」
「…おかしいだろ、絶対一般人じゃねーよ此処の人」

かつて戦場で見た事のある重厚な車体が、今眼前に存在している。
ツッコミたいがもう面倒臭くなって来ている。もう部屋の中に武器とか置いてあっても驚かねぇぞ俺は。

「一体どんなお友達なのよ…」

高城嬢が呆れたように言葉を発するので、自衛隊かなんか所属のお友達じゃねーの?と投げ遣りな感じで答えておく。

「…普通すぎる推測ね」
「それしか思い浮かばねぇからなぁ」

後はSATとかじゃねーの?
煙管を咥えながら言うが、趣味でこんなもん手に入れられるなら凄まじい金持ちか何かだぞ、その人。そんな人だったらヘルパーさんとか雇うだろうし。
ならば消去法で、ソレを手に入れられる正式な立場に居る人物としか思えない。

「<奴ら>は塀を越えられないだろうから、安心して眠る事は出来そうね」

宮本嬢が安心したような表情で言った。

「ふんむ…そいつぁ重畳。身体を休める事が出来るってのは、こういう状況下じゃ水よりも貴重だからしっかりと休んどけよ?」
「ともかく、早く―――ッ!!」

俺の言葉に続いた小室坊の言葉が詰まったのを見て、大体の予想が付いた。
上を見上げれば、<奴ら>。

「ホンット何処にでも居るのなあいつ等。やっぱGとかの親戚じゃないのか?」
「気持ち悪い事言うんじゃ無いわよ…小室、これでいい?」
「ああ、十分だ。下がってろ」

俺の言葉に反論しながら、高城嬢がバールを小室坊に手渡す。何だろう、バールって本来は武器じゃないのにナイフとか拳銃、真剣よりも強そうな気がするのは。
何はともあれ、ゆっくりと休むために最後の一仕事と行きますかね。
ナイフを取り出し刃を露呈。何時も通りに構えを取る。

「お互いにカバーしあう事を忘れるな」
「あいよ」

毒島嬢の言葉に軽く言葉を返し、視線を<奴ら>へと定める。

「――――行くぞ!!」

小室坊が門を蹴破りながら言う。戦闘可能な人員が、階段を駆け上る。
宮本嬢が突き刺し、毒島嬢が薙ぎ払い、ヒラ坊が射撃し、小室坊が抉る。俺も、近くに居た<奴ら>の首を刎ねる。
掴まれぬよう立ち回りながら、今朝方に小室坊が言っていた言葉を思い出す。

『…ようは、僕たちと同じさ』

自分たちも狂っているのだと言う発言。嗚呼、正しくそうだ。
単なる学生が、逃げるでもなく恐れるでもなくこの短時間で『戦う』という選択肢を選べるその思考。確かに今までとて戦ってきたが、ソレはあくまでも『逃走経路の確保』など逃げるための選択であった。だが、今の彼らは迷いなく攻めに出た。
昨日まで普通の学生だった彼らがだ。

異常、と言わざるおえない。

ソレほどに、この場の狂気が大きいのか。それとも、彼らには最初からその『適正』が存在していたのかは分からない。
だが、今は。

「…何があろうとも」

進むしか、無い。
そう一人呟くと共に、<奴ら>の頭を、叩き割った。




[21147] 【習作】こんな○○だったら死にそうに無いかも知れない。【レッツエロス】
Name: do◆579b2688 ID:d32f757b
Date: 2010/08/27 20:44
~注意~
・作者の文章力は砂粒程度。
・石井君大暴走。
・自己解釈含まれます。
以上の事が許容できる方のみスクロールしてください。
許容できない方はより素敵な記事へとマッハ4の速度で行くべき。
























――――――息子が迷惑かけそう。詰まる話、性欲を持て余す。

『全世界に蔓延しつつある、いわゆる殺人病のあまりにも急速な感染拡大により、我が国を始め各国の政府機関は成す術も無いまま崩壊しつつあります。我が国における殺人病に関しては、既に二百万を超えておりその強大な感染力とシステム麻痺の影響から一両日中に一千万に達するものと見られています。尚、大きな犠牲を払いつつ放送の維持に――――』
「どーこ見ても同じようなニュースばっかりだなぁオイ。しょうがねぇ事だが、気が滅入るわこりゃ」

ピッ、とテレビのスイッチを押し電源を切る。
ごろりとフローリングの上に寝転がり、天井を見ながら思い出す。
<奴ら>を切ったり突いたり抉ったりしながら、先生の『お友達』の家に入った俺たち。
此処に辿り着いて女性陣がまずやり始めた事は、

「風呂、ねぇ。あー、俺もさっさと風呂入りてぇなー。キンキンに冷えたビール飲みながら焼き鳥とか食いてーなー」

親父臭いと言う無かれ、マジ最強の組み合わせだからアレ。何かもう想像するだけで涎出てくるんだけど、どうしようこれ。
あんましアルコールに強いわけじゃねぇから沢山は無理だが、あの一時は幸せだ。

「ヤッベ、マジどうするよオイ。なぁ小室坊、ヒラ坊」
「お前は寝転がってないで手伝え石井!!」
「いや、お前ら二人で十分だろ。三人目とか蛇足じゃねーか完全に」
「あははは…そうだね。二人のほうがやりやすい、かな?」

ほれみろーと小室坊を指差しながら言う。それにお前、俺だって頑張ってるんだぜ?
風呂場から聞こえてくる女性陣の楽しそうな声に引き寄せられ思わず身に言ってしまいそうになる謎の衝動を押さえつけているのだから。

収まれ俺の右腕ならぬ、収まれ俺の息子と言った心境であった。





 第六話   ~銃とエロスと鼻血の巻~





それは置いといて、今、小室坊たちがやっているのは何かと言えば。

「やーれやれ、まさかとは思ったが武器まであるとはねぇ…現状では至れり尽くせりと言うか何と言うか、ねぇ?」
「役に立つんだからいいじゃないか、そんなの」

そうだがねぇ、と小室坊の言葉に返す。此処まで上手く行き過ぎると、後で良からぬ事でも起きないかと心配になるのだ。
人生、山有り谷有りとも言う。
良い事があれば悪い事もあるというわけだ。
…今までがずっと谷だったから、山が出てきたのやも知らんが。

「それじゃあ行くぞ」
「ガンバレー負けんなー力の限りやってやれー」
「力の抜ける応援するんじゃねぇよ!!」

武器が入っているだろうロッカーをこじ開けようとしていた小室坊たちだが、ついぞ最終段階に入ったようでバールによる開封が行われようとしていた。
とりあえず応援してみるが、怒られた。ガッデム。
気を取り直したらしい二人は、力を入れるタイミングを計っている。

「「一、二ぃの、三!!」」

ガコン、とロッカーの扉が開く。勢いを付けすぎたのか、二人がそのまま前方へと倒れこむ。
二人を無視しひょいと覗けば、中には大型銃火器がずらり。
オイオイ、どう見ても日本じゃあ不味そうな代物がゴロゴロとあんじゃねぇのよ。

「コイツァ…」
「いってて…ん?オイ平野」
「ん、ん?…!!!!」

倒れていた状態から、俊敏な動きで立ち上がるヒラ坊。その勢いに押され、一歩下がるが…、

「やっぱりあったぁ!!」
「ヒラ坊、お前さんラスボスみてーな面してんぞ今」

ヒラ坊は何かこう、凄まじく邪悪と言うか何と言うか筆舌に尽くしがたい顔面を晒していた。あれだ、潰れたカエルを凄く邪悪にするとこうなるかもしれない。
そんなに武器を発見したのが嬉しいのか。

「…静香先生の友達だって言ったよなぁ、此処の人。一体どんな友達なんだ?」
「高校時代の友達とかそんなんじゃねぇの?現状、自衛隊とか」

小室坊の言葉に俺なりの回答を返す。…道中、SATの隊員だとか聞いた気もするがまぁ良いか。
何処かで誰かがくしゃみをした気がするが、気のせいだろう。
とりあえずこれ等の名前は確か…。

「スプリングフィールドM1A1スーパーマッチに、ナイツSR-25狙撃銃…じゃなくてAR10Tを改造したのかコレ?それにこのクロスボウ、バーネットワイルドキャットC5…だったかねぇ?」
「…お前、良く知ってるな」

元本職です、とは言えない。間違いなく頭おかしい人物と思われるだろうし。
それとヒラ坊、『同士発見!!』みたいな眼でこっち見るんじゃねぇよ。俺は生きてたら何故か覚えただけでありお前さんほど熱心じゃねぇよ。
小室坊が何と無しに手に取ったのであろうショットガンを見れば…。

「ソレはぁ!イサカM37ライオットショットガン!!アメリカ人が作ったマジヤバな銃だぁぁ!!」
「あっらー、何でこんなのが此処にあんだよオイ。確かベトナム戦争だとかで活躍したような銃じゃあ無かったかね」
「そう!!その通り!!石井君も銃に興味あるの!?いや、石井君なんて他人行儀な呼び方はやめよう!!そう、君は、同士・石「やかましいわこのすっとこどっこい」ぽふぁッ!!」

ゴツン、とテンション上がりすぎなヒラ坊に拳骨を落とす。…ったく、ホントにコイツは銃の事となると人格変わったみてぇになるなオイ。
と、そんな事をやっていればジャコン、と音がする。
其方を見てみれば小室坊が此方に向かってライオットショットガンを構えている。
…空だと分かっていても、やはり恐ろしいものだ。

「…小室坊、弾丸入ってなくても人に銃口を向けるもんじゃねぇぞ」

取り合えず手で銃口を退かしつつ、眉根を寄せて小室坊に注意する。
今の行動は、銃を扱う上でやっちゃあいけない手本として最初に上がるようなものだ。

「そう!!銃口を向けて良いのは…」
「…<奴ら>だけか…本当にそれで済めばいいけど…」

ヒラ坊の言葉を引き継ぎ小室坊が視線を下げつつ言う。たぶん、『もしも』の時を考えているのだろう。
狂っているとはいえ、人にもコレを向けなければ成らない時が来るのでは無いかと。
恐らく、と言うか確実にそうなるのだろうが。

「…無理だよ。もっと、酷くなるんだから…」

どうやらヒラ坊も同じ考えであるようだ。
まぁ、確かに無理だろう。
きっと狂った生者は<奴ら>以上に俺たちを苦しめるだろう。それはほぼ確定事項であり、これから先まず間違いなく起こりうる事態。
とは言え、此処で暗い顔してても始まらない。
そういうわけでこの話を打ち切りにしようとしたのだが…。
ヒラ坊が、口元を歪めて言った。

「この戦争には、和平交渉も降伏も無いよ…」
「…やっぱりな」

ヒラ坊の言葉に、小室坊も少し口を歪めて同意を口にする。…成る程、こいつ等は静かに、けれど確実に狂ってきているようだ。
現状を打破するにはそうならなければならないとは言え、未来ある若者が戦場を歩く悪鬼羅刹へと変化していくさまは、気持ちのいいものではない。

(――――まだまだ、俺も甘いね)

過保護とも言えるかも知れない。
既に戦争は軍人がやればいい、という状況ではないのだ。戦い、打ち勝たなければ無残な屍を晒すだけなのだから。

「だから」

下を向き考え込んでいる時だった。
ジャキン!!と。
マガジンをセットする音が、聞こえた。

が。

「格好付けてマガジンセットしても弾丸入ってないってのはシュールだよなぁ。安全だけど」
「同士・石井、弾丸を詰めるの、かなり手馴れてるね」
「だから同士じゃねぇっての」

そう言葉を返しながらも、弾丸を詰める作業に没頭する。かつてアレックスやマルスの手伝いとして、黙々と弾丸をマガジンにセットした事のある俺にとってこのぐらいは朝飯前だ。
速度は、ヒラ坊の大体二倍前後。
カチャカチャと弾丸を詰め込み、次のマガジンへと移っていく。

「小室坊、お前も手伝え。コレ面倒くさいんだから」
「あ、ああ…そう言えばお前ら、どうやってこんなのの扱い方学んだんだ?」

隣に居た小室坊にも弾丸を詰め込むのを要求すれば、了解の意と共に俺たちの銃に対する知識への質問が飛んできた。
ヒラ坊のほうは正直に言えるのだろうが、俺の場合はそういうわけにもいかない。
さて、どうはぐらかすかなと考えていれば。

「やっぱ、エアソフトガンとかか?」
「…まさか。実銃だよ」
「ほ、本物持ったことあるのかよ!?」
「ほぉ」

小室坊の代表的な例を否定し、実銃により学んだと答えるヒラ坊。それに小室坊は驚くが、俺としては然して驚きも無い。
銃を撃つ姿勢は、しっかりしていた。
単なる素人ではありえない事だったので、良く覚えている。

「アメリカに行ったとき、民間拳銃会社ブラックウォーターに勤めていたインストラクターに、一ヶ月教えてもらったんだ!元デルタフォースの曹長だよ…ッ!」
「…凄まじい熱意だなオイ」

マニア、此処に極まれりというやつか。
にしてもデルタフォースと来たか。かつては戦場で出会ったりしたこともあったのだが、凄まじい奴らであったと記憶している。
あそこの奴らは、俺が死んだ後も何処かで戦ったりしているのだろう。

「…お前って、本当にそういう方面だけは完璧なんだな…嫌われなくて良かった…」
「あははははは…」
「お前さんら、口動かす前に手を動かせ手を」

会話に没頭しているせいか、両隣の二人の手が止まっている。
俺はといえば話を聞いたり昔を思い出したりしている間にも手を止めず、黙々と弾丸をセットする工程を繰り返していた。
俺の言葉に、慌てたように二人が弾丸を詰め始める。

「…石井、お前はどういう理由だ?」
「企業秘密だ。形容しがたいというかたぶん話したら三日掛かる」
「じゃあいいや。お前、本当に話し続けそうだし」

小室坊はあっさり諦めてくれる。逆サイドのヒラ坊はとても聞きたそうな面をしているが、残念ながら話しても俺がキチ○イ扱いされるだけなのでやめておく。
そう考えていれば、小室坊が不意に口を開く。

「にしても、本当に何者なんだよ静香先生の友達。此処にある銃絶対に違法だろ」

そう言って、机の上に並べられた銃の数々を見ていく。
確かに普通の奴らが見れば、違法だと見えるのだろうが。

「んー、基本的には違法とは言えんのだよなコレが。パーツ自体を別々に買うのは構わんのだ」
「その後で、組み合わせたら違法になる」

俺の言葉を引き継ぎ、ヒラ坊が銃に対する知識を語る。

「でも警察の特殊急襲部隊、ほら、SATの隊員だって静香先生が」
「警官なら何でもありかよ…」
「国家権力最強説」

ヒラ坊の言葉に呆れたような表情で愚痴を零す小室坊。この日本でどれだけ国家権力が大きいのかを物語る事例であった。
まぁ、普通の人物で無いことは確かだろうが。
どこぞで聞いた話だが、結婚していない警官は寮にすまなければならないという規律があったはずだ。しかし此処の住人はこんな部屋を借りている。
ヒラ坊もその事に疑問を持っていたようで、先ほどの俺の思考をそのまま喋ってくれる。

「実家が金持ちか」
「付き合ってる男が金持ちなのか、ってぇ奴だな。考えによっちゃ汚職もありえるがね」

考えたところで何の意味も無いが、話題に上がった以上考えてしまうのが人間だ。
そんな会話をしていると、風呂場のほうから聞こえる声が更に大きくなった。

「…流石に騒ぎすぎかも」
「オイオイ、勘弁してくれよ。俺の色気に対する耐性が女性陣の嬌声によってメッキの如く剥がれてきてるじゃねーか。鼻血出るぞ」

いや、そういう意味合いじゃなくてね?とヒラ坊が言うが、そんな事は分かっている。今のは純粋に俺の心情を暴露しただけだ。
それにその答えなら、何時の間にか双眼鏡で<奴ら>を観察している小室坊のほうが詳しいだろう。

「大丈夫だろ。<奴ら>は音に反応するけど、一番五月蝿いのは…」
「…御別橋、か。ご苦労な事だね、まったく」

口に煙管を咥え、吸い込む。
警官やらが通行規制をかけてはいるが、果たしてソレに如何程の意味があるのやら。この異常事態で、人を押さえつければ何れ暴発を起こすかもしれない。
彼らもそれは分かっているのだろうが、そうする以外無い。
そして大を護るためには、小を切り捨てざるを得ない。十を救える事など普通無く、良くても必ず一を切る。場合によっては半分を切り捨てるのかもしれない。
正義感の強い警官、というのが居るかどうかはしらないが、市民を護るべき警官が市民を切り捨てる、というのは酷い矛盾であろう。

「…ホンット、面倒なこったなぁ…」






「何だよコレ…映画みたいだ…」
「地獄の黙示録に、こんなシーンが…」

双眼鏡を覗いた、小室坊とヒラ坊の台詞だ。俺も双眼鏡を覗かせてもらったが発展途上国における戦争の途中、ああいう景色は見た事があった為に二人よりもショックは少ない。
確か其処で、マルスを拾ったのだったか。

「あ、何だアレ…」
「どした?」
「テレビ、つけてみて」

何かを発見したらしいヒラ坊が声を上げ、テレビをつけるよう指示する。一先ず手近にいた俺がテレビの電源を点ける。
其処には、

『警察の横暴を許すなぁぁ!!』
『許すなぁぁぁ!!』

一人のおっさんの声を復唱する大多数の人間が移っていた。どうやら、警察隊に対するデモ行動が橋の上で起こっているようだ。

『我々はぁ!!政府とアメリカの開発した生物兵器によるぅ!!殺人病の蔓延についてぇ!!』
『ただいま、警察などによる橋の封鎖に対する抗議を目的としたらしき団体の人々が、シュプレヒコールを叫び始めました!!』

アナウンサーの解説が入るが、その間にも抗議は止まらない。
それにしても『政府とアメリカの開発した生物兵器による殺人病の蔓延』か。
随分と愉快な仮説を立ててくれる。

「殺人病って…」
「<奴ら>の事だろ、どう考えても」

二人が立ち上がってテレビを見ている中、一人寝転がりながら言葉を返す。

『団体メンバーから配られたビラによれば、彼らの主張は殺人病を蔓延させた者たちの糾弾する事です。日本、アメリカ両政府が共同開発した生物兵器が漏れ、このような状態になったのだと―――』
「正気かよ!?何が生物兵器だ!!死体が歩いて人を襲うなんて現象、科学的に説明がつくはず無いのに…」

小室坊。この街が既に『正気』と言う言葉から懸離れているのは、お前さんもよく知っているだろうに。そう思いながら視線をずらせば、ヒラ坊も何やら考えている様子だ。
そして、口を開いた。

「という事は連中、設定マニア「そうじゃねぇ。ああいうもんなんだ、混乱に陥った人間てのは」…え?」

ヒラ坊の言葉を遮り、どっこらせと起き上がり背後にある大きなベットに座り込む。
困惑した表情の二人を見る。さて、どう説明しようか。

「ふんむ…そうさな、小室坊、俺の体重分かるか?」
「え?い、いや、分かるわけ無いだろ…」
「だろうな。んじゃあ、その『分からない』に対してイライラしたりするか?」
「するわけないだろ、どうでもいい事なんだから」

小室坊が呆れたように言うが、現状で最上の答えだ。感謝しよう。
次にヒラ坊の顔を見て、問う。

「ヒラ坊、お前さんの目の前に銃があるとしよう。興味が引かれるか?」
「もちろん!!」

眼鏡を凄まじい勢いで輝かせるヒラ坊。想像以上の食いつきに若干引く。

「そ、そうか…だが、お前さんはその銃について何も知らない。そして調べる方法も無い。どう思う?」
「それは…ちょっと気分が悪いかなぁ…」
「オーケー、ソレだ」

は?と二人が同時に疑問の声を漏らすが、まぁコレだけじゃあよく分からんわな。
ひとまず自分の右側へと二人を座らせ、良いか、良く聞けよ?と前置きし、語る。

「どうでもいい事は、分からなくても何ら問題ないんだ。何せ、元々興味が無いからな。だが、興味や利点がある事に対しての『出来ない』『分からない』というのは、人にストレスを抱かせる。つまり」

其処で言葉を区切り、眼前のテレビを指し示す。映っているのはやはり抗議団体で、尚も御別橋の上でデモを行っている。

「あいつ等の状況は、正しくソレだ。何でこんな事態になっているのか、それを知りたいけれど情報も何も無い。危険から一刻も早く逃げ去りたいのに、それも警察隊によって止められている。分からない、思い通りに行かないという状態はあいつ等に極度のストレスを与え、そしてその蓄積されたストレスをぶつける相手は…」
「警察隊、延いてはその背後に居る政府…って事?」

ヒラ坊の言葉にコクリと頷く。
恐らくアメリカまでも標的としたのは、最も分かり易く身近な友好国であったからだろう。

「ただ、そのままじゃあ<奴ら>が存在する事へのストレスは消えない。交通規制を糾弾できても、命そのものを脅かす<奴ら>…まぁ、あいつ等の言葉で言うなら殺人病か。ともあれ、ソレは糾弾できずずっとストレスを溜め込む事になる。だから、結びつける。何の因果関係も無いであろう二つを、自分の中で形成した仮説によって繋ぎ合わせ『現状の原因』を作り上げる。糾弾して然るべき、と自分自身を納得させるためにな」

ストレスを生み出す主な原因は、<奴ら>と交通規制を行う警察隊。
普通に考えれば小室坊の言ったように<奴ら>が動く科学的根拠が無い以上『生物兵器』なんて考えは生まれないのだが、この状況下で『普通』は通用しない。だから彼らはこの状況を『生物兵器の被害』と考えた。
そしてその被害から逃げる為の行動を妨げる警察隊、或いはその背後の政府。<奴ら>と何の繋がりも無いだろうこれ等を、ストレスは繋ぎ合わせその捌け口を形成。恐らくは誰か一人の根も葉もない仮定が他の民衆に伝播し現状に到る、と言ったところか。
そこまで話し終えたところで、

パァン、と。

銃声が響いた。当然、橋のほうからだ。
それでも尚、テレビでのデモ放送は続いている。
とっとと逃げたほうが安全だというのに、相当狂気に飲まれているようだ。

「己の危険すらも分からん、か…ん?」

不意に、テレビの中に一人の警官が移りこむ。その警官はデモを扇動していたおっさんの肩に手を置き、意識を其方へと向けさせた。

『直ちに去りなさい』
『あぁ?』
『此処に居ては貴方たちも危険だ』

そう忠告する警官に対し、おっさんが喚く。

『詭弁だぁ!!お前たちはぁ!!政府とアメリカの陰謀を隠すためにぃ!!』
『もう一度言う』

初老に差し掛かったであろう警官が、重みのある声で言う。
ある意味、この警官も狂っているのだろうか。こんな状況で、デモ隊に対してまで警告を促そうとするというのは。
警官、という職種の人間を良く知らない故に、真実は分からずじまいだが。

『解散しなさい』
『断固拒否する!!帰れ!!』
『帰れ!!帰れ!!帰れ!!』

警官の通告に、罵声で返すデモ隊の面々。やはり正常とは思えない対応だ。

『我々は』

警官の顔色は見えない。カメラの位置関係から、その背中しか見ることは出来ない。
ただ、何と言うか。

『治安維持の為に、必要な全ての手段を取れと命じられている。法律的には怪しいが…』

その背中からテレビ越しに伝わる感情は、怒りと言うか、悲しみと言うか、色々な感情が入り交ざっている…ような気がする。

『命令は、絶対だ』
『へぁ?』

パァン、と。
拳銃を取り出し、おっさんの脳天を打ち抜いた。
周囲の罵声はなりを潜め、恐怖を示す狼狽の声が一つ上がり、次々に連鎖していく。
カメラが、仰向けに倒れ死亡しているおっさんを映し出し、その周囲に人が集まってきたところで映像は途切れた。

「…どうにもならなくなってる…」
「やばいな…」

ヒラ坊と小室坊が焦りの声を上げる。
大を生かすために小を殺す。恐らくあのおっさんは、『お前らもこうなりたくなかったら大人しく此処から立ち去れ』という警告の為に殺されたのだろう。
少なくとも、あそこに留まっているだけでは死ぬだけだっただろうし。
テレビの電源を消した小室坊。此処からすぐに脱出したほうがいいのではと提案するが、ヒラ坊がそれを制止する。

「明るくなって、視界が確保できるまで待つしかねぇよ。暗闇からガブリ、何てことも有りう…ッ!!」

言葉の途中で、背後から気配。反射的に袖からナイフを取り出し飛び退るが…。

「あぁん」
「…は?」

後ろから伸びてきた手は、しかして俺には掠りすらもせず空を切る。
その手の正体は。

「なぁーんでよけるのぉ、いしいくぅん」
「…寧ろアンタが何なんだと問い掛けたいんですがね鞠川・静香先生?」
「石井、鼻血でてるぞ」

ウルセェ小室坊。俺の耐性は金メッキレベルでバリバリ剥がれるんだよ、こんな素敵ボディーの人が、バスタオル一丁で現れたらお前。

「性欲を持て余す」
「直球すぎるだろお前!!!」

此方まで瞬時に移動してきた小室坊に頭を引っ叩かれた。何をする、事実を言ったまでだ。
と、そんなコントをやっている間に鞠川先生は女豹のポーズで此方へと近づいてくる。

「オイちょっと待て落ち着け先生どうした何があったアレか若い子等の恋愛話についていけず自棄になったかオーケー大丈夫だアンタはまだ若い寧ろ二十七歳と言うのが信じられないレベルで精神年齢も正直低いような気もするが何はともあれこっち来るんじゃねぇ!!鼻血が!!息子がぁぁぁ!!」
「おとなしくしなさーい♪」
「ぬおぉぉぉ…ん?」

段々と近づいてくる鞠川先生に戦慄し、眼前に来たあたりである事実に気付く。
この臭いは。

「酒飲んでんじゃねぇかオイ!!酔った勢いでとか一番性質が悪いぞ!?出来ちゃった婚とか最悪の部類に入るぞ!?てか俺にも酒寄越せオンドリャア!!」
「きゃいん!」

ビシィッ!!と頭部に手刀を叩き込めば、子犬の如き声を上げ俺から離れていく鞠川先生。しかし別の獲物(こむろぼう)を見つけたようでめげずに擦り寄っていく。
…あ、小室坊が胸揉んだ。

「いーけないんだーいけないんだー、よーめーに言ってやろー」
「今のは不可抗力だ!!てか誰だよ嫁って!!」
「ああ!?宮本嬢と高城嬢だよ天然ジゴロ!!」
「お前は俺を殺す気か!?」

バーローお前、こんな楽しい状況を誰が終了させるかよ。大丈夫だって、死なない程度に加減はしてくれると思うから。
そして何時の間にかヒラ坊にも襲い掛かっている酔っ払い教師。
見境ねぇなマジで。
あ、アイツも鼻血吹いた。でもキスか、キスなら仕方ないね。
鼻血吹いてぶっ倒れたヒラ坊を見て、一仕事終えたように顎の下を腕で拭い、

「…んっふ」

…いかん、舌なめずりがエロすぎるんだけど何アレ天然の生物兵器?俺としては<奴ら>なんかよりも眼前の酔っ払い教師のほうが恐ろしい――――ッ!!

「エロス最強伝説始まった……ッ!!」
「石井お前さっきからキャラおかしいぞ!?と、ともかく先生。大声は駄目です、下へ行ってください」
「えー、だめぇ!しづかおそとこわいからぁ!ずーっとこうしてるぅ…」

酔いが回ってきたのか、言葉を言い切る前に眠りかける鞠川先生。
よし、今のうちだ。そう思い、先生をベッドで寝かせるよう誘導していく。

「はーい、よい子はお寝んねの時間ですよー、ほーらベッドの中入って寝ましょうねー」
「んー…じゃあいしいくんもいっしょにねよーよー」
「喜んでッ!!」
「正気に戻れ石井!!」

ドゴスッ!!と、凄まじい衝撃と共に正気が戻ってくる。物凄く後頭部が痛いが今は気にしないでおくとしよう。

それにしても

「あぶねぇ、天然エロ生物兵器マジ凄まじい…!!まさか誘導しようとした俺の精神を逆に乗っ取るとはやるじゃねぇか…!!」
「えっへへーしづかすごい?」
「あーもーこいつ等は…あ、平野、見張り頼む」
「ふぇ?…へぐ…へう」

ガチャリとドアが開く音がしたので、其方を見てみればヒラ坊が外に出ようとベランダのドアを開けていたようだ。
ただし、何か呆けてるっぽい。

「はぁ…石井、俺が見張りしとくから、お前は先生を運んでくれ」
「オイオイオイオイオイ!!良いのかお前!?お前のスキル『ラッキースケベ』が発動したら嬉し恥ずかし目くるめく大エロスワールド発動するんだぞ!?それ棒に振って良いのか!?どっかの誰かさんはそういうもんを期待してるんだぜ!?」
「とっとと行けぇ!!お前にしがみ付いて静香先生離れないんだから仕方ないだろ!!」

なんだよー、じゃあ俺にしがみ付いてなかったらお前が言ったのかよエロスめ、と言ってやれば三度目の打撃を受けた。超痛い。
まぁ、下に降ろす事に反対するわけでも無いし良いか。
よっこらせ、と鞠川先生を背負い込む。

「太股の 感触知った 息子がドン…字余り」

俳句…いや季語が無いから川柳か。ともかく戯言を言うと同時に、鞠川先生が後ろに倒れかけるが即座に支える。
何?尻は触ったのかって?ンなわけねぇだろ!!俺は小室坊と違ってピュア且つノーマルスケベなんだよ!!ラッキーなんざ起こるわけ無いだろ!!







「オーケー、俺はこの背中の感触を一生忘れないだろう」

下の階に来たは良いものの、既に鞠川先生は眠っている。
とりあえず酒とかねぇかなーと思いつつも鞠川先生を背負って歩き回る俺。

「…何やってんの、石井君」
「ああん?酒とかねぇかなーって…何だ、宮本嬢か。そんな薄着でどうした?アレか?小室坊へのアプローチか?」
「んなッ…!!」

ウロウロしていたところに声を掛けてきたのは宮本嬢。随分と薄着――鞠川先生には負けるが――での登場だったので、思わず本音を漏らす。
狼狽しているが図星なのか、それとも想定外の言葉だったからなのか。
どっちでもいいけど。

「小室坊たちなら上に居るぞ。一応ヒラ坊も居るから気をつけろよ」
「何に対してよ!!まったく…ホント、頼りになるときとそうでないときの差が激しいわね」

そういう性分なもんでね、と短く告げる。そんな俺の横を素通りして行く宮本嬢だが、脚がふらついているようだ。
コレはもしや…と思った矢先、上の階から、

『わー!!たかしがさんにんいる!!』
『はぁい!?』
『いきなりふえたぁ!!』

と言う声が聞こえてきた。もしかして風呂に入った女性陣、全員酔ってるとかじゃ無いだろうな。
もしそうなら、そうなら…。
頬を赤く染めた、薄着の女性陣―――!!

「イケル!!全然オッケーじゃね!?」

あっるぇー!?全然良くねぇか!?と考えていたところで、半ば無理やり上げていたテンションを低下させる。
応接間と思われる場所に鞠川先生を寝かせ、シーツを被せる。風邪なんぞ引いてもらっちゃあ、困るし。先客として高城嬢が居たが、此方は既に眠っている。
煙管を取り出し、口に咥える。最近、随分とコレを吸う回数も多くなった気がする。
口に爽やかなミントの風味を吸い込み、吐き出しながら呟く。

「…適応してきてはいる、けれど堂々と耐え切れるほどのものでも無い、か。そりゃあ酒でも飲んで、思考回路放り出したくもなるわなぁ」

辛い事に、代わりは無い。
頼るものも無く、親の安否も不明、そんな状態で辿り着いた安心して休める場所。きっと其処で、色々なものが爆発したのだろう。
小室坊たちは変質が早かったのか知らないが、あまり『弱さ』を露呈しない。
それでも、思うところはあるだろう。

(マトモなのは俺ぐらいか?俺の場合、前提条件が異常なわけだが)

戦場を渡り歩いた傭兵、『何処かの誰か(ジョン・スミス)』。己の『息子』とも言える『仲間』を庇い、その仲間に看取られ死んだ男。
クソッタレなことも多い人生だったが、最後に良い事があったのだから良しとしよう。
ソイツが何の因果か、今は日本の学生だ。
異常であるが故に、異常に対して違和感無く受け入れられる。
寧ろこの状態に近いような場所ばかりを渡り歩いてきたのだから、本来はなりを潜めていた己の本性が露呈しただけで何も変わっちゃいない。

「…難儀なこったね、まったく」

とりあえず、腹に入るものでも作るか。
乾パンやらレーションなどはナップザックの中に入っているが、やはりマトモなものを食いたいというのは贅沢を知る人間の性。
冷蔵庫まで赴き、何か無いかと漁る。
その時だ。

「―――何だ、石井君か」
「…あん?その声は毒島じょ…」
「もうすぐ、夜食が出来る。明日のお弁当もな」

思わず、声のするほうに視線を向けてしまった。
ソレが良い事なのか、悪い事なのかと聞かれれば判断に迷う。
何せ、無言のままに鼻血がボタボタと垂れてきているし、硬直した際に冷蔵庫を開けっ放しにしているのだから。
唯、眼前にある物を言葉にするのならば。









「――――――――――漢の、ロマン―――――――――ッ!!」









輝かんばかりの肌色と白、そして申し訳程度の黒が艶めかしい肢体を覆う。
ようは、裸エプロン。初めてやらかした人物は、天才だと思う。
尚、コレは通常のエプロンでは無くフリルのついたエプロンであってつまり何だ、あれだよ、ああいうのは、そう―――、

「―――新妻スタイルッ!!」
「どうした?」

どうした、じゃねーよおんどりゃあ。寧ろこっちが聞きたいぐらいだべらんめぇ。

「取り合えず拝み倒して宜しいでしょうか?」
「何を言ってるんだ君は」

合掌し、九十度の角度でお辞儀する俺に対し、困惑した声を上げる毒島嬢。いや、あまりの神々しさに思わず欠片も無い信仰心が目覚めてしまいまして。
この人を御神体として象れば、多分日本中の半数の男は拝み倒すと思う。或いは女性ですらも拝むかも知らんねコレは。
三流の行動であるにも関わらず、ジーッとその服装を見つめているとやっと気がついたのか自身の着用するエプロンに触れる毒島嬢。

「…ああ、もしかしてこの格好か?合うサイズのものが無くてな、洗濯が終わるまで誤魔化していたのだが…はしたなさ過ぎたようだな」
「そうですね胸を揺らすな俺のリビドーが蝶・エキサイティン!!して全身タイツを着用したくなる」

すまない、と謝辞を述べる毒島嬢ではあるがどっちかと言えば俺のほうが謝罪したほうがいいんじゃあねぇかなぁ、と思わなくも無い。
というか毒島嬢まで酒飲んでるってぇわけじゃ…無いみたいだな。
一先ず思考を切り替え、エロスを遮断。色即是空空即是色。

「…ったく、何時来るとも知らん<奴ら>への警戒は無いのか?」
「小室君と平野君が、警戒してくれている。評価すべき男には、絶対の信頼を与える事にしているのだ、私は」
「然様で」

その原理で言うと、今の中に名前が入って無い俺は評価に値しないって事だよなーと思うが、まぁそれもそうかと思う。
あんな場所でどうでもいい事にプッツン来て暴れまわる醜態見せるような男、評価に値するわきゃ無いよなぁ。ちと寂しくも思うが、仕方が無い。

「軽く気落ちしているようだが、私は君も評価しているぞ?」

え?何故に?という疑問が顔に出ていたのか、毒島嬢は煮物の火加減を見つつも俺に対する評価を述べていく。

「君は、何時も周囲を見ている」
「…ふむ」
「周囲の緩衝材となり、有事のときに備えた作戦を立て、危険な場所に立つ。縁の下の力持ち、とでも言うのだろうな」
「そりゃあ当たり前だろ。現状、喧嘩やらで不和を生んでも意味は無いし、最悪の事態を想定してそうなら無いように頑張る、武器らしい武器持ってるのは俺だけ。評価するレベルにゃあ、入らんと思うのだがね」

頭をカリカリと引っ掻きながら言えば、心底可笑しそうに毒島嬢が笑っている。馬鹿にされているわけではないのだろうが、釈然としない。

「フフッ、いや、すまない。そういう事を無意識に出来る時点で、私は凄いと思う」
「そーいうもんかね?」

考えてみれば昔、マルスやペーターに『隊長は自己評価が低すぎる!!』とか言われたような気がするが俺ほど自画自賛するような奴も居ないと思う。
カートのときとか、滅茶苦茶「俺Sugeeeeeeeeeee!!」みたいなテンションだった覚えがある。

「それに…」
「それに?」
「―――君だけだ、未だ平静を保っているのは」

言葉が、途絶える。ぐつぐつと煮物を煮込む音だけが響くばかり。
溜息を一つ吐き、此方から言葉を発する。

「…気付いてたのか、お前さんも」
「まぁ、少しだけだがな。皆、少しずつこの世界に適応してきている。他者を傷つけることに対して、然したる忌避を覚えなくなってきているのだ」
「そうさなぁ」

ロッカーを開け、銃について語っていたときの小室坊たちはその最たる例だろう。
人を撃たなければならないかも知れない、という事実があっても深く絶望したような表情も無く、寧ろ何処か好戦的な笑みすらも浮かべていた。
しかし。
彼らの変質は分かり易いが、しかして今の俺を平静と判断するのは何処なのか。
その理由を、問う。

「なぁ、毒島嬢よ」
「何だ?」
「――――何で、俺を平静だと思った?俺とてお前さんらと同じく<奴ら>を斬る事に迷いは無いし、他者を傷つけることに忌避を覚えるほど甘っちょろい精神してねぇぞ?」

そう問えば、毒島嬢は一度軽く俯き、しかしすぐさま顔を此方に向けて言った。

「半ば、勘に近いものだ」
「勘、か」

ああ、と毒島嬢は短く返す。
勘というのは中々に侮れないもので、存外に良く当たる。

「勘なら仕方ねぇやな」
「納得するのか、それで」
「嘘を言っても得は無い、言われたとしても興味が無い。そういう事だ」
「…豪気だな、君は」
「元より評価を聞きたかったわけじゃあ無いからな。聞いたところで『ああ、そういう評価か』程度にしか思わない。他人の評価で一々テンション上げ下げしてたら、身がもたねぇよ。俺たちは生き残り、逃げ延びるためにこうして英気養ってんだろ?それなら、此処でテンション上下して不安定な精神状態になるなら無駄な思考は捨てて置くって話だ」

そう言って煙管を咥えようとしたが、止めた。
特に吸いたい理由があるわけでも無いし、今は吸う必要も無いだろうと思い直しただけだ。
段々、話し終えた後にコレを吸うのが癖になって来ているのかも知れない。
そんな俺を見ながら、毒島嬢が言う。

「本当にぶれないな、君は。生き残る為に、尽力するところ姿勢が」
「そりゃお前さんらも同じだろ」
「………そう、だな」

少々、毒島嬢の言葉の歯切れが悪かった。
―――あの『笑み』と関連があるのだろう、と推測するが今はまだ聞かなくていい。或いは彼女が話してくれる時期を待てばいい。
現状、困る事など無いのだから。

「…毒島嬢」
「何だ?石井く…ん?」
「眼福と同時に眼の毒だ。俺の制服着といてくれ」

上着を脱いで、手渡す。自前のナイフはポケットに仕舞い込む。
ちなみに俺が制服の下に着ているのはアンダーアーマーと呼ばれるインナースーツだ。身体のラインがかなり浮き出るものだがその分動き易く、傭兵時代もジャケットの下に着ていた。
それにしても、毒島嬢がポカーンとしているがどうしたのやら。

「どうしたー毒島嬢ー。…ハッ!?アレか、俺の着た制服なんて汗臭くて着れないってか!?」
「え?あ、いや!違う!そうではなくてだな!!」
「んじゃ、どうしたよ」
「想像以上の体つきをしていたものだからつい、な」

筋肉フェチだったりするのか、このお嬢さんは。
一応、無駄は出来るだけ削ぎ落とすよう気を使ってトレーニングしたせいでムキムキには見えないものの肉体の強靭さは中々のものだと自分でも思う。
近接武器を振るうには、丁度良い。
そう考え、不意に視線を毒島嬢に戻すが…。

「―――オウフ、破壊力倍じゃねぇか」

さっきまで止まっていた鼻血が、また流れ始めた。
裸エプロンに若干丈の長い男子制服を着る大和撫子風女子高生…属性詰め込みすぎじゃね?
俺が鼻を押さえていると、毒島嬢が何度目かの微笑を漏らす。

「……君は、本当に不思議な男だな。頼りになると思えば、今のように情け無い姿を晒すこともある。どちらが、君の本質なのやら」
「そう言われても、俺は最初からこういうスタンスで来てると思うんだが?」

俺がそう返せば、やはり君は変わっていないのだな。と返す毒島嬢。女性への耐性がメッキ程度に出来た事は変わったに入らないのだろうか。

「ま…あれだ、今更過ぎるんだが…手伝う事あるか?毒島嬢」
「いや、大丈夫だ。というか、君は料理ができたのか?」
「まぁ一応な。大したもんは出来んが、肉じゃがやらオーソドックスなもんは大抵出来る」

コレは自分が『何処かの誰か』であった時代にも料理をしていたことにも由来するが、石井・和として生を受けてからは更にレパートリーは増えた。一般的な料理ならば、一通り作る事が出来る。

「そうだったか…」
「そうだったのさね。んじゃ、手伝う事が無いなら俺は上に戻るかね。評価を上げてもらうためにも」
「ああ、そうしてくれると助かる―――ああ、それと」
「ん?」
「これからは、冴子と。そう呼んでくれ」
「―――――」

――――あまりにも。そう、それはあまりにも唐突な言葉で――――

「了解した、さっちゃん」
「…あまり了解していないようだが」

とりあえず、冗談をかましておいた。
苦笑する様も美しいとは、美人とは本当に得なものだなと、そう思った。









ベランダへと出た俺だが、双眼鏡を覗き鼻の下を伸ばしながら鼻血を垂らすメタボが居た。
初見の人が見たら間違いなく通報されるレベルである。

「…えへぇへへ…」
「ヒラ坊、鼻血鼻血」
「うおっ!?ど、同士・石井か…何時の間に…」
「ついさっきだ。階段でイチャこいてる男女二人組を無視して此処まで上がってきた。それと何回でも言うが同士じゃねぇ」

あー、あの二人かぁ。と呟くヒラ坊の横で、周囲を見渡す。
相変わらず意味の無いうめき声を上げながら夜の街を徘徊する<奴ら>。
果たして<奴ら>を動かす原動力とは、何であるのか。

「分からんなぁ…」
「何が?」
「<奴ら>を動かす『モノ』。ウィルスなのか、はたまた呪術的なもんなのか」
「そんな、呪術なんて非科学的な…て、<奴ら>に科学を当てはめても意味は無いね…」

そう言う事、と返しながら思考を回す。
現代科学では不可能な事象、かといって近未来の科学でどうにかできるのかと言われると知らんとしか答えられない。俺は研究者では無く元傭兵であり、現学生。そんな死者を動かすプロセスがどうこうと分かる立場ではない。
ならば、非現実的な考え方ではあるが呪術などが働いていると考えるのも仕方の無いことではなかろうか。
意識を周囲に向けながらそんな事を考えていると、異常が目に付いた。

「…ん?」

何やら、御別橋の上が騒がしい。暫くの間は静寂を取り戻していたため、嫌でも注意を引く。
耳を澄ませば聞こえてくるこの音は、重機か何かの駆動音だろうか。

「ヒラ坊、双眼鏡貸してくれ」
「え?あ、うん。ほら」
「サンキュ」

双眼鏡を構え、御別橋の上を確認する。
其処には。

「――――オイオイ、マジか」
「どうしたの、石井」
「警察隊の奴ら、トンでもねぇ事を思いつきやがる」

見てみろ、とヒラ坊に双眼鏡を渡す。
その光景を見たヒラ坊も、息を呑んでいるようだ。
今、橋の上で起こっている事は。

「ブルドーザーによる、生者も死者も関係ない駆除作業…てか」

車を撥ね飛ばし、<奴ら>を撥ね飛ばすドーザー。生きている者も、何人か巻き込まれつつあることを隣のヒラ坊が教えてくれる。

「そんだけ、切羽詰ってるってぇ事でも、あるか」

平和、沈静化の為とは言えあまりにも非人道的な手段だ。或いは、責任に耐え切れなくなった自殺者も出るかも知れん現状だな、と思う。
そう考えているとき、下から何かが聞こえてきた。

「…犬?」

ハンヴィーのすぐ下辺りに、白い点のようなものが在る。
ワンキャン吠え立てる子犬が、視線を下げた直ぐ其処に居る…ということは。

「ヒラ坊」
「分かってる」

静かに、しかし迅速にベランダに立てかけてあった銃を手に取るヒラ坊。逆に俺はベランダから離脱し玄関先へと向かう。その途中、小室坊とすれ違ったがそれはどうでも良いことだ。
玄関に脱いできた靴を持ち、すぐさままた上の階へと上っていく。

「…まっずいなコリャ」
「…まずいね」

ヒラ坊、小室坊と共に下を見る。
吠え立て続ける犬の声に釣られた<奴ら>が、山のように、其処に居た。


~あとがき~
エッロース、エッロースの巻で御座った。
結局石井君が色々と変な方向にぶっ飛んだけど気にしないで下さい。
さぁーて次回はワンコロとヨウジョの巻。
そしてアンケートでぃす。
①このままこのまま
②出直して来い!!
③俺、実はロリコンなんだぜ!?




[21147] 【習作】こんな○○だったら死にそうに無いかも知れない。【ヨウジョとワンコ】
Name: do◆579b2688 ID:d32f757b
Date: 2010/08/28 15:58
~注意~
・作者の文章力は一ミクロン。
・石井君が格好付けた!!
・正直注意文のネタがなくなってきている。
以上の事が許容できる方のみスクロールして下さい。
許容できない方はより素晴らしきSSを見つけるためフライハイして下さい。















―――眼を逸らさず、皆と一緒に真っ直ぐ進め。きっと、希望は見えるから。

「どうすんだよオイ、この現状」
「確かに、状況は悪化しているな」

目線を下げれば、<奴ら>とワンコ。
そしてその付近では<奴ら>と人が臨戦状態、恐らくこの家の明かりを頼りにやってきたのだろう。
あ、喰われた。
他のところも先ほど見回したが、明かりのある家には人が集まってきては<奴ら>の餌食と成っているようだ。
まぁそれよりも俺にとってまずい現状は―――――、

「さっちゃん、まだその格好か」
「そんな早く着替えられるわけ無いだろう?それと、さっちゃんはやめてくれ」

その格好をやめたらなーと言葉を吐きながら、視線を逸らし周囲を見渡す。
未だに冴子嬢の格好は裸エプロン新妻スタイル男子制服エディション、鼻血と息子がドーンとならぬように自制する俺のことも考えろチクショー。
しかし、真面目に酷い状況になってきたなこりゃ。
阿鼻叫喚の地獄絵図セカンドステージってところかね?

「チッ…チクショウ…!!酷すぎる!!」

先ほどの現状を知った小室坊が銃を手に部屋に戻ろうとする。
恐らくは、襲われている奴らを助けようと下に向かう気であるのだろう。
…しかして、不安定な精神だな小室坊よ。
スタンスが定まっていない、ということだろうか。

「小室!!」
「ッ!!何だよ!!」
「撃ってどうするつもりなの!?」

しかし部屋へと入ろうとする寸でのところで、ヒラ坊が引き止めた。
撃ってどうするつもり、正しくその通りだ。
…人を助けたところで、利点は無い。
寧ろ銃声が<奴ら>を引き付け狙われ易くなるだけで明らかにマイナスのほうが大きい。
他者を助ける、という心がけは平時であるなら美徳となるであろう。
しかし現状でソレを成すのは周囲の仲間を危険に巻き込むことに他ならない。

「決まってるだろ!!<奴ら>を撃って、みん「忘れたのか?<奴ら>は、音に反応するのだぞ?小室君」」

小室坊の言葉を遮り、冴子嬢が部屋の中へと入っていく。
そのままセンサー式のスイッチを指でなぞり、部屋の電気を落とす。

「そして」

カチャリとベランダのドアを開け部屋に入ろうとする小室坊のほうを振り返り、真剣な表情で言い放つ。

「生者は光と、我々の姿を目にし、群がってくる」

鋭く、理性的な眼光だ。
現実はそういうものなのだと、理解している眼。

「この状況下で比較的安全地帯に居るって事は、他者にとって何処までも羨ましい状況だからな。当然寄って来るさ」

ベランダのほうからゆっくりと部屋の中へ入って行きながら、冴子嬢の言葉に継いで言う。
冴子嬢の手前辺りで動きを止め、小室坊のほうを振り返る。
小室坊よ、と一つ前置きをし口を開く。
戒めの言葉を紡ぐために。

「俺たちはな、神でも仏でも無いんだよ。全ての者を救える存在では無く、どこまでも泥臭く、無様に生へとしがみ付く人間だ。…出来る事を出来るだけ、お前さんが言った言葉だ。俺は、それをいい言葉だと思ってる」

けどな、と否定の意を口にし睨みつける。

「出来る事と無茶を履き違えるな。今お前のやろうとしていることは単なる蛮勇だ。己の命のみならず、他者の命まで危険にさらす愚行と言える」
「何だと!?」
「――――じゃあお前さん、俺たちを全員護れるか?お前の行動によって引き起こされたあらゆる困難から俺たちを、自分の手だけで護り通せるか?」
「ッ!!…そ、それは…」

食って掛かる小室坊を、冷たく突き放す。
意地の悪い事だ、と自分でも思う。
―――護ることなど、不可能に決まっている。
そもそも困難というのは対抗策があるからこそ乗り越えられるものなのだ。
対抗策も無いまま突撃するのは無謀の極み、蛮勇である。
しかしこの異常事態で結果が分かる行動など限られる。
生者を助けたとて、果たして常人であるのか狂人であるのか、何も出来ない愚者かも分からない。
その結果、誰かが傷つくのかすら分からない。
故に。

「慣れろ。それしか、無い」

冴子嬢から双眼鏡を受け取り、小室坊へと差し出す。
出来る事ならば、こんな事は言いたくは無い。
戦争も、殺し合いも、本来ならば国の軍人やクソッタレな傭兵の仕事なのだ。
未来ある若者にそんな事はさせたくは無いし、慣れさせたくも無い。
だが、そうしなければ生きていけない時なのだ。

「…慣れろ、小室・孝。生き残りたければ、大切なものを護りたければ、無残な屍を晒したくなければ、慣れろ」
「………」

無言のままゆっくりと差し出された手の上に双眼鏡を乗せる。
――――――――人間とは、無力なものだ。




           第七話   ~ロリとワンコと覚悟の巻~




部屋から立ち去ろうとする俺の背中に、小室坊の声が降りかかる。

「…石井は、目の前で誰かが死んでも平気なのかよ」
「――――平気じゃねぇさ。だが、必要なら容赦なく切り捨てる」

振り返らずに言葉を告げる。
軽蔑したきゃ軽蔑しとけ、とだけ言い残し逃げるように階段を降りて行く。
階段の中腹辺りで座り込み、頭を抱える。
…嫌だ嫌だ、何を格好付けてるんだ俺は。
テキトーに言えば良かったじゃないか、死なんように気をつけようぜとでも。
何をあんな上から目線で言ってるんだ俺は。

「っかぁ~~~!!…駄目だねぇ、俺」
「―――いや、そうでも無いさ」

あん?と後ろを振り返れば、冴子嬢が立っていた。
階段の高低差の問題で、黒い布がチラチラ見えて凄まじい眼福具合。
―――モロ、というのも中々だがやはりパンツはチラッと見えるところにロマンがあるのか。
かつて仲間が熱く討論していた事に対して深い感銘を受ける。

「君が言わなければ、私が言っていたところだ」
「…そうかい。お前さんが言ったほうが、良かったかも知らんがね」
「何故、そう思う?」
「お前さんのほうが、皆に頼りにされてるだろ?」

そういう人間が言ったほうが、説教ってのは利くもんだ。
俺みたいな奴が説教かましたところで「馬鹿が戯言言ってんぞー」となるのがオチ。
そんな俺の言葉に、成る程と一度頷く冴子嬢。
しかしすぐ優しげな表情を浮かべる。

「それでも、ありがとう」
「礼を言われるような事なんざ、した覚えはねぇよ」
「憎まれ役を買って出てくれただろう?」
「勝手に憎まれた設定にすんじゃねぇっての。それに小室坊が俺を憎むかも知らんが、お前さんを憎んだかは分からんだろうに」

どうだろうな、と肩を竦める冴子嬢。
…推測であるが、きっと誰が言おうとも小室坊は誰も憎まない。
あの少年は、やらなければならないことをしっかりとやれる人間だ。
誰が正しい事を言っているのかを、しっかりと理解できる賢い少年なのだ。
故に、心苦しい。
そんな人間を、悪鬼羅刹の道へと放り込まなければならない事が、心苦しい。

「…難儀なもんだなぁ、マジで」

懐から薬用煙管を取り出し、吸い込む。
爽やかなミントの風味が口の中に広がるが、何時もよりも不味く感じる。
心の靄が、晴れない。
相も変わらず身内に甘い精神だ、と自戒する。
周囲には『それがアンタの美徳なんだ』と言われてはいたが、戦場に立つ者の心構えとしてそういうのは如何なものだろうとも思う。

「はぁ…いざと言うときにと靴も上に上げたが、そういやコレもう使いもんにならんのだよなぁ」

ぶらりと目の前に吊り上げるのは、底が磨り減りすぎて使い物にならない靴。
先走る事があったら、上から跳んでも大丈夫なようにと持ってきたものの結局使わずじまいで良かった。
もしコレで跳んでいたら、足裏の衝撃が凄まじかったであろう。
―――確か、靴箱に男性用のブーツがあった気がする。
何でだろうなぁと思いつつも、家を出るときは拝借させてもらう事にしようと決める。
ふと視線を逸らせば、何時の間にか同じ位置まで来ていた冴子嬢が俺の顔をジッと見ていた。
いや、コレは俺の顔と言うより…。

「…煙管が気になるのか?」
「え?あ、ああ、その、何時も吸っているが煙も出ないしどんなものなのかと…」

わたわたと慌てる冴子嬢に、ククッと笑みが漏れる。
こんな少女らしい一面もしっかりと持ち合わせていたのか、この女傑は。
薬用煙管だよ、と説明すれば首を傾ける冴子嬢。

「煙草の代わりに、ミントやらハーブやらが突っ込んであるのさね。俺はコイツが好きでね…吸うかい?」
「…いや、遠慮しておこう」

然様で、とだけ返し座り込んでいた段差から立ち上がる。
そのまま下に向かえば、高城嬢と鞠川先生は未だ夢の中であるようだ。
のん気というか図太いというか。
…それだけ疲れが溜まっていたのだろうなぁ、この二人は。
非戦闘員であるからこそ、襲われたら大した抵抗も出来ないという不安は如何程のものか。
既に他者を殺す術を知り無手でも数匹ならば<奴ら>を屠れる自信がある俺には、よく分からないものだが計り知れないレベルなのだろう。
二人の寝顔に少しばかり頬を緩ませながらも玄関先まで歩き、ブーツの有無を確認する。
…よし、しっかりとある。
この大きさならば問題は無いだろうと思うと同時に、こんな風に無防備な配置をしていて良いのだろうかとも思うが、武器とは違うだろうにと考えを改める。
その時だ。

バシュン!!と。

銃撃の音が聞こえた。
―――どうやら、やってしまったらしい。
音から判断するに、狙撃に適した銃を使用したのだろう。
だとすれば、ヒラ坊か。
はぁ、と言う溜息を吐くと共に何故か安堵する気持ちがある。
それはきっと、彼らがまだ『普通』の範疇にいてくれたからであろう。
自分からソレを捨てろ、そんなものは既に無いと言い続けていた癖に現金なものだと苦笑する。

「やれやれ…仕方のねぇ坊主だことで」

ブーツに制服を裾を突っ込み、靴紐を縛る。
シャキン、と刃を露呈させる。
ついでにロッカーの隅っこで発見したアーミーナイフをベルトに付けてある鞘から抜き取る。
ぼふりと後ろから何かが掛かってきたので後ろを見れば、冴子嬢。

「制服だ…行くのだろう?」
「行かにゃなるめぇよ。…馬鹿の後始末は、俺の仕事だ」

二人して静かに笑いあう。
最近、こういう事が多いように思える。
上から降りてくる音に眼を向ければ、小室坊と宮本嬢が居た。

「小さな子を助けに行って来る」
「だ、だったら私も一緒に…」
「いや、玄関で見張っててくれ。向こうへはバイクで乗り込む」
「でも…」

おーおーおー、お暑いことで。
青春真っ盛りと言うか何と言うか、死地に赴く夫を見送る嫁さんの図、てか?

「行かせてやれ。男子の一存なのだ」

冴子嬢が言い放った。
ホント、昔ながらの大和撫子ってぇ奴かいこのお嬢さんは。
冴子嬢に礼を言いながら、小室坊が此方に眼を向け少し笑う。

「容赦なく切り捨てる、だったか?」
「カッカッカ!!なぁに、馬鹿が馬鹿をやったのならばその尻拭いが俺の役。一人じゃなくて皆でやれば、生きる確率もあがるってぇもんだ」
「…ハハッ、じゃあ尻拭いは頼むぜ、石井」
「任せときな」

ゴツン、と拳を突き合わせる。
…良い顔つきだ、自分のスタンスを定めたか。
そんな一昔の友情の深め方をしていれば、冴子嬢が景気付けとばかりに木刀を自在に振り回し、最後に振り下ろす。

「此処は何が何でも護りきる。安心して行ってこい!!」
「…頼りになる姉御だことで」

この分なら間違いなく大丈夫だな、と思い苦笑をもらす。
小室坊も電気を消しつつ、苦笑しているようだ。

「孝」
「ん?」

そんな小室坊の元へと歩み寄る宮本嬢。
オイオイオイ、何だ何だ何だ?出掛けのキスとかする気か?
死亡フラグじゃねぇだろうな?
…立ったところで、叩き折って見せるがね。

「これぐらいは持っていって」

そう言って差し出されたのは、あの拳銃。
スミス&ウェッソンM37エアウェイト。
何時の間にヒラ坊から取ってきたんだとも思うが、今聞くのはマナー違反だな。
拳銃を受け取った小室坊の手を、自分の両手で包み込む宮本嬢。
見詰め合う二人。

こいつ等、何で付き合って無いんだろう。

あーでも高城嬢が邪魔したりしてんのかね?と思考を巡らせる。
激しくどうでも良い事だが。

「そら、眼と眼があーうー何てラブロマンスやってねぇでとっとと行くぞ小室坊」
「うぇっ!?あ、いや、そういうんじゃなくてだな!?」

あーそーですかいと適当に流しつつ、ドアを開け放つ。
さて、化け物退治といたしましょうか。






『銃を過信するな。撃てば<奴ら>は群がってくる』
『どの道、バイクで音が出ますよ』
『そうだ。しかし、バイクは動くために音を出すのだ。だが銃声が轟くとき、君は動いていない……と言っても、そのフォローをしてくれる鬼神が傍に居るがな』
『オイオイ俺は鬼扱いかよ。せめてセガール扱いしてくれ』

更に凄まじくないかソレ?と小室坊がツッコミを入れるが無視をする。
家を出る直前、交わされた言葉だ。
小室坊の後ろに乗り込み、両脚で思い切り車体を挟み込む。
前方の小室坊も、ドライバーグローブを嵌めて準備万端なようす。
こちらは、出撃準備完了だ。

「孝」

宮本嬢の言葉に、小室坊がバイクのハンドルへと手を掛ける。
冴子嬢は後ろの俺へと声を掛けようとしていたようだが、大丈夫だとサムズアップで答えを返せば肩を竦める動きが返って来た。
愚問だったな、という意味だろうか。
ライトで照らされた前方の女子二人が頷きあい、道を空ける。
小室坊が、エンジンをかける。
恐らくこの音で、<奴ら>は寄って来るだろう。

「…何時でもいいぜ?小室坊」

俺のその言葉を引き金として、アクセルが踏まれた。
同時にドアが開け放たれ、<奴ら>の姿が露となる。
だが、それを飛び越えるようにバイクを跳躍させる小室坊。

「おおぅ!!やっぱお前、天性のドライビングセンスとかそういうもん持ってるぞコレ!!」
「かもな!!」

俺の軽口に、小室坊も同意を返す。
前方に広がっていた<奴ら>の群れを飛び越え、空いている場所に着地。
ドリフトをかけ耳障りな音を立てながらも、車体は正常な位置へと戻る。

「横から来るのは俺に任せとけ!!お前さんは運転にだけ集中しろ…よっ!!」
「おう!!」

行ってる傍から突っ込んでくる<奴ら>の首を刎ね、蹴り飛ばす。
とは言え。

「カカッ!!スゲェなオイ小室坊!!避けまくりじゃねぇか!!」
「お前も、負担は少ないほうが良いだろ!!」
「確かになぁ!!」

ほとんどの敵は、小室坊が避けて通っている。
右に左に揺れながら、完璧なまでに<奴ら>の隙間を縫って動いている。
見事、としか言いようが無い。
そして。

「おーおーおー!!ヒラ坊も頑張ってんじゃねぇのよ!!」

背後からの、援護射撃。
次々に眼前の<奴ら>が倒れていき、道を作る。

「快適なドライブだなぁええ!?」
「まったくだ!!」

そうしているうちに、眼前に明かりのついた民家が見えてきた。

「小室坊!!あそこか!?」
「ああ!!」
「よっしゃ!!」

目的地は、既に眼と鼻の先。
眼前に立ちふさがる一匹の<奴ら>を小室坊がドリフトで撥ね飛ばし、俺自身はバイクの上から上空へ跳躍する。

「闇夜の中からこんにちわぁ!!」

吼えながら、落ちていく。
近隣に居た一匹の<奴ら>の頭を、着地の勢いで押し潰す。
視線を横に向ければ、倒れた<奴ら>に引っかかって転んだらしい小室坊の姿。
―――もう、バイクは使い物にならんかも分からんね。

「ってぇ…おい石井!!行き成り跳ぶな!!」
「ああ!?今のは俺のせいじゃあ無かろうよ!!」
「それでもだ!!」

視線は<奴ら>から逸らさず、二本のナイフを構えながらの言葉の応酬。
小室坊が立ち上がるのを待ちつつ、警戒を怠らない。

「ワンッ!!ワンッ!!」
「ッ!!」

不意に聞こえた鳴き声に、身体を振り向かせる。
<奴ら>が二匹、犬と少女―――いやさ幼女か?―――へと向かっていく様が見える。
小室坊もバールを手に其方へ向かおうとしているようだが。

「小室坊!!他の方向警戒しとけ!!」

二本のナイフのうちアーミーナイフのほうを投げ付け、<奴ら>の頭部へと突き刺す。
それを確認したであろう小室坊は、すぐさま別の<奴ら>へと意識を向ける。
地面を蹴りつけながら<奴ら>の頭部に刺さったナイフを抉るように抜き去り、同じように近寄っていた<奴ら>を蹴り飛ばす。
蹴り飛ばした<奴ら>の頭部を、即座に飛んできた銃弾が打ち抜く。

「―――ハッ!マルスレベルじゃぁねぇが、天才だな!!」

同じように、俺を後ろから襲おうとしていた<奴ら>の頭も打ちぬかれる。
お見事、と口の中で呟きながら犬と幼女のほうを見る。
恐ろしさに眼を瞑り、涙をこぼして震えるその子を。

「…もう、大丈夫だ」

抱きしめてやった。
大丈夫、大丈夫だと何度も繰り返し、制服をかけてやる。
ポンポンと数回頭に手を乗せ、<奴ら>の方へと振り向く。
背を向けながら、言う。

「少しばかり、そのワンコと一緒に待ってな」
「え…」
「すぐ、助けてやるから」

眼前まで来た<奴ら>に踵落としを叩き込みながら、踏み潰す。
突き刺し、抉り、刎ねる。
近づいてくる<奴ら>を冷静に、丁寧に処理する。

「来いよ、糞虫ども。―――――餓鬼を泣かせた罪は、重いぞ?」

鮮血乱舞で肉が飛ぶ。
バールが抉り、ナイフが切り裂き、銃弾が頭部を穿つ。
時折脚で頭部を破壊する。
前方の<奴ら>を切り倒した直後に、小室坊から声が掛かる。

「石井!!頭下げてろ!!」
「了解ッ!!」

素直に頭部を下げれば、頭上をバールが通り過ぎ背後でグチャリと音がする。
お返しとばかりに両サイドから小室坊に襲い掛かる<奴ら>の顎をナイフで突き刺しつつ立ち上がり、抜き去る。
眼だけで互いに礼をかわす。
当然、その間にも襲い掛かる<奴ら>は存在するがそんなものは。
バシュンと。

「脳漿ぶちまけお陀仏と」

ヒラ坊の援護射撃を喰らい、即座に倒れ伏す。
だが。

「ッ!!小室坊!!」
「お兄ちゃん、後ろ!!」

小室坊の後ろから、<奴ら>が来ていた。
当の小室坊といえば咄嗟に拳銃を引き抜き、<奴ら>の口へと突っ込み。
引き金を引いた。
倒れ伏す<奴ら>に安堵すると同時に、注意を促す。

「はぁ…ったく、咄嗟とは言え口ン中突っ込むとか何考えてんだお前さん。歯で傷が出来たら、お前も<奴ら>になっちまうかも知れんのだぞ?」
「わ、悪い悪い…咄嗟の事で…」
「しょうがねぇ…と、そこのお嬢ちゃんに礼言っとけ。あの子が『後ろ』って言ったから即座に反応が出来たんだろ?」

あ、と気がついたように小室坊が声を出し、ありがとうと声を掛ける。
そんなそんなと遠慮するように彼女は手を振るが、大手柄だ。

「さて、とっとと戻るとしようや。さっきの音で、また遠くから<奴ら>に出張されたら困る。それに」

―――こんだけ派手に暴れたんだ。何時までもあの部屋に留まってたら、何されるかも分からん。
生者にも、<奴ら>にも。
そういった意味を込めて、言葉を放った。
起きているのならば高城嬢辺りもそういう想像をしているやも知らんな。
俺の提案に、小室坊が頷いた。
とはいえ、バイクが壊れた以上移動手段が無い。
―――――――それに、あの子を見捨てるわけにもいかんしなぁ。
助けてしまったのならば、それに責任を持つべきだ。
助けてハイさようなら、というのは『助けた者』としてやってはいけない一例だ。
では。

「…迎えに来てくれる事を、祈るしか無いわなぁ」
「…お前、あんだけカッコいい事言っといて解決策は無いのかよ…」
「ああ?!お前、俺を青い狸と一緒にしてんじゃねぇだろうな!?」

いや、そうじゃないけどさ…と若干引き気味で言葉を濁す小室坊。
相変わらずのコントをやっていると、下から聞こえてくる声がある。

「お兄ちゃん、おじさん…」
「…おじさん?え?俺?」
「そうじゃないか?」

オイオイ俺どんだけ老け顔に見られてんだよぉぉぉぉ!!と軽い絶望を覚えつつ、彼女の見ている方向に視線を移せば。

「…パパ、死んじゃったの…?」
「………」

小室坊が声も出せず、その光景を見ている。
―――そりゃあ、そうか。俺とて、何と答えるべきやらと考えているところだ。
だが、先に動いたのは小室坊だった。

「お兄ちゃん?」
「小室坊…」

洗濯物であろうワイシャツを取り、付近に咲いていた花を摘む。
…ああ、そうか。
小室坊が、ワイシャツを顔布や布団代わりにかける。
そして花を彼女の眼前に差し出し、言う。

「君を護ろうとして死んだんだ。…立派なパパだ」
「…嬢ちゃん。お前さんは、誇っていい。お前さんのパパは、最後の最後まで、お前さんの親だった」

頭を撫でながら、言ってやる。
そして己が娘を護るために死んだのであろう立派な父親の亡骸に手を合わせ、南無三と唱える。
横を見れば、彼女の目に涙が溜まり始めていた。

「―――小室坊、後、頼む。俺は門前の警戒、してくるから」
「…ああ、分かった」

背後から、泣き声が聞こえてくる。
――――餓鬼が泣いてる世の中なんざ、糞だ。
喧嘩で泣くのならば、いいだろう。
ペットが死んで泣くのも、いいだろう。
だが。

「親が殺されて泣く世の中なんざ、あっちゃならねぇだろうが―――ッ!!」

憤怒が身を焦がす。
ああそうだ、あの人たちもそうだった。
子供が泣かない世の中を作りたくて、傭兵という職業になったのだと。
俺は、その姿を見て傭兵になったのだ。
誰かが泣いている姿は見たくないと、己と同じように親の居ない子供など見たくは無いと。
そう、思っていたのに。
叫びにすらならぬ怨嗟の声は、音も無く夜の闇へと吸い込まれていった。






「手榴弾打ち込みてぇ」
「行き成り何言ってんだ、石井」

集まりすぎた<奴ら>の侵入を防ぐ柵が、ガシャガシャと音を立てている。
あーもー、一気にこいつ等を爆散させてやりてぇなぁチクショウ。
呻き声もうざったいし。

「綱渡りってぇレベルじゃねぇだろ、コレ」
「落ちたら即死、だからな…」

トランポリンとか安全装置とか全くねぇからなーと思いつつワンコを抱きしめる。
小室坊には、あのお嬢ちゃんを持ってもらっている。
懐いてるみたいだし。

「道路じゃないところ、か。子供は目の付け所が違うねぇ」
「あ、相変わらず余裕だなお前…」
「カートに乗ったときと比べりゃこの程度。速度もゆっくりだし」

戦闘ヘリとかやっべぇぞーと頭の中で思いつつも口には出さない。
下には<奴ら>が群がっているが、これじゃあマジで地獄絵図だなオイ。
こんな絵面、無かったっけか。
俺たちが今渡っているのは、塀の上だ。
下に群がる<奴ら>の数は膨大で、ハンヴィーで突っ込んでも吹き飛ばしきれないだろう。
じゃあどうやって脱出する?と考えていたときに出たのがこの案だ。
提案したのは小室坊だが、元の発想は少女のものらしい。
だからどうしたと言う話だが。

「…おじさん、大丈夫?」
「大丈夫だ」
「怖くないの?」
「メッチャ怖い」
「子供を不安にさせるようなこと言うな!!」

後ろから聞こえるお嬢ちゃんの言葉に返答を返したら、怒られた。
ンな事言ってもよーと愚痴を零す。
幾らバランス感覚良くても怖いもんは怖いのである。
無理矢理隠してるけど、俺ホラーとかあんまし好きじゃあ無いのよ?
頭の中でそれを考えているとき、それが聞こえた。

「―――こ」
「…へ?」

いや、いや待て。
いやいやいやこの状況でソレは無いって。
漫画か何かじゃあるまいし。

「…オーケー、もう一度言ってくれお嬢ちゃん」












「おしっこ…」










「…どーすんだよコレ、どーすんだよコレッ」
「えーっと…我慢は?」

俺が小声で叫んでいると、背後の小室坊が彼女に質問した。
此処で問題だ。
①最近絶好調の石井君は名案を閃く。
②突然に<奴ら>が居なくなる。
③無理。現実は非常である。
個人的には凄く②を押したいところだが、どうだろう。

「えーっと…無理」

③だ。
答え③だコレ。
無理だってさアッハッハー。

「オイ小室坊、今の心境を表してみ?」
「世界がたった一日でぶち壊れてわけのわかんない連中と戦わなきゃいけなくてオマケに何かヒーロー染みたことまでさせられて「お兄ちゃん!!」背後ではおしっこ宣言て何でこんな目に遭って…」
「ハイよく出来ましたー」
「お兄ちゃん!!もう我慢できないよぉ!!」
「―――ぃよし、そこでしちゃいなさいな」
「…いいの?」
「お兄ちゃんが、全て許す」

良くない、良くは無いだろう。
彼には断じてそういう趣味は無いのだろう。
だが、背に腹は変えられぬ。
マルスがカレー粉を忘れた時のように。
マルスが飲料水を忘れた時もそうだ。
マルスがマルスがマルスがマルスが……。
チクショウ、全部マルスのせいだ。

「…小室坊…」
「…大丈夫だ。俺なら、大丈夫だから」
「…小室坊、コレは俺とお前、二人だけの秘密だ」
「…ありがとう」

何か変な感じで絆が深まりそうに成ったが、

何、気にすることは無い。

少し視線を向ければ、小室坊が百面相をしている。
最終的に、泣いた。
きらりと光る涙は、悲しみの証か。
馬鹿な考えをしていると、<奴ら>の手がブーツに乗った。

「―――邪魔だ」

即座に払いのけ、潰す。
この程度ならまだ何とかなる範疇だが、足首でも掴まれりゃお陀仏だ。

(ぬおぉぉ…何処まで行けば……お?)

絶望が身を支配しかけた瞬間、希望の音が聞こえた。
車の走行音。
それが、段々と此方に向かってくるのだ。
顔を向ければ、やはりソレは来た。

「小室坊!!」
「ああ!!」

顔を見合わせ顔を明るくさせる。
しかし、何と言うか、アレは―――――。

「シュールすぎんぞ、さっちゃん」
「は、裸エプロンで車の上に仁王立ちか…映画でもやりそうに無い展開だな」

事実は小説より奇なり、と言う言葉もあるが奇過ぎるだろ。
木刀持って裸エプロン新妻スタイル仁王立ち形態onハンヴィーって何なんだソレ、言葉にしてみるとスゲェカオスなんだけど。
そして、その下から狙撃銃を構えるヒラ坊が居る。
何ぞコレ。

「何ぞコレ」

うわー何かボーリングみたいに<奴ら>が吹っ飛ばされてんだけど何なんだろうこの展開。
学校でた当初はこんなんじゃなかったはずだぞ。
もっと切羽詰った状態だったはずだぞ。
もうコレ俺のジョークとか軽く超えた領域の高度なギャグとかそんなんじゃねぇの?
狂気への適応が斜め上に突っ走ったとでも言うのか?

『日本人は未来に生きている』

と言う言葉もあるが、それなのか?
未来に生きすぎだろう日本人。
あ、ドリフトかましてるせいでヒラ坊に冴子嬢の胸が直撃してる。
羨ましくいぞ。

「む、無茶苦茶やるな…」
「無茶苦茶ってか最早ギャグの領域だぞコレ」

と、ボーっとしてる場合じゃないわな。
トトトッと塀の上を駆け抜け、ジャンプする。
ハンヴィーの近くまで駆け寄り、ワンコをヒラ坊へと投げ渡す。

「ヒラ坊、パス」
「へ?うわぁ!?」
「わんっ!」

しっかりと渡った事を確認して後ろを向けば、何やら一人で無双してる女子が一人。
裸エプロンの美少女がゾンビを薙ぎ倒す…バカゲーとして売れるんではなかろうか。
取り合えず寄ってきた<奴ら>を蹴り飛ばす。

「孝!!早く!!」
「おら、嫁候補が呼んでるんだからとっとと行け」
「だからお前なぁ!!」

文句は一切受け付けませんーと言いつつ<奴ら>の元に切り込む。
木刀でバッタバッタと奴らを薙ぎ倒す冴子嬢。
寧ろお前が鬼神じゃ無いのかと小一時間。

「平野!!時間を稼いで!!」
「ヤボーール!!」

後ろから聞こえた大きな銃声は、ライオットでもぶっ放したのだろうか。
まぁ、何でもいいか。
あの銃声の大きさならば何匹か薙ぎ倒せるレベルの銃だろう。
<奴ら>を切り払いながらそう考えつつ、冴子嬢の近くへと立つ。
一匹の<奴ら>を蹴り飛ばす事で、複数の<奴ら>を薙ぎ倒し立つ空間を確保する。

「ヘーイ、随分とド派手な登場じゃねぇの」
「不服かな?」
「いんや、素敵に無敵だったぞさっちゃん」

だから、さっちゃんと呼ぶな!!と言いながらも<奴ら>を薙ぎ倒す冴子嬢。
ホンットに凄まじいなぁオイと思いつつも両のナイフで切り刻む事は止めない。
ナイフが二本あると楽でいい。
相手の動きが遅いから首も刎ね易い。
あと若干脆いのも踏み潰し易くてグッド。
ホラーは苦手だが、首刎ねて死ぬ相手ならば十分だ。

「ホント、同時に来なけりゃ雑魚なんだがねッ!!」

踵落とし。
そのまま<奴ら>の頭部を潰し、後ろへ下がる。
―――投げナイフも持ってくりゃ良かったなぁ。
あったのか知らんが。
ハンドガンでもいいが、ナイフのほうが扱いなれている。
何せ、最初に習った暗殺術は無手での殺し方だ。
武器も何も無い状態から始め、ナイフ、銃へと移っていった。
その中で最もしっくり来たのは、体術のからむナイフの扱いだった。
故に。

「ほい」

気軽に、首を刎ねる。
骨などの位置を大よそ把握し、切断に困らない部分をたたっきる。
コレで即死してくれるからやり易い。
もし首を刎ねても死なないような化け物だったらお手上げだった。
その後も、近場の<奴ら>から破壊していく。

首を刎ねる。

頭を抉る。

或いは潰す。

的確に『即死する場所』を狙いつつ、じりじりと下がっていく。
知らず、視界が開けていた。
ひしめいていた<奴ら>も少なくなってきたし、潮時か。

「さて、そろそろ撤退するかい」
「そうだな」

眼前の視界が開けるぐらいのところで、冴子嬢に言葉を投げる。
下がりながら塀の上を見てみれば、小室坊とワンコ。

「小室君!!」
「孝!!」
「小室!!」

鞠川先生、宮本嬢、高城嬢の順に小室を呼ぶ。
オイコラヒラ坊、テメェさっきから羨ましい位置に居るじゃねぇか。
変わってくれ頼むから。

「お兄ちゃんのお友達!?」

小室坊の背中に乗っている子が、何処か楽しそうに声を出す。
まぁ、こんな無双やってたら愉快な気分にもなるわな。

「ああ…」

小室坊が、眼を見開きながら口角を吊り上げて言う。

「大事な、友達だよ!!」

――――嬉しい事、言ってくれるじゃねぇか。

そしてヒラ坊テメェはいい加減にしろおんどりゃあ。
飛び乗った冴子嬢のケツが当たって鼻血吹くのは分かるが幸せ祭ですかドチクショー。
冴子嬢が髪の毛をかきあげながら、小室坊に向かって言う。

「川向こう行きの最終便だ。乗るかね?」
「――――もちろん!!」

小室坊が、大きく跳躍する。
人一人乗っけているというのに、随分な跳躍力だことで。
着地し、ハンヴィーへと乗り込む小室坊。
まだ寄って来る手近な<奴ら>を蹴り飛ばしつつ、笑う。
自分でもどうかしていると思うが、この現状が楽しい。
―――ああそうさ、皆でやりゃあいいんだよ。皆で。
カッカッカ、と笑っていれば白く透き通った肌が視界に写る。
うん?とその方向へと眼を移せば、冴子嬢。

「―――君も、乗るかね?」

クカッ、と笑いを漏らす。
そんなもん、答えは決まってんだろうに。

「―――――――――――乗らないわけが、あるまいよ!!」



~あとがき~
石井君と毒島先輩の間にフラグのようなものが立っているのかどうなのかの巻。
そしてギャグが楽しい。
でも、今回って登場シーンがそもそもギャグだよねと言いたい。
『石井君がありす運べばよくね?』とか言っちゃ駄目。小室君に『友達』宣言させたかっただけとか、そういうんじゃないからね?!勘違いしないでよね?!
そんでもってレッツ、アンケート
①このまま行こうぜ!!
②いい加減石井死にかけろ
③尻だ!!もっと尻を出せ!!




~おんまけ~
「要救助者、確保!!」
「先生!!」
「はいはーい!」

ヒラ坊の宣言を聞いた高城嬢が、鞠川先生に出発を指示する。
ソレに対して軽く返事をする鞠川先生。
…相当、この狂気に馴染んできてやがるなこの集団。
ただその方向が色々とぶっ飛んでいる気がしないでも無いんだが、どうよ。
そんな事を考えていれば、車が急発進した。

「おおっと」

ハンヴィーの上という、不安定な場所における急発進。
過去の出来事を彷彿とさせるが、嘗めてはいけない。
男は同じ失敗を繰り返してはいけない。
即座に別の場所に掴まり、振動に耐える。
が、小室坊は掴まれなかったようで。

もにゅん、と。

冴子嬢の胸に、突っ込んだ。
…ああ、そういうことか。
俺はあいつ等とは違う星に生まれたらしい。

「くたばれよラッキースケベ」
「不可抗力だ!!」

吠え立てる小室坊を無視して、下のヒラ坊を見る。
どうやら落っこちた際に女の子が上へ落ちてきたようなのだが…。

「ヒラ坊……テメェ、その子に手ぇ出したら掻っ切るからな」
「出さないよ!?」

鼻の下伸ばした奴が言っても説得力ねぇよ馬鹿が、と罵声を浴びせてからハンヴィーの上に座り込む。
さて…これで脱出、か。
夜風を受けながら、煙管を咥える。
地獄のような日々を潜り抜け、此処まで来た。
密度が濃すぎて、一日二日の事なのに妙に長く感じる。

「あー…しんどい」

無言のままに、ハンヴィーは進む。
暫くして、段々と夜明けの輝きが見えてきた。
懐から取り出したサングラスを着用する。
――――そう言えば、密度濃すぎて忘れてたが寝てねぇやな。
小室坊や宮本嬢と居た時も、見張り番をしてて寝ていない。
…今頃になって、眠気が襲ってきやがるか。
安全だし寝ていいだろうとは思うものの、何故か眠くはならない。
不眠症だろうか。

「石井君」
「あん?」

冴子嬢が、声を掛けてきた。
何事だろうか。

「眠いのか?」
「…何故分かったし」
「いや、自覚は無いのだろうが頭が時たまカクンと」

そう言ってその時の再現をする冴子嬢。
チクショウ、美人スゲェな何でも似合うわ。
思わず美人の圧倒的戦力に戦慄していると、サングラスを外された。

「…やはり眼の下に隈が出来ているな」
「然様で。…しかし、眠くならんのだ」
「不眠症か?」
「さてな」

俺が知りたいぐらいだよ、と返せば何やら考えている冴子嬢。
俺を寝かしつける方法でも考えているのだろうか。

「んな気にするなよ、身体さえ休めりゃどうとでも…」
「石井君」
「ん?て、おわっ!?」

急に、頭を引っ張られた。
顔に当たるのは、絶妙に柔らかい物体。
―――こ、コレは…!!

「人の心音を聞くと、安心するという。コレならば、眠れるだろう?」
「い、いや逆に眠れないというか何と言うか…」

鼻血を出さないよう、努力。
結局ソレは、俺が疲労に負けて眠るまで続いた。
起きた後、小室坊にからかわれたため遠慮なくジャーマンスープレックスを叩き込んでやった。
…あーもう、顔が熱い。

~おまけのあとがき~
どっちかと言うと立てられる側じゃねぇかなと。




[21147] 【習作】こんな○○だったら死にそうに無いかも知れない。【死ぬ死ぬ詐欺】
Name: do◆579b2688 ID:d32f757b
Date: 2010/08/29 16:38
~注意~
・作者の文章構成力は屑。
・小室君に変わりましてピンチヒッター石井君。
・石井君強すぎるだろ!!
以上の事が許容できる方のみスクロールしてください。
許容できない方はもっと楽しいSSを見に行くべきで御座るよJK。























































――――希望を捨てるな。きっと、何とかなるから。

『ふぅん!!』
『ぐぼぅ!?』

ドゴッスゥ、と小室坊にジャーマンスープレックスを叩き込む。
ナップザックをクッションにしているから問題ない、頭は大丈夫のはずだ。

『~~~ってぇな!!何すんだよ』
『じゃかぁしい。俺の怒りが有頂天で理解しろ』
『何だよそれ…てか、車に乗ってやるもんじゃないだろ。今の技』
『やれたんだから気にするな』

俺の車内専用オリジナルジャーマンだぜ?と言ったらあーそうですかと返された。
そのまま車内へと引っ込んでいく小室坊。
ガッデム、感心して欲しかった。
こんな事が朝日が昇った直後辺りであった。
まぁそれは良いとして、

「「こぉげこぉげこーげよーボートこーげよーランランランランラーかっわくっだりー♪」」
「楽しそうだなーお前さんら」

ヒラ坊と少女―――希里ありすと言うらしい―――の歌を聞きながら、そう思う。
さて、俺たちの現状を説明しよう。
ハンヴィーによる河川横断、この一言に尽きる。
衣服を乾かすためにズボンや上着、パンツやらを竹竿に括り付けて川の中を進むハンヴィーはさぞかし外から見ればシュールのであろう。

「にしても、いい天気だねぇ」

ぽかぽか陽気とはこういうものだ、と太陽が言っているようだ。
コレで<奴ら>が徘徊している世界でもなけりゃ、昼寝するところ何だがねぇ。
ちなみに高城嬢は、ハンヴィーから半身を出し双眼鏡で周囲の視察をしている。
後は皆車内だ。

「「こぉげこぉげこーげよーボートこーげよーランランランランラーかっわくっだりー♪」」
「ありす英語でも歌えるよ?」
「凄いねぇ!歌ってみてよ!」

ヒラ坊に褒められたのが嬉しかったのか、ラーラーだか何だかと歌い始めるありす嬢。
無邪気なその行動に心が洗われる。
フェイスフラッシュレベルの輝きと洗浄力だ。
問題としては。

「ただ胡坐かいた足の上に座らせてるだけなんだろうが…」

ヒラ坊を見る。
ありす嬢を見る。
位置関係を見る。

…犯罪臭がもんのスゲェのなんのって。

最早アイツロリコンなんじゃねぇのかと思うレベルの犯罪臭である。
だってあれ『入ってんじゃね?』みたいな位置だぞ?
ヒラ坊のオーラも何か邪悪な感じだし。
どうでもいいけどお前ジャケット拝借してきたのか。
なんかもうロリコン確定していいような気がしてきたところで、ありす嬢の歌が終了した。

「じゃ、今度は替え歌だ」
「うん!!」

ありす嬢が元気良く頷いたところで、ヒラ坊を見た。
何か嫌な笑みを浮かべている。
とりあえずおかしな歌を歌い始めたら頭蓋陥没させるレベルで殴ろうと心に決める。
コキコキと指を鳴らし、歌いだすのを待つ。

「シュートシュートシュー「ハイアウトォ!!」ごふぁ!!?」

子供になんつぅ歌を歌わせようとしてやがるこのオタクメタボは。
背後から全力で打撃を叩き込み替え歌を中止させる。
とりあえずキューっと頚動脈辺りを締め付け寝かす。
CQB主体としてた傭兵のCQCなめんじゃねぇぞコノヤロウ。
―――まぁ、軍人じゃないから正確にはどっちも『モドキ』なんだがね。
ちょっとすりゃ起きるだろう。

「ありす嬢、ちょっとコイツ寝ちゃったみたいだから面倒見ててやってくれ」
「うん!!」

子供は純真でありがたい。
車内から上半身を出して周囲を視察している高城嬢が俺を悪魔でも見るような目つきで見てくるが、俺は知らん。
ひょいとハンヴィーの中を覗き込む。
今朝と昨夜の間ぐらいに俺を眠らせた冴子嬢は、今は眠っている。
実質的に二時間程度しか寝ていないのだが、俺はソイツで十分だ。
寝るのは好きだが、短時間の睡眠でも何とかなる。
その横では、小室坊と宮本嬢も眠っている。
ホントあいつ等結婚しろよ、と言いたくなる密着具合だが。

「…俺も冴子嬢に対して膝枕でもやってやりゃあ良かったかね?」




       第八話  ~車と銃と~




ガコン、と軽い振動が発生する。

「皆起きて、そろそろ渡りきっちゃう」

鞠川先生の言葉に反応し、ぬん?と車内に突っ込んでいた身体を戻し前方を見る。
確かに、もうすぐ渡りきるようだ。
そして再度ハンヴィーの中を見る。

「…ん…」

…何やら、小室坊の寝顔を見ている宮本嬢が頬を染めて笑みを浮かべていた。
幸せそうというか、こういうシチュエーションて結構あるよな。
ああ、アレだ。

「いい加減結婚しろよお前等。完璧に新妻の面じゃねぇのよ」
「ひゃあっ!?」
「ん…んん…」

背後からかけられた俺の言葉に、宮本嬢が悲鳴を上げた。
この狭い車内で俺に気付かぬとは、恐ろしいものだラヴラヴ空間。
高城嬢的にはどうなのだろう。
てか冴子嬢、呻き声がエロいんですけどそこんとこどうよ?
それと宮本嬢も「ジェラシィィィ」的な顔をするな、せっかくの顔が台無しだぞ。
小室坊の膝を冴子嬢が使っているのがそんなに気に入らんか。
と、そう思っていたところで。

「うおあっ!!?」

振動が来た。
恐らく川原へと乗り上げたのだろうが、一言言って欲しかった。
言ってくれれば。

「犬神○にならずにすんだものを」
「わー!!おじさん、足だけ出てる!!」

上半身inハンヴィーな状況。
とりあえず全身をハンヴィーの中に潜り込ませてから、再度ハンヴィーの上へと出る。
起きろおんどりゃあ、とヒラ坊を叩き起こしつつ周囲の警戒に当たる。
外道?さてな。

「誰も居ない…生きてる人間も!!」
「みたいだな。さて、どうしたのやら」

高城嬢の言葉に同意する。
肉眼で見えるだけの範囲ではあるが、人っ子一人見当たらない。
何故だろうと考え込もうとしたところで。

「あいでぇぇぇぇぇあぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

小室坊の悲鳴が聞こえた。
大方、頬でも引っ張られたのではなかろうか。
朝っぱらからラヴィなことで、ご苦労様な事だ。
そして愉快そうな事に進んで首を突っ込むのが俺である。
ハンヴィーの中を覗き込む。
外の状況は考え込んでも仕方が無いし、危険が無いなら此方を優先。

「いっ!何だよ」
「いーい御身分じゃない」
「何が…はぁっ!!?」

予想通りに頬を抓られたようで、頬を押さえた小室坊に宮本嬢が怒りを込めて言う。
視線を移動させた小室坊が驚嘆の声を上げる。
冴子嬢の存在に今気がついたようだ。
いやまぁ、俺もちょっと予想外だったがね?
あの後、俺を寝かしつけた直ぐ後に冴子嬢も眠ってしまったと聞く。
結果的に俺のほうが先に起きたわけで、警戒に当たっていた小室坊にジャーマンスープレックスを仕掛けた後は冴子嬢も車内で寝かしていた。
まぁ、小室坊の膝に頭を置くとは思わなんだが。
小室坊の近くで寝てはいたが、まさかあんな状態になるとは。

「ん…んん…?」
「さっちゃん、涎、涎」

ゆっくりと冴子嬢が起きるが、口元から涎が垂れていた。
ハンヴィーの上から指摘してやれば、眠そうな状態から一気に覚醒したのか必死に口を拭っている。
可愛らしい仕草だことで、と思うと同時にそれだけ深く寝ていたのか、とも思う。
―――この嬢ちゃんも、随分疲れてたのだろう。
覗き込みながらシリアスしていると、宮本嬢が小室坊に抱きついている。
ちょっと得意げな顔をしている。
独占欲か。
もげろ小室坊、マジもげろ。
だが小室坊は宮本嬢を即座に引き剥がす。

「降りよう」
「何でよ」
「いやぁ、もう日も昇ったから」

車外を見ながらそう言う小室坊が、宮本嬢に視線を移す。
そう言って小室坊が下げていく視線の先には…。
ほほう。

「エロ学派めが」
「ばっ!?ちがっ!?」
「安心しろ、思春期の少年ならば仕方ない」
「だから違う!!服着替えたほうがいいぞって俺は言いたかったんだ!!」
「つまり最後に艶かしい姿をその網膜に焼き付けたかったと」

だから違うっつってんだろぉ!!と殴りかかってくる小室坊のテレフォンパンチを避ける。
馬鹿めが、そんなパンチ当たるはずが無かろう。
愉快愉快と言いながらハンヴィーから飛び降りれば、他の皆も続々と降りてくる。
降りてきた皆は凝り固まった身体を伸ばしたり周囲を警戒したりしているようだ。
さて、俺はどうするか周囲を見ていると。

「同士・石井!手伝ってくれ!ありすちゃんを降ろす」
「だから同士じゃねぇ。…ほれ、アリス嬢」
「わっ!」

ありす嬢を支える為に手を伸ばすが、ありす嬢は咄嗟にスカートを押さえつけた。
一瞬、はてどうしたのかと思ったが。
――ああ、そう言えば。
幼いとはいえ、この年齢ならば羞恥心もあるか。
思わず苦笑しながらも、手近に居た宮本嬢を呼ぶ。

「悪い、宮本嬢。この子降ろすの、手伝ってやってくれ」
「…ああ、そういうことね」

一瞬きょとんとした眼をした宮本嬢だが、即座に俺の意思を理解してくれたようだ。
俺の位置と変わり、ありす嬢を抱きとめる。
エロは好きだが、変態ではない。
受け渡しに託けてロリの局部を見るなど言語道断。
そもそも俺はロリコンでは無く健康的色気とかが好きなのであって…、

「て、どうでもいいよソレは」
「どうしたのだ?石井君」
「何でもねぇよさっちゃん」
「だからさっちゃんと呼ぶなと言っているだろう。気恥ずかしい」

んじゃあさっさと着替えなさいな、とだけ言っておく。
さーて、と一度首をゴキリと鳴らす。
小室坊とヒラ坊のほうへと視線を向け両手を上げながら言う。

「おらー、野郎どもはちょっと移動するぞー」
「ん?何でだよ」
「何で?」
「女子が着替えるからだ」
「「あー…おわっぷ!?」」


アイアムアお気遣い紳士。
空気の読める男、石井・和とは俺のこと。
納得した表情を浮かべる男二人の頭をガシリと掴み、連れ出す。
ハンヴィーの後ろに来た辺りで、小室坊から放せと要求が来た。
放す。

「何で態々頭掴むんだよ!!」
「その場の雰囲気だ」
「…お前だとマジでそんな理由でやりそうだから反論に困るんだよ…」

食って掛かる小室坊に真顔で返すと、意気消沈したように肩を落とす。
いや、だってマジだし。
恒例のコントを繰り広げていれば、小室坊がふと気がついたように顔を上げる。
ヒラ坊のほうを向き、言いづらそうに言葉を切り出す。

「ええと、あの子…」
「希里ありすちゃん、小学二年生!!」
「何だヒラ坊テンション高めだな、ドストライクの年齢だったのか」
「いや違うからね!?小室もそんな眼で見ないでよ!!まったく…お父さんは新聞記者!」

そこまで言って、何かに気が付いたようにヒラ坊が顔を逸らす。
…まぁ、そうなるわな。
昨日の夜、俺と小室坊はその人が死体になっているところを見たのだ。
その事は、ヒラ坊も知っている。
つまり、彼女の父は既に故人であるということ。

「…だったって…」
「お母さんは?」

小室坊が彼女の母親について聞くが、恐らくは…。

「お父さんが、『後で会える』と言ってたって…」
「……」
(…つまりそれは…)

全員が、沈痛な面持ちとなる。
恐らく彼女の母親も、既に死亡している。
<奴ら>になったのか或いは別の要因で死んだのかは知らないが、少なくとも既に生者ではない。

『わあぁぁー!!』
「…おん?」

そんな暗い雰囲気を吹き飛ばすように、ハンヴィーの向こう側から歓声が聞こえてくる。
女性陣には、どうやら良い事があったようだ。
とりあえず、ハンヴィーにもたれ掛かりながら聞き耳を立てる。
煙管も咥えておこうか。

「お友達の服、持ってきたから好きなの選んで良いわよぉ?」
「えー!?先生、このジャケット良い?」
「良いわよぉ?」

鞠川先生の言葉に、高城嬢がめぼしい物を見つけたようで確認を取っている。
ハンヴィーの向こう側では、女性陣がやいのやいの和気藹々とやっているようだ。
良き哉、良き哉。
父性全開で頷いていれば、また別の声が聞こえる。

「スカートはこれしかないのですか!?」
「んふふ、セクシーでしょお?」

冴子嬢の驚いたような声に返答する鞠川先生。
…セクシー、セクシーか。
無意識に想像が形成されていく。

―――性欲を、持て余す。

いかん、想像するな俺。
色香に負けるな自分に負けるな精神を強く持つんだ俺!!
精神的には八十近くなんだぜ俺!?お前、孫と同じぐらいの年齢のやつらに欲情する気か!?
我慢だ我慢、我慢してる時点で大丈夫じゃないと思うけど想像力を破棄しろ。
ほーら、俺の精神は鋼の如く!!
俺は俺で自戒している間に、横でもコントが繰り広げられていた。
パシン!!と小室坊の肩に手を置いたヒラ坊がサムズアップしながら言う。
メッチャ眼が輝いてる。

「今こそお約束の時だ!!勇者小室よ!!」
「だから死にたくないって!」

とりあえず俺たちはチーム『駄メンズ』として活躍できるんじゃねーかと思う。
いや、アルティメットリア充な小室坊は入らないのか?
そりゃあ駄目だろ。

「駄目だろ小室坊!!もっと駄目になれよ!!」
「お前もお前で何言い出すんだよ石井!!…いや何時もの事なのか?」
「わん!!」

突然の鳴き声にん?と一同揃って下を向けば、あの白いワンコ。
尻尾ふりふり元気一杯である。

「相変わらず元気だなぁ」
「元気が取り柄だからなリア充(裏声)」
「石井、お前そんなに俺のこと嫌いか!?」
「何故ばれたし」
「ばれるに決まってんだろ馬鹿!!」
「ああ!?そもそもお前がリア充過ぎるのが悪いんだろ!?」

何だとテメェやんのかコラァと喧嘩を始める俺と小室坊。
小室坊からワンコを受け取ったヒラ坊は苦笑いしつつもワンコに語りかける。

「でもあんまり吼えるなよジーク」
「「ジーク?」」

喧嘩を中断し、ヒラ坊を見る俺と小室坊。
うん、とヒラ坊が一度頷く。

「こいつの名前さ。ジークってのは、太平洋戦争で零戦にアメリカが付けたあだ名さ」
「零戦?…ああ、ゼロ戦か。確かに、小さくてすばしっこくて、お前にぴったりだな」
「わん!!」
「んだよーどうせなら全滅でバンバンババンでブリーガーだ!死ねぇ!!のほうにしようぜ?」
「…いや、意味が分からないんだが…」

俺の希望に小室坊が疲れたように言うが、あれを知らんのか。
ゼロ戦よりもよっぽど凶悪な存在の名称だぞ。
マジかぁ、と思っているとヒラ坊がイサカM37を小室坊に差し出す。

「小室は、コレを使えよ。ショットガンだから、頭の辺りに向けるだけで当たるし」
「だから、使い方が分からないって。バットのほうがマシだ」

小室坊がそう言った瞬間、ガシュンと音がした。
ヒラ坊がショットガンの下部に付いているスライドを引いたのだ。

「これで、ショットシェル。つまり、散弾が送り込まれた。後は、サイトとターゲットを合わせてトリガーを絞る。それで頭は吹っ飛ばせる」

練習して無いから、近くの奴らだけにしておいたほうが良いと付け足すヒラ坊。
真面目に銃の知識だけはスゲェのな。
そう感心していたら、足元のジークも一つ「わん!!」と吠えた。
偶然だろうが、同意しているようにも聞こえた。

「弾が、無くなったときは?」

その言葉を聞けば、直ぐにヒラ坊はスライドを前に押し出す。
すると、その付近にあった部分が開いた。

「こうすると、このゲートが開くから、こうやって押し込めば良い」

弾丸を詰める仕草をするヒラ坊。

「普通は四発、薬室に一発込めたままでも五発しか入らないから気をつけて。それからこの銃には、もう一つ特徴があって」
「あー…一度に聞いたって分かんないよ」
「でも、注意しないと!それに反動も意外と強いし!」

お手上げ、とでも言いたげなポーズを取る小室坊に食い下がるヒラ坊。

「いざとなったら棍棒代わりにするさ」
「生き残るためには!!」
「分かってる」

二人で真面目に話し合っているので、俺が突っ込める隙間が無い。
いい加減、暇になってきたのでジークと戯れる。
川原に寝転び、ジークの鼻の前で指を回す。
ペシッ!!と叩こうとするところを手を引きこけさせる。
そうすると意地になってジークも向かってくるので、またこけさせる。
ヤッベ、楽しい。

「お兄ちゃーん!」

ありす嬢の声が聞こえたので、ジークを持ち上げて立ち上がる。
ひょいと頭の上に乗っけてやれば、大人しくしがみ付いている。
サングラス掛けて煙管咥えて子犬を頭に乗せた高校生…うむ、実にカオス。
既に前方の二人は女性陣の姿を見ているようなので、俺もひょいとハンヴィーの後ろから顔を出す。
そこで目にしたものは、

「おおぅ…ヴァルキュリア、とでも言えば良いのかね。格好良いじゃないの」
「わん!!」

見事なまでに着飾った、しかし実用性の高そうな服装の女性陣。
衣服についてはあまり詳細な知識が無い為、どれがどんなものとは言えないが全員似合っていると思う。
というか冴子嬢、スリット入ったスカートにガーターベルトニーソックスは些か刺激が強すぎるんだがどうなのよそこらへん。
横を見れば小室坊も唖然としているし、ヒラ坊は…。

「邪悪な顔してんなぁオイ」
「うっふっふっふ…」

変なオーラ出しながら、にやけていた。
もう一回締め落としておいたほうが良いのだろうか。






「何?文句ある?」

宮本嬢がそう言ってくるが、とんでもない。

「どっちかって言うと文句無さ過ぎて見惚れてたんだがお前等どうよ」
「いや、似合ってるけど…撃てるのかソレ?」

そう言う小室坊が心配しているのは、彼女の持っている銃だろう。
スプリングフィールドM1A1スーパーマッチ、先生の『お友達』の部屋から拝借した武器の一つだ。
まぁ、それなりに筋肉は付いているのだし射撃姿勢をしっかりすれば撃てるだろう。
それに撃てずとも、コイツには確か…、

「平野君に教えてもらし、いざとなったら槍代わりに使うわ」
「あー!使える使える!!使えます!!それ、軍用の銃剣装置もあるから!!」
「だな」

ヒラ坊の言葉に同意する。
そう、コイツには銃剣(バイヨネット)としても機能する装置が存在している。
蛇足だが『エェェェェイメン!!』の人が使っているようなもんじゃないぞ。
あれは銃剣の剣の部分だけだし旧式だ。
宮本嬢はといえば、言った傍から装置を発動したようで出現した刃に息を呑んでいる。

「ハンヴィー上げるわよ!!男子三人!!安全確保!!」
「イエスマァム!!」
「アイアイサーっと」

俺とヒラ坊が返答を返すが、小室坊は俺たちのほうを見るだけで何の返答も無かった。
空気嫁、と思ったが最近の高城嬢を現している気がしたので止める。
アプローチが足りんね。

「…あ、同士・石井は銃とか……いらなそうだね」
「要らんわけじゃないが、進んで欲しいとも思わんな」

周囲の警戒に当たる際にヒラ坊が俺だけ銃を持っていないことに気が付くが、ナイフを見せれば乾いた笑いと共に目線を元に戻した。
ナイフ二本あれば、大体は何とかなる。
銃はあるならあるで便利だが、無いならないでそれで良い。
三人でアイコンタクトを取りながら、土手を一気に駆け上がり背中を合わせる。
…誰も居ない。

「…クリア」

ヒラ坊が小さく声を出す。
特に足音もしないし、本格的に誰も居ないようだ。

「オーケー!問題なしだ!」
「わん!」

銃を持つ二人を緊急事態に備えさせ、俺が合図を送る。
頭の上のジークもそれに続き吠える。

「静香先生!」

宮本嬢の言葉に対し、鞠川先生が無言のままにエンジンを掛ける。

「行っくわよぉ!」
「わん!」
「ぬ?どうした?」

ジークが暴れるので、とりあえず降ろしてやる。
鞠川先生はアクセルを踏み込み、車体が加速する。
川原から土手を駆け上り、一気に道路へと乗り出す。
…て、オイ。

「わあぁぁぁぁ!!」
「ぬおぉぉぉぉ!!」

前後の位置に居た俺とヒラ坊の真上辺りに、ハンヴィーが躍り出た。
全力で横っ飛びを行い、避ける。
チクショウさっきジークが降りて行ったのはコレを予期してのことか――――ッ!!

「恐るべき生存本能…ッ!!」

俺がジークの危機察知能力にそう戦慄していれば、ハンヴィーはドリフトを掛けながら停車する。
うむ、クレイジー。
ヒラ坊は大丈夫かと視線を移せば、肩で息をしている。

「川で阻止できた…わけじゃ無いみたいね」

高城嬢が構えていた双眼鏡を下ろしながら、そう言った。

「そりゃあそうだろ。世界規模で起こってるんだから、被害を受けていないところなんざありゃしねぇだろうよ」
「でも、警察が残ってたらきっと!!」

その警察は、昨夜随分な事をしていたわけだがね。
まぁ、今その事を言って態々不安にさせることもあるまいよ。

「…そうね、日本のお巡りさんは、仕事熱心だから」
「…うん!」

高城嬢の言葉に、宮本嬢が嬉しそうに笑う。
―――仕事熱心が過ぎて、彼らも大変だろうにな。
多くの市民を護るために少数の市民を切り捨てざるおえないであろう彼らの心境は、果たして如何なるものか。
考えても詮無き事だが、昨夜の事を考えるとどうにも。

「これからどうするのぉ?」
「高城は、東坂の二丁目だったよな」

鞠川先生の疑問の声に対して、小室坊が高城嬢に確認を取る。
高城嬢の家から行くのだろうか?

「そうよ」
「じゃあ一番近い。まずはお前の家だ」

そうと決まれば即行動、と思い立ち上がるが不意に小室坊が高城嬢から顔を背けた。
何か、問題があるのだろうか。

「だけど、あのさ…」
「…分かってるわ…期待はしてない…でも…」

高城嬢が、傍観の念を含めた笑みを浮かべる。
…ま、此処は旦那候補の器のでかさを見させてもらうかね。

「もちろんさ」

小室坊の言葉に、何処か不安げに変化した顔を向ける。
それと同時に優しげな顔で頷く小室坊。
それを見た高城嬢も勇気付けられたのか、笑みを浮かべた。
おーおー何だ何だ今度はそっちかチクショウめ、とっかえひっかえかコラ。
期待はしたが『もげろ』という言葉が頭の中を乱舞する。
ああいう風にすれば、俺にもフラグが立つのか?

「但しイケメンに限る」
「わん?」
「気にするなジーク、独り言だ」

鳴き声を上げつつぺしり、と頭を叩くジークを撫でつける。

そして、ハンヴィーによる移動が始まった。

「わぁー!」

車内からありす嬢の声が聞こえてくる。
現在ハンヴィーの上に待機しているのは小室坊と宮本嬢、そして俺だ。
尤も、銃を持っていない俺は上からの射撃という芸当が不可能なわけだが。
いざと言うときに備えての待機である。
ちなみに、ジークは流石に車内へと置いてきた。

「大きなバイクがいっぱい!!」
「あそこは、輸入物のバギーとかも売っているんだよ。偶に、軍の払い下げも扱ってる」

ヒラ坊がありす嬢にそう説明するが、バギーとかの車種は子供に理解できるのか。
というか、軍の払い下げを扱っているという話を聞いたこともあったが単なる町工場だとかに来る様なもんじゃあないと思うんだがどうよ。

「ふーん」
「何でそんなに詳しいんだか…」

ありす嬢が分かっているのか分かっていないのか判断が付きにくい声を上げ、高城嬢が疲れたような声を出している。
まぁ、ヒラ坊はそういう人種だしなぁと思いつつ周囲を見回していれば後ろからの会話が聞こえた。

「どうしたの?」
「いや、ヘリや飛行機が見えない。昨日まで沢山飛びまわってたのに」

ふんむ、と空を見上げてみれば確かに見当たらない。
音が聞こえなくなったとは思ったが、まったく見当たらないなコレは。

「大丈夫、よね」
「大丈夫だろ、きっとアレだ。ヘリの操縦士が下痢で休んでるだけだ」

おいおい、と後ろから小室坊のツッコミが入ったが声から判断するに宮本嬢は少し笑っているようだ。
それで良い。
最悪の想定は良いが、ネガティブはいかん。
生きる気力やらがゴリゴリと減っていくぞアレは。

「ね、気付いてる?」
「…ぁ、ぉ…何をだ?」

宮本嬢の質問に、小室坊がドギマギしたような声を上げる。
何だオイ、俺の背後でラブコメおっぱじめる気かコラ。
あまりの甘酸っぱさにハンヴィーから飛び降りたらどうしてくれる。
しかし、俺の想像とは違い宮本嬢の言葉は現状を嬉しがる言葉であった。

「私たち、夜が明けてからまだ一度も出くわしてないわ」
「……ぁ、確かに」
「ふむ、そうだな。あの血色の悪すぎる面は一度も見て無いな」

出来る事ならこのまま一生見たくねぇもんだけどなぁ、と思いつつソレは不可能だと理性が言う。
ンなこたぁ分かっている。
分かっているのだが、思うぐらいは良かろうに。
本当の意味で脳天気になれないというのは中々に辛いものだな、と自覚する。
どれだけ現実を逃避しても、心のどこかで現実を見据えて最悪の事態を想定する己が居る。
難儀なもんだ、と頭を振りつつ前を向いた。
舞い散る桜が視界を彩るが、警戒中の今ではやや鬱陶しい。
――――本来ならば、この景色を純粋に楽しめたのだろうか。
<奴ら>が現れずただただ花見として此処に訪れる事ができたのであれば、或いは俺もこの景色を純粋に『美しい』と思えたのだろうか。
そんな事を、夢想する。
夢想した、ところで。

「……空気読みやがれってんだよ糞虫どもがッ!!」
「<奴ら>です!!」

俺の怒りを孕んだ言葉に続き、ヒラ坊が警告を促す。
目測にして、三百といったところか。

「距離、右前方、三びゃーく!!」

果たしてその予想を後押しするヒラ坊の声が聞こえた。

「右に行って!!」
「わ、分かったわ!!」

高城嬢の言葉に返答しながら、鞠川先生がハンドルを切る。
振り落とされぬよう、付近の突起を握り締める。
しかし、曲った先にも<奴ら>。

「わぁ!此処も!?」
「突然に湧いて出たなオイ!!」

鞠川先生の言葉に続き、吠える。
さっきまで全く姿を見せなかったというのに、行き成り出てくるんじゃねぇよチクショウが。

「もーいやぁ!!」
「じゃあ、あそこ左!!左よ!!」

泣き言を漏らす鞠川先生に高城嬢が指示を飛ばす。

「何だってんだ!二丁目に近づくほど増えてるじゃないか!!」
「理由が、何か理由があるはずよ!!」

小室坊の言葉を聞き、宮本嬢が言った。
理由、理由か。
<奴ら>の習性を考えるのならば、二つの候補が上がる。

「――――二丁目に、音を鳴らす何かがあるのか、或いは二丁目に人が集結しているのか、だな」

<奴ら>が反応する音を鳴らす何かがあるのか、獲物である人が集結しているのか。
恐らくは、後者。
何故二丁目に集まっているのかまでは分からないが、音を出すものがあるのならばあの位置で既にその音が聞こえていてしかるべきであろう。
だが、何も聞こえてこない。
精々が<奴ら>の呻き声程度。
ならば、人が集結していると見て間違いは無いだろう。
そう推測を結論付けている間に、ハンヴィーは<奴ら>の群れへと近づいていく。
小室坊たちは俺を左側に置き、身体を伏せてその衝撃に備えている。
…こんな時までイチャイチャか貴様ら。

「そのまま押しのけてぇ!!」

高城嬢の一喝の元、ハンヴィーが突撃する。
撥ね飛ばされた<奴ら>が時折此方へと来るが、殴り飛ばして視界を確保する。
―――ん?

「ッ!!?鞠川先生ぇ!!とっとと車止めろぉ!!」

<奴ら>の群れの向こう側、日光を反射して輝くソレは、かつて俺も戦場で多用した基本的で効果的なトラップの一つ。

「ワイヤーが張られてんだ!!とっとと止めろ!!」

細さは人体を切断できるレベルでは無いが、それでも危険であることに変わりは無い。
しかして、既に加速した車体を止める事など容易ではない。
では止まりそうに無いのならはどうするか。
考えろ、考えろ、考えろ―――!!

「車体横にしろ!!先生ッ!!」
「ひうぅっ!!」

車体を横にすれば、速度はある程度保ったままに突撃は避けられる。
俺の叫びに反応したのか思い切りハンドルを切ったであろう先生の悲鳴と共に、車体が横へと回転する。
その勢いのまま、付近に立っていた<奴ら>をワイヤーに押し付けつつも、走り続けている。

「ヒラ坊!目隠し!!」
「見ちゃ駄目だ!!」
「ふあぁ」

俺が叫ぶよりも先に行動を起こしていたようで、ヒラ坊がありす嬢の目隠しをしたのだろう小さな驚嘆の声が聞こえた。
よし、それでいい。
思考を加速させ、次の行動に備える。

(このまま走り続けりゃあ、間違いなく壁にぶつかる!)

「ブレーキ踏め!!先生!!」
「やってるわよぉ!!何で止まらないのぉ!!」
「タイヤがロックしてます!!ブレーキ離して、少しだけアクセル踏んで!!」
「ろ、ロック!?ふぇぇぇ!?」

先生の疑問の声にヒラ坊のアドバイスが飛ぶが、よく分かっていないようだ。
にしてもタイヤがロックされているか、随分と面倒な事だ。
小室坊が風圧に負けて体勢を崩すが、即座に右手で押さえつける。
体勢を戻した小室坊は、再度宮本嬢の肩に手を置く。
普通に車体を掴め。
だが、そんなこと言っている場合ではない。

「「先生!!前、前ぇ!!」」
「いやあぁぁぁぁ!!

既に壁が近い。
俺と小室坊の叫びに悲鳴で応える鞠川先生。
ギリギリで急ブレーキを踏んだようで、耳障りな音と共に車体が停止する。
―――しかし、慣性の法則は無情にも車体の上に乗る存在を吹き飛ばす。

宮本嬢が、押し出された。

小室坊も手を伸ばすが、届く気配は無い。
ハンヴィーのフロント部分に身体を打ち付けた宮本嬢が、道路へと倒れこむ。
その周囲には、<奴ら>の影。

「小室坊!!行けぇ!!」
「―――おう!!」

小室坊が車体の上から飛びあがり、イサカM37を構える。
行け、ヒーロー。

「スライドを引いて…」
「ッ!?」
「頭の辺りに向けて…!!」
「孝!!」

小室坊が着地し、

「撃つ!!」

イサカM37を構えつつ、散弾を放った。
眼前に迫った一匹を吹き飛ばすイサカM37の散弾。
…一匹!?

「何やってんだテメェはぁ!!」

ナイフの刃を露出させる。
続いて跳んだ俺が、踵落としで<奴ら>の一匹の頭部を潰しつつもう一匹の首を掻っ切りながら小室坊の近くへと後退する。
チクショウやっぱ素人が扱うには無理があったか!?
反動やら何やらを考えながらぶっぱなさねぇとありゃ纏めて吹っ飛ばせるわきゃねぇよ。

「何だよ!!頭狙ったのに、一人しかやっつけられないぞ!!」

あ、まだお前さん<奴ら>を『人』で数えてたのな。
とてもどうでもいい事に気がつきながら、腰のアーミーナイフを抜き放つ。

「下手なんだよぉ!!反動で銃口が跳ねてパターンが上にずれてる!!突き出すように構えて!!胸の辺りを狙ってぇ!!」

ヒラ坊の一喝にイサカM37を構えなおす小室坊。
今度はミスるんじゃねぇぞオイ!!
かくして、先ほどのアドバイスの通りに放たれた弾丸は複数の<奴ら>を吹き飛ばすのに成功した。

「凄い…」
「感心してる場合じゃあ…ねぇだろうがよッ!!」

小室坊の左右から迫る二匹の<奴ら>の片方にアーミーナイフを投げつけ突き刺し、もう片方には手に持った愛用のナイフを振るい首を刎ねる。
突き刺したアーミーナイフを抜き去り、<奴ら>を蹴り飛ばし寄って来た<奴ら>に叩き付ける。

「けど…多すぎるな…」
「一発撃った後、トリガーを搾ったままスライドだけ引くんだ!!銃口は少しだけずらせ!!」

小室坊の零した弱音を拾ったのかどうか、ヒラ坊のアドバイスが再度入る。
そのアドバイスに従い、小室坊が散弾を放つ。
倒れていく<奴ら>。
…この分なら、俺は前に出ないほうが良いかね。
誤射されても敵わんしなぁ、と思いつつ後ろに下がる。

「ヒュゥー!!最高ぉ!!」
「調子乗って弾切れ起こすなよ小僧!!こんな状態でジャムるとか冗談じゃねぇからな!?」
「…ぬ?…弾切れかよ!」
「言った傍からかおんどりゃあ!!」

焦っているのか、弾丸を補充しようとする小室坊のポケットから弾丸が零れ落ちていく。
面倒臭いってレベルじゃあねぇなオイ。

「時間稼ぐから落ち着いてやれ!!」
「お、オイ!!無茶するんじゃ…」
「無茶せにゃいかん時だろうがよぉ!!」

ポケットに手を突っ込んでいる小室坊にそう言い捨て、<奴ら>の頭部を蹴り砕く。
あーもう、最近俺の流儀じゃねぇ戦闘ばかりだコノヤロウ!!
幾らやりやすくても本職はゲリラ戦だったんだぞ俺!?
<奴ら>にナイフを突き刺しながら心中で愚痴を吐く。
そして回し蹴りを叩き込むが…。

「ってマズッ!!?」
「オォォウゥゥ…」

背後から、<奴ら>の手が伸びてきた。
此処でお陀仏だってかチクショウが――――!!
しかし。

「フッ!!」

ゴシャリと、破砕の音が聞こえた。
振り向けば、凛々しい女傑。

「―――まぁた、助けられたな」
「気にするな」

ヒュン、と木刀を振るい<奴ら>の血を飛ばす冴子嬢。
にしても本気で多いなドチクショウが!!
ヒラ坊も必死に狙撃しているが、ちょいと数が多すぎる。
このままじゃあ、本気で押し負けるぞコレは。
―――だが今は、集中しろ!!
やる事もやらずに死ぬ、なんざ最悪の死に方だ。
ならば最期の最期まで足掻き続けて死んでやろうじゃあねぇかよ!!
そんな中。

バシュン!と。

今までとは違う、射撃の音が聞こえた。

「―――こんな時でもイチャイチャか糞がぁぁぁぁぁぁぁ!!ああもう、狩る!!全部狩りとってやるあぁぁぁぁぁ!!」
「あ、おい!!石井君!?」
「理性はあるから気にするんじゃあねぇぇぇぇぇ!!」

ドグシャッ!!と、<奴ら>の頭部を二匹同時に潰す。
小室坊の現状は、宮本嬢の胸を挟み込んだ状態でスプリングフィールドM1A1をぶっ放している状況である。
撃つたびに、揺れているようだ。
何がって?

―――小室坊の眼前にある、二つの山がだよ!!

故意ではない。
単純に、現状で尤も効率的な行動をしているだけだろう。
分かっちゃいる。
分かっちゃいるが腹が立つ。
故に叫ぼう。

「リア充死ねぇぇぇぇぇぇ!!」

ザクザクザクザクと<奴ら>を切り刻む。
時折顎を蹴り飛ばし、打ち上げる。
それにしても…。

「天は二物を与えずってなぁ、嘘だなぁオイ!!」

小室坊の、射撃の事だ。
昨夜あれだけのドライビングテクニックを見せ付けたにも関わらず、現在行っている射撃は正確無比としか言えない。
俺や冴子嬢が暴れる隙間を縫って射撃を通してきやがる。
ホント、チート祭かチクショウめ。
まぁ、あんまり当たっちゃいないんだが。
しかしてどうする。
真面目に数が多すぎるが…。
そんな時、声を聞いた。

「やっつけてやる…」

ヒラ坊の声。
怒りに震えるその声は、かつて己も出した事のある声だ。
家と親を無くし、戦場に出るしかなくなった子供を見たときに出した。
仲間が撃たれて死んだときにも出した。

―――許さない。

ただその一念を込めた声だ。

「皆やっつけてやるあぁぁぁぁぁ!!」

射撃の勢いが、増した。
より正確に、より速く叩き込まれていく弾丸。

「…なら、応えにゃならんわな」

その意志に、その怒りに。
何故にその感情を抱いたのかは知らないが、その怒りはきっと正しいものだから。
思考を冷まし、より正確に首を刎ねる。
すれ違うたびに<奴ら>の首を一撃で落とす。

『恐れるな、恐れれば刃が鈍る』

蘇るのは、教えられた教訓。
恐れを抱けば刃が鈍る。
故に、その恐れを覆い隠す。
突き刺し抉り砕き刎ねる。
そして。

「そら」

アーミーナイフを投げ付け、<奴ら>の後頭部に突き刺す。
ぐらりと倒れる<奴ら>の向こう側に、高城嬢。

「イチャつくのは構わんが、油断するんじゃあねぇ」
「だ、誰が誰とイチャついてるってのよ!!」
「小室坊に向かって『これからは名前で呼びなさいよ』……聞こえてたぞ」

何はともあれとっとと構えな、とだけ言って突き刺したナイフを抜き去る。
少し震えているのは、怒りもあるが恐怖もあるか。









「―――――お前さんは、天才だよ。落ち着いてやりゃあ、絶対に出来る。頑張れ」










天才、恐らく彼女にとってのアイデンティティー。
それを利用するというのは少々気がひけるものの、利用できるのならば何でも利用しよう。
生き残る為に、利用できるものは何でも。
それが功を奏したのか、何時も通りに強気な顔で銃を構える高城嬢。

「―――あったりまえでしょ!!」
「その意気だ!!小室坊へのアプローチもそんぐらい強気でやっとけ!!俺が楽しいからな!!」

うるさいわね!!という怒号と共に、散弾が放たれた。
コレで緊張なんざ欠片もねぇだろ。
冷や汗を流しつつもカッカッカと笑っていれば、冴子嬢が言った。

「…相変わらず、フォローが上手いな」
「他人利用して生き残りたがる駄目人間だよ」
「結果的に、それが他者の生存に繋がると思うぞ?」
「だとしても、だ!」

襲い掛かってくる<奴ら>の首を問答無用で刎ねる。
切れ味が落ちないことを、祈るばかり。
学園脱出の時と同じく一撃で首を刎ねられないという状況は、この密集地帯では致命的な隙だ。
即座に死亡確定。
まったく、気が滅入る。
――――それでも、振るう刃は止める事無く。







日暮れ時、されど未だに<奴ら>は減らず。
ハンヴィーから飛び出してきたジークが<奴ら>の脚に噛み付くが、当然の如く無意味だ。
そのまま歩を進める<奴ら>。
…こりゃあ、このまま続けりゃ全滅するな。

「――――――」

思考を回す。
こんな時、どうするべきか。
周囲を見渡せば、体力を使い切ったのか肩で息をする奴も多い。
銃弾も、ほとんど使い切ったようだ。

――――出来る事を、出来るだけ、か。
クカッ、と息を漏らす。
何というか、本当に何というか。
甘い、甘い、甘い精神だ。
それでも。

「見捨てられないのが、俺だよなぁ」

タタッと背後へと走り、高城嬢の近くの<奴ら>に踵落としをぶち込む。
高城嬢がバットか何かのように構えたイサカM37を奪い取る。
何やら近くに来ていたらしい小室坊も驚いた表情をしているが、まぁ丁度いいか。
どうせコイツも突っ込む気だったのだろうし。

「小室坊、後頼むわ」
「…ッ!?待て石井!!俺が行く!!」
「バッカお前、どうせ死ぬ気だろ?俺は生き残る気全開だぜ?」

バットの代わりぐらいになれば良いわなぁとイサカを振るう。
殺すには到らんだろうが、まぁ薙ぎ倒すには十分か。
とりあえず頑張るかぁ、と言いながらゴキリと首を鳴らせば、後ろから小室坊の問いが来た。

「…お前、何でそんなに軽く言えるんだよ。死ぬかも知れないんだぞ!?」
「軽くはねぇよ?ぶっちゃけ怖くてしょうがねぇんだけど」
「じゃあ何で!!」

何で、何でか…そりゃあお前、あれだ。

「んー……自己満足、だな」

小室坊の叫びに、振り返らず応えてから走る。
そう、自己満足だ。
単純に、目の前で仲間が死ぬとか大嫌いだから。
だから自分が行く。
俺が死んで泣いてくれる奴らがいれば最高だけどなぁ、とも思う。
しかし自分たちのせいでとか思われて泣かれると凄い嫌な気分になるな。

「って、死ぬ事前提でもの考えるな俺」

イサカで敵を薙ぎ払いつつ、ナイフで残った<奴ら>の首を刎ねる。
この数日で、何匹の首を刎ねた事か。
いや、何十匹か?
そんな事を考えていれば、同じく突っ込んできた人物が一人。
まぁ、当然そんな武闘派はアイツなわけで。

「石井君!!私も付き合う!!」

来たよ、木刀レディーが。
だが、アホかお前は。
何のために俺が囮に成ったと思ってやがる。

「ああ!?馬鹿言ってんじゃねぇよこのアマ!!とっとと帰れオラァ!!」
「断る!!」
「帰れ!!」
「断る!!」
「帰れ!!」
「断る!!」
「帰れ!!」
「断る!!」
「帰れ!!」

そう口論をしつつも、<奴ら>を殴り飛ばしていく俺と冴子嬢。
その間に、随分とハンヴィーからは離れてしまったようだ。
ああああああああもう此処まで来たら引き返せとも言えないじゃねぇか!!

「どうすんだよ!!トランシーバーお前さんに預けっぱなしだろ?!」
「鞠川校医に預けてきた!」
「ぬがっ…糞ッ!!なら俺より先に死ぬなよ!?」
「死ぬ気は無かったんじゃないのか!!」
「ンじゃ死ぬなぁ!!」

俺がアスファルトにイサカを擦りつけ、冴子嬢が電柱を叩く。
その音が、<奴ら>を引き付けた。

「もうホントに後戻りできねぇぞ馬鹿女!!」
「承知の上だ!!」
「ホンットに女傑だなぁチクショウ!!」

道中の階段を駆け上がる。
最上段まで来たところで、大きく意気を吸い込み叫ぶ。

「こっちだぁ!!糞虫どもがぁ!!!かかって来いよオラァ!!!!」

もう一度、注意を惹きつける為に声を張り上げる。
即座にダッシュ。
足場に存在するちょっとした溝を飛び越え、確認の為に後ろを振り返る。
全員は、惹きつけられていない。

「ンなら…こいつでどうだぁ!!」

手すりに、思い切りイサカを叩き付ける。
…けれど意識は大して惹きつけられず。
ナップザックにある空き缶も、前に使い切ってしまった。
ハンヴィーのほうを見てみれば、追い詰められている女子二人を護ろうとする小室坊とありす嬢を逃がそうとするヒラ坊が見えた。
何事か話しているようだが、焦りのせいでうまく聞き取れない。
そんな時。

「うそ!!」

ありす嬢の叫びが、聞こえた。

「パパも死んじゃいそうなときに、コータちゃんと同じ顔したもん、『だいじょうぶ』って言ったのに死んじゃったもん!!」

悲痛な叫び。
無力な自分に腹が立つ。

「いやいやいやいや!!ありす一人はいや!!コータちゃんやたかしお兄ちゃんやお姉ちゃん、おじさんといっしょにいる!!ずっとずっといっしょにいるぅ!!」

いや、一人にしないで!!と、叫びが聞こえる。

―――誰だって、一人にしたくはねぇさ。

皆、仲間と一緒に居たいのだ。
されど今、誰かを一人でも救うというのならその選択肢しか残っていない。
未だ幼き命を、残すべきだ。
出来る事なら俺とて、皆を救いたいとは思う。
その代償が己の命であったとしても、喜んで差し出そう。
どうせ一度は死んだ身だ。
けれど、現実はどこまでも残酷で最悪なものだ。

「お願い!!」

――――もう、いやあぁぁぁぁぁぁ!!
幼き少女の悲痛な叫びは、黄昏の空へと、吸い込まれていった。


~あとがき~
シリアスinしたよの巻。流石に此処をどうにかできるほど万能ではない石井君。
立場的には危険な場面を悉く小室君とチェンジしているわけですが、そうでもしないと活躍できない。
難しいね、話作りって。
さーて今回のアンケートは?
①レッツゴー石井君。
②そろそろ石井死ねばよくね?
③毒島先輩の裸エプロン最高だよね!


~その後の話~

「――――ん?」

悲痛な叫びに胸を痛めるが、何やらおかしな集団が見えた。
…消防士?

「皆、その場で伏せなさい!!」

その言葉と共に、消防士モドキが突撃していく。
ワイヤーの向こう側から、バズーカのようなものを構えてぶっ放す。
水か?あれは。
ハンヴィーに梯子が掛けられる。

「…助け、か?ありゃ。そうなら何処までもありがたいんだが」

分からないが、少なくとも敵では無いだろう。
狂った人間があんな統率された動きをするわけがないし、事実助けている。
――――まだまだ捨てたもんじゃねぇな、人間。

「今のうちに此方へ。車は後で回収します」

精神的な余裕が出てきたからか、声がしっかりと聞こえてくる。
女性の声、のようだが。

「消防では無いようだが…」
「だな。まさかとは思うが、先生の『お友達』とやらだったりするのか?」

いやソレは無いか。
それならばもっとゴツイ格好をしているはずだ。
精神的な安定をより磐石なものとするために、煙管を咥えて吸い込む。
…あー、落ち着く。

「…私も、貰っていいか?」
「どうぞ。…どういう心変わりだい?」
「私も、流石に今回ばかりはな…」

然様で、と返し冴子嬢に煙管を渡す。
俺の真似をして吸い込んだ彼女だが、直ぐに眉根を寄せた。

「…不味い」
「分かる奴にしか分からんよ、コレは」

視線をハンヴィーに戻す。
全員、向こう側に渡りきったようだ。
先生があの集団のリーダーと思われる人物に頭を下げている。

「危ないところを助けていただいて、ありがとう御座います」
「…当然です」

リーダーと思わしき人物が、ヘルメットを外す。
その中から出てきたのは、高城嬢と同じようなピンクに近い髪色の女性。

「…そう言えば、普通じゃねぇよな髪の毛の色」
「何がだ?」
「気にするな、独り言だ」

今まで気が付かなかった事実に驚愕しつつも、もう一度耳を澄ます。

「娘と、娘の友達の為なのだから」
「――ッ!ママァ!!」

高城嬢が、女性に駆け寄っていき、抱きつく。
女性も同じく抱きしめ返す。
…ああ、やはり彼女の母親であったか。
何か髪の毛の色似てる気がするなぁと思ったけどやっぱりか。
というかやっぱり地毛なのな、あれ。

「……あー、何にしても助かって良かったわ。良かった、良かった」
「…とはいえ、此方の状況は最ひゃふ…ひゃひふぉ!!するんだ!!」

冴子嬢が眉根を寄せていたので、頬を引っ張ってやった。
手を払いのけて怒られたけど。
だが、今はそんな顔してる時じゃないだろ。

「そう暗い顔すんなや、今はともかくあいつ等が助かった事を喜んどこう。生きてりゃ、大抵のことは何とかなるもんだよ」
「…そうだな」
「道が完全に断たれたわけじゃあねぇんだから、迂回していきゃいい。停滞は駄目だが、時間を食うぐらいは何とかなる」

現状ではだけどな、と付け足しておく。
まぁ、取り合えず道順に関してはアイツに頼むか。
トランシーバーを取り出し、通信を入れる。

「おーい、鞠川センセー、聞こえるかー、鞠川センセー」

…出ないな、どうするか。
そう困っていたところで、通信が繋がった。

『同士・石井!!無事?!』
「同士じゃねぇ。…ヒラ坊、鞠川先生は…ああ、そうか。あの人、機械オンチか」
『…無事みたいだね。それで、どうしたの?』
「俺と冴子嬢、迂回していくから道案内を小室坊に頼みたいんだが」
『分かった。小室!』
『…石井!!毒島先輩は無事か!!』
「俺よりも女の心配が先かテメェは。……無事だよ。それと、今度から『冴子』って呼んどけ。認めた人間にはそう呼んでもらいたいんだとさ」
『そ、そうか…。何にせよ、無事でよかった』

俺の生命力と悪運なめんじゃねぇよと返せば、苦笑が返ってきた。

「ま、ともあれ道案内、頼んだわ」
『ああ、任せとけ』

んじゃな、と通信を切り、冴子嬢のほうを向く。

「さて―――そいじゃあ、行きますか」




[21147] 【習作】こんな出会いをした○○だったら死にそうに無いかも知れない。【IF】
Name: do◆579b2688 ID:d32f757b
Date: 2010/08/16 22:27
~注意~
・コレは作者がノリと勢いで書いたSSです。
・文章力低め。
・頑張ったけどこんなもん。
・あの人がこんな出会いしてたら生き残れてたかもしれないね。と言う想像です。寧ろ妄想。
・発端は、CV:杉田で吹き替えされた動画を視聴したとき。
以上のことを許容できる人のみ、お進み下さい。



































俺がその『おっさん』に会ったのは、何歳のときだっただろうか。
『・・・』
『・・・』
『・・・・・・』
『・・・・・・』
実家の裏にある雑木林の中で、俺はその『おっさん』と出会った。
いや、どっちかって言えば『出遭った』の方が正しいのかもしれない。
ボロボロのロングコートに血塗れの手拭い、傍には二本のアーミーナイフ。
しかもありえないぐらい狼狽している。
どう考えても、犯罪者にしか見えない風貌だった。
が、しかし。
随分と幼かった頃の俺は、そんな事も気にせずに。

『おじさん、だれ?』

と、聴いた。
犯罪も事故も少なく、平和そのものの田舎町。
そんな場所で育った幼い俺には、警戒心と言うものがすっぽ抜けていたのだろう。
そんな俺に対し、『おっさん』は目を丸くし、次いで顎に手を当て、最後に自分自身を指差した。
どうやら、自分に対して言ったのか疑っているようだった。
それに対し、こくりと頷く俺。

ふむ、と。

その時、始めて『おっさん』が声を出した。
そしておっさんは、低く、渋く、ハードボイルドな感じのヴォイス(ボイスでは無く、ヴォイス。これだけは譲れない)でこう言った。

『俺は―――おっさんだ』

直後に俺は、『おっさん』の股間にヘッドバッドをかました。



            第一話『子供とおっさんの巻』



顔を蒼白くさせながら股間を押さえつけ、縮こまるおっさん。
『そんなことを聞いたんじゃない』という抗議の代わりに打撃を加えたのは確かだが、別にソコを強打しようとしたわけではない。
近所の子供達に『石頭』で知られていた俺は、自分の最も強い『武器』で攻撃したに過ぎない。
ただ、位置関係が少し悪かっただけの事だ。うん、不幸な事故なんだ。

『うわぁ…なんかグニュッてした。きもちわるい』

頭から汚れでも払い落とすかのように頭の上を払う俺。
それに対しておっさんは、縮こまりながらも抗議の声を上げた。

『おまっ…ソレは…酷すぎる…だろ…。何…この仕打ち…』
『だって、きもちわるかったんだもん』

今思えば恐ろしい事をやってのけた当時の俺は、言葉の暴力で『おっさん』の心をズタズタに引き裂いていた。酷い追い打ちだったと思う。
その証拠に、『おっさん』は股間だけでなく胸の辺りも途中から押さえつけていた。

『どうしたのおじさん?そこいたいの?』
『ああ…おっさんのピュアなハートはお前の言葉でズタボロだ…』

若干涙目になっている大柄の男を、当時の俺は幼いながらも『キモい』と思ったりもした。

『いがいと『せんさい』なんだね。『いわおのごときがんめん』してるのに』

当時、あまり意味を理解していなかった俺だが、何を指すかだけは何となく理解していた。
可愛くない餓鬼だった。

『うっせーコノヤロー、人を見かけで判断すんな…てか、難しい言葉知ってるな、坊主』

大分調子が戻ってきたのか、腰の辺りをトントンと叩きながら起き上がる『おっさん』。

『おとーさんからおしえてもらったんだ!!』

えっへん、と胸を張る俺。
その日の前日、酔っ払った父さんから過去話を聞かされていたのだ。やれ、近所の金田爺さんは昔は巌の如き顔面をしていただの、母さんは結構繊細だっただのと言っていた。

直後に、母さんにチョークスリーパーを掛けられていたのはいい思い出だ。

『そうか…まぁ、何はともあれ坊主、とっとと帰れ。もう直ぐ日が暮れるぜ?』
『えー、ぼく、カブトムシとりにきたんだけど』

不満そうに言う俺に対して、『おっさん』は納得したようにあー、と呟いた。

『まぁ、ああいう類の虫は暗くなってからのほうが見つけ易いからな』
『でしょー?だから、まだかえれないよ』

ふーむ、と『おっさん』は唸った。そして暫く思案した後、よし。と一つ頷き言った。

『じゃあ、俺の話し相手になってくれよ』
『やだ』
『即答!!?』

俺の答えに、おっさんはショックを受けていた。
だが、この件に関しては『おっさん』が悪いと思う。カブトムシを捕獲しに来ている子供に向かって、『俺の話相手になってくれ』とか話し聴いてたのかコノヤロウというレベルだ。

『もう少し暗くなってきたら、虫がよく集まってくる場所があるんだよ。だから、な?』

この通り!と手を合わせてまで言ってくる『おっさん』に対して、じゃあ、いいか。と俺は頷いた。傍から見たら、屈強そうな男性が五歳ぐらいの子供を拝んでるような図になるのだから、さぞシュールであっただろうに。

『そうこなくっちゃなぁ!!いやぁ、久しぶりに人と会ったからテンション上がっちまってなぁ!!』

どっこいせ、と上機嫌で地面に座り込み当時の俺と視線の高さを合わせてくれた『おっさん』。
さーて何を話そうか、とぶつぶつ呟いている『おっさん』を見て、一つ俺は気が付いた事があった。

それは即ち。

『…おじさん、みぎめがみえないの?』

彼の右目が、盲目であったと言う事だろう。
立っていたときは体格差とバンダナの影で見えづらかったが、同じ目線で目を合わせてみれば彼の右目には、大きな傷が走っていたのだ。
そんな俺の言葉に対して、『おっさん』はしまった。とでもいうような顔をした。
恐らく、子供だった俺に対して、あまり見せたいようなものでは無かったのだろう。
バツが悪そうに頭をガリガリと引っ掻いた後、はぁ、と深い溜息をついて『おっさん』は頷いた。

『ああ、俺は生憎と右目が見えんのだ』
『…だいじょうぶなの?』
『ったりめぇよ!俺は右目が見えなくたって誰よりも強いんだぜ!?』

自信満々に言葉を放った後、『おっさん』は恥ずかしげには言葉をつけたした。

『…まぁ、股間強打は勘弁だがな?』
『…』
『な、何だその目はぁ!!コレは男だったら誰でも抱える弱点だぞ!?』

ジト目で睨む俺に対して、『おっさん』は焦るように自分の正当性を主張した。
まぁ、俺もその数年後に似たような体験をして、病院送りになったのだが、ソレは別の話。

『へーほーふーん』
『ンの餓鬼…まぁいい、とりあえず俺の武勇伝でも聞いてもらうかねぇ?』

適当な返事をした俺に青筋を立てた『おっさん』だが、流石に子供にキレるのは大人気ないとの判断をしたのか、自身の話題を振ってきた。

ソコからは、ほぼ『おっさん』の一人舞台だった。

自分は傭兵団の団長をやっていただの、マフィアに喧嘩売って無傷で返ってきただの、大商人の家の娘が攫われるのを事前に阻止しただの、団員の一人がホモだっただの、他にも沢山の話をしてくれた。

『どうだ?スゲェだろ』
『おじさん、ゆめはねてみるものだよ?』
『夢扱い!?』

まぁ、当時の俺は欠片たりとも信じていなかったわけだが。
と言うか、後半最早武勇伝じゃなくて愚痴か何かなんじゃないのかってぐらい小言をぶちまけていた気がする。凄まじく怨嗟の篭った声で。

『…っと、そろそろ頃合だな。ついて来な、坊主』

不意に『おっさん』が空を見上げ、どっこいせと腰を上げると、その手を差し出してきた。
突然差し出された手にキョトンとしていた俺だったが、直ぐに満面の笑みになり。

『うん!!』

『おっさん』の手を取り、着いていった。
それが俺と『おっさん』の、長いようでそうでもない付き合いの始まりだった。
『おっさん』は、どういうわけか夏休みの間だけ裏山にある小屋に住み着いてはやって来た俺と一日中遊んでくれた。河で魚を取ったりとか、山菜を見つけ出しては『夕飯が出来たぜオラー!!』と叫び、俺も真似して『おらー!!』と手を突き上げたりしたものだ。
ちなみに、親には『おっさん』の事を話さなかった。どう見たって不審者であったし、そう思われたら間違いなく『おっさん』に会わせて貰えないだろうと、子供ながらに知っていたからだ。
ともあれ、そんな『おっさん』との思い出の中で特に印象深いものある。

それは、『熊殺し』だ。

『おっさん』と出会ってから数日たったある日の事、俺は不用意に山へと踏み込んでしまった。

『へへっ、きっとおじさん驚くだろうなぁ』

何時もは、所定の位置に『おっさん』が居て、ソコから一緒に小屋まで行くはずだったのだが、その時の俺は山に少し慣れたことも有り、珍しい道を通って『おっさん』を驚かせてやろうと思っていたのだ。
けれど、それは最悪の選択だった。

ガサリと揺れる草。

その音に怯え、足が止まる俺。

緑の奥から這い出てきたのは、こげ茶色の死神。

『ヴぉおおぉぉぉおぉぉぉぉ!!!』

『う、うあぁぁああぁぁぁ!!?』

巨大な熊に、出遭ってしまったのだ。

人の臭いを嗅ぎ付けたのか、それとも別の理由があったのか。
熊と出遭ってしまった俺は、叫び声を挙げて必死で逃げた。
しかし、子供の体力なんて、たかが知れている。
褒めるところがあるとするならば、木に登らなかったことだろう。
木に登っていたのならば、即座にアウトだっただろう。

『ヴォオオオォォォォォォ!!』

『ヒッ!!!』

案の定、直ぐに追いつかれ、その右腕が俺に襲い掛からんとしたときだ。

『――――――――』

丈の長い草を掻き分け、『おっさん』が、現れた。
神速とも言える速度で俺と熊との間に入り込み、熊と対峙する。
腰から抜き放った二本のアーミーナイフを軽く動かしたかと思えば。

『ヴォ―――――』

最初に熊の右腕が切断された。次いで、その首が落ちた。

『―――南無三』

ポツリと。

『おっさん』は倒れ伏す熊に、一言だけそう言った。
シャン。と音を立ててアーミーナイフを腰の鞘に収めた『おっさん』は、尻餅をついて口をポカンと開けていた俺に対してその手を伸ばすと。

『―――無事か?坊主』

優しげに、そう言った。

その後は、泣いた。ワンワン泣いた。御免なさいだとか色々と言ったが、とりあえず泣いて泣いて泣きまくった。
『おっさん』の顔は見えなかったが、恐らく苦笑していたのだろう。『ハハッ』という困ったような笑い声が頭の上から降ってきたのだから。
この一件だけで話が終われば単なるいい話で終わるのだが、この話には続きがある。

『おじさん!!』
『ん?何だ?』
『ぼくをでしにしてください!!』
『…はぁ?』

俺は、『おっさん』に弟子入りしたのだ。

理由は単純、強くなりたかった。子供だった俺にとって、『強さ』とは一種の憧れのようなものであり、ソレを見せ付けた『おっさん』は、俺にとってヒーローだったのだ。子供と本気で言い合ったりしては敗北するような駄目なおっさんだったが、少なくとも当時の俺にはヒーローだったのだ。
最初こそ嫌そうな顔をしていたおっさんだが、熱心に頼み込む俺の熱意に負けたのか、『少しだけだぞ』と言って、俺に稽古を付けてくれた。

まぁ、単純に走ったりして体力つける程度だったが。

一応『おっさん』は、俺の未来の事を案じていてくれたらしく『あまり筋肉を付けすぎると身長が伸びにくくなる』と言う学術的見解から、とにかく体力づくりを率先してやらされたのだ。
今思えば、子供が知らないうちにムキムキマッチョマンになってたとか親にとって洒落にならんかったと思う。そういう部分でも、感謝をしている。
年齢が上がるごとに、その内容もハードになって行った。無論、俺だって自主的にトレーニングした。というか、子供の頃からそんなことをやっていたせいでしっかりと身体を動かさないと眠れないようになってしまったし、そうでもしなければ次のトレーニングについて行けなかったのだ。

途中からは、ナイフの使い方も入ってきた。

『おじさん!!出来た』
『よし!!コレで綺麗に刺身が出来たな!!』

魚の捌き方だったが。

当時、どちらかと言えば無垢であった俺はすっかり騙されていたが、アレは間違いなく『おっさん』の策略だったに違いない。
主に、自分の仕事量を減らす的な意味で。

他にも。

『おじさん!!出来た!!』
『よし!!コレで今晩のおかずが増えたな!!』

周囲の状況をしっかりと把握する、という名目で毎日毎日山菜を取りに行かされたりもした。夏休みが来るたびにそんなことをやらされたものだから、最早あの山の地形は頭の中で簡単に描き出せる。ただ、腹が立つ事にそんなことでもしっかり地形把握能力が上がっているから困る。

一旦行った所ならば、忘れないようになってしまったのである。
















まぁ、ともかくそんな出来事などを経て俺と『おっさん』は親交を深めていったのだ。
鍛えて、駄弁って、別れる。その繰り返し。
だが、終わりは存外あっけないものだった。

俺が、小学六年生の時分。

『坊主。俺、明日からこれねーわ』
『マジで?』
『マジ』

そんな感じで、あっさりと。
寂しくはあったものの、その位の歳になれば少しは分別もついてくる。
ああ、おっさんも忙しくなるのかなーと思いながら、その日は『おっさん』と共に一夜を明かした。酒を飲んだのは、その時が初めてだった。

『飲め、坊主』
『おお、コレがお酒…ブフォッ!!?』
『ブハハハハハハ!!バーカ、そいつぁウォッカだぜ!!餓鬼が飲むもんじゃねーんだよ!!』
『飲めっつたのはおっさんだろうがコノヤロー!!』
『やんのかコラァ!!師匠の威厳見せてやるぜ!!でも金的だけは簡便な!!』
『隙有りッ!!』
『ゴッ!!?…お、おま…だから、股間はやめろと…』

そんな遣り取りをしていたら、何時の間にか眠っていた。
目が覚めたときには、新品のアーミーナイフ二本と置手紙が置いてあるだけだった。
その置手紙も、この先トレーニングするならどんなものが良いかとか、ナイフの扱い方とかしか書いて無くて、別れの挨拶など何も書かれて居なかった。
アーミーナイフについては、正直ありがた迷惑としか言いようが無かったものの、せっかくくれたものだったし『使う事が無ければ良いな』と思いながらも、お守り代わりに携帯している。
ばれたら不味いとは思うが、『そういう物はばれないように工夫してこそ』とは『おっさん』の言。今尚、誰にもばれたことは無い。
それからは、親の都合で引っ越したこともあり、本当に『おっさん』との縁は途絶えてしまった。

けれど。

確かに一緒に過ごしたのだと、鍛えた体が教えてくれる。
確かにソコに居たのだと、貰ったナイフが教えてくれる。
『おっさん』は、俺に色々な事を教えてくれた恩師だ。
高校生になっても、その思いは変わらない。

―――あ。

そう言えば自己紹介がまだだったな。

床主市在住の藤見学園二年生、石井・和(いしい・かず)。何処にでも居る普通の名前だろ?

~あとがき~
俺の文章力なんてこんなもんなんだよ畜生め!!




[21147] 【習作】こんな出会いをした○○だったら死にそうに無いかも知れない。【IF続き】
Name: do◆579b2688 ID:d32f757b
Date: 2010/08/16 22:29
~注意~
・本作の石井君は『おっさん』に弟子入りして割と口が達者です。
・凄く生命力強いよ!噛まれたら終わりだけど。
・モブキャラを助ける為には原作捻じ曲げる事も必要。
・この話には『いい男』が出てきますが、あの人とは別人です。
・文章力たったの5か…ゴミめ。
それでもよければ、読んでいってください。
























俺とその人物との出会いは、唐突且つ最悪であった。
そう、アレは何時ものように最早習慣と化したランニングをしていた時だ。
俺は、少し休憩を取るために公園へ立ち寄ったのだ。
その公園には、トイレとベンチがあるだけの、殺風景な場所だった。

殺風景な、場所だったのだが。

「…ん?」

俺が『ソレ』に気がついたのは、公園に入って直後だった。
元々ベンチで休憩を取ろうかと寄った場所だったわけで、そのベンチに異常があったのならばそりゃあ気がつくだろう。
月の陰りで今一顔が見えづらい『ベンチに座る人影』を見たとき、俺の中を怖気が駆け巡った。

「―――――」

月が影に隠れているのを、感謝した。
何故なら、『ソレ』を直視しなくて済んだからだ。
なのに、脚が動かない。

駄目だ。

無理だ。

逃げろ。

逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロ―――!!

『アレ』は、対峙していいものではない。
長年の『おっさん』との稽古で培った経験と本能が警笛を鳴らす。
『アレ』は間違いなく俺にとって『死』を齎す者だ。
今はその人物を直視していないが、見たら確実に俺は『死』に到る。
だが、月は無情にも、人影を照らして行く。

(止めろ)

その人影は、青いつなぎを着ていて。

(見るな)

胸元のジッパーに手を掛けて。

(嫌だ)

ジィィィィ、と下まで引き降ろし。

(嘘だ)

男の急所を露出させ、こう言った。







「やらないか」







「うわぁあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

全速力で、回れ右をした。



             第一話~ホモと剣士と強姦魔の巻~



彼と私の出会いは、唐突且つ申し訳無さで一杯になるようなものであった。
ソレは中学時代の話。
私は、強姦魔に襲われた事がある。
その際、私は『正当防衛』と言う言葉を盾にその強姦魔を思う存分に叩きのめした。
楽しかった。知らず口の端が釣りあがり、興奮で心臓が早鐘を打ち、『叩きのめしても罪に成らない敵』を自らの力で圧倒する快感に、酔いしれていた。
そして、強姦魔に止めを刺そうとしたその時だ。

「あああああああああああぁああああぁぁってぇちょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおいと待ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

唐突に、『何か』が伸びてきた。
その『何か』は強姦魔の襟首辺りを捕らえると、高速で引っ込み大通りのほうへと連れて行った。

(・・・・・・・)

振り上げた木刀の振り下ろす先が分からず、とりあえず大通りのほうを見てみれば、月明かりに照らされた人影が二つ。
一つは、先ほどの強姦魔のもの。
もう一つは、その男を支える眼鏡を掛けた少年の人影だった。

「オイ!!しっかりしろブラザー!!!しっかりしろっつってんだよオイ!!俺の声が聞こえねーのかよ!!?『奴』にとっ捕まるぞ!!?」
「――――」

今、何と?
ガックンガックンと強姦魔を揺さぶりながらがなり立てるその少年の言葉の一つが、琴線に触れた。
ブラザー、といっていたと言う事は―――。

「…お前は、その男の仲間か?」

路地裏から、大通りへと出る。
こちらを見る少年への期待に、胸が膨らむ。木刀を握る腕に、知らず力が入る。
頷いてくれ。自分は、ソイツの仲間なのだと。もう一度、あの快楽を私に味合わせてくれ。
知らず、口の中に唾液が満ちる。
今からまた『やれる』のだと思うと、興奮と快感で頭がボーッとする。

「へ?あ、いや、ん?違うんだけどそうって言うか何ていうか、同士と言うか何と言うか…」

煮え切らない言葉ではあったが。
同士。確かに少年はそう言った。ならばこの少年も、この少年も『やれる』のだ。
ああ、ならば。

(もう一度、もう一度だけ)

あの快感を、味わえるのだ。
快感が体中を駆け抜け、血が沸き立つのを感じる。味わえる、またあの感覚を。肉を打ち、骨を砕き、無様な悲鳴をBGMに他者を『壊す』、何事にも勝る、その時間が。

「あの、ちょっと?お姉さん?もしもーし、聴いてますかー?すいませーん」

何か言っているが、聞こえない。
ただ、ただ目の前の『獲物』を、私は―――。





――――蹂躙したい。





「ちょ、おまッ―――!?」

バックステップで一閃を避ける少年。
良くぞ避けた、と思う。不意打ち気味に振り抜いた一撃を、良くぞ見抜き反応したと、心の中で賞賛を送った。

が、当時の私はソレを『偶然』としか捉えていなかった。

何せ、自慢ではないがその当時、私に勝てるものなど父など一握りの人物しかおらず同年代の者たちは私と打ち合うこと自体を避けていた。
だから、過信していたのだろう。

「フッ!!」「おわッ!!」
「セッ!!」「チョッ!?」
「ヤッ!!」「なんとぉ!!?」

木刀を振れば、避けられる。
姿は滑稽。決して美麗と言えるような避け方ではなかったが、此方の一撃をしっかりと見抜き次の手が少し振り難いような位置取りを自然体で行う。
どう考えても自分より格が下だとは、言い難い相手だった。

が、そんな考えに当時の興奮しきった私が到るわけも無く。

「どうした!?避けることしか出来ないか!!」
「無茶言うなコンチクショウ!!泣くよ!?俺泣くよ!?」

唯、打ち据えるためだけに剣を振るっていた。

打ち据えたいと、悲鳴を聴きたいと、蹂躙したいと。自らの強さを、相手の息の根が止まるほどに打ち込みたいと、その一心のみで。

「ハハッ!!ハハハハハハハハッ!!!」
「チクショウこの人薬かなんか入ってんじゃねーのか―――って、ぬおわ!!」

長らく続くかと思われたその剣舞も、唐突に終わりを告げる。
少年が、倒れていた男の手を踏みつけたのだ。
体勢が崩れたその少年に、上からの一閃を叩き込もうとした私の木刀は―――。







ゴチュッ。







―――彼の股間を、打ち据えた。

「――――フッ」

一瞬、この上無く真面目な顔をした後、悟りきったような表情を取った少年は、どさりと倒れた。

「…え?」

今思うと、かなり間抜けな面をしていたのだろう。
あっけなく、馬鹿らしい最後を迎えた事に冷静さを取り戻した私は、まぁ犯罪者だし良いだろうと言う自己弁護の元、二人を置いて、駆け足で自宅へと帰った。








「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

走る、走る、走る。
全速力で走る。
振り向くな。振り向けば死ぬ。色んな意味で死ぬ。
主に俺の尻が。

「チクショウ神様仏様!!俺が一体何をした?態々目立たないように伊達眼鏡まで買って『何処にでも居る気の弱い少年』のようなオーラを演出してきたと言うのに!!そんなに俺の事が嫌いかコラァ!!」

体力の無駄だと分かっていても、叫ばざるを得ない。
何処かの誰かが言いました。

『世界は、『こんなはずじゃなかった』ばかりだ』

ああ全く以ってその通りだ、同感だ。
クラスメイトの中には『毎日がつまらない』とか言ってる奴が居るが、少なくともこんな目に遭うなら俺は平凡でいい。普通最高、平凡最高。今日は何をしようかとか今日の飯は何だろうかとか想像出来るだけで幸せだと思うんだ、俺。
特に『おっさん』の過去話を聞いて、そう思った。

『坊主。世の中なんぞ何が起こるか分からん。だから、いつも通りの日常は大切なんだ』
『えー?でもいっつも同じじゃつまんないよ?』
『ああ、確かにな。だが俺の知り合いの話をしてやろう。そいつはな?日常がつまらんと言って俺の団に入ったんだが、コレがまた色男でな?女どもから夜討ち朝駆け何でもありで、最終的にそいつ追って来たヤンデレ幼馴染に既成事実作られて結婚した』
『けっこんするとダメなの?』
『ダメじゃあないが方法が普通じゃない。爆弾やら包丁やら飛び交うし、戦場のほうが何万倍もマシと思ったぐらいだ。あいつも、普通に過ごしてたら幼馴染の変な一面を見ずに済んだだろうに。坊主よぉ、お前は普通に生きろよ?変な奴と係わり合いになるなよ?』
『もうなってる』
『変人認定!?』

石橋は叩いて渡れ、備えあれば憂い無し。日常を謳歌できる事こそ、至上の幸福なのだ。
そんなことを涙ながらに思いながら、一心不乱に走っていれば。

「ん?」

何かが聞こえてくる。悲鳴のような声と、何かを殴りつけるような音。それと―――









「いいのかい?ホイホイスピードを落としちまって。俺はノンケだって構わず食っちまうんだぜ?」









―――ガチホモの声。

「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

スピードを上げる。
理屈じゃないのだ。人間誰だって、失いたくないものがある。その為ならば、人間は限界と言うものすらも超えられるのだ。
パンパンに張っているであろう脚に気合を入れ、尚も前へ。

(ああそうさ。俺は、俺は、俺は)

「こんなところで、終われないんだよぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

風になれ、石井・和。風になるんだ。
自身の身体に掛かる全ての重荷を取り外し、今こそお前へは風になるんだ。

「アイアムウィンドおおぉおおおおおおおおおおおおおぉおぉおおおおおおあああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!」

恐らくその時の俺は、短距離走のオリンピック選手とも張り合えた。
最早自分でもよく分からない言葉や叫びを吐き散らしながら、俺は走った。
良く近所の人に文句言われなかったなぁと今更ながら思う。
それから、どれだけ走っただろうか。
過去最高の速度で走り続けていた俺は、電灯の少ない通りに差し掛かった。
そんな時、路地裏に繋がっているであろう通路が視界に入った。
ソコで見たものは。

一人の少女が、男に止めを刺そうとしている場面だった。

「あああああああああああぁああああぁぁってぇちょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおいと待ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

不味い、ソレは不味い、幾らなんでも不味い。例えどんな理由があろうともその年齢で犯罪を犯す事もあるまいに。いや年下だった俺が言えた立場ではないのだが。
おっさんも言っていたのだ。

『いいか坊主。犯罪を犯すならまず自分で責任の取れる年齢になってからにしろ。どんな理由があろうと、親御さんに迷惑かける奴は最低だ!!!』
『そっか。おっさんは親御さんに迷惑かけたんだ』
『最低認定!?というかお前口悪くなったなオイ!!!』
『おっさんのおかげでね』

…何はともあれとりあえず、学生であるうちは不味いだろう。

そう判断した俺は、直線に動いていたエネルギーを無理矢理横に捻じ曲げ、死に掛けていた男の襟首を引っつかみ、大通りのほうへと引っ張った。
其処までして俺は、ある事実に気が付いた。
男。そう、男なのだ。

(…い、いやいやいや)

流石に無い、ソレは無いだろうと思う。だが。








『おいお前。俺のケツの中でションベンしろ』








完璧なまでに、ヴォイスが再生されてしまった。
其処からはもう、錯乱状態だ。
ズタボロの男の胸倉を引っつかみ、がなりたてる。

「オイ!!しっかりしろブラザー!!!しっかりしろっつってんだよオイ!!俺の声が聞こえねーのかよ!!?『奴(ガチホモ)』にとっ捕まるぞ!!?」

男の目を覚まさせようと、前後にゆすり捲くる始末。虫の息の人間にその対応はどうなのか、と思う人も居るだろうが、そんなものを気にできるほど余裕が無かったのだ。当時の俺は。
そんなコント染みたことをやっていると、路地裏に続く道からコツコツと誰かが歩く足音が聞こえた。

「…お前は、その男の仲間か?」

その声に反応して其方を向けば。
――何と、まぁ。
言葉に出来ないほど、その姿は美しかった。月に照らされたその髪が、切れ長のその瞳が、無駄の無いその肢体が、彼女の全てが、美しかった。
ただ、何と言うか。

(口が、口が怖い。何か笑ってるよあの人、あの笑み見たことあるよアレ。何というかアレだ。『ずるい事を思いついたおっさんがしていた笑み』に似てるんだよ。『コイツ絶好のかもだぜ』みたいな感じの、そんな笑みだよアレ)

そんな感想を抱いていたからか、彼女への返答は随分とあやふやなものになってしまった。

「へ?あ、いや、ん?違うんだけどそうって言うか何ていうか、同士と言うか何と言うか…」

その言葉を発した直後、彼女から感じる怖気が『そこそこ』から『最大』に変わった。
いかん。アレはいかん。ああいう類はいかん。

「あの、ちょっと?お姉さん?もしもーし、聴いてますかー?すいませーん」

その質問が、彼女との大立ち回りの幕開けであった。












『――――と、犯人は『木刀の女にやられた』と供述しており、現場に居合わせた少年とは何の関係も無いとの事です。尚、現場に居合わせた少年は『何処か』を強打された際に気絶したものと見られ、現在、市内の市民病院に入院中との事です。また、その二人を襲おうとしていた全裸の男性については、警官に見つかった瞬間に逃走を図り、今の所は何も―――』

その翌日の朝、脂汗と共に私の朝食は始まった。

(つまり私は、何の関係も無い人物に危害を加えたと言う事か?い、いやいやいや彼も紛らわしい事を言っていたわけで、別に私が悪いと言うわけではないと言うか何と言うかコレは謝りに行くべきなのだろうかそうなのだろうかいやそのええと)

焦っていた。
昨夜、股間を強打したあの少年は、実際のところ強姦魔とは何の関係も無かったのだ。
ただ、ズタボロになっていた男に追撃を加えようとしていた私を見て、正義感を働かせ殺人を止めようとしていた、という事になる。
それを私は、強姦魔の仲間だと見て―――。

「ふむ。最近巷を騒がせていた悪党も捕まりコレで一安心、と言ったところだな」
「そ、そうですね」

父の言葉に、とりあえず賛成しておく。
そうだ、件の強姦魔も捕まったのだしそれでイーブンだろう。うん、きっとそうだろう。

「しかし、居合わせた少年も不憫だな。一体、誰に気絶させられたのやら」
「うぐっ」
「どうした?喉に飯でも詰まったか?」
「い、いえ。大丈夫です、大丈夫…」

父の言葉が良心を責め苛む。やはりここは。

(謝罪に、行くべきなのだろう)

幸いにも今日は休みだ。時間はたっぷり有るし、剣の稽古も無い。
何も持っていく物は無いが、其処は誠意と真心を込めた謝罪で許してもらうしかあるまい。
そうと決まれば、急ぐしかあるまい。
今日の行動方針を決めた私は、急いで朝食を食べ進め、市民病院へと見舞いに行く事にした。







「…ッハ!!」

バッ!!と布団を跳ね除け飛び起きる。
右を見る。白い。
左を見る。白い。
上を見る。…顔のような染みがある。怖い。

「此処は…病院?」

確か、昨日俺はガチホモから逃げて、路地裏でズタボロにされている男を発見して、何か綺麗な女の子(既に『女』と言う表現が許されそうな感じはしたが)の木刀で――。
あ。

「ッッッ!!!」

パジャマのようなズボンのゴムを引き伸ばし、『息子』の安全を確認する。
恐らく入院患者用の衣服なのだろうが、そんな事は関係ない。
俺の『男』としての死活問題なのだ。

「――――」

ある。確かにある。
俺はまだ、男だ。俺はまだ、石井・和だ。
おっさん、ゴメン。俺はアンタに凄く酷い事をしていた。
でも、コレでイーブンだろう?それにアンタは頭突きだった。まだいいじゃないか。
木刀で股間を強打されるときの、あの玉が割れるかと思うほどの激痛。アレは、そうそう喰らっていいもんじゃない。

「…ははっ」

自然と笑いがこみ上げてきた。
ああ、素晴らしい。生きているって、こんなに素晴らしいことだったんだ。

「ハハハハハハハハッ!!生きてる、俺、まだちゃんと『俺』として生きて「すまない。此処は石井・和の病室で合っているだろうか」い…る…」

ガチャリ。とドアノブを捻る音と共に、ソレは現れた。
脂汗が滲み出る。
股間が痛み出す。
血の気が顔から引いていく。

「ああ、すまない。ノックを忘れて「うわアアアア嗚呼阿アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!木刀が!!木刀が!!木刀がぁぁぁぁぁ!!やめて止めて潰さないでお願いだから玉が、僕の玉がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」お、おい!?どうした!?」

PTSD。心的ストレス障害。つまり、トラウマである。
この時の俺は、この人物に対してソレを持っていたのだ。
しかも、結構深くエグイものを。

「お、おおおおおおおおおおおおおお俺をどうする気だ!?―――玉か!?また玉を狙うのか!?それとも今度は棒か!?」
「い、いや今日はそれについてだな」
「チクショウ!!人生なんていつもこんなんばっかだよ!!」
「だ、大丈夫だ!!私は君に何もしない!!」
「嘘だッ!!おっさんはそう言って俺にトラップを仕掛けてくるんだ!!『俺は手ぇ出してねぇしぃ』とか言って俺の釣果を持っていくんだ!!…やめてよおじさんぼくがつったんだよそれいくらじぶんがなにもつれなかったからってひとがつったさかなをとらないでよおとなげないよおじさん」

何かいらんトラウマまで引っ張って来てしまったが、それから数十分の間、俺は彼女と面と向かって話をする事が出来なかった。
でまぁ、数十分後の話だ。

「…落ち着いたか?」
「あ、ああ、大丈夫だ、問題ない、うん問題ない」
「そうか…いや、本当に昨日はすまなかった。奴の仲間かと勘違いしてしまい、君に不当な力を振るう事になってしまった。少々興奮状態であったとはいえ、軽率が過ぎた」

真面目な顔で頭を下げる彼女、毒島・冴子さん。
彼の剣術家、毒島先生の長子だとか。いやはや、そんならあの剣筋も納得。そりゃあそんな大物に教えを超える立場且つ、並々ならぬ才能を持つのならば、アレほど鋭い剣筋も頷ける。
つか、おっさん並みじゃない?
けれど、そんな九十度を保つような綺麗な謝罪をされても困る。

「い、いや、そんなに頭下げられても困りますって。俺自身、色々あって混乱してたとはいえ紛らわしいこと言ったのは事実なんですから」
「そうか、そう言ってくれると楽なのだが…差し支えなければ、その『色々』と言うのを聞いてもいいかな?」
「―――ガチホモに、追いかけられました。走ってくるんですよ、こうね、キレーなフォームで。顔を揺らさず表情すら崩さずにシュタンシュタンシュタンてこう…」
「わ、分かった!!聞いた私が悪かった!!だから忘れろ!!忘れるんだ!!」
(朝のニュースの全裸の男とは、もしやその人物だったのか?)

また変なトラウマを発動しそうになったところで、冴子さんのストップが入った。
そうだ、もう奴は居ないんだ。逃げなくていいんだ。記憶の底に封印するんだ、俺。
…あ、そう言えば。

「何で俺の名前を?」

そうだ。昨日、俺は冴子さんに自分の名前を名乗った覚えが無い。
だが、彼女は確かに此処に来て居るし俺の名前を確認しながら入って来た。
何故だろう?
そのことを告げると、冴子さんは困ったような笑みを浮かべながら、こう言った。






「噂になってるんだよ。その、『アレ』を強打されて気絶した可哀想な少年が居るって。主に男性患者の間で」






「すいません俺ちょっとフライハイしてきます」
「待て待て早まるな!人の噂なぞ直ぐ消える!!気にする事でも無いだろう!!」
「可哀想って何だよ可哀想って!!死んでない!!まだ死んでないよ俺の息子!!激痛から立ち直って元気にしてるよ!?」

そんな風に騒いでいると、病室のドアが開いた。

「・・・・・・病院では、お静かに」

巌の如き顔面を持つ看護士長が、威厳ある声で、言い放った。

「「…は、はい…」」

頷くしか、無かった。
そんな遣り取りを経て、俺と冴子さんは知り合った。
偶に道場に呼ばれてはボコボコにされている。
何だよあの人強すぎるよチートかよとか思うところもあるが、何ぞストレス解消になっているのならば良いのだろう。体中痛くなったりするけど、いいんだよ。
――――美人て、得だなぁ。



~あとがき~
原作前の出会いに御座る。フラグが立つかは知りません。
原作は人がポンポン死ぬので、こういう場面でギャグをしないと精神的に持たない。自分が。
この作品の石井君はこんなんです。色んな意味で逞しいです。髪の毛も原作よりボサボサしてて不良のような髪の毛だよ!普通の学生だけど。




[21147] 【習作】この話における○○の全貌【誰得設定集】
Name: do◆579b2688 ID:d32f757b
Date: 2010/08/26 14:11
~登場人物というか石井君(本編版)~

石井・和(いしい・かず)/何処かの誰か(ジョン・スミス)
この作品の主人公である人物。原作では鞠川先生を護る為に<奴ら>に立ち向かい、噛まれて<奴ら>になる前に駆けつけた毒島先輩の介錯で人間のまま死亡した男子学生。男前だと思う。
この作品ではおおよその外見は石井君だが、中身は全くの別物。何処かの世界で死亡した、傭兵部隊の隊長たる男『何処かの誰か(ジョン・スミス)』が生前の記憶を持って転生した学生。生前の癖で自然と身体を鍛えてしまい、非常にマッシヴな肉体を持っている。また銃撃戦よりもナイフを使ったゲリラ戦を得意としていたようで、変態的体捌きによって百人近い部隊を一人で殲滅した事もある。一人だけ殺してすぐ引っ込むという戦法を繰り返していたらしく、それによって付いた渾名が『神出鬼没の何処かの誰か(ジョン・スミス)』。当時の本人は死亡覚悟のヤケクソでやっていたらしく、「そんなこともあったな」程度にしか覚えていない。
ちなみに名前のほうは彼を拾った傭兵の一人が国籍も何も分からない彼に対して冗談で言ったものを真に受け、以後そのまま使っているだけである。その為、本名は不明。肌の色や髪の毛などから日本人では無いかと言われていたが、死亡した今では謎である。とりあえず転生先は日本人だった。
柄の尻を押す事で刃が飛び出る仕込みナイフを使用する。彼が『石井・和』としてコレを手に入れる前にちょっとしたエピソード的なものもあるのだが、きっと公開されない。拳銃も使えるが、どの程度の損害が<奴ら>にとっての致命傷となるか分からないため、あまり使おうとはしない。
実際の精神年齢から大体の人物(主に学生)を『坊』『嬢ちゃん』と付けて呼ぶ癖がある。その割には、性的な刺激などへの免疫が妙に低い。戦闘中とかじゃないと太股とかパンツとかで鼻血を噴出す。余裕があると見てしまうらしい。免疫を強化しつつある。
伊達眼鏡よりサングラス、普通の煙草より薬用煙草。不良なのか優等生なのか非常に分かりづらい嗜好をしているが普段は優等生で通っている。但し名前を覚えられてはいないようで、先生方が彼を呼ぶ時はまず「えーと」で始まるのが通例。
両親は高校一年生の時に事故死。色々と思うこともあったようだが、現在は『<奴ら>と出会う前に世を去れてまだマシな方だったんだろう』と考えている。子供らしくない子供だった自分を育ててくれた今生の両親には、感謝していた模様。

・どうでもいい石井君in元傭兵のメインキャラに対する思想。

小室・孝→鈍感型フラグマスター。もげろよ。
宮本・麗→小室嫁候補一号。痴話喧嘩じゃなかったのね。
高城・沙耶→小室嫁候補二号?。属性詰め込みすぎだろ。
平野・コータ→メタボリック少年ボーイ。異常事態で輝く人材っぽい。
毒島・冴子→強いのなんのって。<奴ら>相手に浮かべる笑みが謎。
鞠川・静香→最年長且つ最大級。もう少ししっかりしてください。
(故)井豪・永→爽やか青年。良い奴だった。

ヅラ:紫藤・浩一。ウザイ


この作品における石井君の全貌の巻。誰得なんだろう。



[21147] 【習作】何処かの誰かの短編集【過去編】
Name: do◆579b2688 ID:d32f757b
Date: 2010/08/26 14:34
何処かの誰かの短編集

~何時も通り~
「オーイ、スミス」
「…あん?何だ、お前かロッキー」
「ああ僕だ。なぁなぁスミス、ファミリーネーム改変する気は無いか?」
「何だよ、ジョン・小杉にでもするつもりか?だったら名前も変えたいんだが」
「いや――――ドゥってのはどうだっ!!」
「はい残念まだ死なないー。眉間に鉛玉ぶち込もうったってそうは行かんぞ」
「ちぇー、ホンット隙だらけに見えて隙が無いよなぁスミスは」
「まだ『身元不明の男性死体(ジョン・ドゥ)』になるわけにゃあ、いかんからな」

うん、何時も通りだ。


~マルスのドジ~
「マルスお前何回俺の近く誤射すりゃ気が済むんだよテメェェェェ!!」
「すんません隊ちょぶふぉぉ!!」
「隊長!!食い物がありません!!」
「何ぃ!?」
「スイマセン買出し忘れてました!!」
「マルスゥゥゥゥゥゥゥ!!」
「隊ちょぶふぉあぁぁぁ!!」

その後も、しこたま殴ってやった。


~テンション上がったペーター~
「隊長ぉぉぉぉ!!」
「来るんじゃねぇ腐れ眼鏡!!」
「そんな態度ぉぉぉ!!酷いじゃないですかぁぁぁぁ!!息子も同然の僕にぃぃぃ!!」
「その血走った眼が怖いんだよ馬鹿!!とっとと俺の部屋から去れ!!」
「ええ去りますともこの新薬を試させて頂ければねぇぇぇ!!」
「マルスにしとけよ!!」
「既にやりました。マルスもアレックスも他の皆も…残るは、隊長だけですよぉぉぉぉ!!?」
「ギャアアアアアアアア!!?」

結局、新薬を打たれた。疲労回復の効果があったらしい。


~ジョンの日課~
「マラソン三キロ、腕立て腹筋スクワット各百回…コレを朝昼晩と繰り返せ」
「隊長!!俺、狙撃手なんで参加したく無いです!!」
「よしマルス、ならお前は俺の日課に付き合え」
「ハイ!!何するんですか?」
「じゃあマラソン三キロ、腕立て腹筋スクワット各百回行くぞー」
「…ゑ?」

最初は死ぬかと思っていたが段々と気持ちよくなってきた、と被害者は供述している。

~アレックスの趣味~
「おいアレックス、ドライヤーから火が出たんだが」
「――――改造しておいた」
「アレク、アレク!!洗濯機がミキサーみたいに俺たちの服ズタボロにしてんだけど何でかな!!」
「――――改造しておいた」
「アレク。僕の注射器がミサイルみたいに飛ぶんですが」
「――――改造しておいた」

何でもかんでも改造すれば良いってもんじゃない。

~ジョンの趣味と嗜好~
「よぅし、クッキーが焼けた」
「隊長殿!!少し宜しいでしょうか!!」
「おお?ウェイバーじゃねぇか。どしたよ」
「実は、近隣のカフェにスーパーウルトラデラックスガイアストライクレイジングオメガビッグパフェなるものが発売されたらしいのであります!!」
「よし、喰ってみようぜそのパフェ。お前も来い」
「ハッ!!了解であります!!」

甘いものとか料理とか、実は大好き。

~強運のマルス~
「おーい、マルス」
「お、隊長じゃないで…うわっ!?烏の糞!?」
「もう少し進んでたら当たってたかも知らんな」
「ですねー…あ、あんなところに風船が引っかかってる。下に居る子は…取りに行ってきます!!」
「あ!!オイ待てマルス!!だーもう、俺も行く!!」

その数秒後、大型トラックが其処に突っ込んできたとか何とか。

~ペーターの眼鏡~
「ペーター、お前の眼鏡って度が入ってたっけ?」
「いえ。伊達ですが?」
「んじゃ何で掛けてんだよ」
「その方が頭良く見えるでしょう?何言ってるんですか?」

思わず納得してしまったジョンであった。

~冷血漢・アレックス~
「アレックス!機材運ぶの手伝え!!」
「――――改造カートを使うといい」
「アレクアレク!!料理当番なのに何でなんもしねぇの!!」
「――――全自動フライパンを使っている」
「アレクゥゥゥゥ!!僕の新薬実験に付き合ってくれると言ったじゃないですかぁぁぁぁ!!」
「――――暴走眼鏡撃退兵装・トレンディーラッセル13号起動」

冷酷と言うか自分で何もしない=血が通っていない=冷血漢という方程式。






気が向いたときに更新される短編集に御座る。



[21147] 【習作】トチ狂った思考の末に出来たよく分からない予告【超絶ネタ】
Name: do◆579b2688 ID:d32f757b
Date: 2010/08/27 14:40
~注意~
・頭がバグった結果書いた。今は反省している。
・期待するだけ無駄な内容。テンションおかしい状態で書いたのでお許し下さい。



















―――或いは、こんな世界もあるやも知らん。

「オーイ、其処のお嬢ちゃんよ。此処は何処だね?」
「…おにーさん、だれ?」
「あん?オイオイ嬢ちゃん勘弁してくれよ。俺なんざどっからみても…あれ?お兄さんじゃね?」

死んだはずの傭兵、ジョン・スミス。しかし何ゆえか、若返って見知らぬ土地に唯一人。

「魔法に魔道士?アレか?かぼちゃの馬車でドリフトかます気か?」
「何言ってんだジョン」
「寧ろあんた等が何言ってんだナカジマ夫妻」

魔法、魔道士、管理局。意味不明の言葉に戸惑うジョン・スミス。
其処から、彼の生活が始まった。

「何時までも居候も悪いので管理局とやらに入ろうかなと」
「魔力量が足りないと実働隊は無理よ?」
「どんだけ魔力至上主義なんだよ其処」

管理局に入ろうと決意するも、出鼻を挫かれる。

「地上部隊に配属されたジョン・スミス十七歳(仮)です。よろしく」
「(仮)って何だ、(仮)って」
「実年齢知らんのですよコレが」

何とか地上部隊に入隊し、始まる管理局での職務。

「シャラー!!待てコラ引ったくりがぁぁぁぁぁ!!」
「来るんじゃねぇよ化け物が!!何で魔法使ってねぇのにそんな速さ出るんだよ!!」
「人間の可能性をぉぉぉぉ…嘗めんなぁ!!」
「ぎゃああああああ!!?」

地道に働くも、上がらない給料。

「アレ?マックスの奴、何処行った?有給とったの?」
「ああ、アイツは『海』に持ってかれたよ」
「あっらー、そう言えばアイツ魔力量高かったっけね」

引き抜かれていく仲間。

「ヘイ隊長、何死にかけてんスか」
「ジョン…さっさと…逃げろ…。他の…奴らを…連れて…」
「いやぁー、残念ながら逃がしてないのあと隊長だけッスよ」

用意周到に危険を回避。但し死亡フラグが降りかかる。

「お嬢ちゃん、名前は?」
「…チンク」
「ああ!?お前さん、男の下腹部みてーな名前付けられてんのかよ!!じゃあそんな風にぐれても仕方ねぇわな」
「嘗めているのか貴様ぁぁぁ!!」

ナンバーズと衝突したり。

「ジョン兄さん!!」
「おん?何だギンガじゃねぇか。お前も入局したのかよ」
「ハイ!!兄さんも居るし、父さんの勧めもありましたし」
「そうかい…頑張れよ」

妹が入局してきた事にちょっと驚いたり。

「…ジョン」
「あん?どうしたんすかゼスト隊長」
「…スマンな」
「ああ、右目の事ですかい。気にしなさんな、デバイスの義眼も悪くないですし」

護った事に対して負い目を持たれたり。

「ウェーイ、レジアス中将。何で御座いましょうかね」
「…ジョン・スミス四等陸士、君は本日付で機動六課に配属となった」
「マジすか?何で俺なんぞが?」
「分かり易く言えばスケープゴートだ。本来はゼストを向かわせるべきなのだろうがな」
「わーヒデェ」

何か身代わりにされたり。

「アッハッハッハッハ!!俺なんぞお前さんらより階級下だぜ!?敬語なんか使うな使うな!!」
「え…いや、でも…」
「エリオ坊も、キャロ嬢も、それとティアナ嬢だ。スバルの馬鹿を見てみろよ、遠慮なく俺の横っ腹にタックルをかま「ジョン兄ぃぃぃぃ!!」ゲファア!!」

同僚の敬語を直そうとしたり。

「ヘーイ教官殿、怒りは分かるがちとやりすぎじゃ無いですかね?」
「…邪魔しないでくれる?」
「あっるぇー、何か地雷踏んだ臭くねぇか俺。そこんとこどう思うよティアナ嬢」

上官との対立が勃発してしまったり。

「オイオイオイ自分の娘同然の奴に男の下腹部的な名前付けるような奴の顔が見てみたいと思ったらお前、性格歪んだマッドサイエンティストかよ。アレか?自分の理想的な娘でも作りたかったのか?」
『君はよく喋るねぇ。…大した魔力も無い割に』
「ハッハッハ、安心しろ。お前の顔面グチャグチャにするぐらいの腕力があるから」

とりあえず元凶らしいマッドサイエンティストに喧嘩売ったり。

「何だよギンガ、お前ピッチピチのスーツ着て。遅すぎた反抗期かコラ」
「――――」
「あ、オイ。それ以上進むと愉快なことになるから――――」
「―――ふぇ?」
「ハイ落とし穴ぁ!!とり餅とネット班ゴー!!」
「え?え?ええええええ!!?」

妹の正気を取り戻すために愉快な事やったり。

「ヴィヴィオの嬢ちゃん、お前さんもそんな格好かよオイ。早すぎる反抗期じゃ無いスかなのはさん。教育方針スパルタすぎたんじゃね?」
「い、いや、スミス君?!そんなこと言ってる場合じゃ…」
「さぁ来いヴィヴィオ嬢!!お前さんの大嫌いなヘッドロックかましてやんぜ!?」

聖王様に、ヘッドロックかけようとしたり。

暴走青年リリカれないジョン・スミス。始まらない。



[21147] 【習作】やっちまった感じしかしねぇうろ覚えの記憶に頼ったSS【超ネタ】
Name: do◆579b2688 ID:d32f757b
Date: 2010/08/29 09:40
~注意~
・作者はゴミ屑。
・テンションに身を任せた産物。
・こんなところあるわきゃねぇだろ!!というツッコミは無しで。
以上の事が許容できる方のみスクロールしてください。
許容できない方は他のもっと楽しいSSへと行くとよろしいで御座る。





















―――思えば、それなりに有意義な人生だったのかもしれない。

「隊長!!」
「隊長ぉ!!」
「しっかりしてくれよ隊長!!」

部下が叫んでいる。
無茶言うなよ。
血が流れすぎて意識が朦朧としてきてんだ。
しっかりしろとか拷問か、お前ら。

「隊長ぉ…何で俺なんか庇ったりしたんだよぉ…」

あーもう、泣くんじゃねぇよマルス。
昔からそうだなお前。
拾ってやった頃から、毎回毎回ピーピーピーピー泣きやがって。
誰よりも精密な射撃ができるようになったくせに、そういう所だけは変わっちゃいねぇなぁ。
『百発百中のマルス』の名前も泣くぞ?
そもそも何でって、お前の反応が遅かったからだろうが。
まったく、どん臭いったらありゃしねぇ。
だーからお前は孤児院だとかに行けって言ったんだよ。ソレなのに『隊長の役に立ちたい』だの何だの格好付けやがってよぉ。
許しちまった俺が悪いみてぇじゃねぇか。

「隊長!!しっかりして下さい!!今助けますから!!」

オイオイ、ペーター。
見てみろお前、この出血量で助かるわきゃねぇだろうが。軍医がそんなもんすら見切れなくてどうすんだよ。ったく。
幾らお前の腕が良くても、この出血量じゃあどうしようもねぇよ。
それに奴さん等、銃弾に毒なんぞ仕込んでやがる。
解毒剤もねぇんだ。どうしようもないさ。
それにそろそろ寝かせてくれねぇか?もう十分なんだよ、俺は。

十分に、生きたんだ。

あー、でも心残りは一つあるなぁ。

「…おぉい、アレックス…」
「―――何だ、隊長」

何だよアレックス。冷血漢で知られるお前まで泣いてんのかよ。
雨の中だからばれねぇとか思ってんじゃねぇぞこの野郎。バレバレなんだよバーカ。

「アレ…ゴフッ…煙草、寄越せ。薬用じゃないやつ…」
「―――ああ」

アレックスがポケットから煙草を取り出し、俺の口に差し込む。
そしてその巨体を雨傘代わりに、ライターで火を点けてくれた。
大きく煙を吸い込む。
―――ああ、不味い。
ベッと吐き出せば、自分の血と混ざり合って赤黒く染まった水溜りに落っこち、鎮火した。

「ゲフッ!ゴフッ!…アレックス…お前、よく、そんな不味いもん…吸える、なぁ」
「―――隊長は、味覚が餓鬼だからな」

うるせぇよ。いいじゃねぇか、パフェが好きでも。
それに薬用パイプとか、ハッカパイプとかは好きだぜ?頭が冷やせるからな。

「ああ、眠い」

とても眠い。瞼が勝手に下がってくる。
思い返せば、色々あった。
親が飛行機事故で死んだと思ったら、傭兵に拾われて、暗殺者なんぞの技術を仕込まれて、何時の間にやら傭兵部隊の隊長だ。
敵を殺して、仲間が死んで、何でか知らんが生き延びて。
一時期は自棄になって、たった一人で百人以上の軍隊にゲリラ戦仕掛けた事もあったっけか。
結局、生き延びたが。
そのせいで付いた渾名は、『神出鬼没の――――』

「ハハッ」

ああ、ソレこそどうでもいいことだな。
色々とクソッタレな人生だったが、部下には慕われていたようだ。

俺なんぞの為に、泣いてくれる奴らが居るんだから。

なら、それでいい。
最期を看取ってくれる奴らが居るんだ。
俺には、贅沢すぎる最期だ。

「――――」
「隊長?…隊長ぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

傭兵部隊『名無しの兵士』隊長、『神出鬼没の何処かの誰か(ジョン・スミス)』死亡。




         プロローグ  ~リリカルとは程遠い人生だった~




「何か既に一回通った事のある道のような気もする」

無意識の中で発言された戯言は、耳に入らなかった。

「…何処よ、此処」

周囲を見回すが、雨が降っている様子も無く密林ですらない。
気がつけば、丘の上に立っている。
遠くに見えるのは街、だろうか。
いやそんなことよりも己はあの時死亡したのでは無いだろうかと思う。
と言うか間違いなく死亡したはずだ。
だがしかし、肉体に痛みは無く服装も何やらおかしい。
風通しが良く、時折吹く強風にはためくその服装は…。

「…俺の普段着じゃねぇのよ」

身元不明であった俺の出身国『では無いか』と予測された日本の、浴衣と呼ばれる薄い衣服、それが今の俺が身に纏っている服装。女性用の浴衣はもう少し窮屈らしいが、それはどうでも良い。
ともあれ、死の間際に纏っていた迷彩柄の服装では無い。
手榴弾やナイフ、ハンドガンも当然のように無い。
――――ハッカパイプすら無いとか、何のいじめだこれは。
さて。

「どうしたもんかね」

うーむ、と首を捻る。
死んでいない、と言う事についてはまぁ置いておこう。
人生なんて何が起こるか分からないのだし他の誰かとて『死んだと思ったら何故か生きてた』何て体験をしているはずだ、たぶん。

『さっすが隊長!!適応力が変態だな!!』
『死んでも其処は変わりませんか』
『――――ある種の狂人と言ったところか』

何やら特に親しかった仲間三人の声が聞こえてきたような気もするが、気にしない。
ゴスッと己の頭を殴り飛ばし、余分な思考を破棄する。
打撃自体に意味は無いが自己暗示のようなものだ。
ともあれこれから考える事は、まず。

「衣食住、だな」

何時までもこの浴衣を着ている、というわけにもいかない。
食べるものは当然の如く必要だ。
そして住まう場所が欲しい。最低限、雨風を凌げればそでれ構わない。
そうやって落ち着ける場所を手に入れてから此処が何処なのか、何故生きているのかなどを考えてゆけばいい。
――――後者は、一生分かりそうにも無いが。

「何にせよ、まぁまずは街まで…ん?」

向こう側から、子供が一人走ってくる。
現実的にはありえないであろう青い髪を揺らして走ってくるその少女……否、あの年齢ならば幼女などに分類されるのだろうか?
まぁどちらでも良いかと思い、走ってくるその幼い女の子へと声を掛ける。
俺の年齢ならば、爺さんが声を掛けたと思われるだけで変態扱いはされないだろう。

「オーイ、其処のお嬢ちゃんよ。此処は何処だね?」
「…お兄さん、だれ?」
「あん?オイオイ嬢ちゃん勘弁してくれよ。俺なんざどっからみても…あれ?お兄さんじゃね?」

青い髪の女の子に言われて、初めて気がつく。
今までとんと気がつかなかったが、肌が随分と若々しい。
年老いて衰えてきたと思っていた筋肉もしっかりとついており、筋骨隆々なムキムキマッチョメンとも言える風体だ。
出来る事なら顔も見ておきたいところだが、生憎と鏡が無い。

「なぁ、お嬢ちゃん。鏡持って無いかね?」
「ないよ?」
「ですよねー」

まぁ、流石に持っているはずも無いか。
顎を擦ってみたところ生えていたはずの無精髭が無い。
そして顔にあるはずの無数の縫合の痕跡すらも無くなっている。
どうやら本格的な若返り、或いはあらゆる機能が全盛期と遜色ないほどに回復しているようだ。

「こいつぁ中々、奇々怪々とでも言おうかね」
「どうしたの?お兄さん、こまってるの?」
「あ?いや、何と言うかねぇ…」

果てどうしたものかと首をかしげていると、女の子が心配そうな顔をしつつ問うてくる。
だが、どう答えようか。
困っていると言えば困っているのだが決して不都合は無いし、寧ろ利点しかなくそういう意味でならば困っているとは言えないのだが。
さてどうしよう、と思考していたところに。

「――――ゥ」
「あん?」

砂埃が、視界に飛び込んできた。
何やら丘の下から物凄い勢いで『何か』が突撃してきているようだ。
では一体その『何か』とは何なのか。
答えは女の子が握っていた。

「あ、お母さんだ」
「…は?」
「―――バルゥゥゥゥゥ!!」

ズドドドドドドドドドドという音と共に、その全貌が見えてきた。
女の子と同じ青い髪の毛に、両手両脚に機械的なガントレットやローラーブーツを装備した女性。
但しその形相、般若の如し。
まるで眼前の俺なんかは完膚なきまでに無視しているかのような速度で突撃してくる彼女は、

「スバルゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!」
「ゴッフアァァ!!?」

実際俺なんかを見ていなかったようで、素敵なまでに俺を弾き飛ばしてくれた。
ギュルンギュルンと回転しつつ宙を舞う俺。

「ああもう!!眼を離した隙に居なくなって!!」
「ごめんなさい…」
「いいのよ、あなたが無事だったから」
「おかーさーん!!」
「スバルゥゥゥゥゥ!!!」

何やら下でホームドラマを描いているようだが、俺には気に出来るほどの余裕は無い。
気合で衝撃による意識のブレを無くす。
落下時に備え身体をクルリと丸める俺。
地面へと叩きつけられると同時に身体を回転させ衝撃を逃がす。
その回転の勢いに身を任せながらも腕を伸ばす事で地面を叩き空中へと跳躍。
見事な着地を決める俺。
Yの字ポーズで百点満点俺Sugeeeeeeee!!というフレーズが頭に浮かぶ。
どういうことだ。

「~~~ッあー、死ぬかと思ったぁ…」
「スバルゥゥゥゥゥ…あら?あなたは?」
「あ、お兄さん。だいじょうぶ?」

さて、俺を撥ね飛ばした暴走機関車の如き女性―――青い髪の嬢ちゃんの母親であるようだが―――は今俺の存在に気がついたようだ。
チクショウ何なんだこの仕打ち。
嬢ちゃんは俺が吹っ飛ばされた事を分かっていたようで、安否の確認を取る言葉をかけてくれた。

「まぁ、何とか無事だが…」
「スバル、このお兄さんと知り合い?」
「ううん。『ここどこ?』って聞かれただけ」

その言葉に一度眼を丸くする女性。
しかしその直後納得したようように首を縦に振り、此方を見る。

「そう…あなた、名前は?」
「ん?ああ、ジョン。ジョン・スミスだ」
「偽名?」
「いんや、本名。俺を拾った奴が冗談で呼んだ名前をそのまま使わせてもらってる」
「……あなた、へんな子ね」
「カッカッカ……子、か」

子、と呼ばれると自分が若返ったのだと嫌でも実感する。
まぁ本当に若返ったのか否かと問われれば首を傾げざるおえないが。
何せ若い頃の肉体についていたはずの傷すらも無く、されど鍛え上げられた肉体は若い頃よりも強靭である。
そして、経験と記憶は年老いたもの。
俺と言う人間の『集大成』に近い肉体だ。
そんな風に俺が自分の身体について考えていれば、先ほどの発言を気にしたのか女性が俺の顔を覗き込んできた。

「?どうし「おーい!クイントォ!!」「お母さーん!!」あら」

彼女の言葉を遮る声のする方へ視線を向ければ、彼女の夫と思われる人物と青い長髪の女の子が此方に向かって走ってきている。

「二人も来たみたいだし…ねぇ、ジョン・スミス君?」
「ん?」
「私たち、ピクニックに来たのだけど、良かったら一緒に食べない?」

は?という戸惑いの言葉を無視し、彼女と青い髪の女の子は先ほど来た二人のところへ向かっていった。二言三言話したかと思えば、先ほど走ってきた男性が此方を手招きしてくる。
――――行くべき、なのだろうか。
まぁ、罠だとか物騒なことは無いだろうからとりあえず付いていくべきなのだろう。
しかし家族の団欒に俺が突っ込んで良いものかと思いつつも脚を勧めれば、既にシートが敷いてある。
しかも円のような状態を描きつつも、しっかり俺の場所があけてある。
座れ、ということなのだろう。

「あー、まぁ、その…お邪魔します?」
「「いらっしゃーい!!」」
「おう、座れ座れ」

子供二人は純真だねぇ、としみじみ感じつつも男性の勧めにより座らせていただく。
どっこらせと胡坐をかけば、男性がほぅ、と声を漏らす。

「…何だよ」
「ああ、いや。随分と逞しい体つきしてるなぁ、と」
「身体が資本の仕事、やってたからな」
「そうか。…にしてもお前、敬語は苦手か?随分とぶっきらぼうに言葉を言うようだが」
「そうねぇ、年上にはちゃんと敬語使わないとね」

二人がそう言ってくるが、少しの間迷う。
俺の実年齢は恐らく六十前後、拾われたので年齢はよく分からないが大体そんなもんだろう。
精神疾患でもあるんじゃねぇのかと疑われるところだが、ここで俺が生きている事も異常の一つだ。
まぁ、実年齢を言ってもいいだろう。

「…こう見えても、六十前後だ。お前さんたちよりも年上だと思うが」

瞬間、空気が凍る。
少女二人はサンドイッチをパクついているが、大人組は凍結中である。

「……ギャグか?」
「事実だ。何故か知らんが若々しい姿になってた」
「そんなことありうるの?」
「んな聞かれてもなぁ…」

カリカリと頭を引っ掻く。
知れると言うのならば俺が知りたいようなものだ。

「……次元漂流者が若返った、か。そんな事例聞いた事が無いけどなぁ」
「次元漂流者?」
「ああ、アナタの事よ。ジョン・スミス…さん?」
「ジョンで良い。というか若返った事信じるのか?当事者が信じられんような事だぞ?」

嘘を吐くような人はそんなこと言わないわよ、と女性は言う。
成る程、それもそうか。

「―――あ、そう言えばこっちの自己紹介がまだだったわね。私は、クイント・ナカジマ」
「ゲンヤ・ナカジマだ。よろしく」

ゲンヤ…まぁゲンヤさんにしておこう。
ゲンヤさんの差し出した手を握り返し、クイントさんから差し出された手も握り返す。
両親に自己紹介をしなさいと言われた二人も、こちらを向いて笑顔で言う。

「スバル・ナカジマです!!」
「ギンガ・ナカジマです」

…ふむ、どうやらギンガと名乗る長い髪の毛の子が姉のようだ。
少々だが落ち着いた雰囲気が感じられるし、恐らく姉としての自覚を持ち始めたあたりと言うところか。
一通りナカジマ家の面々が自己紹介したところで、はたと気付く。

「そう言えば…さっき手足に付けていたのって何だ?」
「え?デバイスだけど?」
「デバイス?…新種の兵器か何かか?」
「いや、魔導士が魔法を使うのに使用されるものよ?」

…は?何だそれ。

「魔法に魔導士?アレか?かぼちゃの馬車でドリフトかます気か?」
「何言ってんだジョン」
「寧ろあんた等が何言ってんだナカジマ夫妻」

いやいやいや、この世界で魔法やら魔導士やら何てそんな非常識な…。
…いや待て。
非常識とか言ってる場合じゃあ無いだろう。
そもそも俺が今此処で生きているという事、それ自体が常識的とは言えない事態なのではなかろうか。
と言うか言えない、絶対に言えない。
ならば此処は何処だ。
まぁ間違いなく地球上と言う範疇から離れている。
いや、或いは未来の世界か?
いやしかし『科学』を『魔法』と言い換えるかどうかと聞かれると……。
だが高度に発達した科学は魔法特別が付かないと言う話とてあるし……。
うむ、此処は。

「ゲンヤさん」
「ん?どうした?」
「此処、何処だ?」

聞かざるおえんなコレは。
その言葉に、ナカジマ夫妻は目を丸くした後あーそうかそうか、と声を発し一つ頷く。

「そう言えばあなた、何も知らないでこっちに来たのだったわね」
「そう言う事になりますな」
「此処はな、ミッドチルダってところ…というか世界だな」
「ミッドチルダ……成る程、さっぱり知らん」

そりゃあそうだろ、とゲンヤさんが言う。
何でも聞いたところによれば此処には時空管理局と呼ばれる武装警察のようなものがあるらしく、この世界を中心に展開する異世界を管理しているらしい。
この時空管理局、通称『管理局』と呼ばれる機関にナカジマ夫妻は所属しているらしく幾つか存在する部署の中で陸上部隊と呼ばれる場所に在籍しているようだ。

(ほむ、ほむ………)

―――此処からは、俺の私見だ。
この時空管理局という機関は何かおかしい。
質量兵器、ようは俺や仲間たちが使っていたハンドガンやスナイパーライフルなどの銃火器や化学兵器などを禁止しているのはまぁ良いだろう。
かつて起こったらしい『惨劇』を回避する為にソレを根絶するのは構わないし、死者を増やさないための行動というのも理解できる。

だが自分たちだけ戦力を蓄えると言うのは如何なものか。

話によれば支配下にある世界に支部というのもあるわけではないようだし、他の世界には大した戦力と呼べるものが無いのではなかろうか。
実際のところは知らないが、それでは武力を独占する組織のように見えるのだが。
それに警察と裁判所をまとめておくというのは間違いでは無いだろうか。
裁判では被告人に対して検察、弁護人と言う討論を交わす人間がおり最終的にそれを聞いて有罪か無罪かの判決を下す裁判官がいるわけだが、警察と裁判所が同化した場合は検察と裁判所が同化するというも同じではないだろうか?
であるならば、裁判は容易に有罪無罪を決定できる。
それでは――――。

(まるで、管理局が)

――――世界の支配者のようでは無いのだろうか?
仮にあらゆる世界を管理下に置いた場合、武力を持つ機関は管理局だけとなる。
どれだけの事をされても、された世界はそれに反抗する力が無い。
裁判にしても思いのままだ。

(……考えすぎだよなぁ)

流石に其処まで腹黒くは無いだろう。
どこぞの宗教カルトにおける狂信者でも在るまいし、一大機関がそんな馬鹿げた方向性に突っ走るわけも無かろうに。
というか検察云々のところとか穴がありすぎて意味が無いだろう。

「アッハッハッハッハ!!無い無い!!」
「お、おい、ジョン?大丈夫か?」
「あの、もしかして私の蹴りが変なところに入った?」
「ハハッ、あー、いや、ハハッ!!気にしないでくれ、俺が馬鹿げた妄想を繰り広げただけだから」

俺が突然爆笑し始めたことに対してナカジマ夫妻が気を使ってくれるが、手で制す。
まぁ致し方ないだろう、俺だってそんな人物を見かけたら心配する。

「そうか…あ、そう言えばお前、泊まる所無いよな?」
「ん?まぁ、そりゃそうだろ。俺は此処に初めて来たわけだし」
「あ、じゃあうち来る?」

―――――――――は?








それから、一ヵ月後のこと。

「何時までも居候も悪いので管理局とやらに入ろうかなと」
「魔力量が足りないと実働隊は無理よ?」
「どんだけ魔力至上主義なんだよ其処」

ジャブジャブと洗い物をしながらクイントさんに希望を述べるが、即座に潰された。
結局、俺はナカジマ家に居候する事となりまして。
豪胆とか人が良いとかそういうレベルじゃないと思うのよねもう。
身元不明の青年(実年齢は六十そこらだが)を家に招きいれ、尚且つ居候として置いておくなど普通では考えられない所業だと思われる。
最初は五回ぐらい確認したのだが、間違っていなかったらしい。
マジ○チの所業である。
ちなみに、他の次元から流れ着いた『次元漂流者』たる俺は『保護観察』のような扱いらしい。
元々『傭兵』なんてヤクザな事やってたし、質量兵器を嫌う管理局としては俺のことを危険人物として見ているようだ。
武器が無ければ、俺なんて無力だというのに用心深い事で。
馬鹿正直に話したのは不味かったなぁ、と思いつつもまぁ良いかと思考を流す。

「そもそもあなた、リンカーコアがあるかすら分からないじゃない」
「あー、確か魔力を取り込む機関だっけかね」
「よく覚えてるわね」

目新しい知識には存外食いつきが良いんでね、とだけ返答する。
まぁ魔法だの何だのなんてのは俺が元々居た世界では『夢物語』という類の事象である為、それ関連の事には嫌でも興味が向き記憶してしまうというもの。
だが、このリンカーコアも全員が全員持っているわけでも無いようで。
―――事務仕事とかあんまり向いていないんだがねぇ。
しかしそんな文句を言ってられる場合でもなくなってきた。
世話になりっぱなしと言うのは俺の微かなプライドが許さない。

『え?隊長プライド何てあったんですか?』
『不意打ちも騙まし討ちも上等な隊長に?』
『――――――違和感だけだな』

また幻聴が聞こえてきた。
いい加減お前らは俺を解放しろコノヤロウ。

(……いや、俺が執着しているだけか)

完全に死んでから生まれ変わって此処に着たのか、それとも途中から時間でも遡って此処に来たのかは知らないが、もう二度と出会えない存在に未だ執着している。
―――未練、としか言いようが無い。

「ホンット、どうしようもねぇなぁ」
「どうしたの?ジョン」
「うんにゃ、何でもない。それよりも、二人に教えてるアレ…何て言ったっけ?」
「ああ、シューティングアーツの事?何?習いたいの?」
「ンなわけあるかい。わくわくした面になるな」

このおば…………お姉さん、ことある事に『シューティングアーツ』と呼ばれる格闘技を習わせようとしてきやがるんだよなぁ。
何かしっかりとした身体作りだから云々と言っているが、そんな事は俺の知ったことではない。
流石に居候だからといって何でも従うというわけではない。
俺にも選択権ぐらいはあるのだ。
――――此処の住人は居候と言う立場を盾に脅したりする事は無いありえないが。

「何だ、つまらないわね…」
「おーい、寝かしつけてきたぞ」

クイントさんが本当につまらなさそうに言い、そのすぐ後にゲンヤさんが居間に入ってきた。
どうやらスバルとギンガを寝かしつけてきたようだ。

「お疲れ様っと…ツマミ要るかい?」
「ああ、頼むわ」
「あ、私のもお願いね?」
「ヘイヘイ」

冷蔵庫の中から缶ビールを二本取り出し、二人が座る机の上へ置く。
えーと、鶏肉…のようなものはある、ネギ…のようなものもある。
『のようなもの』と言っても、決して危ないものというわけではない。
単純に地球に存在する食い物と同じものなのかどうかが分からないというだけで、何時も料理に使っているようなものだ。

今の言葉で気がつくかもしれないが、居候してからの料理人は俺である。

居候として出来る事をやろうと思った俺がまず始めた事は、家事である。
風呂を洗い(シャワーでは無かったことに少々驚いた)、掃除をして、食事を作る。
二人には子育てに専念して貰いたいというのもあったが、最たるものは己の自己満足であろう。
まぁ、それはどうでも良いとして。
串に材料を刺していき、自家製のタレに漬ける。
その後、網を敷いたコンロの上に焼き鳥を置き焼いていく。
適度に焼けたところでもう一度タレを塗り焼く。
後は、いい感じになるまで焼くだけだ。

「ほい完成」
「おっ、来た来た」
「おいしいのよねージョンの作った焼き鳥。…名前に似合わないけど」
「やかましい」

昔、知り合いの日本人に教わったのだ。
何処にでも現れるような俺なんぞよりよっぽど神出鬼没な人物ではあったが、親切で気前の良い青年であったと記憶している。
彼から『風呂上りのビールと焼き鳥は最強』と教わったが、本気でアレはヤバイ。
病み付きになる。
暫し無言の間、焼き鳥を食らう。
ビールが無いのは悔やまれるが、致し方なし。
そう言えば、ゲンヤさんが来たのなら就職の話をもう一度話すべきだろう。

「クイントさんにはもう話したけど、俺、管理局入ろうと思うんだわ」
「ん?何だお前、管理局入ろうとしてたのか?」
「求人率は良いらしいからな、管理局」
「まぁ、そうねぇ。万年人材不足だからね、うちの組織」

はぁ、とナカジマ夫妻が溜息を吐く。
何でも、地上部隊とやらは俺の想像以上に不味い状況らしい。
魔導士というのにはランクが存在するのだが、曰く最高であるSSSから最低であるFの11段階評価、細かく言うと更に『+』と『-』の符号が付随する事により33段階の評価。
当然コレは高いほうが良く、高ければ高いほど強いようだが魔力量やレアスキルによっても左右されるらしい。
そして地上部隊に所属する魔導士なのだが、高いランクの陸士は通称『海』と呼ばれる次元世界などを行き来し、或いは介入を行う部隊に盗られることも少なく無いという。
俗に言う引き抜きである。
しかも予算やら装備、人員の質が『海』よりも劣るという事で確執が深まっているとか。

「『海』には沢山ストライカーが居るって言うのに、うちには少ないってどういう事なのよぉ…」
「だよなぁ、こっちにはゼスト隊長ぐらいなもんか?ストライカーなんて」
「…つか何で内部事情を一般人の俺に話すよ、お二人さん」
「そりゃあお前が聞き上手なのが悪い」
「そーそー、何でか知らないけど話しちゃうんだから。実は傭兵じゃなくてメンタルカウンセラーとかそういうんじゃなかったのあなた」

俺のせいか?それ俺のせいなのか!?
ツッコミを入れたかったが、ゲンヤさんには流されるだろうしクイントさんは酔っ払っている。
というかビール一本で酔うんじゃねぇよアンタ。
弱すぎるだろアルコールに。
こくりこくりと船を漕ぎ出したクイントさんを「寝かしつけてくる」とゲンヤさんが退場する。
その間に俺は既に何も残っていない焼き鳥の皿を洗い場へと運び、スポンジに洗剤を付けて洗う。
元より家事は嫌いではなかったが、この家に来てから趣味に近くなっている気がする。

「…管理局、かぁ」

入ったら、どういう風になるのだろうか。
正直、ああいう組織の『規律』というのはあまり好きではない。
規律が嫌いだとは言わないが、大切なものをいざと言うとき護れないのなら規律など要らないとも思う。
だが、手っ取り早く稼ぐには管理局が良い。
コレが理想と現実のギャップと言うやつか。

「やっぱ難儀なもんだね」
「ジョン、お前いつもそれだな」

お?と顔を向ければ想像通りにゲンヤさん。
とりあえず缶ビールをまたも二本取り出し机の上においておく。
そして菓子類の棚に仕舞っておいたするめの袋を取り出し、冷蔵庫からマヨネーズとカラシを拝借する。
小皿の上にマヨネーズとカラシを出し、するめで混ぜ合わせる。

「おっ、いいじゃねぇか」
「だろ?」

ゲンヤさんにも好評なようで、二人でビールを飲みながらするめを食らう。
美味い。

「クイントさんが居ると怒られるんだよなぁ、ビール」
「本来なら、俺も怒るべきなんだろうがなぁ。未成年が酒なんて飲むなーって」
「肉体年齢は外見相応、って判断が出たわけだしな」
「それでもあんまり怒る気になれないのは、お前がおっさん臭いからだな」
「加齢臭とかして無いよな俺」

そうじゃねぇよ馬鹿、とゲンヤさんが言ってくるがンなこたぁ百も承知だよ。
唯のジョークだと返せば分かってると返される。
クックック、と二人で浅く笑う。
嗚呼、こういう風に男同士で飲むのは楽しいもんだ。

「若い奴らは女と飲みたがるが、こういうもんも良いよなぁ」
「外見は若いお前が言っても説得力無いぞ?」
「然様で。まぁ正直な話、ビールよりも日本酒のほうが好きなんだがね」
「飲んだ事あるのか?外国に居たんだろ?地球の」
「知り合いに貰ってハマった。やっぱ俺の出身は日本だったのかねぇとしみじみ思ったもんだよ」

妙に日本の製品がしっくりくるんだよなぁ、と語ればゲンヤさんも、

「俺も先祖が日本人だったらしいからな。日本のものが妙に馴染むよ」

と返してくる。
お互い、行ったことも無いのに日本が合うよなぁと苦笑する。
そしてビールを飲み終わったところで、このささやかな飲み会はお開きとなった。

「さって、んじゃあ寝るかい。片付けはやっとくから、歯ぁ磨いて寝に行きな」
「おう、悪いなジョン」

なぁに、気にする事はねぇさと片手を上げながら返答する。
机の上の空き缶を片付けながら、思う。
――――――――管理局、入ってみるかい。

~あとがき~
何かやってしまった。駄目だ、ギャグすくねぇ。そしておっさんとの会話書いてるときが一番楽しいという事実。
本筋に無い話を書くと流れを考えるのが面倒臭いで御座る。
続くのだろうかコレ。

~次回予告?~

「地上部隊に配属されたジョン・スミス十七歳(仮)です。よろしく」
「(仮)って何だ、(仮)って」
「実年齢知らんのですよコレが」

何とか地上部隊に入隊し、始まる管理局での職務。

「シャラー!!待てコラ引ったくりがぁぁぁぁぁ!!」
「来るんじゃねぇよ化け物が!!何で魔法使ってねぇのにそんな速さ出るんだよ!!」
「人間の可能性をぉぉぉぉ…嘗めんなぁ!!」
「ぎゃああああああ!!?」

地道に働くも、上がらない給料。

「デバイス使えよお前」
「使ってますよ?アームドの自己強化能力」
「本体を使え本体を!!」
「ああ!?基本的にジャーマンスプレックスで終了だろうが!!」

デバイスを使えよと指摘されたり。

「相手の防壁、崩したーいなー、ハイ、バリアブレイィィィィック!!」
「うわっ!?」
「そしてキャメルクラッチ!!」
「いたたたたたたたたたたたたた!!?」
『だから普通にデバイス使えよ!!』

教導隊との戦闘でやりたい放題だったり。

『筋肉部隊20名!!集合しマッスル!!』
「…どうしてこうなった」

謎の部隊の結成に関わってしまったり。

「…クイントから話は聞いている。ジョン・スミスだな?」
「あー、アナタが件の」
「ゼストだ。よろしく頼む」
「いやいや此方こそ、隊長」

ストライカーに遭遇したり。


暴走青年リリカれないジョン・スミス。続くのだろうか。


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