誰が死んだかわからない国
「身元不明」大国ニッポン 個人識別率の低さに緊急警告!
(週刊朝日 2010年09月03日号配信掲載) 2010年8月25日(水)配信
開業歯科医からは、患者の許可なくカルテを警察に提出することに躊躇する声もある。だが、大震災やテロといった大規模災害に備え、そうした事情をクリアにする法整備も検討する必要があるだろう。
日本で歯による個人識別の重要性が広く認知され、歯科医と警察の連携が始まったのは、25年前の日航ジャンボ機墜落事故だ。しかし、その仕事は長年、ボランティア的な要素が強かった。警察庁が歯牙鑑定謝金を全国的に統一して支払うことを初めて決めたのは、ようやく昨年4月だ。
また、身元不明死体の多くは、歯科所見を取ることも容易ではない。ミイラ化している死体の口は開かず、水中死体はぬるぬる滑る。焼死体では、歯も灰色に焼けて、下手に触るとボロボロになってしまうこともある。こうした死体の個人識別は、解剖を行う法医学者と、歯科法医学者との協力体制が不可欠だ。
小室教授は、歯の鑑定に従事する歯科医の鑑定能力の向上が急務だと訴える。
「わが国の歯学系大学は国公私立を合わせて29校ありますが、歯科法医学の研究機関を有する大学は、東京、神奈川、千葉、埼玉の4都県に6校あるのみ。研究機関を持たない歯科大学では、歯科法医学の教育はほとんどされていない状況です。各県の歯科医師会に警察歯科医会が設置されて四半世紀がたち、有事の際には警察行政に貢献していますが、歯科法医学に関する基礎的な知識が乏しいことは否めません。今後、鑑定に従事する歯科医師の水準を高めることはもちろん、歯学系大学での教育を充実させることが必須でしょう」
100歳を超す高齢者が消えたことからあぶり出された身元不明死者問題。所在不明を放置した自治体の責任を問うより前に、この国の身元判明システムの不備と、歯科法医学の重要性に目を向けることが必要だ。
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