夏休み映画バトルが終わろうとしているが、中間実績のまとめによるとトップを独走するのは大人も泣かせるアニメ「トイ・ストーリー3」。こうした3D映画の隆盛から思わぬ余波も。洋画の主流が字幕版から日本語吹き替え版に取って変わりそうなのだ。字幕翻訳家は失業の危機なのか−。
文化通信のまとめ(15日現在)では、6作品が興行収入10億円を突破。上位1、2位はアニメで、実写の最高は東宝配給の「踊る大捜査線THE MOVIE3 ヤツらを解放せよ!」だ。中でも「トイ・ストーリー3」は3D版が大人気で、そのうち9割以上が日本語吹き替え版。
映画の吹き替えはもともと、ファミリー向けアニメが中心だったが、最近は「字幕が速くて読み切れない」「面倒だ」との声もあり、字幕版と吹き替え版を併映するケースが増えていた。
追い打ちを掛けたのが、今年から本格化した3D上映。立体映像に目を奪われ字幕が読みづらいとの声も多く、吹き替え版が一気に増えた。
吹き替え版は、3Dが人気の「アバター」で約4割、「アリス・イン・ワンダーランド」で約6割。3D版のない大人向け作品でも、レオナルド・ディカプリオ主演の「インセプション」で約4割を占めるほどに。
配給会社の営業マンは「『吹き替えの方が客が入るから字幕版はいらない。両方は上映できない』という映画館が目立ってきた。3Dの普及で字幕版はますます減るだろう」と指摘する。
となれば、字幕翻訳家は失業か。
「字幕の女王」と呼ばれる字幕翻訳家、戸田奈津子さんは「声は俳優の演技の大きな部分を占めるので、映画を楽しむには字幕が一番」とこだわる。欧米では外国映画の上映は吹き替えが中心で、日本の字幕上映をうらやむ海外の映画製作者らも多いという。
「日本に字幕が定着した理由からは、日本人が見えてくる」と戸田さん。外国への強いあこがれや本物志向、高い識字率、漢字を使えば少ない文字数で済む日本語の特徴などが“字幕文化”を支えてきたのだという。
しかし近年はドラマや漫画を映画化した話題性の高い邦画がヒットする一方、洋画の興行収入は落ち込んでいる。
戸田さんも洋画離れに危機感を抱き、DVDが9月に発売される米映画「シャッターアイランド」では、劇場公開段階から日本語吹き替えを初めて監修した。
これからは、活躍の場が、字幕から吹き替えの監修に移っていくようだ。戸田さんは「見る側の選択肢が増えるのは良いことで、洋画を敬遠してきた人が見るきっかけになればうれしい。でも『漢字が読めないから』『楽をしたいから』と吹き替えに頼る人ばかりになっては、日本国の危機ですね」と心配している。