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世界トップクラスへの熱き挑戦、スーパーコンピュータで描く未来

非常に高速な演算処理性能を備えるスーパーコンピュータを活用したコンピュータシミュレーションは近年特に注目を集めており、大学や研究機関のほか、ものづくりの現場にも応用されている。

富士通は30年以上前からスーパーコンピュータの開発に取り組むリーディングカンパニーとして数々の実績を積んできた。文部科学省が推進する「革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCI)の構築」計画のもと、『次世代スーパーコンピュータ』にも、独立行政法人理化学研究所と共同で、演算処理速度10ペタFLOPS(フロップス)注1の性能を目指し開発中だ。10ペタFLOPSの性能とは、東京ドームの観客5万人全員が1秒間に1回の計算をし続けたとして約6400年かかる計算量を、1秒で演算できることを意味している。富士通は2009年5月、128ギガFLOPSの性能をもつ世界最速CPU『SPARC(スパーク)64™VIIIfx』を開発、10ペタFLOPSの実現へ着実に駒を進めている。

スーパーコンピュータは私たちに何をもたらすのか? システム開発を担当しプロジェクト全体の推進をおこなっている草野義博、OSのカーネルを担当する加藤丈治、そしてファイルシステムのソフトウェア開発を担当する酒井憲一郎に話を聞く。


なぜスーパーコンピュータが必要なのか。なぜ富士通は開発をするのか


スーパーコンピュータが一般のコンピュータより極めて高速な処理性能を備えるコンピュータだと理解はできても、それが日常生活とどう関わるのかは、わかりにくい。システム開発にたずさわる草野は力を込めて語る。

「日本の将来にとって、スーパーコンピュータの開発がどのように役に立つのか、疑問に思う方もいらっしゃるでしょう。しかし、天然資源が乏しい日本において科学技術力は大きな経済的切り札です。スーパーコンピュータは、大学や研究機関といった学問分野での利用から、より生活に身近な気象や医療、自動車などのものづくりへと、その適用が広がっています。最先端の技術が私たちの生活を支え、国力を支える技術へとつながっているのです。科学技術力の向上を後押しし、社会インフラを支えるものとしてスーパーコンピュータの技術が果たす役割は大きいと思います。」

さらに加藤はスーパーコンピュータ性能の底辺への広がりについて次のように説明する。

「現在、一般的に利用されているパソコンの処理性能は20ギガFLOPS~50ギガFLOPSです。『次世代スーパーコンピュータ』のように、10ペタFLOPSの性能をもつスーパーコンピュータが目指しているのはその数十万倍くらいの性能です。一見パソコンとは関係のない話のように思えますが、そうではありません。現在の一般的なパソコンには、ベクトル演算器などの90年代前半に開発されたスーパーコンピュータで確立された技術を応用して、実現された機能が搭載されています。これらの技術は、数値計算だけでなく、マルチメディア処理などで現在ではなくてはならないものになっています。現在開発中のスーパーコンピュータの技術も、20年後、30年後、きっとあたりまえのように世の中に普及しているはずです。」

富士通のスーパーコンピュータへの取り組みの歴史は長い。1977年に日本初となるスーパーコンピュータ『FACOM(ファコム) 230-75 APU』を稼働以来、1993年、2002年には世界最高性能のスーパーコンピュータの開発にも成功している。草野はいう。

「1970年代からスーパーコンピュータ開発に取り組んできた富士通には、日本での第一人者という自負があります。もちろん責任もあると考えています。現在、参画している次世代スーパーコンピュータという国家的プロジェクトで結果を出していくということは重責ではありますが、挑戦しがいのある非常に名誉なことです。国力や人々の生活の向上につながり、そしてもちろん富士通の技術力をアピールする絶好のチャンスでもあります。」

チャレンジすることには常にリスクが伴う。継続的で総合的な開発力で課題をクリアする

酒井はスーパーコンピュータのシステム全体を構成することができる富士通の総合力を強調する。

「富士通はCPU開発をはじめとしてサーバ、ストレージなどのハードウェア、OS、ミドルウェア、そしてソフトウェアまでスーパーコンピュータのシステムすべてを自社内で開発・構築することができる世界でも数少ない企業です。その総合力を発揮して、先端技術の開発に情熱を注ぐだけではなく、いずれは実用に供する技術となるスーパーコンピュータですから、実現性を考え、システム全体のイメージをつかみながら開発スピードの短縮や開発部門間のスムーズな連携をする姿勢が必要だと思っています。」

また、スーパーコンピュータでは、高い計算能力を出すために膨大な数の部品が必要になり、そこには課題があると草野はいう。

「コンピュータの心臓部ともいえるCPUも桁違いの数になります。『次世代スーパーコンピュータ』を例にとれば、使用されるSPARC64™VIIIfx は8コア(オクタコア)注2のCPUで世界最速の128ギガFLOPSの性能をもちますが、それでも10ペタFLOPSの性能を出すためにはこのプロセッサを8万個以上用いることになります。周辺部品も含めると総部品点数は膨大な数となり、これを問題なく稼働するために高度な耐故障性を要求されます。スーパーコンピュータというと、性能に注目が集まりますが、耐故障性を確保することが大前提です。さらには、消費電力や設置面積という課題もクリアしなければ実用にかなうシステムはつくれません。」

加藤も耐故障性のメカニズムを説明する。

「OSによる制御では、どこかに故障が出たら、自動的にフォローできる仕組みを考えています。故障の箇所をうまく回避して、できる限り他に影響が出ないように設計しています。」

酒井が担当するファイルシステムも同様である。

「私は現在、数千台規模のサーバを束ねて1つの共有ファイルシステムを構成する『クラスタ・ファイルシステム』開発を担当していますが、10ペタFLOPSの性能をもつ次世代スーパーコンピュータのファイルシステムでは、当社の現行のスーパーコンピュータに比較して約100倍の容量・性能の実現を目指しています。ファイルシステムのどこかが止まってもシステム全体としては止まらないようなシステム開発をしています。その上で、アプリケーションがめいっぱいCPUを使えるようなファイルシステムをつくるつもりです。」

そして、このプレッシャーのかかる、課題とリスクの多い挑戦について、酒井は次のようにいう。

「スーパーコンピュータは時代とともに進化し、その進展はめまぐるしい程早い。開発レベルを高く保ちながら継続的に取り組んでいかない限り、世界と互角には渡り合えません。最先端技術の華やかな世界のようですが、課題やリスクをクリアするためには、むしろ地道で着実に、あきらめず開発を続ける持続力がもっとも必要なのではないかと思います。」

未来の多様化を支える技術の要として、スーパーコンピュータの進化は続く

現在、スーパーコンピュータで開発された技術はますます適用分野を広げている、と加藤はいう。

「さまざまな産業分野で計算資源を必要とするようになり、スーパーコンピュータで開発された技術は、それこそ空気のように、目立たないけれどなくてはならないものとして役立っています。計算機の役割というのは本来はそういうものだと思います。実用性につながることが大前提で、性能だけを出せば良いということではないのです。たとえば薬の開発にスーパーコンピュータの計算能力を利用することによって、新薬の開発時間を短縮できるかもしれない。あるいは遺伝子の解析に用いることによって、病気の原因を突きとめるスピードを速めることも可能になるでしょう。開発したスーパーコンピュータ技術が数年後に具体的に人々の生活を縁の下で支える技術となり得ることができる、そこにもスーパーコンピュータの開発を進める意義があるのです。」

酒井も、スーパーコンピュータ技術の絶え間ない進展と産業への応用を語る。

「スーパーコンピュータの技術を使うと、それまで丸1日かかっていた解析が、ほんの数分でできるようになります。すると1日にいくつもシミュレーションができるようになるわけです。私たちの人体を例にとって考えれば、いくつものシミュレーションにより生体内で起こるさまざまな現象を同時に解析できるようになり、全身の体の機能や動きをより統合的に解き明かすことが可能になるでしょう。また大量のデータを素早く処理することにより、コスト的にも見合う技術として産業への利用メリットも高まっていくはずです。スーパーコンピュータの歴史は一つひとつの積み重ねで発展しているのであり、それを実現していくことにより、究極的には人を幸せにすることにつながるのだと考えます。またユーザーがスーパーコンピュータの技術を巧みに応用していく可能性が充分に考えられますので、開発者の想像を超えた活用の未来が広がるのではないかと思います。」

そして次世代スーパーコンピュータ・プロジェクトについて、草野は「世界トップクラス」が目標だという。

「日本の技術力、富士通の技術力を証明する絶好の機会です。毎日が困難との戦いでもありますが、世界トップクラスのスーパーコンピュータという目標に挑むことは非常にやりがいがあり励みになります。そしてこの次世代スーパーコンピュータの技術が、将来的に産業分野で広く応用されていくことが願いです。地球レベルの課題を解決する手段としてはもちろん、産業に応用される頻度が増え、数年後にはスーパーコンピュータを活用した目をみはる大発見の基礎研究に使われるかもしれません。夢は広がるばかりです。」

2012年に完成予定の10ペタFLOPS次世代スーパーコンピュータが到達点ではない。10ペタ(1京)の次はエクサ(100京)の世界が待つ。富士通の、日本の、そして世界の挑戦はこれからも続いていく。

注記

(注1)10ペタFLOPSとは :
FLOPSはFLoating point Operations Per Secondの略。1秒間に処理できる浮動小数点演算の回数。大規模なシミュレーションや科学技術計算に用いる大型コンピュータの性能指標として用いられている。また10ペタは1京(10の16乗)を意味する。
(注2)8コアとは :
1つのプロセッサ・パッケージ内に複数のプロセッサ・コアを封入したマルチコアの1つで、8つのプロセッサが封入されたもの。おもに並列処理環境下で、プロセッサ・チップ全体での処理能力を上げ性能向上を実現するために用いる。

[2010年3月1日 公開]

富士通のスーパーコンピュータ開発の変遷と実績

1977年に我が国初のスーパーコンピュータを開発、1993年11月には世界スーパーコンピュータランキング「TOP500」において航空宇宙技術研究所(現:宇宙航空研究開発機構(JAXA))様と共同開発した数値風洞(Numerical Wind Tunnel)で、国産機として初めて世界最高速を記録。30年以上にわたる富士通の技術開発の歴史をご紹介します。


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