誰が死んだかわからない国
「身元不明」大国ニッポン 個人識別率の低さに緊急警告!
(週刊朝日 2010年09月03日号配信掲載) 2010年8月25日(水)配信
また「家出人捜索願を出していたのに、身元不明者として放置されてしまった」というやるせない声もある。
知的障害のあったAさんが家を出たまま行方不明となり、家族は地元警察に捜索願を出した。Aさんは隣の県でひき逃げ事故で亡くなっていたことが約1カ月後に判明。身元不明死者として扱われていた。もっと早く、捜索願と照合することはできなかったのか……。
岩手医科大学法医学講座の出羽厚二教授は、こんな指摘をする。
「現在の『家出人捜索願受理票』は、あくまでも生きている人を対象にしたもので、『身体的特徴』の記入欄はごく小さなスペースしかありません。方言の『なまり』や『性格』に関する欄があっても、死者の身元確認には役に立たない。家出人が亡くなってしまうことも想定して、身体的特徴をもっと書き込めるようにする改善が必要でしょう」
そして、歯による個人識別を重視すべきだという。
「警察は、家出人捜索願を受理してから一定期間経過後に、歯科カルテ、在宅指紋などを含めた身元確認のための資料採取を行うようにする。そして、身元不明死体が出たら、歯科法医学の知識を持った歯科医師が記録を取る。それを照らし合わせれば、身元不明死者は確実に減るはずです」
日本では、歯科による身元判明率はわずか10%程度にとどまっている。日本法歯科医学会理事長で、日本大学歯学部法医学教室の小室歳信教授はこうした現状を打破するため、今年1月から警察庁で行われている「犯罪死の見逃し防止に資する死因究明制度の在り方に関する研究会」で、次のような提言をしている。
「日本人は9割以上が、歯牙疾患罹患しています。つまり、国民の大半がどこかの歯科医院にID情報を残していることになる。身元の確認には、カルテのほかに歯のX線写真が非常に有効で、実際に、歯科医院で生前に撮影された一枚の小さな歯のX線写真が参考となって、死者の身元が確認された事例は数多くあります。ですから、日本でも早急に、歯科所見やX線写真のデータベース化をはかり、死体の歯の撮影用に、各県警の鑑識課にポータブルX線撮影装置の配備を検討すべきだと思います」
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