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映画「東京島」 現代日本への皮肉?

2010年8月28日

写真:  拡大  

 南方の無人島に、中年夫婦が取り残される。そこに漂着する16人の若い男たち。夫が謎の死を遂げ、さらに中国人の男6人が上陸してくる。女1人に男22人といういびつな社会が出来上がる……。

 何と魅力的な設定だろう。そこには動物としての人間が持つ原初の欲望が満ちているはずだ。文明社会には欲望を巧妙に隠蔽(いんぺい)する制度が出来ている。しかしここでは欲望のために力と力が激突し合うに違いない。当然、性のにおいも濃厚に漂うだろう。女を得た者が王になるのか。女自身が女王として君臨するのか。

 ところが予想ははずれた。

 まず男たちが皆、はやりの言葉で言うところの草食系男子だった。漂着当初はそうであっても構わない。むしろその方がリアルだろう。文明というセーフティーネットのない厳しい生存競争を闘ううちに、ギラギラした本能が表面に出てくると思っていた。

 しかし、男たちの顔も肉体も、最後まで現代人のものであり続けた。大学のサークルや会社の部内と何ら変わりのない、極めて文明的な権力争いを繰り返すのみだった。

 女(木村多江)の造形も意外だった。島の材料で快適な住居を建築し、南国風にアレンジされた衣装をまとい、蛇を軽々と捕まえて料理する。瞬時にそんな強い女性になっていた。性をめぐる描写は作品の核になると思われたが、なぜか最小限に抑えられた。

 現代日本では生のにおいを発するものは忌み嫌われ、すべてが消臭されていく。篠崎誠監督の意図がどこにあるのか分からないが、もしこの潮流に乗り、桐野夏生の強烈な原作を消臭した結果であるなら、私はくみすることが出来ない。あるいは、文明から隔絶した世界でもなお文明的に生きてしまう現代人への皮肉なのだろうか。(石飛徳樹)

 28日から全国公開。

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