誰が死んだかわからない国
「身元不明」大国ニッポン 個人識別率の低さに緊急警告!
(週刊朝日 2010年09月03日号配信掲載) 2010年8月25日(水)配信
日豪の歯科情報データベース化の比較 [拡大]
「VIFMでは、解剖の鑑定結果や口腔内写真、レントゲン写真、デンタルチャート(歯科所見)など、死体の情報がデータで管理され、パソコン上で把握できるようになっていました。さらに、歯科医から入手した生前の歯科情報がデータベース化されているため、遺体の歯による身元判明率は約97%と高いのです。残りの3%の遺体もDNA鑑定と指紋で照合されるので、最終的にはほぼすべての死者の身元が判明します」(表参照)
昨年、ビクトリア州を中心に大規模な山火事が発生し、逃げ遅れた住民ら200人以上が焼死する大惨事があった。このとき、VIFMではすべての焼死体を法医解剖し、焼け焦げた遺体の身元を特定したが、このときも個人識別には歯科の所見が最も有効だったという。
現在、スウェーデンの法医学教室に留学中の茂谷氏は、ため息をつきながら語る。
「人口約930万のスウェーデンでも、身元不明死者は年間10人程度です。この国では虫歯の予防が進んでいるため、日本ほど歯科での治療痕はないはずですが、それでも歯の所見で約70%の身元が判明しています。そもそも、誰が生きていて、誰が死んでいるのかを把握していない国など、本来はありえないと思います」
日本の個人識別率の低さは、身元不明死者を生むだけではない。しばしば「身元の取り違え」という過ちも生んでいる。
2007年、兵庫県でこんな出来事があった。
ある日、空き家で首をつって自殺していた男性の遺体が見つかった。近所に住む女性(50)から、「数年前から行方がわからない兄では」と問い合わせを受けた兵庫県警は、顔の輪郭や目鼻立ちを昔の写真と比べる「異同識別」という手法で身元を断定し、その女性に遺体を引き渡した。女性は葬儀も済ませたが、それから約3カ月後、死んだはずの兄(53)が姿を現したのだ。
警察は身元確認の誤りを認めて謝罪し、遺骨を返却してもらったというが、歯科的な個人識別が可能であったなら、こうしたミスは防げたはずだ。
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